健康食品や化粧品を販売する「ていねい通販」を運営する生活総合サービスは、「時代の変化に対応しながら、従業員の幸福度を最大化するための働き方」として、新制度「わくワーク」をスタートした。リモートワークやオフィスのリニューアルなど、多くの企業で進む「働き方改革」。「ていねい通販」が取り組む「従業員の幸福度を最大化する」とは。制度の内容や導入の経緯、企業の考え方などについて話を聞いた。
「わくワーク」の導入で多様な働き方を推進したい
「わくワーク」とは?
「わくワーク」は働き方の多様化を推進するためにスタートした制度。「時間によって拘束されない、フレキシブルな働き方」の実現に向け、コアタイムなしのフルフレックスを導入している。
フルフレックスだけでなく、労働時間については次のような特徴がある。
- 1日の所定労働時間は7.5時間を基本とし、6~8時間で選択できる。また、毎月変更が可能。選択した労働時間×月間営業日数を月間労働時間に設定する
- 設定した月間労働時間を満たすのであれば、働く場所は自宅・会社を問わない
- 1日の労働時間の下限はなし、上限は10時間まで
- 22時~5時は原則業務禁止。行う場合は事前に申請が必要
- 1日6時間の労働に対し、1時間の休憩が必須だが、休憩時間の回数&時間の制限はなし
また、リモートワーク環境強化のため、カスタマー業務を担当する社員もリモートワーク中心の体制に変更した。セキュリティ対策として社員にノートPCやモニター、Wi-Fiなどを会社から支給している。
制度導入前は全社員が9時~17時30分、1日7.5時間で働いており、予定がある場合などは半休を取得する仕組みだった。時短勤務の制度もあったが、育児や介護などの理由がある場合のみに適用していた。
生活総合サービスの戸田良輝氏(経理管理部 リーダー/ブランド企画部 リーダー)は制度開始に際し、「時間の制約があることが時代に合っていなかった。業務量や繁忙期・閑散期もある中で、すべてを7.5時間で区切るのは違うのではないかと考えた。フレキシブルに、時間によって拘束されない働き方を推進したい」と話す。
所定労働時間は上司と相談して決める。育児や介護などで1日7.5時間を満たせない社員もいるため、所定時間6時間という制度を設置。育児による退職という道ではなく、長期にわたって働けるようにしている。
「ていねい通販」を運営する生活総合サービスが導入した「わくワーク」
コロナ禍でのリモートワークはきっかけに過ぎない
「わくワーク」導入に際し、戸田氏は「コロナ禍でのリモートワーク推進はきっかけに過ぎない」と言う。
生活総合サービスでは、コロナ禍以前から若手社員の育児休暇取得やベテラン社員の介護休暇取得が増えているという。そういった社員たちが働きやすい環境にするためには、実態に合っていない社内制度を変更する必要があった。検討を重ね、多様化する働き方にフィットする制度として「わくワーク」はスタートした。
「わくワーク」導入の一番の目的は、「社員1人ひとりがより幸せになってほしい」という思いが強かった。制度導入はリモートワーク推進のきっかけに過ぎない。まだ気を遣っている社員もいると思うので、より多様な使い方をしていけるよう、柔軟に対応し、社員全員で作っていきたい。(戸田氏)
社内外問わず、全員が幸せになれることを意識する
今後の施策として、生活総合サービスはオフィスの在り方を検討。また、「新しい時代の働きがい」について考え、より社員1人ひとりと向き合っていきたいという。
戸田氏はこう言う。「会社として働き方をきちんとしていくことで、社員が会社を支えてくれて、それがお客さまの喜びにつながっている」
「わくワーク」を他の企業にも知ってもらうことで、少しでも他企業の担当者が制度構築に向けて一歩踏み出せる参考になったら嬉しい。
コロナ禍において、社会がより良くなっていくことをみんなが考えなければならない。「わくワーク」もただ自分たちだけが幸せになるのではない、ということを心がけて運用していきたい。(戸田氏)
労働時間を自分で決める=メリハリのある時間管理
1日の所定労働時間を6~8時間と幅を持たせるのは、「時間の管理、時間の意識を持ってもらうため」ため。コロナ禍でリモートワークが増えたことにより、仕事とプライベートの境目が曖昧になっている社員が増えているからだ。
メリハリを付けることが時間管理にもなっていると考えている。より個人個人が幸福になって欲しいという思いから、社員の多様な働き方を望んでいる。(戸田氏)
「わくわくサポート」で自己投資を推進
自己投資支援制度として、「わくわくサポート」をあわせて実施。月2万円相当を1月と7月の年2回、各12万円を支給する制度だ。使い道を申告する必要はなく、自己成長につながる目的で社員が自由に使用できる。
毎月ではなく、年2回に支給する理由は「月2万円ずつだと貯金に回りがちになってしまう。自己投資という経験をしてほしい。ある程度まとめて支給することで大きな投資に使ってもらいたい」と戸田氏は話す。
また、光熱費などの手当として別途2000円を毎月支給しているという。
「漠然とした不安」から「プライベートと仕事を両立」に変化
生活総合サービスは「わくワーク」導入に際し、社員52人にアンケートを実施。導入前は3人に1人が「不安だった」と回答している。不安の理由は、「CS部門では『わくワーク』自体が利用できないのではないか」「会社が変化することへの漠然とした不安」があったのではないかと戸田氏は分析する。
「わくワーク」の導入前に感じていた気持ち(n=52)
導入後に感じている気持ちについては、82.3%が「快適である」と回答。また、「わくワーク」導入で感じているメリットについては、67.3%が「働きやすさの向上&プライベートの充実」と回答している。「自分や家族のために時間が使えた」「自分自身をケアする時間が増えた」という理由があがったという。
「わくワーク」の導入後に感じている気持ち(n=52)
「わくワーク」の導入でメリットに感じていること(n=52)
評価は「お互いの納得感」を大切にしている
「わくワーク」の導入による評価制度について、戸田氏は「お互いの納得感が大切」だという。
生活総合サービスでは、売り上げの目標やノルマを設定していない。また、戸田氏自身は「評価基準を明確にし、透明性を持たせても、完全に納得することは難しいのではないか」と考えているという。
そのため、生活総合サービスでは、社員に対して将来の方向性を示した上で、「社員への期待に応じた、責任の範囲にある業務を任せること」を重視している。
任せた業務範囲については稟議を通さなくても承認する。自分の仕事に対する市場からの反応を、手応えとして感じ続けられる状況を作っているという。
期待に応じた責任の範囲をすり合わせ、社員に任せることで、「最終フィードバックに対する本人の納得感が増すのではないか」と考えているからだ。
「上手くいったことでも、やりたくないことをやった、言われたことをやっただけでは不満があるケースもある」と戸田氏は分析する。
人に言われて行った業務において、売り上げのが増減があったとしても、市場からのフィードバックをきちんと受け止めないだろう。
しかし、完全に自分が任せてもらったことで売り上げが下がった場合、他の社員に「気にするな」と言われても、市場のフィードバックを受け続ける限りは「頑張ろう、改善しよう」と思えるのが人だと思っている。(戸田氏)
生活総合サービスの戸田良輝氏(経理管理部 リーダー/ブランド企画部 リーダー)
生活総合サービスでは、「4年目までに1人前になって欲しい」という目安はあるが、年次による目標設定などは行っていない。その理由は、社員数が50人ほどで、年次で目標を決める社員数ではないこと、また、社員1人ひとりと向き合うことを大切にしているためだ。そのため、新卒採用の際も人数を多くしすぎないことを意識しているという。
業務中はZoomに常時接続でコミュニケーション
コミュニケーションツールは主にZoomを使用。業務時間中は常時Zoomに接続しており、社員の様子がわかるようにしている。
その中で、Zoomのブレイクアウトルーム機能を使い、チームごとに分割。50種類以上のブレイクアウトルームを作成し、1人で集中したいときは専用のルームに移るなどの取り組みを行っている。
リモートワーク開始当初は「オンラインでやっていけるのか」という不安があったが、以前から積極的にコミュニケーションを取っていたため、スムーズに移行できたという。
関係性が強い企業ほど、オンラインとの相性が良いのかもしれない。時間と場所の制約がかからない効率制と、強い関係性のかけ算で費用対効果が良くなっている。(戸田氏)
コミュニケーションのコツは「リアクションだけで参加できる」こと
昼食時もZoomを接続している。雑談をはじめ、社員が企画した動画コンテンツを配信するなど、オンラインでも日ごろから積極的にコミュニケーションを行っている。
オンラインでのコミュニケーションのコツについて、戸田氏は「リアクションだけで参加できる状態を作ること」と説明。突然「話をしよう」と話題を振るのではなく、「面白い」という一言の反応でもできるコミュニケーション用のコンテンツを準備するのがコツだという。
Zoomを活用したコミュニケーションのようす(画像提供:生活総合サービス)
偶発的なコミュニケーションや新人研修が課題
チーム内のコミュニケーションは問題なく行えているが、一方でチーム間や偶発的なコミュニケーションが生まれにくいことが課題になっている。
また、「新入社員が他の社員とゼロから関係性を構築していく難しさも、今後課題になるのではないか」と戸田氏は懸念する。最初は出社をしてもらい、リモートワークになった際はランダムでブレイクアウトルームを作り、コミュニケーションを取ってもらうなど、方法を検討しているという。
オープンな環境が助け合いの文化を生む
生活総合サービスでは、全社員が所属するZoomを設定、全員の労働時間をオープンにしており「誰がどれだけ働いたか」がわかる環境を構築している。
オープンにすることに対し、戸田氏は当初きちんと運用できるか懸念していたが、「残業時間に限らず、ありとあらゆる情報を、接続したら見られる状態にしておくことが大事だ」ということを実感した。
残業時間がわかることで、営業時間に合わせる必要があるCS(カスタマーサービス)部を中心に、「自分も使えて、相手も使えるようにしてあげよう」という助け合いの文化が生まれたという。
チーム内で残業時間が多い人をケアしようという発想が生まれている。社員全員がバランス良く働くことを望んでいるので、オープンにすることでプラスに働くことが多いのではないか。(戸田氏)
オープンにすることで、経営側の判断に対する社員の納得感が増すことにもつながっている。チームのリソースの足りなさを踏まえて人事異動を行っているが、各チームの状況が見えない状態だと、社員達は「またあそこに人が行くんだ」と思いがちになる。しかし、普段から労働時間などが見えることで、「あのチームには人が必要だ」と考えるようになったという。
「信じ抜く」ことをテーマにガイドラインを作成
社員を信じることで使いやすい制度に
「わくワーク」のガイドライン作成のテーマは「信じ抜くこと」だと戸田氏は語る。社員を疑うことで制度を細部まで決めてしまい、働き方の自由度が下がると、制度の使い勝手が悪くなると考えたからだ。
打刻は出勤と退勤時に行い、その間はどのように休憩を取っても良く、休憩時間は後で各自が申請する運用にした。中抜けの度に打刻や申請を行うと、使い勝手が悪く、管理が煩雑になるからだ。
周囲に迷惑をかけないようにするため、休憩時間が1時間を超える場合は、スケジュールに明記することをルールとして設けている。
管理者側が考えた制度だが、社員も内容についてきちんと考えてくれている。社員を信じたことに対して「会社に応えていこう」という返報性の法則が働いている。
社員の「こうなっていこう」という働き方の多様化に対する考えから生まれた制度なので、以前より集中力が高くなったと感じる。(戸田氏)
信頼は「約束と実行」によって叶えられる
生活総合サービスは「社員を信じること」を大切にしているが、企業と社員の信頼関係を構築するための大きな施策は行っていないという。
それは、同社が「信頼は約束と実行によって叶えられる」と考えており、「社員に対して、会社がいかに方向性を示し、実際にそれを推進・実行できているかということの連続だと思っている」と戸田氏は語る。
また、「パフォーマンスで行ったことや表面的なことは社員に見抜かれる」といい、有言実行のため、理念や目標などはきちんと社員に伝えることが重要だと言う。
自分や家族をまず大事にして、次に仲間、ビジネスパートナー、最後にお客さまへ届くということを常日頃から伝えている。
社員達は、「ビジネスパートナーが疲弊してまでお客さまのサービスを上げることは良くない」と理解しており、「家族をないがしろにしてまで仕事をすることは駄目」だと伝えている。
「ていねい通販」は「1日でも長いお付き合い」というテーマで、「売り上げを1円でも高く」「お客さまを1人でも多く」ではなく、「どうしたら1日でも長くお客さまと付き合っていけるか」ということを1番大事にしている。(戸田氏)
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