ハルメクに学ぶシニア世代の意識と行動のギャップを捉えるデジタル誘導施策と成功術 | ネットショップ担当者フォーラム

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長年、シニア世代に特化して事業を展開しているハルメクグループ。シニア世代が抱える意識と行動のギャップを捉えた対策によってデジタル誘導比率を大幅に増やせることを、独自の調査結果や事例を通して解説する

ハルメクグループは、30年以上、シニア世代に特化して事業を展開する独立系の企業群だ。「ハルトモ」という約4300(2023年3月末時点)人のモニターを抱える独自のシンクタンクを軸としたマーケティングにより、最新のトレンドを踏まえたシニア世代向けのコンテンツ提供などを行い、成長を続けている。

一般的にデジタル誘導が難しいシニア世代に対し、独自の調査・分析を行い、独特の意識と行動のギャップを踏まえた対策によりデジタル誘導でも高い成果をあげている。近年では、そのノウハウを生かし、他社のマーケティング支援にも注力している。こうした取り組みについて、ハルメク・エイジマーケティング代表取締役の木船信義氏と、ハルメクホールディングス生きかた上手研究所所長の梅津順江氏が解説する。

シニア世代に特化したハルメクグループ

ハルメクホールディングス(以下、ハルメクグループ)の成長の鍵を握るのは、「独自のシンクタンク」と「顧客回遊型ビジネス」である。

事業の鍵を握るのは「独自のシンクタンク」

ハルメクグループは、1989年創業のシニア世代の女性を対象として事業を展開する独立系の企業群。50代から70代までのプレシニア、アクティブシニア層向けに、出版、通信販売、文化事業(旅行・講座提供)を行うハルメク、70代以上の女性向けに通販事業を行う全国通販をはじめ、6つの会社がある。

ハルメクグループの事業領域ハルメクグループの事業領域

生きかた上手研究所という自社独自のシンクタンクを持ち、「ハルトモ」という約4300人のモニターからシニア世代の幅広い情報を入手して、コンテンツ提供などに生かす体制をとっている点が特徴だ。最近では、長年、シニア世代を顧客として事業を営んできた経験を生かして、シニア世代をターゲット顧客とする企業に対するマーケティング支援にも力を入れている。

リサーチを基盤としたマーケティング体制を構築している(数値は2022年3月時点)リサーチを基盤としたマーケティング体制を構築している(数値は2022年3月時点)

「ハルトモ」は、自社のみならず他社のマーケティング支援にも活躍の場を広げている。事例の1つとして、シニア世代への「ポケモンGO」の利用促進があげられる。

協業先から、「ポケモンGO」の発売当初、「シニア世代に『ポケモンGO』の利用促進をしたい」との相談があった。そこで、「ポケモンGO」を利用している全国の「ハルトモ」(読者モニター)を集め、ワークショップ形式で調査を実施。調査では、利用する理由として「キャラクターがかわいいから」「孫と話が合うから」ということ以外に、「外出や運動のきっかけとしているから」という新たな「健康軸」というものを導き出すことができた。

その調査結果を踏まえて、シニア世代向けに「ポケモンGO」のウォーキングイベントを東京・六本木で開催。その後も全国各地で開催が続く人気のイベントとなった。

「ハルトモ」が他社との協業で活躍した事例「ハルトモ」が他社との協業で活躍した事例
売上増加のポイントは「顧客回遊数ビジネス」

ハルメクグループは、シンクタンクを軸にマーケティングを行い、シニア世代向けに多様な事業を展開して、シニア世代が多様な事業を回遊することで、売上増加につなげるビジネスモデルだ。

雑誌「ハルメク」は、販売部数を伸ばし続けている。日本ABC協会が発行したレポート(2022年1月~6月)では、月間発行部数が約44.2万部となっており、全雑誌販売部数でナンバーワンとなっている。50代後半から70歳代まで幅広い年齢層が読者となっており、通販のみで販売しているため読者の属性を正確に把握できる点も特徴だ。

デジタルコンテンツの提供にも力を入れており、「ハルメク365」というWebサイトの運営を行っている。月間PV数は、約410万PV(2022年3月時点)。雑誌社が運営するシニア女性誌のコンテンツサイトとしては、国内最大規模を誇る。月間約200本もの読みごたえのあるコンテンツを配信しており、LINEのエンゲージメントランキングの女性媒体52媒体中で1位(2022年4月実績)となるほど、人気のWebサイトだ。

通販事業では、シニア世代に特化した「ハルメク おしゃれ」「ハルメク 健康と暮らし」という2つのカタログ通販を行っている。雑誌「ハルメク」の読者に自動的にカタログが届くという仕組みだ。

いわゆる説得型の通販を行い、商品を購入したその先の価値を販売するという点にこだわって、プライベートブランド商品を数多くそろえることで、顧客単価やカタログ注文率は業界最高水準を達成している。

顧客がハルメクグループの多様な事業を回遊する仕組みを構築している顧客がハルメクグループの多様な事業を回遊する仕組みを構築している
シニア女性の意識と行動のギャップ

シニア女性には、独特の意識と行動のギャップが存在する。企業はそのギャップを知り、攻略することで、ビジネスチャンスにつなげることができる。

シニア女性の意識と行動の間に存在するギャップを知る

シニア女性は自分のことをシニアだとは思っていないのだ。ある70代のシニア女性が「私たち中年向けのファッションはない」と無意識に発言し、周囲にいた同年代のシニア女性もうなずくという機会があった。驚くべきは、70代の女性は、自分のことをシニア、高齢者ではなく中年と捉えているということだ。

また、「年齢に関する自己認識調査」(生きかた上手研究所/65~75歳の女性211人/2017年10月)によると、実年齢と知覚年齢(自分は何歳くらいだと思っているか)、他者知覚年齢(自分は周囲から何歳くらいに見られているか)には大きな乖離(かいり)があり、シニア女性は、自分のことをシニアとは思っておらず、まだ若いと考えていることがわかった。

シニア女性の実年齢と知覚年齢・他者知覚年齢のギャップシニア女性の実年齢と知覚年齢・他者知覚年齢のギャップ

さらに、「敬老の日にお祝いされる対象と感じる年齢は何歳だと思うか」とのアンケート(生きかた上手研究所/敬老の日に関する調査/55~84歳の女性300人/2021年7月30日~8月2日)に対する回答の平均値は、70.7歳。60代のシニア女性の多くは、自分を高齢者とは思っておらず、敬老の日に祝われる側ではなく、祝う側と考えていることがわかった。

しかし、「働き続けたいけれども、疲れやすくて昔のような馬力はない」「1つ覚える、1つ忘れてしまう」というように、意識と行動にはギャップが生じており、多くのシニア女性はこのような矛盾した悩みを抱えている

このことは、ライフエンド(End oflife)消費の後回し化を生んでいる。具体的には、約8割のシニア世代は、終活をすべきだと思っているが、実際に終活を実施している人は38.3%(生きかた上手研究所/「終活」に関するWebアンケート調査/60~74歳のシニア男女1008人/2021年3月2日~3月3日)にとどまっている。

この傾向は、コロナ前後で大きく変わらなかった。一方で、若いと思っているだけで、身体は追いついておらず、平均寿命と健康寿命の差(不健康期間)は、男女とも時代の変化とともに縮まっているわけではない。

フレイル(健康状態と要介護状態の間の段階)予防が注目されるのは、「不健康期間を短くしたい」というシニア世代の気持ちのあらわれであろう。シニア女性の意識と行動のギャップを攻略するシニア女性が、意識と行動にギャップを抱えていることは明らかだ。

企業は、このギャップを埋めるにはどうするか考えることで、コンテンツや商品開発、顧客コミュニケーションのヒントを得ることができるのではないか。ライフエンド消費のニーズが到来することをただ待つのではなく、端境期(意識と行動にギャップのある期間)消費を今ゴト化することで、ヒット商品を生み出すことができるのではないか。(梅津氏)

ハルメクホールディングス 生きかた上手研究所所長 梅津順江氏ハルメクホールディングス 生きかた上手研究所所長 梅津順江氏

この考えのもと、ハルメクグループは白髪染めを「プラチナグレイカラー」というおしゃれな商品名にした。補聴器は、音楽を聴いているかのようなデザインにして「耳かけ集音器」という名称で販売した。シルバーカーは、旅行時に使用するようなデザインにして「キャリーバッグ」として販売した。

これらは、「自分にはまだ早い」とあらがう意識が働きやすいシニア女性に対して、言葉の使い方やデザインなどを工夫することで、意識と行動のギャップを埋めて購買を促し、ハルメクグループのヒット商品につながった事例である。

シニア女性の意識と行動のギャップを踏まえたヒット商品シニア女性の意識と行動のギャップを踏まえたヒット商品
シニア世代のデジタルリテラシーギャップ

シニア世代は、デジタルを使いこなせていないと思っているが、実はそうではない。一人の中でもできること、できないことがあり、一筋縄ではいかないのだ。シニアをデジタルで攻略、デジタルへの誘導を実現するためには、行動を観察したり、つまずきポイントを把握したりすることが重要なのである。

シニア女性の「使えると思っているけど使えない」デジタルリテラシーギャップを知る

シニア女性のデジタルリテラシーの自己認識と行動実態にはギャップがある。実に74.4%(ハルメク・エイジマーケティング/500人に調査/2022年6月)ものシニア女性が「LINE を使いこなせている」と感じているが、8人に対して、同社が2022年1月にヒューリスティック分析(自らの経験・体験を基に、Webサイトやアプリを専門的な観点で分析・評価する手法)を実施したところ、実際はそうではなく、シニア女性ならではのつまずきポイントがあることがわかった。

まず、QRコードを読み取り、友だち登録を行うというプロセスだ。QRコードを読み取り、認証画面を通過して、友だち追加画面まではたどりつけるのだが、その後、友だち追加ボタンを押すことができない人が多いことがわかった。

シニア女性によると、娘や息子に友だち登録を依頼するケースが多く、まれに自分でできることはあっても再現性がないというのが実態であった。

LINEの友だち追加におけるシニア女性のつまずきポイントLINEの友だち追加におけるシニア女性のつまずきポイント

次に、会員登録のためのフォーム入力だ。デジタルネイティブ層と比べて、5倍程度の時間がかかるうえに、大文字小文字変換やパスワード入力などでつまずき、途中で諦めてしまう人が多いことがわかった。デジタルネイティブ層が感覚でわかるようなことがシニア女性に当てはまるとは限らないのだ。

会員登録のためのフォーム入力におけるシニア女性のつまずきポイント会員登録のためのフォーム入力におけるシニア女性のつまずきポイント

加えて、シニア女性は、個人情報の漏洩に敏感だ。たとえば、雑誌「ハルメク」も、申し込みはインターネット経由だが、支払いは口座振替や代引きとなっているケースが多く、クレジットカードは少ない。なぜなら、クレジットカード情報を、インターネット上に登録することを恐れているからだ。

以上のつまずきポイントはごく一例であり、シニア女性には、他にもたくさんのつまずきポイントがある。デジタルネイティブ層が当たり前と思うようなことも当たり前ではないのである。

シニア世代のデジタルリテラシーギャップを攻略する

企業は、このようなシニア世代の特性を踏まえ、最適なWebサイトのランディングページの作りこみをどのようにすれば良いか、Webサイトを使いやすくするためにはどのようにすれば良いかなどを考える必要がある。

特に、シニア世代をデジタルに誘導するためには、オフライン(説明用紙・コールセンターなど)の活用が必要だ。(木船氏) 

ハルメク・エイジマーケティング 代表取締役 木船信義氏ハルメク・エイジマーケティング 代表取締役 木船信義氏

ハルメクの通販は、まだ電話受注比率が高いが、ここ数年で、デジタル受注比率が大きく増加した。その要因は、丁寧な解説を加えたためである。利用ガイドを作成し、かなり細かいマニュアルを作りこむことで、デジタル受注比率を大きく増加させることができた。

ハルメクグループでは、このようなノウハウを活用して、他社のマーケティング支援を行っている。先般、シニア系の総合通販大手企業のデジタル誘導支援を実施した。Webサイトでの注文フローをすべて画面キャプチャし、徹底的に丁寧に解説をしたマニュアルを作成。半年程度で、デジタル受注比率が約2倍となったうえに、全体の売上増加も実現した。

我々が当たり前と思うことが、シニア世代にとって当たり前とは限らない。シニア世代には意識と行動にギャップがある。企業は、そのギャップを知り、攻略することで、ビジネスチャンスを得ることができる。

デジタル時代において、デジタルリテラシーのギャップを抱えるシニア世代のデジタル誘導を成功に結びつけるには、オフラインの活用と、徹底的に丁寧な解説が必要となるだろう。

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オリジナル記事:ハルメクに学ぶシニア世代の意識と行動のギャップを捉えるデジタル誘導施策と成功術
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