「ソーシャルメディアマーケティングに取り組むかどうか」を考えていた時代は終わり、現在は「いかに取り組むか」というフェーズに完全に移行したように思います。
多くの企業がTwitter公式アカウントやFacebookページを開設し、運用を開始しています。また、短期的なキャンペーンでは、ソーシャルメディアとの連携がほぼ当たり前のように行われるようになりました。
企業の取り組みが一歩進んだからこそ、出てくる悩みがあります。現在、ほぼ全ての企業担当者が頭を悩ませていること、それは効果測定です。下のスライドは、去年クロス・マーケティングと共に出版した『ソーシャルメディア白書2012』のデータです。多くの企業担当者が、現在の課題として、「効果測定が難しい」 「営業上の成果が見えづらい」と回答しています。
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※SMM=Social Media Marketing
また、上級活用企業においては、「効果的・効率的にフォロワーやファンを獲得する方法はわかった」 「エンゲージメントを向上させるコツもわかった」 「でも、だからなんなの? エンゲージメントは低いより高い方がいい。でも、エンゲージメントを向上させたら、どんなマーケティング効果が得られるの?」という極めて本質的な問いに直面しています。
これは、KPI(Key Performance Indicator:リーチやエンゲージメント指標)ばかりを追いかけ、それらKPIから一体どんなマーケティング効果(KGI:Key Goal Indicator)を得ることができたのかを測定・評価できていないことに起因しています。
以前から効果測定の大切さや方法論についてはいろんなところで書いてきましたが、一度ここでTwitter公式アカウントやFacebookページに代表される「ソーシャルメディア効果測定」についてまとめてみようと思います。長くなりそうなので、前編と後編に分けて。
ということで、今日は前編として、(いつもセミナーで話している)ソーシャルメディアの効果測定を難しくしている背景や落とし穴、その回避法についてまとめます。
まず、効果測定を難しくしている最も大きな要因。それは、「目的が決まっていないこと」です。下のスライドも『ソーシャルメディア白書2012』からの抜粋ですが、ソーシャルメディアの活用開始理由を400人の広報担当者に聞いたものです。
残念ながら、「予想通りの結果」になってしまいました。
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以前から繰り返し話してますが、ソーシャルメディアの活用は「手段」であって「目的」ではありません。現在、抱えているマーケティング課題を解決するために、ソーシャルメディアの活用が最適であれば活用すれば良いだけです。
しかし、上記回答のように、多くの企業では、「ほとんど予算をかけずに始められるから」 「流行っているから」 「上司にやれと言われたから」 「乗り遅れるとまずいと思ったから」 「競合が始めたから」といった理由でソーシャルメディアの活用を開始してしまっています。
このような理由から始まってしまっているので、上司から「おいキミ、そろそろわが社もFacebookを活用し始めて半年が経つが、効果はどうなっているのかね」と聞かれると「エッ!?効果ですか?えーと、ファンは1万人を超えました」や、「多くのいいね!を獲得しています!」といった上辺だけの報告になってしまうのです。
ただし、現場からすればそれも当然です。なんせ上司や(外資系企業の場合)本国が「やれ」って言ったから始めたわけです。いまさら「効果は?」と聞かれても困ります。でも始めてみると現場は大変。平日の業務時間外や休日だって気になってついつい個人のスマホから状況をチェックしてしまいます。お客様と直接つながることは嬉しいから、やればやるほどファンやフォロワーは増やしたいし、エンゲージメントだって高めたい。もっと人がほしい。兼任じゃなく専任にしてほしい。予算を増やしてほしい。でも上司は一言。
「現状のままでは売りにつながっているか不明確だから、しばらくこのままやってほしい」
チーン…。ですよね。
ということで、ここからはそんな現場担当者を救うべく、皆さんが陥ってしまいがちなSMM効果測定の5つの罠とその回避法について解説します。
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まず1つ目の罠は、「SMM活用の目的が曖昧」だから。
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これは冒頭でお話した通りです。
「効果測定が難しい」と悩むご担当者に、「そもそもどんな目的を達成するためにTwitterやFacebookを活用しているのですか?」と聞くと、ほとんどの方は答えることができません。なんとなく始めてしまっているので、なんとなく運用してしまっているのです。
よく「ROI を明確にしろ」なんてことが言われます。ROI は、いくら使って、どんなリターンが得られたのかを割り算すれば算出できます。ぜんぜん難しいことではありません。ではなぜ ROI がわからないのか。「いくら使ったのか忘れちゃいました」なんて人はいないので、わからないのは投資額ではなくリターンです。
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つまり、目的が曖昧だから何を「R」にすれば良いのかわからないのです。目的=Rです。購入意向(PI:Purchase Intention)を向上させることが目的なら、PI の向上が「R」になるわけです。
TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアは、簡単に様々なログデータを取得することができます。皆さんも、下記のような画面を日々眺めていると思います。
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でも、だからこそ危ないのです。様々な数値が見えてしまうからこそ、「測定すべき数値」ではなく、「測定できる数値」を測定してしまっているのです。
もちろん、リーチやエンゲージメントなどのKPIは大切です。しかし、多くのKPIを見ていても、肝心のKGIを測定しない限り、「結局、ソーシャルメディアがもたらしたマーケティング効果は何なのか?」という本質的な問いにはいつまで経っても答えることはできません。
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「測定の前に目的を問う」
これが1つ目の罠の回避法です。
続いて2つ目の罠。「測定のための測定をしてしまってる」です。
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効果測定においても「手段の目的化」が発生してしまっているのです。
効果測定は手段であって、目的ではありません。では、そもそも効果測定の目的とは何でしょうか。
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数値を測定する目的は、施策が「うまくいっているのか、いないのか」を「評価」するためです。では、なぜ「評価」するのか。それは現在の施策を(もっと効果が出るように)「改善」するためです。これが効果測定の最適化ループ。
でも、ほとんどの企業では、測定のための測定で終わってしまっています。なぜなら、目的が曖昧だから、現状の数値を「評価」できないのです。目の前の数値が「良い数値」なのか「悪い数値」なのか「解釈」できないのです。評価ができないから、当然、どこをどう改善すれば良いのかもわからない。効果測定の最適化ループが回っていないのです。
これが2つ目の罠です。
続いて3つ目の罠。「枝葉に注目し、森全体を見ていない」です。
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これも冒頭からお話しているものですが、KPIばかりでKGIを測定評価していないから、細かい数値を測定すればするほど、何が正しいのかよくわからなくなってしまった、というものです。
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くどいですが、KPIはKGIを達成するための手段であり、目的ではありません。ファン数が増えた!いいね!が増えた!RTが増えた!というKPIは大切ですが、「だから何なの?」というKGIが明確にできなければ何の意味もありません。
全てのKPIはKGI達成のためにあるのです。
では、ここで念のため言葉の再確認を。
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図の通り、KGIとはKey Goal Indicator(重要目標評価指標)の略。ここで言うKGIとは、ブランド想起率、ブランド好意度、購入意向などです。
なぜ、ブランド想起率、ブランド好意度、購入意向がTwitterやFacebookなどのソーシャルメディアマーケティングのKGIになるかと言うと、これら指標の向上はソーシャルメディアマーケティングが強みを発揮するものであり、かつこれら「コミュニケーション指標の向上」が「売上の向上」と密接に関係しているからです。
KPIはKey Performance Indicatorの略で、皆さんおなじみのファン数、フォロワー数、オーガニックリーチ、グロスツイートリーチなどのリーチ指標や、いいね!やコメント、RTやFavなどのエンゲージメントなどです。
『ソーシャルメディア白書2012』で、ソーシャルメディアマーケティングの効果測定についてアンケートを取ったところ、KGIを測定している企業は全体のわずか0.3%、上級活用企業の2.9%という結果でした。
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現在ではもう少し増加している気がしますが、多くの企業において「ソーシャルメディア効果測定=KPI測定」であり、肝心のKGIが測定されていないことがわかります。
多くの企業では、「ファン数やフォロワー数」といったリーチ指標だけでなく、「どのくらい深くユーザーと関われたか」を測る「エンゲージメントを重視しよう」、というところまでは来ています。しかし、「エンゲージメントの向上がどんなマーケティング効果をもたらしたのか?」という肝心の「意識変容と態度変容」(KGI)を測定するまでには至っていない。
何度でも言いますが、KPI測定の目的はKGI検証のためです。
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リーチ、エンゲージメント、話題・評判といった代表的な3つのKPI軸が、どのようにブランド想起率、ブランド好意度、購入意向といったKGIに影響を与えたのか。そこをしっかりと検証することが大切です。
これが3つ目の罠です。
続いて4つ目の罠。「ソーシャルメディアマーケティングの効果を実感できない」(他の施策の方が効果が良いのではないか?)というものです。
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これは、Twitter公式アカウントやFacebookページがもたらした効果を、従来のWebマーケティング指標で評価してしまっているからです。
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これも以前から繰り返し書いていることですが、マーケティング活動は費用対効果と投資対効果の2つに分けることができます。
費用対効果はReturn On (Acquisition) Cost。「いくら使って、どれだけ儲かったか」という短期的な考え方です。
対する投資対効果はReturn On (Marketing) Investment。「いくら使って、どれだけ未来につながる効果が得られたか」という中長期的な考え方です。
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言葉が違うんですから、意味も違います。
費用対効果は、例えば検索連動型広告(リスティング広告)やダイレクトメール、チラシなどのような「お金の投下をやめた瞬間に効果がゼロになるもの」です。
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対する投資対効果は、「お金の投下をやめても、効果が持続的に継続するもの」です。例えば日立の樹のCM。もし仮に、来年からこのCMがテレビで流れなくなっても、恐らく多くの日本人はこのCMによってつくられた(安心、信頼、大きい、温かいなどの)日立という企業イメージや印象を長く持ち続けるでしょう。これが投資です。
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Twitter公式アカウントやFacebookページは(詳しくは後編で解説しますが)、費用としての効果だけでなく、投資としての効果(ブランド想起率、ブランド好意度、購入意向などの向上)をもたらします。ですから、費用対効果だけでなく、本来は投資対効果も測定・評価しなければなりません。
しかし、従来のWebマーケティングの世界における測定・成果指標はCPM、CPC、CPA、CPOなど、Cost Per XXXXX(費用対効果)でした。だから、Webマーケティングの一環として捉えられたソーシャルメディアマーケティングも、いつのまにか一般的なWebマーケティング指標で成果を測定されるようになってしまいました。なぜなら、それ以外に測定指標が無かったからです。
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これが、大きなボタンの掛け違いの始まりです。TwitterやFacebookなどを活用したソーシャルメディアマーケティングは、費用としての効果だけでなく、投資としての効果も得られます。だから、「どちらか」ではなく「どちらも」測定・評価しないと、いつまでたっても過小評価されたままになってしまいます。
これが4つ目の罠です。
さて、最後の5つ目の罠。「売上や来店客数を測定指標(KGI)にしない」です。
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「売りにつながっているのかわからない!」
これは、現場担当者ではなく、その上長(やもっと上の上層部)からよく聞かれる言葉です。
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私は、通販などのダイレクトマーケティング業態を除き、最終的な「売上」をソーシャルメディアマーケティングの最終評価指標にすることは危険だと思っています。
なぜなら、「売上」は企業活動の総体によって決まるからです。
僕は20代の頃、メーカーの商品開発や価格戦略、チャネル戦略や店頭のインストアマーチャンダイジングを支援するマーケティング会社に在籍していました。
そこで、ひとつの商品が世に出て、店頭に並び、レジを通るまで(そしてその商品が一過性のものではなく売れ続けるためには)、本当に多くの部署やスタッフが携わっていることを学びました。
基礎研究や応用研究などのシーズ開発に携わる人、マーケティングリサーチなどを通して消費者ニーズやインサイトを把握し、新商品のコンセプト開発を行う人、それを実際に製造する人、その商品が1店舗でも多く、良い棚の位置に、1フェイスでも多く並ぶために頑張る営業の人たち、売れ続けるためのCRM施策を考え、実行する人たち、そして自社でコントロールすることができない競合状況や経済、気候などの問題。「売上」は本当に多くの要因によって形成されています。
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それを、マーケティングコミュニケーション戦略の、Webマーケティングの、ソーシャルメディアマーケティングの、Twitter/Facebookマーケティングひとつだけ切り取って、「それでキミ、TwitterやFacebookとやらに取り組めば売上は上がるのかネ?」というのは、言いすぎじゃないですか?と思うのです。
サッカーのゴールキーパーは、相手のシュートを止めることが仕事です。そのゴールキーパーに対して、監督は「おい!お前は今期一得点もしていないじゃないか!」と叱るでしょうか。そんなわけありません。同様に、フォワードに対して「おい!お前は今期失点してばかりじゃないか!どうなってるんだ!」とは叱らないわけです。
ゴールキーパーは敵の攻撃を防ぎ、フォワードはゴールを決めてチームを勝利に導くことが使命であり、役割です。だから、「測定」や「評価」もそれぞれの役割に応じて行われる。
マーケティングも同じです。
ニーズが顕在化し、比較検討段階に入ってるユーザーの「効率的な獲得」はリスティング広告やリターゲティング施策の強みであり目的ですが、潜在ニーズ段階のユーザーと中長期的にエンゲージすることによって、ゆっくりとブランド想起率や好意度、購入意向を向上させて行くことがTwitter公式アカウントやFacebookページの強みであるわけです。であるならば、当然評価指標も変えなければなりません。
もうひとつ。
その部署や社員に課せられる評価指標は、その部署やその社員の努力によって可変可能かどうか、が重要なポイントだと思います。広報部や宣伝部がどんなに頑張ったって、商品の仕様や価格、チャネルカバレッジやインストアシェアは変えられません。
仮に広告によって「欲しいな」と思ってお店に行っても、店頭に並んでいなければ買えないわけです。または、商品スペックが魅力的でなく、トライアル客のリピート購買率が悪い場合、それを広告や広報だけで解決することも困難でしょう。
そのため、従来の広告でも広報でも、費用対効果を求めるWebマーケティングも、投資対効果を求めるソーシャルメディアマーケティングも、それに携わる人の努力次第で可変可能かつ、最終的な「売上」に最も近い指標をKGIとして定め、それを(マーケティングゴールではなく)コミュニケーションゴールに設定することが大切です。
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これが5つ目の罠です。
ということで、「ソーシャルメディア効果測定」まとめ(前編)としてまとめてみましたが、いかがだったでしょうか。書き始めたら相当長くなってしまいました(疲)。次回は(後編)ということで、実際のKGI測定の方法やKPI/KGI/LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)との関係性などについて解説したいと思います。
つづく!
2013年4月2日更新
「ソーシャルメディア効果測定」まとめ(後編)
http://www.ikedanoriyuki.jp/?p=3883