インターネット広告創世記 ~Googleが与えたインパクトから発展史を読み解く~
はじめまして、杓谷技研というマーケティング支援会社の代表を務めております杓谷 匠(しゃくや たくみ)と申します。本記事では、これから隔週で連載をする予定の「インターネット広告創世記 ~Googleが与えたインパクトから発展史を読み解く〜」と題した連載の主旨についてご紹介いたします。
インターネット広告が最も市場規模の大きい広告メディアに
日本で本格的にインターネット広告市場が誕生したのは、1996年にYahoo! JAPAN(現LINEヤフー株式会社)の親会社であるソフトバンクと広告業界最大手の電通が、共同事業として「株式会社サイバー・コミュニケーションズ」(現株式会社CARTA COMMUNICATIONS)を設立したことが始まりと言われています。
電通が毎年発表する調査レポート『日本の広告費』によれば、インターネット広告は1996年にレポートに初めて登場し、2021年にテレビ、ラジオ、雑誌、新聞を含むいわゆる「マス四媒体」の広告費を追い抜きました。インターネット広告は、26年目という比較的短い期間で日本で最も市場規模の大きい広告メディアとなりましたが、この成長は今後も続いていくことが予想されます。
また、『日本の広告費』におけるインターネット広告費の内訳を調査した『2023年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析』によれば、インターネット広告費の87.4%が「運用型広告」と呼ばれる取引手法となっています。この「運用型広告」の仕組みを確立させたのがGoogleであり、Meta広告、X広告(旧Twitter広告)など、後続の広告プラットフォームに大きな影響を与えました。インターネット広告が最も市場規模の大きな広告メディアにまで発展した大きな要因のひとつにGoogleの存在があったことは間違いありません。
しかしながら、黎明期の市場規模が小さく、インターネット広告に携わる人の絶対数が少なかった影響で、インターネット広告市場が誕生した当時の様子や、Google AdWords(現Google 広告)のサービス開始時の様子など、インターネット広告の発展において重要な出来事を具体的に知る機会が極めて少ないのが現状です。
社会的な影響力が大きくなった今、記録に残す意義がある
私は、2008年にGoogleの日本法人に入社したことをきっかけにインターネット広告の世界に足を踏み入れました。日本のインターネット広告が誕生してから13年目のことで、2001年にGoogleの日本法人が設立されてから8年目という時期でした。しかしながら幸運なことに、入社当時の社内にはインターネット広告市場の誕生に立ち会った方々が多く在籍しており、Googleの日本法人設立に関わった方々からも直接お話を聞いて社会人生活をスタートさせることができました。
インターネット広告は、現代社会において企業のマーケティング活動に欠かせない存在となりましたが、社会的な影響力が大きくなったことでさまざまな問題も引き起こしています。具体的には、プライバシー保護に関する法規制の強化、虚偽広告への対応、AIとの付き合い方など、解決すべき課題が山積しています。
こうした課題に正しく向き合うためにも、インターネット広告がどのように成長して今日に至ったかを記録し、一般に広く共有することが、これからのインターネット広告の健全な発展にとって意義があることではないかと考え、この連載を企画しました。
Googleが与えたインパクトから発展史を読み解く
インターネット広告業界には、広告主、代理店、広告プラットフォームなど、さまざまな立場の方がいます。それぞれの立場によって業界の見え方も大きく異なるため、最初から多くの関係者が納得する統一した歴史的見解を提示することは極めて困難なことが予想されます。
一方で、前述の通り、インターネット広告市場の成長を大きく牽引したのはGoogleであることは間違いありません。Googleがどのような考え方を持って、どのような技術で何を実現させてきたのか――。これらを明らかにしていくことは、インターネット広告市場の発展を振り返る上で極めて重要なポイントだと考えられます。
そこで、本連載では、ある程度視点に偏りが出てしまうことは承知の上で、Googleがインターネット広告に与えたインパクトにフォーカスして、インターネット広告の成長の過程を振り返りたいと思います。
インターネット広告市場は、従来の広告メディアのビジネスモデルを引き継ぎ、広告代理店が広告枠を買い付けて広告主に仲介する形で始まりました。しかしこの市場に、当時としては異質だったオークション形式による広告枠の買い付けとクレジットカード決済を取り入れた新しい広告サービスが登場しました。日本市場はこの変化をどのように受け入れ、現在に至るまでどのように発展してきたのかを本連載で明らかにしていきます。
佐藤康夫さんをナビゲーターに迎えて
インターネット広告の発展を振り返る上で、歴史の教科書のように年号で無機質に出来事を並べていくよりも、大河ドラマのような形で特定の人物の視点から物語としておさらいしたほうが、読者の皆様にわかりやすく印象に残りやすいのではないかと考えました。
そこで、大河ドラマの主人公的なナビゲーターの役回りをアタラ株式会社会長の佐藤康夫さんにお願いすることにしました。佐藤康夫さんは、1982年に旭通信社に入社後、広告業界でのキャリアをスタート。1996年に株式会社デジタルガレージへの転職をきっかけにインターネット広告市場の誕生に立ち会います。その後、2001年にグーグル日本法人4番目の社員としてグーグル株式会社(現グーグル合同会社)に入社し、Google AdWords(現Google 広告)の日本市場におけるサービス開始時の営業責任者を務めました。
出典:INTERNET Watch「Google、サイト向け広告配信プログラム『AdSense』の日本提供を公式発表」(2004年1月14日付)
略歴
- 1982年04月:株式会社旭通信社(現株式会社ADKホールディングス)入社
- 1996年10月:株式会社デジタルガレージ入社 - 取締役インフォシーク事業部長就任
- 1999年06月:株式会社インフォシーク入社 - 執行役員副社長就任
- 2001年10月:グーグル株式会社入社 - セールス&オペレーションズディレクター就任
- 2005年04月:グーグル株式会社 執行役員営業本部長就任
- 2010年10月:アタラ合同会社(現アタラ株式会社)会長就任(現任)
- 2020年08月:フィードフォースグループ株式会社取締役(監査等委員)就任(現任)
佐藤さんの視点を通して、インターネット広告の発展を振り返り、その成長の過程を読者の皆様と共有していきます。
連載の今後の流れ
インターネット広告の成長過程を振り返るには、重要な出来事の前後の様子を描写することが欠かせません。また、読者の皆様には、ナビゲーターである佐藤康夫さんの視点や立ち位置も理解していただく必要があります。そのため、この連載は、インターネット広告が登場する前の広告業界の様子を描くところから始めます。
基本的には時系列に沿って話は進んでいきますが、2008年以降は重要な出来事が同時並行で進行していったこともあり、それぞれのテーマごとに章立てして振り返っていきます。
年代はおおよその目安ですが、下記のテーマごとに話が進んでいく予定です。
- インターネット広告登場前夜の風景:1982年 - 1996年
- インターネット広告市場の誕生:1996年 - 2001年
- 検索連動型広告の登場:2001年 - 2008年
- 運用型ディスプレイ広告(DSP・SSP・DMP)の登場:2008年 - 現在
- スマートフォンの登場と普及:2008年 - 現在
- SNS広告の登場:2008年 - 現在
- YouTubeの隆盛:2007年 - 現在
- インターネット広告の今後の行方
もちろん、これらのテーマでインターネット広告の成長がすべて網羅できたとは考えておりません。「この視点が抜け落ちている」「このテーマが必要だ」というご意見がありましたら、積極的に取り入れていきたいと考えておりますので、何かご意見などございましたらこちらのフォームにご連絡いただけますと幸いです。
次回の「第1部 - 第1話」は、「インターネット広告登場前夜の風景」と題して、佐藤さんが広告業界でのキャリアをスタートさせた、1982年前後から物語が始まります。今後の連載にご期待ください。
※この連載では、記事に登場する出来事を補強する情報の提供を募っています。フォームはこちら。この記事に触発されて「そういえばこんな出来事があったよ」「このテーマにも触れるといいよ」などご意見ご要望ございましたらコメントをいただけますと幸いです。なお、すべてのコメントに返信できるわけではないことと、記事への反映を確約するものではないことをあらかじめご理解いただけますと幸いです。
ソーシャルもやってます!