[マーケターコラム] Half Empty? Half Full?

回り道でも平穏を! 変革を阻む組織文化。「成果」と「立場」の両立は可能⁉

マーケターコラム、今回は明坂真太郎氏。テレビ東京のセールスサイトリニューアルの例を通して、複数組織を巻き込んだ変革について考えます。
明坂真太郎氏

こんにちは、明坂です。

いきなりですが、変革というのはめちゃくちゃ大変です。必ずしも1枚岩でない複数組織の意見をまとめ、「こちらへ向かうべき」という方向を示し、合意して進むことは簡単なことではありません。本日は私が担当し、2022年4月にリリースした、テレビ東京のセールスサイトリニューアルという案件についての話をもとに、複数組織を巻き込んだ変革についての難しさと、どのように取り組めば滞りなく執り行うことができるのかについて考えていこうと思います。

テレビ局におけるセールスの仕組みとセールスサイトの現状

テレビ局のWebサイトといえば、通常はドラマやバラエティの放送情報や、イベントやグッズ情報、はたまた番組表などといった“コンテンツにまつわるもの”をイメージされる方が多いかと思います。しかし、テレビも含めたメディアビジネスというものは、コンテンツを発信し、そのコンテンツに企業から、主に広告枠といった形でお金を払っていただくことでビジネスが成立しています。

ということは、通常ならメディアのスポンサー向けサイトに行けば、どういった商品(広告枠)がいくらで購入できるか、買うために必要なレギュレーションは? といったことが一覧できる、そう思うかもしれません。

しかし、今まではそうではありませんでした。CM枠販売の大半が、広告代理店経由で行われているためです。テレビ局に広告主が直接問い合わせをすることや、テレビ局自身がリード獲得のためにLP(ランディングページ)を作ったり集客広告を打ったりすることもほぼありません。セールスサイトのパフォーマンス向上にテレビ局はあまり注力してこなかったわけです。

リニューアルして誕生したテレビ東京スポンサー&パートナーポータル(https://sales.tv-tokyo.co.jp/

さて、そんな注力されてこなかったセールスサイトをリニューアルする必要性ですが、以下3点を課題としてフォーカスしました。

  1. 未来の広告主候補が検索などをしてサイトに訪れた際に適切な受け皿がない
    →不親切を解消したい
  2. テレビ東京(地上波)、BSテレビ東京(BS)、TVer(インターネット動画)、etc…テレビ東京グループ各社が出面の違う広告商品をそれぞれの組織で販売しているが、一覧がなく、比較できない
    →統合することで、顧客側の選びやすさ、販売側の集客効率化を両立したい
  3. CMS(コンテンツ管理システム)、MA(マーケティング オートメーション)などとつなぎこまれておらず、運用や問い合わせ顧客対応のスピードが遅い及び効率が悪い
    →ツール導入による運用効率化と、問い合わせ対応やメルマガ配信等の連携強化

前述の通り、リニューアルされなかった理由は「重要度が低い」と考えられていたためですが、ここ数年の急激な環境変化により相対的に重要度が上がりました。1と3については、昨今となってはもはや、やらない理由はない的な領域です。Webサイトの役割として、さまざまなニーズ、状況を想定し顧客候補がセルフで情報取得や課題解決が行える状況を整えることが必要だと考えます。特に、テレビCM領域のノウハウは、前職でテレビCMの出稿に多少関わっていた私でも疎く、テレビ業界に入って初めて理解するようなことが多くありました。こうした情報の非対称性が大きい領域では特に重要だと思います。

今回のサイト改善にて、初めての方向けの解説、用語集、事例集、各番組の視聴者属性情報など、顧客の各フェーズに合わせて情報を補う定常的なコンテンツをきっちり用意すること。そしてCMSの導入によって、時期ごとの注力商品や新番組の製作者インタビューといった、リアルタイムで企画する時事コンテンツなども公開できるようにと、コンテンツやその運用体制を整えました。

その上で、更新性をもたせることで定期的に来訪してもらう理由を作ったり、更新情報のサマリをメルマガで送ることで顧客のニーズが発生したタイミングを捉えうまくコミュニケーションできるようにしたり、ツールを活用した機会創出の仕組みづくりに取り組んだわけです。

自社のアナウンサーにも協力を仰ぎ、素材用のポーズ撮影を自ら行いました

多少回り道でも平坦な道を、ステークホルダーそれぞれを立てながら進める

さて、前述した3つのうち2つは論点にはなりにくいと述べましたが、残りの1つ、別々の組織が売っている商品を統合したサイトを作るというのは、我々の組織としてはなかなかタフな論点でした。

ただでさえ情報の非対称性が激しい領域で、顧客がCM出稿を検討していてテレビ東京に問い合わせしたけれど、実際ニーズを掘ってみるとBSテレビ東京やTVerの方がフィットすることがわかった、みたいなことは普通にありえます。TVerから地上波と言った逆もまた然りです。集客広告を打つにしても商品の選択肢が広い方がCVR(コンバージョン率)を高められます。テレビCMの基礎知識や用語集といったコンテンツもまた、各サイトで個別に用意するよりも、まとめてしまった方が効率的でしょう。

また、今までフリーでダウンロードできていた媒体資料はダウンロードフォームからMAに接続し、閲覧者を把握できるようにすることに加え、地上波、BS、TVerそれぞれの資料が一覧できるようにしました。

ダウンロードフォーム

このように、「テレビ東京グループ全体として利益が最大化できればよい」と、特に看板になんのこだわりもない私からすれば思ってしまうのですが、グループ企業ではありつつも、テレビ東京、BSテレビ東京は別会社で、広告をセールスするという大きな目標では一緒でも、細かい部分でやりたいこと、こだわりたいことに違いがあります。

ページの見栄えやサイトトップのロゴの並び方など、サイトのパフォーマンスに直結しないようなところでも、組織ごとに今までビジネスを運営してきたメンツがあり、各担当者は立場上口を出さざるをえないことが結構あります。正直、サイトのパフォーマンス向上とコンフリクトするような要望もありました。しかし、ここで意見をはねのけ、相手のメンツを潰しても良い結果を生みません。

どれだけ優れたツールやノウハウ、アイデアがあっても、それを活かせる範囲は既存組織(とステークホルダー)の文化や理解の枠内のみであり、私がプロジェクトリーダーとしてできることは、その枠組のなかでうまく装着の仕方を調整する方法を考えることと、(ときには)一旦話を右から左に受け流して、しれっとやっちゃうことぐらいでした。

CMSで構築したので、スマートフォンにもレスポンシブで自動対応している

やれることの枠内で自身のクリエイティビティと折り合いをつける

ここまでの仕事を踏まえ、私が振り返るポイントは2点です。

1つは、自らのアイデアや設計が誰かしらのステークホルダーとコンフリクトしてしまった際、コンフリクトしている点としていない点を明確に分け、極力議論する論点を減らすようにすること。決して無抵抗に受け入れるわけでも、スルーするわけでもなく、不要なコンフリクトの議論を避け、必要な議論だけに集中してプロジェクトを少しでも早く前に進ませることで、結果としてアウトプットとして見えているものが増え、議論が早くまとまります。

もう1つは、どうしてもすぐには組織にうまく装着できない仕組みやアイデアがある場合、解消までの道筋と時間軸も含めて握ることです。たとえば、個々のフィールドセールスがエクセルで案件管理をしている組織に、「明日から管理はすべてセールスフォースを使ってパイプラインマネジメントしますのでよろしく」とやっても、大抵うまくいかないことは明らかで、仕組みやツールの理解といった知識ベースの共有から評価や業務フローといった制度の調整まで時間をかけて行わなければなりません。

当然、部長・役員クラスの権限をもって実行しなければならないので、そのあたりの道筋をつけておくということが後のプロジェクトのスムーズさや、自身の安心にも繋がります。逆に、権限をもった方々が、その中長期的な山の登り方で折り合えない、もしくはそもそも枠を外に広げるつもりがない、ということであれば早々に今後の関わり方、進め方を改めるといったこともできるでしょう。

組織の文化、行動を変えようと思うと、変わることが可能な範囲、スピードを守る必要がありますが、その中で自身の介在価値を発揮するべくクリエイティビティなアイデアと折り合いをつけていくスタンスが大事だと思います。

いずれにせよ、組織の知識や文化を変革するには大変な労力と時間がかかります。スキルがある人を採用すれば、いきなり組織が変わるわけではありません。まして文化を変えるのは一朝一夕には不可能です。何事にも短期的な達成方法と中長期的な達成方法、それぞれ両輪で構えて臨む必要があると私は思います。

本テーマやそれ以外についてもくわしく聞きたいこと、などあればぜひお気軽に私のTwitterアカウントへリプライ(https://twitter.com/dr_akesaka)をいただければ幸いです。

それでは。

用語集
CMS / CVR / LP / コンバージョン率 / ステークホルダー / スマートフォン / ダウンロード / レスポンシブ / 広告代理店
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