【はじめに】IxDAが主催する「interaction19」とは?

※アメリカ・シアトルにあるAmazonのConference Centerがメイン会場

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IxDA(インタラクションデザイン協会)とは、インタラクションデザインを促進することで、人が暮らしやすい生活を作ることをミッションとした10万人以上の個人と200以上のローカルグループのグローバルネットワークからなる、世界的な組織です。

そしてこのIxDAが主催する「interaction19」は、1年に1回、毎回異なる国・地域で開催される、最新のインタラクションデザインについて議論するワークショップ1日と、3日間のカンファレンスで構成される世界的なデザインのイベントです。

インタラクションデザインとは、論理的かつ考え抜かれた動作と振る舞いを備えた、魅力的なWebインターフェースをデザイナーが作るプロセスですが、近年、技術の進化により、Webだけでなく他のデバイスにもデジタル技術が使われ、人々の生活に入り込んできていることにより、デザイナーがデザインする範囲が、Web以外の領域もカバーする必要性が出てきています。そんな時代の流れを受けて、カンファレンスの内容も、インタラクションデザインのテクニックのように具体的な方法論から、サービスデザインが社会に与えるインパクトや導入事例、デザイナーの役割や倫理まで幅広い範囲にわたって語られていました。

【印象的なトピック①長さ14.1mのカスタマージャーニーマップが意味するところ】

もともとはこのイベントは、デザイナーが多く参加し、優れたデザインについて共有し、議論し合う場でした。

しかし、今年は、Webサイト等の単一のタッチポイントのデザインだけでなく、ユーザーを中心として、ユーザーが体験の中で触れる複数のタッチポイントを一連の流れでデザインすることの重要性が、いくつものワークショップやカンファレンスで語られていたことが印象的でした。

出典:Workshop「Mapping Service Ecosystems」

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デザイナーがデザインする対象は、2005年のモバイルデバイスの台頭、そして、2010年のIoT製品の登場、さらには2012年にはAR・VRといった現実を拡張する技術の進化により、ディスプレイの中に閉じた世界から一気に飛び出し、複雑さを増しています。例えば、ECサイトを作ることになったとしましょう。以前は、ECサイトのデザインとECサイト内のユーザーの動きを考えるだけでよかったのですが、最近では、Google Home等の音声認識デバイスを使って商品の検索・注文ができたり、購入した商品を自宅ではなく店舗で受け取るために来店したりするユーザーのことを考慮するといった形です。

出典:Workshop「Mapping Service Ecosystems」

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カスタマージャーニーマップは、そんな複数のタッチポイントにまたがる体験の全体像を捉えるのに有効な手法として知られています。ある時、とあるデザイナーが、ユーザー体験を整理するためにカスタマージャーニーマップを作成したところ、そのタッチポイントの多さにより、その長さ、なんと46フィート=14.1mにもなってしまった!ということがあったそうです! 本来、サービスの詳細設計をする時の指針となるはずのマップがこんなにも長くなってしまうと、複数名いるプロジェクトメンバーが設計中に都度立ち返りたくても、「どこに描いてあったっけ……」「体験として分断されてないかな」といちいち読み返す時間が多くかかってしまいます。これほどまでに、デザインを必要とする範囲が、どんどん拡大しているのです。

出典:Workshop「Mapping Service Ecosystems」

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カスタマージャーニーマップで描ける範囲にも限界があるとして、より広範囲の体験の全体像を把握するために注目され始めている手法が「Ecosystem Mapping」です。

出典:Workshop「Mapping Service Ecosystems」

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上記写真の右側のように、Ecosystemでは、ユーザー体験に関係する人・サービス・システム・環境に対し、それぞれのポイントで享受できる体験を書き出して、1枚の絵に表現します。これぐらい俯瞰して見ることでようやく、複雑だった体験がどういう要素で構成されるのかが見え、ユーザーにとって本当にいい体験を把握することができるのです!

実際にワークショップでEcosystemを描いてみましたが、サービスの全体像がぼんやりと見えている最初の状態から、ワークを進めることで、まるでカメラのフォーカス機能のように、どんどん各タッチポイントごとの体験にズームインしていく感覚がありました!

私たちアイ・エム・ジェイでも、デザインする範囲はディスプレイの外にどんどん広がっており、カスタマージャーニーマップを描こうにも、どの部分にフォーカスして描けば有効なのかという議論になりがちなのですが、Ecosystemを描くことによってより上位概念を漏れなく捉えられそうだと期待が高まりました。

【印象的なトピック②こんなにユーザー中心なのに実現できないのはなぜ!?】

デザイナーがデザインする範囲が広がるということは、それがつまりはひとつのサービスや事業をデザインすることにつながってきます。ユーザー中心にデザインされた素晴らしいサービスが創出され、実現に向けてプロトタイピングし、ユーザーテストを経てさらなる改良がされて世の中に出ていく理想的な未来が見えます。

しかし、ユーザー中心で素晴らしいサービスが生まれたのに、世の中に出せずにいる……そんな現象も起こっています。

イベントでは、複数の登壇者がこの壁に直面し、そこから得られた結論について語っていました。

出典:Workshop「Mapping Service Ecosystems」を著者が和訳

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IMJでも、ユーザーリサーチをし、とてもいいインサイトを見つけて、「これぞまさに、ユーザーが望むものだ!」というアイデアが生まれるところまではいくのですが、いざ実行するぞ、という段になって経営層の承認を取ろうとしたら、「どうやって利益を上げるのか?」「ウチの会社がそれをやる意味は?」「技術面やコスト面で本当に実現可能なのか?」といった差し戻しにあい、実現できないケースが少なからずありました。

参加したワークショップではこの現実に言及し、サービスを世の中に出すためには、下記3つのポイントのバランスが重要である、と訴えていました。

  • 「Viable」=その企業が叶えたい未来像は何なのか
  • 「Feasible」=そのサービスは実現可能なのか
  • 「Desirable」=ユーザーが求めていることは何なのか


 

これまで「Viable」や「Feasible」から生まれたサービスが世の中に溢れ、ユーザーが置き去りになっている危機感が訴えられ、サービスはそのサービスを受けるユーザーのものである、とする「Desirable」の重要性を訴える時流が強くなり、サービスデザイン手法の注目度と期待度が高まってきました。

しかし、それはいつしか誤った理解を生み、「Desirable」だけを訴える現場担当者も多くなってはいないでしょうか?

創出したアイデアが実現に至らないのはなぜか? 筆者自身も正直、interaction19に参加したことではっと気付かされました。

ではどうすれば、この3つのポイントを網羅したアイデアを創出することができるのでしょうか

ユーザーも企業も双方の価値を同時並行で捉えるために、アイデアを創出する場に経営層とデザイナー双方が参加し、それぞれの視点でサービスを考え共創する必要性がカンファレンスでは語られていました。とはいえ、デザイナーが経営側に入り込んでいる環境は多くなく、その起用は現場担当者では実現が難しいのが実状です。

参加したワークショップでは、リサーチデータに基づきユーザー体験をアイデア出しする「Desirable」担当チームと、創出されるであろうアイデアを想定して実現可能性を検討する「Feasible」担当チームに分かれ、同時並行でアイデア出しをした後、出てきたアイデアを両チーム一緒に4象限にプロットした後、「Viable」との適合度をそれぞれのアイデアに対してつけるという試みが紹介されていました。実際に体験してみて、役割の異なる担当者が同じ空間で、それぞれの視点でアイデアを出し、評価することができたので、ひとつのチームとしてユーザーにとっても企業にとっても望まれるサービスが生み出せそうな期待感を感じました。

【デザインした体験を実現するために重要な有効な打開策まとめ】

✔カスタマージャーニーマップではもう把握しきれない! 「Ecosystem Mapping」のように、より上位概念からユーザー体験をとらえる手法が必要になってきている。

✔「ユーザー中心」の曲がった神格化に注意! 企業が叶えたい未来像と、実現可能性も同時並行で考え、アイデア創出する共創の場が、実現への第一歩。

【そのほかにも・・・】

インタラクティブデザインが主題の本イベントでは、最新のUXのデザイン方法やTIPSを紹介するセッションも開催されていましたので、中でも印象的だった、VR/ARの急速な普及を受けた「ゲームUX」への注目と、YouTuber/VTuberの出現と影響力拡大を受けた「ライブストリーミング」について、少しご紹介します。

出展:Conference「The UX of Fortnite」「When the Void Shouts Back: Broadcasters and Digital Communities at Scale」

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✔ゲームは、以前は限られた人がごく制限された空間内で受ける体験であると認識されていましたが、AR/VR技術の発展により、誰もが簡単に現実世界に、現実には存在しない物体や世界を入れ込める、もしくは、バーチャルな世界にまるで現実世界のように入り込めるようになり、その体験をデザインすることは、まさに別世界に入り込んだユーザーにいかに自然に学習させ記憶させ行動させるかを考えるというゲームのデザインと酷似しているのです。

✔一方向に情報を受け取るだけのテレビ視聴は減り、視聴者と発信者がリアルタイムでコミュニケーションをとりながらコンテンツを共有できるメディアとして、ライブストリーミングを利用するユーザーが増えており、発信者が気を付けるべきポイントとして、「Chat-driven interaction」:視聴者もまたチャットを使って発信者に反応を発信することができるため、それを取り上げ、フィードバックすることが重要、「Event-driven interaction」:視聴者は何かのイベントをきっかけに視聴を開始し反応しシェアするという行動をとるため、トリガーを作ることが重要、の2点が語られていました。