今年も中国における年間最大のネット販売セールが11月11日の「独身の日」に行われた。アリババグループが運営する中国最大手の仮想モール「Tモール(天猫)」でのセールでは流通総額が前年比3割増となる1.9兆円に達するなど相変わらずの勢いを見せている。アリババによれば今年の「独身の日」のセールにおける海外勢(越境EC)の国別売上トップは日本だったとしており、日本からも多数の企業が参加し恩恵を得ているようだ。とは言え、今年は越境ECに関する税制変更などの影響もあり、伸び悩む日本の事業者もいるよう。中国向け越境ECを行う注目すべき日本の通販実施企業の今年の「独身の日セール」における状況を見ていく。
【アスクル】 開始30分で前年突破、日商13倍
まずは中国向け越境ECで売れ筋となっている日用品を販売する各社の状況から見ていく。
アスクルが運営する日用品通販サイト「LOHACO(ロハコ)」における「独身の日」の売り上げは出店するアリババの越境仮想モール「天猫国際(Tモール・グローバル)」の店舗で売れ筋のスキンケア商品を軸に開始早々から売り上げを伸ばし、セールスタート後、30分間で昨年の「独身の日」の売上実績を超える勢いで推移し、最終的な日商は昨年比で約13倍となり、好調に着地したようだ。
「ロハコ」ではアリババが開設した「独身の日」セール用の特集サイト内でバナー広告やリスティング広告、クーポンでの値引きなどを実施。また、「独身の日セール」前の販促策として「ロハコ」で商品を販売するメーカーなどと共同で都内、また、直近では6月に上海でブロガー向けの商品体験会を実施したり、11月3日には「Tモール」のアプリ上の動画配信ツールを活用し、上海の有名タレントブロガーを東京・豊洲のアスクル本社に招待し、2時間に渡って「ロハコ」商品の紹介を行うなどの試みを実施した。ちなみに当該動画には配信した2時間で273万の「いいね」がついたという。
こうした販促策の効果も加わり、ユニチャームのウェットティッシュ「シルコット」やロートのシミ対策美容液「メラノCC」、資生堂の浸透美容液ヘアマスク「fino(フィーノ)」、ハーバー研究所の「美白福袋」などスキンケア商品を軸に売れ行きを伸ばした。
「ロハコ」は昨年9月にTモール・グローバルに出店。売れ筋の化粧品やヘアケア商品、生理用品など40品目に絞って越境ECを開始し、11月11日を前に取扱商品数を300点に拡充して初の「独身の日」セールに臨んだが、「越境ECを開始して間もなく、準備期間がなかったこともあり中国の消費者ニーズへの対応ができなかった」として目玉商品が早々に完売してしまうなどで集客面に影響が出て、期待値に届かなかったよう。今年は「(昨年の)反省と消費者ニーズを踏まえ、夏場から準備を進めた結果、売れ筋のスキンケア商品などを中心にしっかり品ぞろえすることができた」(同社)ことで好調な結果につながったとしている。
アスクルの最終的な日商は昨年比で約13倍
【ケンコーコム】 1日で“3カ月分”目薬などが売れる
ケンコーコムの売り上げは昨年とほぼ同等の結果に。通常の日と比べて3カ月分程度の売り上げだった。目薬などの一般用医薬品の販売が好調という。販促としては、クーポン配布、SNS配信などを実施した。
最近の中国向け越境ECについては、「仮想モールから出店店舗への要請に基づく価格競争の激化が、消費者の購買行動を活性化させており、仮想モール全体の高い流通額につながっている」と分析。また、課題としては、来年5月に予定されている税制変更を挙げた。
キリン堂 コスト増加で事前に下方修正
一方、ドラッグストア大手のキリン堂の今年の「独身の日」の売り上げは好調だった昨年から一転、苦戦したようだ。昨年は事前に在庫を確保して、「天猫国際」を通じてノンシリコンシャンプーなどを軸に売り上げを伸ばし、当日1日で4億5000万円を売り上げた。しかし今年は実数は明らかにしていないものの、「売り上げではなく利益を重視した」(キリン堂ホールディングス経営企画部)と前年の規模を下回ったもよう。
同社は10月6日時点で中国向け越境ECでの売り上げ計画を大幅に下方修正している。期初計画では今期(2017年2月期)は前期比3倍となる30億円を見込んでいたが、前年比48%減の4億9400万円と大幅に下方修正していることからも中国向け越境ECが苦戦していることが分かる。今年4月の税制変更によりキリン堂が扱う商品の税率が上がったこと。また、6月からEMSの料金が値上げ、そこに円高が追い打ちをかけているようだ。
キリン堂によると、現状のままでは「売れば売るほどコストがかさむ」(同社)という状況。そこで今年の「独身の日」では「値引き合戦に加わるのはやめようと判断した」(同)。利益優先の戦略を選んだ結果、価格競争力を欠いてしまい、より安い売り場に顧客が流れてしまったとみられる。
トーキョーオタクモード 保税倉庫活用でCV率は5倍
日用品と同じく中国の消費者から人気の高いアニメやゲームの関連グッズを販売する企業の状況はどうか。「天猫国際」経由で海外向けにアニメやゲームのキャラクターグッズなどの中国向け越境ECを行っているトーキョーオタクモードでは今年の「独身の日」の戦略として、売り上げではなく利益を重視した。「円高やEMSの値上げにより同じ商品が去年の1.3倍の価格になっている」(同社)ためだ。昨年は全商品20%引きで販売したが、今年は10%引きと割引率を変更。その結果、今年の「独身の日」の売上高は前年比微増、利益は2.5倍と、当初の計画はクリアした。
同社では今年の4月から中国の保税倉庫の活用を開始。取り扱っている3000SKUのうち、「独身の日」のために中国で人気が高いぬいぐるみとポシェットの10SKUに絞って現地の倉庫に預けておいた。
保税倉庫の商品は日本から送る商品に比べて送料が安くなるだけでなく、届くまでのリードタイムも短くなるため現地の消費者からも人気がある。実際、「独身の日」の当日は保税倉庫で保管していた商品のコンバージョン率は通常時の5倍に向上した。
売れ筋商品はうさぎのぬいぐるみ「ぽてうさろっぴー」だ。「ぽてうさろっぴー」はもともと日本のゲームセンター用に展開されていたもので、色や大きさごとに複数の種類があり、ポシェット状のものもある。トーキョーオタクモードでは「ぽてうさろっぴー」の人気が高いことから数量を絞って保税倉庫に預けていた。
その結果、「しろっぴー」というキャラクターのぬいぐるみは保管していた250個が事前の予約期間内に2週間で完売。「ぽてうさろっぴー」の小さなサイズで赤い目のタイプも人気だったようで、通常の月間売り上げの5倍程度が売れた。ポシェットもヒットし普段の月商の3倍を売り上げた。
また、今回の「独身の日」に合わせて、アリババが提供するVR(仮想現実)技術を使った販促を実施した。これはアリババが世界で6社を選んで提供し、日本ではマツモトキヨシとオタクモードの2社だけ。他にはアメリカのメイシーズやコストコなどが名を連ねている。
このVRの仕組みは、専用の装置を目元に装着すると画像にリアル店舗の360度画像が映され、ユーザーは中国にいながら、各国の土地でショッピングを疑似体験できる。目の焦点を合わせるだけで画面内の商品を購入することも可能だ。
アリババではこれを「独身の日」の目玉企画として専用デバイス50万台を用意して会員に配布した。11月1日から先行してVR購入を開始。オタクモードはEC専業のためリアル拠点がなかったが、東京・秋葉原の実店舗を借りて商品を陳列し、一時的な店舗を特設した。35SKUで臨んだところ、「毎日オーダーは入ったが、爆発的には売れなかった」(同社)としている。
【千趣会】 「天猫」の育児部門で10位
このほかで注目される事業者を見ていく。千趣会は、「Tモール」を通じて“独身の日商戦”に臨み、昨年以上の成果を上げたようだ。モール側からは、とくに育児カテゴリーで期待されていたため、連携をとりながら販促を含めた売り場作りを実施し、売り上げは前年比108%増となり、育児部門では前年の21位から10位にランクイン。日本勢ではユニクロ、花王に続くトップ企業になったという。
とくに売れたのは子供服で、寒くなった時期ということもあり、可愛いデザインのパンツを中心に暖かく着られる商材がヒットし、一番売れた商品は当日の午前1時半過ぎには完売したという。
千趣会では、広告宣伝費は前年の2倍を投下。施策の中身は今年の宣伝トレンドに合わせて大きく変え、販促の一例としては、当日の購入金額上位20人に「日本への旅行プレゼント」企画を展開し、まとめ買いを促した。また、通常時の割引き販売を控え、ブランドイメージを保つようにすることで、独身の日の割引きインパクトが強くなるようにしたという。
同社によると、独身の日商戦は、「当日もしくは11月のイベントというだけでなく、年間を通じての準備や普段の土台作りが必要」としており、モール側との日頃の情報連携が不可欠のようで、他社との差別化を図りながら、宣伝を工夫し、新規顧客を囲い込んで市場シェアを確保することができたようだ。
また、顧客サービスの面でも競争が激化しており、とくに出荷品質が差別化のポイントになるという。大規模な数量の受注をいかに他社に負けない出荷スピードを保てるかが、売り上げの拡大とともに来年以降も課題になるとしている。
【ヤーマン】 美顔器と痩身機器セットが完売
ヤーマンは「独身の日」向けに提案していた美容家電2アイテムのセットが完売し好調だった。また、美顔器などの単品商品には「独身の日」向けに在庫数を増やしており、全数を完売した。
「独身の日」では10アイテムを販売。限定セットとして「RFボーテ フォトPLUS&キャビスパEX カップルセット」を用意し、通常価格5280元を4299元で販売した。このほか、美顔器やローラー、脱毛器などについても、在庫を増やしていた。
同社は「独身の日」当日前から広告展開を積極化していた。トップページ上にバナーを掲載するなどの認知度向上策が奏功し、当初の予定通りの販売数を達成した。
従来から中国のEC市場に向けて、雑誌やウェブなどの女性向けメディアへ露出を強化していたほか、中国インフルエンサー向けの情報提供や体験会の開催などを通じて認知度を向上していたという。「独身の日」をきっかけに、購買促進につながったようだ。
【白鳩】 主力のブラジャー好調な売れ行きに
白鳩は広告の露出を増やせなかったほか、前年の「独身の日」で好調だったタイツなどが伸び悩んだものの、主力商品のブラジャーが好調だったことなどで前年並みの売上高で推移した。
売れ筋となったブラジャー「モードマリー脇肉革命3/4カップブラ」はオリジナル商品で、予約販売時点でブラジャー部門の売上ランキングのトップとなっていたという。ノベルティに調整ホックを付けてたことが購入意欲喚起につながったようだ。あわせて、自社アカウントのSNSを活用して1分間の動画を配信し、20歳から34歳の若年層へ認知度を向上したことが奏功したようだ。
今回の「独身の日」商戦では、配送体制を変更。現地倉庫に在庫を構えて、発送スピードの迅速化と業務の効率化を図った。これまで、日本から直送するモデルで展開していたが、配送遅延によるペナルティを回避する必要があると判断した。これと併せて、配送業者も変更したという。
【Hamee】 普段の日の6倍独自商品が好調
Hameeの売り上げは普段の日と比べて5~6倍。同社では「もう少し伸びるかとは思っていたが、天猫国際側のイベントに参加できなかったことが、想定に届かなかった理由だろう」と分析する。同社が天猫国際に店舗を開設したのは、10月だったため、天猫国際の準備するイベントに参加できなかった。
売れ行きが良かったのは同社オリジナル商品。「高い価格でも本物や安全を買いたいというユーザーが多く、日本の会社が企画・生産したものを直送するという点に価値を感じていたようだ」(同社)。ただ、登録商品数が少なかった点は反省材料という。
キャンペーンとしては、全品20%割引と、◯◯元以上の利用で10%割引という2種類のクーポンを配布。ルーレットゲームを用意し、「お気に入り登録」するとゲームができるようにした。
最近の中国市場の動向については「動画や生放送を見てからの購入が増えている印象。消費者の『安く買いたい』というスタンスは変わらないと思うが、そこに安心感や買う理由などが付加されはじめているのではないか」(同社)とした。
【楽天】 前年の“倍以上”過去最高額を記録
楽天は楽天市場に出店する店舗専用の楽天市場「Rakuten Global Market(楽天グローバルマーケット)」に加えて、楽天として出店している中国現地の有力仮想モール「JDワールドワイド」や「カオラドットコム」における販促も強化した。
楽天グローバルマーケットでは、独身の日向けの専用クーポンを用意し、SNS(ウィーチャットやウェイボー)への露出も図り、中国の消費者からの利用を喚起。独身の日における中国市場向けの売上については、昨年と比較して倍以上の過去最高額を記録した。同社では「出店している中国現地のECモールの協力もあり、まだまだ成長の余地はあるものの、十分な売上げだった」とする。
特に売れ行きが良かったのは、シャンプー、北海道の菓子、フィギュア、運動用品、バッグ、子供服、時計。日本モデル、日本製のブランドが支持されており、独身の日に向けて、それぞれ一気に商材を拡充し、多くの商品の中から選べるようにした。特に、シャンプーはメーカーと協力し、中国全土で最安値レベルの特別価格とし、事前告知も奏功した。
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オリジナル記事:中国EC市場で成功するには? 「独身の日」の日本勢9社の越境EC事例を学ぶ | 通販新聞ダイジェスト
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