FABRIC TOKYO(ファブリックトウキョウ)は、初回のみ店舗で採寸し、2回目以降は簡単にオーダースーツやシャツなどをウェブ注文できるD2Cブランド「ファブリックトウキョウ」が好評だ。今年5月には丸井と資本業務提携を結び、実店舗展開も加速している。足もとでは同ブランドでサブスクリプションサービスも開始。「物販にとどまらず、より付加価値の高い小売りのサービス化に挑む」と語る同社の森雄一郎CEOに、D2Cの事業環境や取り組み状況を聞いた。
旧態依然とした業界にメス、カテゴリー絞って品質担保
――米国ではD2Cブランドでユニコーン企業が誕生しているが、事業環境の違いは。
「まずは資金力が違う。日本ではこれまでメディアサイトやC2C、プラットフォーム事業にベンチャーキャピタルや投資家が出資することが多く、大きく資金調達できる物作り企業はなかった。また、日本では起業家や経営者、幹部クラスの人材の流動性が低く、優秀な人材が物作りの会社に入ってこなかった。いまは少し変わってきていて、一定の認知度と規模感のある当社には、大きな企業の転職組も注目してくれている。ただ、起業直後のベンチャーが優秀な人材を確保できるかというと難しい」
――環境の変化は。
「実店舗の出店に際して日本の百貨店では、出店料は売上歩率で徴収するケースが多いが、丸井さんのような有力小売り企業が賃貸テナント型に転換したことは大きな変化だ。また、最近は日本の資金調達も数億円規模では驚かない水準になってきた。ベンチャーマーケットが非常に活況なため、ベンチャー企業に流れ込む投資がこの数年で倍増している」

森雄一郎CEO
――投資先は。
「インターネットセクターだけでなく、リアルの場が絡むようなベンチャー企業にも資金が流れ始めている。足もとではインターネットで完結するビジネスではなく、OMOと呼ばれるリアルなものをオンラインとマージ(併合)して新しい事業モデルを作ろうという機運が盛り上がりつつある。現状、GDPの6%くらいが小売り産業で、そのうち約10%がECチャネルということは、インターネットをメインにした小売りはGDPの0.6%くらいにしかなっていない」
「いま何が起こっているかというと、DGPの大半を占める部分にもインターネットやデジタルドリブンなやり方が入り始めていて、この部分はインターネット業界の人たちだけが取り組むのではなく、既存産業の人たちも一緒になって改革していく必要があり、そこにいち早く動き始めたのが丸井さんだ」
――D2Cブランドが次々と誕生しているが、成功に不可欠な要素は。
「4つあって、ひとつはプロダクトが差別化可能かどうかで、これが大前提になる。消費者に選んでもらえ、メリットがある商品かどうかだ。ふたつ目はLTVがしっかり出せるプロダクトであるかが利益ベースでは大事になる。売って終わりではなく、継続して利用してもらえるとか、1回の利益が大きいなどで、LTVを確保できることが重要だ」
「3つ目は、リプレイスすべきモンスター企業がいるかどうか。ライバル企業が数百億円、数千億円の売り上げ規模を持っている場合、大企業であるが故に卸に頼っていたり、マス広告だけに投資していてデジタルを活用できていなかったり、デジタル領域に長けた人材の採用が進んでいない企業がシェアを持っていれば、リプレイスするチャンスがある」
――最後の要素は。
「4つ目は創業メンバーがなぜその事業を行うか、ストーリーがあるといい。また、ストーリーだけでなく、D2Cはパラメーター(変数値)が大きい事業モデルで難易度が高いため、勢いだけでなく、人材やサプライチェーンのマネジメントなどさまざまな要素が経営に求められる。そうした部分をしっかり管理できる経営層かどうかも大事だ」
――利用者がITリテラシーの高い人だけで終わらせないようにするには。
「最初のプロダクトは作れても、顧客数が5倍、10倍と増えたときに、それに耐えられるオペレーションを構築できているかが問われる」
――ゾゾもPBで失敗した。
「ゾゾさんは質を担保できるようになる前に広げ過ぎたことが敗因として大きいのではないか。ゾゾさんとしても初めての物作りだったわけで、第1弾のデニムパンツとTシャツの時点でしっかりノウハウを貯め、サプライチェーンまわりが安定してから横展開すれば良かった」
――御社も意識的に商品カテゴリーを広げていない。
「『ファブリックトウキョウ』はスーツとシャツに特化しているし、新たに始めるブランド『スタンプ』では、当面はデニムパンツに徹して認知度を高める戦略をとるのも、品質面で信頼を獲得し、しっかりとノウハウを貯める必要があるからだ」
サブスクサービスを開始、無人店舗の新ブランドも
――丸井との資本業務提携は店舗展開や人的交流も含めて有益だ。
「当社にとって非常に大きな影響がある。実店舗は現状の16店舗のうち、丸井さんには7店舗でお世話になっている。ただ、丸井さんが一番の協力者ではあるが、それだけではなく、三井不動産グループのコレド日本橋やパルコさんの名古屋パルコなどにも出店している。丸井さんは『自社の施設だけで』と制限を設けるような企業ではなく、業界全体のために中心的な役割を担いたいと考える会社だ」

2019年5月に丸井グループを割当先とする第三者割当増資を完了した(画像は編集部が追加)
――人材交流は。
「すでに始まっていて、丸井さんから7人が当社に出向し、実店舗のスタッフとして働いてもらっている。人材交流以外でも、丸井さんは店舗でエポスカードを使用するとポイントを付与するなどの施策を行っているが、当社サイトでもユーザーがそういったメリットを享受できるようにしていきたい。丸井さんにとってはカード決済が使われ、当社にとっても2着目以降のオーダーがサイトで完結することでオペレーション効率が上がるなどのメリットがある」
――実店舗は20年9月末までにほぼ倍増となる合計30店舗体制を計画している。
「そのうち千葉など4店舗は決まっていて、まずは早々に20店舗体制になる。来年から残り10店舗の整備を進める」
――物販だけのD2Cから脱却を図る。
「物があふれている時代にあって、物で差別化することはもちろん大事だが、それ以上にサービスとして選ばれる存在にならなければいけない。D2C事業を運営していると顧客情報が貯まっていき、お客様のことがよく分かるようになり、サービス面にも取り組みやすくなる」
――サブスクリプションサービスもそうか。
「『ファブリックトウキョウ』でサブスクサービスを始めたのも、実店舗などを通じて顧客ニーズを把握できたからだ。まずは月額398円で加入できるプランとして、9月26日に『保証・交換・補修』とったサポート領域に焦点を当てたサービスを始めたが、10月以降は『着こなし・スタイリング』と『クリーニング・保管』の領域にも順次広げる予定だ」

ビジネスウェアの日常課題を解決する・月額型の新しいサブスクリプションサービス「FABRIC TOKYO 100(Hundred)」の公式ページ(画像は編集部が追加)
――新ブランド「スタンプ」は無人店舗に3Dスキャナーを設置して計測してもらう店舗を目指している。消費者には難しくないか。
「難しいことを考慮し、最初のポップアップストアは完全招待制にした。友人や知人などのキーオピニオンリーダーを巻き込んで、まずは理解のある人に体験してもらい、発信してもらうことで『自分も試してみたい』という潜在ニーズが顕在化される。いきなり誰でも作れるのではなく、最初は限られた人からアプローチしていくことが大事だ」

3Dスキャンによる採寸でジーンズがオーダーできる新サービス「STAMP」の新店舗(画像は編集部が追加)
――「ファブリックトウキョウ」のスタート時もそうか。
「最初はクラウドファンディングから始めた。それまではネット上に自分の身体のデータを預けてオーダーメードの商品を作るという発想はなかった。今では大手さんも取り組んでいるが、当社が始めた14年にはなかった」
――新ブランドのMD展開については。
「当面はデニムパンツのブランドとして定着を図り、その後に商品を広げていきたい。実店舗は10月25日に新宿マルイ本館の『ファブリックトウキョウ』店舗の隣りに出店する。将来的な構想としては、世界に向けて無人型3Dスキャンの店舗をパッケージ化し、プリントシール機や証明写真ボックスのように数千、数万の店舗を出せるようにしたい」
――採寸はリアル店にこだわる。
「ゾゾスーツは無料でインパクトがあったが、届いたのに開けていない人が多いと聞く。結局、リアル店舗に行きたい人は多いのだと思う。アップルストアもオンラインで買えるが、店内は混雑している。アパレルも同じで、リアルで体験する楽しさと安心感はいつまでも残るし、デジタルが加速することで人間味が失われていくことに違和感を持つ人は多い。当社はデジタルでは終わらないOMOを進める」
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オリジナル記事:DtoC+実店舗+サブスクで成長の「FABRIC TOKYO」。森CEOに聞く成功要因と次の一手 | 通販新聞ダイジェスト
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