タンタンコーポレーションが運営する「タンタンショップ」は、家電の有力通販サイトとしてネット通販黎明期から存在感を発揮している。ただ、近年は集客の導線だった、価格比較サイト「価格.com」からの顧客流入が減少。一時期40億円を超えていた年商も漸減し、30億円を割り込んでいる。老舗EC企業も変革の時期を迎えているようだ。
タンタンコーポレーション社長の丹澤直人氏
「激安」からの転換めざす
大手家電量販店のEC拡大が影響
今までは『激安』という冠をサイト名につけており、価格の安さを強みとしてきたが、価格メリットを求めて「価格.com」を訪れる層も減ってきている。
4月に5代目の代表取締役社長に就任した丹澤直人氏(=写真)はこう危機感を口にする。
同社はかつて、「電気の家庭科学」という社名で八王子市近郊に地場家電量販店を運営していた。ネット通販には2000年に参入し、「価格.com」からの集客をテコに売り上げを拡大。05年には全店舗を閉店し、以降はネット通販専業となっている。3代目社長の丹澤誠二氏のもと、EC売上高は右肩上がりで増加し、17年2月期には年商45億円に達していた。
ただ、近年はヨドバシカメラやビックカメラ、ヤマダ電機といった家電量販店がEC売上高を大きく拡大。かつては、「価格.com」で最安値をつけていた、独立系のEC企業が存在感を失ってきているのが実情だ。
また、仮想モールにおいても、例えば楽天市場では、事実上公式店のような扱いとなっている「楽天ビック」があるなど、競争は厳しい。丹澤社長も「ネットにおいても、価格がメーカーに統制されていく方向にあるので、恐らく当社のような独立系ECと家電量販店が価格面で横並びになる日は近い。さらに近年は、卸や小売りを飛ばしてメーカー直販が拡大しているのも大きい」と明かす。さまざまなルートから頻繁に商品が流れてきた20年前とは違い、EC市場に流れる商品の数そのものが少なくなっている点も見逃せない。
セレクトショップとしておすすめを発信
こうした中で、あらためて同社が市場で存在感を発揮するための手段とは何か。丹澤社長は「売り場に制限の無い、インターネットだから何でも商品を並べるという考え方ではなく、タンタンの視点で選んだ、ベストな家電を並べる店舗にしていきたい」と語る。かつての「ロングテール」的な考え方から、「セレクトショップ」への転換だ。
すでに、仮想モールに出店する店舗数を10程度まで絞り込んだ上で、「『見せる商品』『見せない商品』に強弱をつけながらプロモーションをしていく。」(丹澤社長)
では、「見せる」「見せない」の基準はどこにあるのか。丹澤社長は「そこを決めるのが一番難しい。『選びきれない』がために、たくさんの商品がウェブサイトに並んでしまっている」とした上で、「基準はカテゴリーによる部分も大きいわけで、それぞれ『価格で選ぶ』のか『機能で選ぶ』のかを決めて、その基準にはまるブランドや商品を選んでプロモーションしていく、といったやり方を考えている」と説明する。バイヤーが商品をセレクトし、販売担当が顧客の動向を見ながら、売れ筋を反映してくという。
実店舗や家電量販店のECと比較した場合に、価格面でのメリットが打ち出せなくなる時期が近くなっていることを踏まえ、ラインアップを絞った上で、商品の見せ方やオプションなど、プラスアルファの提案ができなければ生き残れない。(丹澤社長)
例えば、市場にあるドライヤーを全てラインアップすることはできないが、「タンタンおすすめのドライヤー」に関しては、お得なサービスや保証を付与し、さらにはコンテンツも充実させる。丹澤社長は「競合となる商品と比較した上で『タンタンとしてはここがおすすめポイント』と提案するコンテンツも作れば、商品の魅力も倍加するのではないか」とうなずく。
PB、付加価値提供など課題解決を模索
PB商品の開発にも意欲も
これまでのように、大手量販店と同じく幅広いラインアップの商品を扱っているという状態では戦えなくなってくるし、市場とともにシュリンクしてしまうだろう。当社ほどの規模感の小売りがあるべき姿を探りたい。(同)
タンタンコーポレーションが運営する「タンタンショップ」
かつての「ロングテール」的な考え方から、「セレクトショップ」への転換を図っている、タンタンコーポレーションの丹澤直人氏は、こう決意を語る。
近年は、エクスプライスやストリームのように、プライベートブランド(PB)の家電製品を販売するEC専業も出てきている。丹澤社長は「そういったことも検討していきたい。ただ、これまでは商品を扱いすぎていたこともあり『どの商品を仕掛けるのか』という観点に乏しかった。例えば『このドライヤーに絞って販促し、付加サービスをリッチにし、めいっぱい訴求していく』という経験があれば、オリジナル商品を作る際にも役に立つのではないか」と語る。
自分たちのセレクトしたナショナルブランドの商品をうまく訴求できなければ、例えPBを開発したとしても販売数は伸びない。訴求力や提案力、集客力を磨くことが課題となる。
商品を絞り込んで販促し、「売れる」「売れない」を繰り返していく先にPBがあるのではないか。(丹澤社長)
家電+家具のセット販売など付加価値の提案
また、家電と収納グッズとのセットなど、オプション販売で付加価値を提案できるようにする。例えば最近は、冷蔵庫にニトリの冷蔵庫収納アイテムを活用する動きが広がっている。「冷蔵庫をすっきり見せるためのレイアウトは、冷蔵庫のメーカーや品番によって違う。ただ、それは冷蔵庫を買ってから工夫するものなので、例えば冷蔵庫購入時に収納をセットとして提案することもできるだろう」(同)。具体的には、テレビ本体とスタンドなど、家電と家具をマッチングし、双方の商材をセットにして販売する試みをスタートさせている。
ただ、集客の導線だった価格比較サイト「価格.com」からの流入が減少している。そのため、まず重要になってくるのがコンテンツマーケティングだ。
読まれる記事には集客力もあるわけで、長い時間はかかるだろうが、商品の魅力を言葉で表す良い記事を増やしていきたい。どこにリソースを割くかを見極めながら、泥臭くコツコツやっていくことに尽きるのではないか。(同)
2024年2月期売上高は前期比2.6%減の29億2300万円で、近年売り上げは漸減傾向にある。ただ丹澤社長は「ぱっと売り上げをつかむようなやり方をするのではなく、本当に魅力ある商品を正確な納期で、分かりやすくウェブサイトで提案していきたい」と先を見据える。
新規事業はワイン通販、倉庫併設の本社も
新規事業にも取り組む。年明けにも新たにサイトを立ち上げ、ワイン通販に参入する。取締役会長の丹澤信一氏が欧州で勤務していた経歴を持つことから、ドイツやイタリア、スペインなど欧州のワイナリーから日本では流通していないワインを買い付けて販売する予定だ。
同社は年内にも八王子市内に本社を移転する予定だが、温度管理ができる倉庫も併設。1本2000~3000円程度のワインの販売を考えており、「日常飲みするワインよりは若干高めで、夫婦に1週間でボトル空けるといったニーズを満たすような価格帯をメインにしたい」(同)という。
家電を中心に販売してきた同社だが、ワイン通販はこれまで扱ってきた商材とは毛色がかなり違う。丹澤社長は「家電と違い、新規は取りにくいだろうが、リピート購入が期待できる。まずは楽天市場店からスタートする予定だが、自社サイトを設ける際は、買い物カゴをリピート購入や定期注文に特化する必要があるだろう」と話す。5年後には月間数千万円規模の売り上げを目指す。