肺がん患者の多遺伝子検査が急速に普及、一方で約3割は遺伝子検査未実施
全国300病院・2.4万人の医療ビッグデータを分析、研究成果が医学雑誌『Cancer Science』に掲載
急性期病院の経営支援を行う株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(代表取締役社長:渡辺幸子、以下GHC ※1)が保有する医療ビッグデータを用いた研究成果が、日本癌学会の英文機関誌『Cancer Science』に掲載されました。
本研究「Five-Year Trends in Biomarker Testing and Targeted Therapy for NSCLC: A Patient-Initiated Nationwide Survey in Japan」は、関西医科大学、肺がんの支援団体である一般社団法人アライアンス・フォー・ラング・キャンサー(代表:長谷川一男、以下A4LC ※2)、近畿大学、GHCによる共同研究です。全国300病院のStage IV非小細胞肺がん患者24,047人を対象に、2019年4月から2024年5月までの遺伝子検査と初回治療の実態を分析しました。
その結果、複数の遺伝子を一度に調べる「多遺伝子検査」が急速に普及し、希少なドライバー遺伝子に対する検査や分子標的薬の使用が増えている一方、地域や年齢を問わず約3割の患者が遺伝子検査を受けていない状況が続いていることが明らかになりました。
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多遺伝子検査が急速に普及
分子標的薬は、がんの原因となる特定の遺伝子変異(ドライバー遺伝子)を標的とする薬剤です。非小細胞肺がんでは複数のドライバー遺伝子に対応する分子標的薬が登場しており、適切な治療薬を選択するためには、治療前の遺伝子検査が重要になります。
研究では、GHCが保有する「DPCデータ ※3」を用いて、全国300病院のStage IV非小細胞肺がん患者24,047人を分析しました。
2019年から2021年初めまでは5種類以上のドライバー遺伝子を調べる患者は少数でしたが、2021年後半から急増。さらに2023年半ば以降は、6~7種類を調べる検査が大きく増加しました。
個別の遺伝子を見ると、従来から高い検査率を維持してきたEGFRに加え、ALK、ROS1、BRAFの検査率も上昇し、EGFRとほぼ同水準まで達しました。さらにMET、RETは2021年後半から、KRASは2023年半ばから、HER2は2023年後半から、それぞれ検査が増加しました。

非小細胞肺がん患者における遺伝子検査の推移(2019年4月~2024年5月)
約3割の患者が未検査、地域・年齢を問わず変わらず
一方、遺伝子検査を受けていない患者の割合は、多遺伝子検査が普及する中でも約3割で推移していました。この傾向は全国の各地域で共通しており、年齢別では高齢者でやや未検査率が高いものの、各年代で未検査の患者が一定数存在していました。
研究ではその背景として、患者の全身状態、検体となる腫瘍組織の不足、治療開始を急ぐ必要性など、実臨床上のさまざまな要因が考えられるとしています。
また、遺伝子検査を受けなかった患者の25.4%は、その後の薬物療法も受けていませんでした。研究チームは、検査を受けていない患者の中には、全身状態などから薬物療法が困難と判断された患者が含まれている可能性を指摘しています。
希少な遺伝子変異を対象とする治療も増加
遺伝子検査を受けた患者の初回治療についても分析しました。分子標的薬を使用した患者の割合は、2019年から2024年まで3割弱で推移し、大きな変化はありませんでした。
一方、その内訳を見ると、従来から使用されているEGFRやALKを対象とする治療薬に加え、METやRETなど比較的希少なドライバー遺伝子を対象とする分子標的薬の使用が増加していました。多遺伝子検査の普及に伴い、希少な遺伝子変異を対象とする治療が実臨床で広がっていることが示されました。
遺伝子検査を適切な治療につなげるために
今回の研究では、日本の非小細胞肺がん診療において多遺伝子検査が急速に普及し、希少なドライバー遺伝子に対応した治療も広がっていることが明らかになりました。
一方、検査を受けていない患者が約3割存在する状況は、約5年間の調査期間を通じて大きく変わっていません。研究チームは、残された検査のギャップを縮小するためには、患者への十分な情報提供とともに、医療者と患者が検査や治療について話し合う「共同意思決定(Shared Decision-Making)」を進めることが重要としています。
※1:株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン
医師、看護師、薬剤師など医療資格者が在籍する急性期病院の経営コンサルティングファーム。最大1000病院の診療データをベースに、医療と経営の質向上を目指したコンサルティングおよび経営分析システム「病院ダッシュボードχ(カイ)」を提供する。累計クライアント数は700病院超。日本病院会と業務提携して中小出来高病院向け経営分析レポート「JHAstis(ジャスティス)」の執筆・配信を担当する。がん診療拠点病院の約半数が参加する「CQI研究会」の事務局や米メイヨークリニックとの共同研究など国内外の医療機関等との研究事業も精力的に行う。財務省の「財政制度等審議会 財政制度分科会」の政策決定や日本集中治療医学会の政策提言に用いるデータ分析を手がけたほか、「コロナ危機下の医療提供体制と医療機関の経営問題についての研究会」では委員も務めて、今後の医療提供体制に向けて極めて重要なデータ分析を担当した。「アキよしかわの『ポストコロナの時代の病院経営』」(日経メディカル・オンラインで2020~2021年連載)など寄稿のほか、日本放送協会などテレビ、日本経済新聞など新聞、「週刊ダイヤモンド」や「週刊東洋経済」など取材対応多数。主な著書・論文は『医療崩壊の真実』(エムディーエヌコーポレーション)、『日米がん格差』(講談社)、“Geographic variation in surgical outcomes and cost between the United States and Japan” American Journal of Managed Care (2016 Sep;22(9):600-7)、“Taking the leap to make bundled payments work Incentives drive realities in American, Japanese healthcare systems” Medical Group Management Association (2015 Sep; Vol. 1.)、“Cancer in the Time of COVID-19 in Japan: Collateral Damage” Collateral Global (2021)など。
※2:一般社団法人アライアンス・フォー・ラング・キャンサー
非営利活動法人肺がん患者会ワンステップ兼肺がん患者連絡会代表である長谷川一男、元認定非営利活動法人キャンサーネットジャパン事務長である柳澤昭浩、がん情報サイト「オンコロ」設立者である可知 健太が、患者会、アドボケート、情報メディアというそれぞれの立場では実現困難であることを実現するために2021年設立。
※3:DPCデータ
包括支払い方式で入院医療費を請求する「DPC(診療群分類別包括払い)制度」の対象病院が作成を義務付けられているデータ。DPC制度は、従来型の出来高制度と比較して、1日当たりの報酬が決まっているため、過剰な診療の抑制や必要なコスト削減を促すことが期待できる。主に病床数が多く、重症患者を診療する急性期病院の多くが導入している。対象病院は1786病院(2024年6月時点)。
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