Figmaは2025年7月、NY証券取引所に上場。同年10月にはAIスタートアップ企業「Weavy」の買収を発表した。
「Figma史上最大の投資だった」という今回の買収で、どのような新機能が生まれたのか。株式上場によって何が変わったのか。来日したプロダクト担当副社長のショウ・クワモト氏に話を聞いた。
買収白紙撤回から一転、大型IPOを達成
Figmaが上場した7月31日、初日の終値は公開価格の3.5倍をつけ、時価総額が大きく伸長したことが報道された。2023年には、Adobeによる200億ドル規模の買収が白紙撤回となり、Figmaは希望退職者を募ったが、去った社員はわずか4%だったという。首脳陣の顔ぶれもほぼ変わらず、大型IPOに漕ぎつけた。
2025年9月30日を期末とする第3四半期の収益は前年同期比38%増の2億7,420万ドル(約425億円)となり、四半期としては過去最高を記録。Figma創業メンバーの1人でもあるショウ・クワモト氏(以下、クワモト氏)の感慨もさぞ深いのではないだろうか。
――IPOおめでとうございます。環境は変わりましたか?
ありがとう。今、業界ではとてもエキサイティングな時期を迎えており、AIをどう活用できるかについて、たくさんのアイデアが生まれています。私たちはこれまで以上に開発のスピードを上げています。ただ、姿勢自体はIPOの前後で変わっていません。私たちは株主よりも先に、ユーザーに対して責任を負っていると考えています。まずはユーザーが必要とするものを、確実に提供できる状態をつくることが重要です。
――Figma史上最高額で、生成AIプラットフォームを開発するWeavy社を買収しました。2024年創業の新しいAIスタートアップですが、どこに魅力を感じたのですか?
私たちは以前からWeavyのクリエイティブコミュニティを注目していました。創業から1年足らずで急成長し、マーケターやデザイナーなど、さまざまなクリエイターが参加しています。たとえばマーケターがSNS用の動画やバナーを作成したり、デザイナーが製品モックアップやブランドアセットを制作したり。デザイン業界では、AIに「よりリアルなアウトプット」を求める声が増えています。Weavy社の技術は非常にクリエイティブであり、作業のスピードと創造性を大きく高めてくれると確信し、買収を決めました。
Weavy社の技術で開発された新機能は次の6つだ。
- Figma Weave(フィグマ・ウィーブ)
- 拡張コレクション
- Slots(スロッツ)
- デザインチェック
- Makeキット
- Figma MCPサーバー
それぞれ解説していく。
新機能1Figma Weave(フィグマ・ウィーブ)
7つのAIモデルが同時に画像・動画生成し、一覧で表示
たとえば、生成AIに次のようなプロンプトを与える:
無地の背景に、本物そっくりのリアルなリンゴを作って
従来であれば、ユーザーは1つのAIモデルを開いてプロンプトを入力し、生成されたクリエイティブのイメージが意図と違えば、また別のAIモデルを試したり、映像化したい場合には、それが得意な別のAIモデルを使用したりしていた。しかし「Figma Weave」では、次の4つのAIモデルで生成された画像が、一覧で画面に表示される:
- Flux(フラックス:Metaが開発)
- Ideogram(イディオグラム:元Google Brainの研究者らが開発)
- Nano-Banana(ナノバナナ:Googleが開発)
- Seedream(シードリーム:TikTokを運営するByteDanceが開発)
つまり、互いに精度を競い合っている各AIモデルの生成結果を、同じ画面で比較できるというわけだ。表示された中から最適なものを選んで追加プロンプトを与え、理想へ近づけることができる。
動画生成も、次の3つのAIモデル対応する:
- Seedance(シーダンス:ByteDanceが開発)
- Sora(ソラ:OpenAIが開発)
- Veo(ベオ:Googleが開発)
木陰にいるような影をつけて
このようなプロンプトを与えるだけで、映像を生成できる。次のような手動での作業も、すべて1つのキャンバス上でできる:
- 複数の画像を組み合わせて動画を作成
- エフェクトを適用
- 背景を削除
- 照明を調整など
編集履歴も残せるので、過去のステップからまたやり直すことも簡単です。これで画像・動画・アニメーション・モーショングラフィックス・VFXなどの生成プロセスが効率化できます(クワモト氏)
「Figma Weave」のイメージ動画
新機能2拡張コレクション
複数ブランドのカラー、フォントなど統一感を管理
異なる事業部やブランド、プロダクトを展開している企業などで、デザインの一貫性を保つのにおすすめの機能だ。
あなたが出版社だとしましょう。雑誌ごとに決められた色を統一して使う、タイトルや小見出しにそれぞれ固定のフォントを使いたい、といったルールを管理するのが、この機能です。これを使えば、親となるコアシステムとの同期を維持しながら、そこに継承されるテーマやカラーなどを反映しつつ新しいデザインをリリースでき、ブランドごとのニーズに対応できます(クワモト氏)
10月28日に開催されたイベント「Schema by Figma 2025」では、架空のビデオ編集会社を想定した「拡張コレクション」のデモが行われた。ブランドで決められたベースカラーの変更に合わせた各パーツの変換、ダークモードへの切り替えも一発でできる。
「拡張コレクション」のデモ(「Schema by Figma 2025」より、以下同)
新機能3 Slots(スロッツ)
コンポーネント内のコンテンツを自由にカスタマイズ
「Slots」は、枠組み(コンポーネント)は維持しつつ、中身を自由にカスタマイズできる、柔軟性を高めるための機能だ。
たとえば、プレゼンテーションのダイアログボックスのような枠組みを先に設定するとしよう。ユーザーがこの機能を起動して、AIと会話していくと、その枠の形に合ったテキストや画像を簡単に追加できます(クワモト氏)
デモでは、プロンプトの指示しながら、先に設定したコンポーネントの枠内にチャットの吹き出しを生成していく様子が見られる。
「スロッツ」のデモ
新機能4デザインチェック
デザインをAIで解析し、NGポイントを自動検出
AIがデザインファイルを解析し、本来使われるはずのスタイルからズレているレイヤーを自動的に検出、最適化の提案をする機能だ。
「このブランドではこのフォントを使うべきです」「この間隔は狭すぎるので、もっとスペースを空けて」など、テキスト、色、レイアウトがどれぐらい本来のデザインシステムから乖離しているか教えてくれます(クワモト氏)
「チェックデザイン」のデモ
新機能5Makeキット
デザイン資産をコード変換しパッケージ化
Figmaのライブラリ(既存のデザイン資産)を直接インポートできる。そして、AIがコードコンポーネントや、スタイル、ルールに対応したCSSファイルを生成。その後、Figma Make内でいつでも再利用できるようパッケージ化される機能だ。
この機能を使ったデモでは、既存のボタンからコードを生成してプロンプトでアレンジを加えた後、チームメンバーにシェアしたり、画像編集ツールのUI画面を再生成したりする手順が見られる。
「メイクキッツ」のデモ
新機能6Figma MCPサーバー
デザインの意図をAIが理解しコード生成
さらに「Figma MCP(Model Context Protocol)サーバー」の一般提供も始まった。Figmaのデザインコンテキスト(デザインの意図やスタイル)を、開発者が使用するAI支援コーディングツール(VS Code、Cursor、Claude Codeなど)に直接統合できるようになる。
これを使えば、AIがデザインの意図やスタイルを正確に理解し、各チーム独自のデザインに忠実に沿ったコードを自動生成できる。
「Figma MCPサーバー」のデモ
今回のアップデートでは、画像、動画生成の精度を一気に上げたFigma Weaveのほか、デザインの一貫性を保つ機能が多く追加された。「Figmaのビジョンは、すべての人がデザインを利用できるようにすること。私たちはAIを、このビジョンを実現するための強力な加速装置と捉えています」とクワモト氏。
これらの新機能は、属人的なミスやズレを防ぐので、品質管理やガバナンス強化の助けにもなるだろう。