マスメディアとインフルエンサーのシナジーをPRに/書評『その1人が30万人を動かす!』
BOOK REVIEW ウェブ担当者なら読んでおきたいこの1冊
『その1人が30万人を動かす!――影響力を味方につけるインフルエンサー・マーケティング』
評者:山川 健(ジャーナリスト)
カリスマブロガーとマスメディア、専門家を組み合わせ
シナジーを狙うマーケティング手法が大きな効果を生む
ウェブマーケティングの世界では、このところ「ブロガー」や「クチコミ」がキーワードとしてもてはやされている。広告コストをかけることなく、商品・サービスの知名度を上げ売り上げ向上につなげる夢のような方法として、ブロガーを活用したクチコミの拡大が語られている。ウェブ2.0時代を象徴する従来にない手法であることはわかる。しかし私は、ブロガーやクチコミの効果を熱く訴える書籍やサイトの記事には、ひっかかりを感じていた。
そのひっかかりとは、新しい方法としてブロガー、クチコミを重視するあまり、新聞、雑誌、テレビなどのマスメディアを軽視していることだった。ブロガーにクチコミを仕掛けてネットで盛り上げる、という方法は良いが、そもそもクチコミをどう仕掛けるか、が最大のポイント。各種書籍、記事ではその方法をあれこれと説いている。しかし私は、最初にマスメディアに取り上げられさえすればブロガーはそれを基にブログに書き、クチコミの本来の意味である自然発生的に、話題が広がっていくはず、と常々感じていた。
本書も基本的にはブロガーを活用したマーケティングを論じているのだが、新しい視点(本来は基本的な視点)としてマスメディアの重要性を前面に出し、マスメディアとブロガーを連動させた手法を紹介している。まさに私のひっかかりを解消してくれる方法であり、現実味のあるやり方だと思える。
消費者に影響を与える存在であるインフルエンサーを、マスメディア、プロフェッショナル・インフルエンサー、個人インフルエンサーの3つに分け、これらの組み合わせによるシナジーが成功のカギを握る、とアピール。プロフェッショナル・インフルエンサーとは、特定領域の専門家、有名人、タレントなど。個人インフルエンサーは情報発信力を持ち他に影響を与える消費者、いわゆるカリスマブロガーを指す。
マスメディアは社会性、プロは専門性、個人には親近感と、それぞれ読者・ユーザーの信頼を得られる異なる性格を持ち、いずれも中立的な立場から情報を発信することで説得力を増す。企業側が情報を提供する順番は、プロ、マスメディア、個人。プロが専門的な視点から語ることで世論の地ならしをし、専門家のお墨付きを得たマスメディアが社会的意義を感じて取り上げ、マスメディアの記事を見た個人が親近感のある書き込みを行う、という流れが王道だという。
基本となる発想は「PUSH」ではなく「PULL」。「やらせ」「商品情報」「押し付け」を廃し「共感」「関心事」「参画」をキーワードに考えること、と訴える。さらに、インフルエンサー・マーケティングだけで売り上げを伸ばすことはできず、宣伝広告に取って代わる手法でもない、と断言。「インフルエンサー・マーケティングの役割は、広告やプロモーションが効きやすくなる環境づくり」と指摘する。
本書からは、ブロガー、クチコミという真新しい手法にばかり頼ることへの戒め、も感じられる。小手先の手法を採る前にまず、消費者の関心を得られるような商品・サービスを作ること。そうすれば強引に押し付けなくても、共感を持ったブロガーは好意的にブログに書く。従来の方法を軽視するのではなく、それに加えて新しいやり方を取り入れて相乗効果を狙うことが効果的なマーケティング手法、と改めて認識させられる1冊だ。
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