メディアの価値は「面」から「人」へ。ユーザーの行動データをマネタイズした「HOME'S」の挑戦
従来のWebメディアは、広告を掲載する「面」の価値を高めることが大きな目的だった。しかし、メディアの価値は「面」から「人」へと変わりつつある。ネクストは、オーディエンスデータを蓄積してマーケティングサービスとして提供する、新しいビジネスモデルを作り出した。
不動産・住宅情報サイト「HOME'S」を運営するネクストは、不動産業界特化型のプライベートDMPサービス「NabiSTAR(ナビスター)」を2014年7月から提供している。
NabiSTARは、ネクストがHOME'Sの運営によって蓄積した膨大なユーザーのオーディエンスデータと、不動産会社の顧客データ、各社サイトのオーディエンスデータを統合し、不動産業界専門のプライベートDMPを実現したマーケティング支援サービスだ。
「コンバージョンしないユーザーをマネタイズしたい」という思い
ネクストがNabiSTARの提供に至るまでには、いくつものステップと試行錯誤があった。
- コンバージョン課金
- コンバージョン課金+外部向けリンク広告(固定金額)
- コンバージョン課金+外部向けリンク広告(成果報酬)
当初のHOME'Sは、不動産会社の広告を掲載し、問い合わせがあったら課金する「コンバージョン課金」でマネタイズしていた。
しかし、HOME'Sへの来訪者のうちコンバージョンするのはごく一部にすぎず、この仕組みだけでは大多数のユーザーをマネタイズできていないという状況があった。
そこで、「コンバージョンしないユーザーをマネタイズできないか」と最初に考えたのが、不動産会社のWebサイトに誘導するリンクを販売する「外部リンク型広告」だ。
ネクストの野口 真史氏は、当時の外部リンク型広告について次のように語る。
マッチング型のWebサービスでは、普通は外部に送客することはやりたがりません。しかし、いくらユーザーを囲い込んでもブラウザを閉じられてしまえばそれまでだし、離脱するユーザーは必ずいます。そこで、不動産会社のWebサイトに誘導してマネタイズする外部リンク型広告を考えました(野口氏)
最初は不動産会社のサイトへのリンクを純広告として設置したが、これはあまり効果が上がらず継続して使ってもらえなかった。この結果を見て、「純広告の固定料金ではなく成果報酬型のクリック課金にしたい」と考えた。そこで出会ったのが、クリック課金の仕組みを含むシーセンス(Cxense)のソリューションだった。
「HOME'S AD」でオーディエンスデータを蓄積していった
シーセンスは、プライベートDMPを中核にしたSaaS型のソリューションだ。コンテンツのレコメンドや広告配信のパーソナライズなどの機能を備えており、「Cxense Advertising」では、クリック課金の仕組みやユーザーの検索条件に合わせて広告を表示する仕組みが提供されている。
検索条件に合わせて「こういうものを見ている人にはこの広告」というように出せれば、広告商品としても価値が高いですし、余計なものを表示してサイトの価値を下げることもないと考えました(野口氏)
ユーザー行動履歴ベースでセグメント化できることも、シーセンスを選択した理由の1つだった。HOME'Sのようなサイトでは検索条件を変えてもURLが変わらないため、URLベースでセグメントを作るタイプのアドサーバーは使えなかったからだ。
こうしてクリック課金の外部リンク型広告として2012年6月にスタートした「HOME'S AD」によって、シーセンスのソリューションのコアである「Cxense DMP」にオーディエンスデータや最適化ノウハウが蓄積されていくことになる。
不動産業界向けプライベートDMP「NabiSTAR」の立ち上げ
HOME'Sはエンドユーザーに向けた不動産情報のマッチングサイトだが、一方で多くの不動産会社と取引をしている。ネクストは、クライアントである不動産会社に対して広告だけではない新しい価値を提供し、不動産業界全体を良くしたいと考えていた。
そのために2014年7月に立ち上げたのがNabiSTARだ。これまでHOME'Sで蓄積してきたデータを活用した、不動産業界向けのマーケティング支援サービスである。
HOME'Sにたまっているユーザーのデータや、HOME'Sで利用しているノウハウを不動産会社に提供することで、新たなビジネスができないかということでNabiSTARを立ち上げました(野口氏)
NabiSTARが提供する機能は、基本的にはCxense DMPをベースとしたプライベートDMPだ。不動産会社のサイトにNabiSTAR用のタグを入れればユーザー行動履歴を収集できるようになり、不動産会社がもつCRM情報もNabiSTARに蓄積されていく。不動産会社が自社でシステムをもつ必要がなく、「集客はしたいがシステムの構築・運用はハードルが高い」と感じている小さな町の不動産会社でも利用できる。
不動産会社がもっている各種データとHOME'Sで収集・蓄積している属性や行動履歴といったオーディエンスデータを統合して分析するため、不動産会社1社のデータを分析するよりもはるかに精度を上げられることがメリットだ。これにより、不動産会社はユーザーの行動や属性に合わせて最適化した個別のアプローチをとることが可能になる。
「どのユーザーに何を見せるか?」を不動産会社が最適化できる
NabiSTARを使うと、HOME'Sを閲覧したユーザーが「HOME'S AD」経由で不動産会社のサイトを訪問した際に、HOME'Sでの行動履歴に合わせたランディングページを表示することが可能になる。たとえば、次のような具合だ。このランディングページ最適化も、NabiSTARのサービスの一部として提供されている。
- HOME'Sで分譲マンションを検索していたら分譲物件のコンテンツを表示する
- HOME'Sで賃貸物件を検索していたら賃貸物件のコンテンツを表示する
NabiSTARは、クライアントにとって無駄なく良いお客さんが来るようにして、最終的には問い合わせしてもらいやすくするサービスです。また、DSPとのデータ連係の際は必要な情報だけがハッシュ化されて出て行くので、自社のデータが勝手に第三者に使われるような心配はありません(野口氏)
最適化は、HOME'Sからの訪問だけでなく、外部の広告配信やメールマーケティングでも行える。不動産会社がDSPを使って広告を配信しているなら、NabiSTARのセグメント情報をもとにしてリターゲティング広告を出すことも可能だ。
たとえば、マンションの広告は、マンションを購入しそうな人に見せなければ意味がない。マンションを購入するのは30代から40代がメインなので、その年齢の人に広告を配信したいし、購入できるだけの収入がない人には見せる必要がないだろう。
この場合、HOME'Sのデータから「いくらくらいの物件を検索しているか」がわかるので、どの価格帯の物件の広告を見せればいいかわかる。あるいは、「どの地域の物件を探しているか」のデータを使えば、その地域の物件を探している人に広告を見せることもできる、年齢のデータはHOME'Sで取得していないので、パブリックDMPのデータで補完する仕組みだ。
これをメールマーケティングに利用すれば、これまで同じ内容のメールを一斉送信していたのを、ユーザーの行動履歴や興味ごとにきめ細やかに最適化したメールを送ることができるようになる。
2年で部署の人数が6倍に。さらに広いデータとの連係を目指す
NabiSTARを利用する不動産会社が増えれば、NabiSTARに蓄積されるデータも増えていく。もちろん、各社独自のデータはセグメントが切られているので他社のデータを直接見ることはできない。
シーセンスDMPを使うことのメリットは、「どのようなセグメントで」「どのユーザーに」「どの情報を提供するのか」を、リアルタイムで自由に変えられることだ。
多くのDMPでは、セグメントを生成したらその後一定期間データを収集しなければ活用できない仕組みになっている。つまり、まずセグメントを決め、それからデータを収集するという順番だ。しかし、どのようなセグメントが有効かは、トライ&エラーで試してみるほかない。リアルタイムでセグメントの生成ができるシーセンスなら、そのトライ&エラーが簡単にできる。
個々のユーザーに適切なコンテンツを提供できるようになれば、最終的には、コンバージョン率の向上にもつながるだろう。それがNabiSTARの目的だ。2014年の7月にサービスを立ち上げ、当初3人だったDMP・CRM推進部は、2年間で20人の大所帯になった。それだけ反響が大きいということだ。
事業推進ユニット長の野口氏は、「単にデータをためるだけでなく、事業に役立ててマネタイズにまでつなげるために、NabiSTARがデータ活用のハブになる」ことを考えている。また、不動産の取得や引っ越しには何かしらの理由があり、ライフイベントだといえる。そのため、進学や就職、結婚など、他の業界とのデータ連係も視野に入れている。
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