O2Oで地域という最強のアドバンテージを生かす
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の287
10年サバイブ
今年の10月で独立して満10年が経ちました。ひとえに皆様のおかげであり、徹底的な「地域戦略」によります。いうなれば「リアルへのこだわり」。
どれぐらいこだわっているかといえば、先日行列ができる焼き肉屋として有名な東京都足立区の「スタミナ苑」が臨時休業した際に、案内を印刷し、私自身が店頭に貼りにいくぐらいにです。もちろん、ホームページやFacebook、食べログでも告知していますが、リアルといえば店頭を外すわけにはいきません。お店にとっても、当社にとっても。いうなれば「ネットとリアルの連携」です。
連携といえば最近耳にするのが「O2O(オーツーオー:Online to Offline)」。オンラインとオフラインの融合や連携を意味するのですが、これもIT業界の悪弊で、昔からある事例に新しい言葉を被せて、最新事例に見せかけようというバズワードです。言葉には否定的ですが、「地域戦略」としての古典であり地域のアドバンテージを生かせます。
募るネットへの危機感
O2Oについて少し捕捉を。ネットをきっかけに来店を促すものはネットマーケティングの古典で、ホームページに掲載した割引券をプリントアウトして来店を促す手法のように、オンラインからオフライン(リアル)への流れを指すものでした。これが最近では、商品の実物を店頭で確認し、ネットの最安値店で購入するという行動「ショールーミング」や、スマホを使い店頭でネットショップも含めた価格比較をして天秤に掛ける行為も含めてO2Oとして紹介されます。
こうした動きを受けてすべてが「Web」へ……となることはありません。特に地域社会においての「お店」にはWebが望んでも得るコトのできないアドバンテージがあるからです。それは「ご近所」と「実物」です。
ネットスーパーに不可能なこと
リアル店舗にできてネットショップにできないことは、その場での商品の引き渡しです。ご近所ならお持ち帰りの苦労もさしてなく、商品を手にして店外に出たときのドキドキワクワクする昂揚感をネットショップで得るコトは不可能です。初めて買ったプラモデル、背伸びして買ったジャケット、清水の舞台から飛び降りてしまった高級ワインなど、商品の重さを感じる取引はまったくの別物です。
これはいくつになっても変わらぬもので、いまではすっかりネットショッピング頼りの生活を送っていますが、近くにある地酒の豊富な酒屋で買った一升瓶は、宝物を運ぶように大切に扱い、帰宅後も自分で冷蔵庫にしまいます。ネットで購入したワインなどは梱包方法や、同封された案内などは職業柄チェックしますが、その後はすっかり妻任せで、私は飲むこと以外の仕事はしません。
リアルだからこその施策
リアルならではのもう1つのアドバンテージが「実物」です。実物を見れば物欲と所有欲が刺激されます。手に取れば触感が、説明は聴覚を刺激し、試食があれば味覚に訴えることができます。商品に興味を持っているお客の財布を開かせるのは、接客担当者の腕の見せ所です。これはリアルでもネットでもまったく同じことで、客が来れば自動的に商品が売れる時代ではありません。
実店舗でチェックしてネットで購入する「ショールーミング」をされてはたまらないという声も少なくありませんが、この行動のインセンティブが価格だとすれば、1円の安さだけで行動する彼らは金でしか動かず、価格を安値に揃えたからといって店のファンになることはありません。もっとも、わずかな差額のために足を運んでくれた彼らを嫌うことはありません。「エキストラ」と割り切り、その労を労ってあげます。枯れ木も山の賑わいです。
シャッター通りの先には
先日、就職するまで住んでいた街を歩くと、商店街はすっかりシャッター通りになっていました。一応、都内です。この街においては少子高齢化が理由ではありません。マンションの新設などによって、むしろ人口は増えているのです。しかも、2つの大きな川に挟まれ、そのうちの一本が蛇行していることから、らくだのこぶ状に切り取られた島国のようなエリアで、隣接エリアを訪ねるには必ず「橋」を渡らなければならず、雨風の強い日の渡河はちょっとした罰ゲームです。
狭い街であり公営住宅も多いことから、マイカーの保有率はそれほど高いとはいえません。つまり、域内需要は高いのです。それなのに、降りたシャッターが開かれることがなかったのは何故でしょうか。
私は「足を運んで貰う努力」の不足ではないかと見ています。
1円もかからずにできる施策
厳しいことをいえば、過疎地を除けばシャッター通りになったのは店舗の怠慢です。かつては店の前を通る客しかいませんでしたが、いまではネットのなかに沢山の客がいます。そしてそこには「ご近所さん」もいます。その「ご近所さん」が地元を離れ会社で仕事をしているときでも、会社のパソコンやスマホを介してアピールできます。ショールーミングでも冷やかしでも、まずは「足を運んで貰う努力」をしていなかったのではないでしょうか。
大切なことですので繰り返しますが、お店のアドバンテージは「ご近所」と「実物」です。これを組み合わせれば、1円も使わずに「O2O」が実現できます。その1つが「お取り置き」。現物を見たいというリクエストがあれば、わざわざ「お取り置きしてあげる」とアピールします。その特別感を演出できるのは「実物」を持つ強みであり、会社帰りや休日にふらっと立ち寄れる「ご近所」のアドバンテージなのです。もちろん、在庫が余っている商品でもその事実をわざわざ伝える必要はありません。
工夫次第ですべての業種で使えます。洋品店や電気屋はそのままですが、肉屋、魚屋、八百屋なら日中に「今夜のレシピ」を提案して、その食材を「お取り置き」するという方法もあります。そして電気屋さんなら、配線や、製品の使用法について会社の帰りにちょっと相談できる……という実に古典的なホームページのコンテンツを充実させるだけでも「O2O」は実現できるのです。
今回のポイント
地域の客はネットで探せ
ご近所と実物という最大のアドバンテージを生かす
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