Amazon(アマゾン)は年間99ドルの有料会員制プログラム「アマゾンプライム」への積極的な投資を続けています。セールスポイントはスピード配送。プライム会員が対象商品を購入すると、商品が2日以内に届く配送サービスを無料で利用することが可能です。他の国では、当日配送や2時間以内配送も追加料金なしで使えることができます。
「プライムサービスは、利便性と低価格を追求し、何度も購入することで年会費を償却できるようにしています」。小売事業者向けコンサルティング会社A.T.Kearney社のアンドレ・メンドーザ・ペナ氏はこう語ります。
支払った年会費の元を取りたいと考える消費者が頻繁にアマゾンで買い物をしています。つまり、他の小売事業者から購入する可能性があった消費者も、結局、アマゾンに流れしまっているのです。
アマゾン対抗策は「アマゾンで手に入れられないサービスの提供を」
インターネットリテイラー社が行った消費者調査によると、95%はアマゾンで買い物をし、69.5%の世帯がアマゾンプライム会員でした。投資銀行Cowen & Co.社が公開した最新の試算によると、全米の45%の世帯がアマゾンプライム会員だそうです。アマゾンプライムが浸透している中、「他の小売事業者はアマゾンでも手に入れられないサービスを提供する必要がある」とコリンズ氏は指摘します。
ターゲットは「実店舗+デジタル」のポイントプログラム
米国大手の百貨店Target(ターゲット)は実店舗の力とデジタルの価値を掛け合わせてアマゾンと戦おうとしています。Web調査会社SimilarWeb社によると、2つのアプリ(本体のショッピングアプリと、「Cartwheel」と呼ばれる店舗向けクーポンアプリ)は、小売業界で最も利用されているアプリTOP25で常にランクインしています。2017年1月現在、「Cartwheel」はGoogle Play(グーグルプレイ)では15位、本体のショッピングアプリは23位にランクインしています。
Targetの「Cartwheel」。画面には商品ごとに割引率が表示されている(画像は「Cartwheel」の動画から編集部がキャプチャ)
ターゲットは店舗内で使えるアプリ機能を継続的に進化させています。その1つの例が、2016年9月に始めたCartwheelアプリ経由で使えるポイントプログラム「Cartwheel Perks」です。消費者は購入金額1ドルごとにポイントを獲得でき、合計500ドル以上を購入すると最大20ドルの商品と交換できます。「Cartwheel Perks」は現在、4つの都市で使用できます。
エイアード氏は、このようなデジタルを駆使した店舗機能が、カスタマーエクスペリエンスを向上し、さまざまなチャネルで買い物をする消費者を惹きつける大切なカギになると考えています。エドアード氏は次のように言います。
さまざまなチャネルで買い物をする消費者の方が、1つのチャネルで買い物をしている消費者よりも多くの売り上げをもたらしてくれます.
スマートフォン所有者で、インターネットリテイラーの調査に回答した71.5%は小売店舗のアプリを少なくても1つはダウンロードしていると答えています。そして、47.2%は商品を調べるためにアプリを利用すると回答。44.9%は商品購入に、20%はロイヤリティプログラムに、16.7%は店舗内の買い物の際にアプリを利用すると答えています(複数回答可)。
消費者パネル調査などのNPDグループで小売業界のチーフアナリストを務めるマーシャル・コーエン氏はこう言います。
消費者に商品を頻繁に購入してもらうためには、商品情報などだけでは足りないのです。素晴らしい買い物体験と楽しみを追加しなければいけません.
店舗のサービス提供を通じてロイヤリティを高めるBenefit
化粧品などを販売するBenefit Cosmeticsのオムニチャネルマーケティングシニアディレクターであるジェニファー・ウィップル氏によると、Befinetは店舗内のメイクアップと眉サービスでロイヤリティを高めているそうです。
Benefitは30店以上の店舗を構えています。消費者は眉の手入れやメイクアップサービスをオンライン経由で予約し、近くの店舗でサービスを受けることができます。予約用サイトには、消費者が興味を持ちそうな記事や動画のコンテンツを掲載しています。ウィップル氏はこう言います。
私たちの消費者は、エステティシャンと親しくなり、眉の手入れの予約を3~4週間ごとに入れてくれるんですよ。
Benefit Cosmeticsの予約サイト(画像はBenefitのサイトから編集部がキャプチャ)
店舗利用に関する次の予約を入れると同時に、消費者は実店舗で他の商品やサービスを購入します。ウィップル氏は、「眉担当のエステティシャンは、必ず最後に眉毛用製品を使って仕上げます。その後、多くの消費者がカウンターに座って、メイクアップアーテイストからメイクをしてもらいます」と話します。
ブランドイメージや販売商品に合致したBenefitのようなサービスは、購買促進につなげるための方法の1つ。コーエン氏は、棚に置いている商品以上の“何か”を戦略的に提供することで、ロイヤリティを育んでいるのです。コーエン氏はこう言います。
ロイヤリティを高めるもう1つの方法は、店舗をインスピレーションや生活向上の場所にすることです。ユニークな商品や品ぞろえとともに、消費者が学んだり、楽しめる経験を提供するのです。
実店舗の活用で復活したJ.C. Penny
一方、大手デパートチェーンのJ.C.Pennyは、オムニチャネル部上級副社長のマイク・アメンド氏が「リテールテイメント」(リテールとエンタテインメントを合わせた造語)と呼ぶ特別な店舗の催しを開催。オンラインのみの小売事業者と差別化していいます。
J.C.Pennyの店舗(画像はJ.C.Pennyのサイトから編集部がキャプチャ)
たとえば、2016年春の母の日に向け10店舗で実施したキャンペーンでは、ブログやピンタレストで影響力のある人を集め、洋服、ヘアメイクを提供。秋には、キャリア女性向けのスタイリングワークショップを開催し、ビジネスに最適な洋服やヘアメイクのアドバイスを提供するといったサービスを行いました。J.C.Pennyは消費者のロイヤリティを高めるために、こうした催しを積極的に行っています。
CEOのマーヴィン・エリソン氏は、消費者がJ.C.Pennyでしか手に入れられないPB(プライベートブランド)を拡大しているとアナリストへの業績報告会で説明。J.C.Pennyは2019年までに、全商品の最大70%を独自のプライベートブランドにする予定です。
J.C.Pennyは2012年のリブランディングに失敗し、大量の顧客を失いました。2013年から負の流れを止めようと、ロイヤリティの高い消費者をターゲットにさまざまな売り上げ向上施策を実施しています。現在、こうした施策が効を奏しているようです。
エリソン氏によると、J.C.Pennyの現在のアクティブ顧客数は2011年と同じレベルまで戻っているそうです。課題は、最もお金を使うオムニチャネル消費者のロイヤリティをどのように高めるか。アメンド氏によると、チャネルを超えてJ.C.Pennyで買い物をする消費者は、店舗のみ、もしくはオンラインのみで買い物する消費者の2倍以上の購入金額なのです。エリソン氏はこう話します。
オムニチャネルのプロセスは、114年の歴史で培ってきたJ.C.Pennyの全ての資産を使う絶好の機会です。店舗、スタッフ、在庫、デジタルプラットフォーム、サプライチェーンなど持っているリソースを集結してコストを削減、ロイヤリティが高く、大切なお客さまのお役に立ちたいと考えています。オムニチャネルが進化すれば、私たちの店舗の戦略的価値も上昇していくわけです。
こうした施策により、J.C.Pennyのオンライン経由の注文の50%以上は何らかの形で店舗が関わっています。店舗受け取りや店舗からの配送、店舗での返品、店舗からのオンライン注文などです。アメンド氏によると、J.C.Pennyを訪問する消費者の70%以上が、店舗訪問前にECサイト「JCP.com」を訪問し、商品などを確認しているとのこと。J.C.Pennyは、オンラインと店舗を融合している好例です。
J.C.PennyのECサイトの注文の50%以上は店舗が関わっている(画像は編集部がキャプチャ)
インターネットリテイラー社の調査に回答した消費者の中の56.1パーセントは、近くに実店舗がある場合、オンラインではなく実店舗で買い物をする可能性が高いと答えています。
インターネットリテイラー社がシカゴのホームデポで取材した33歳のアーロン・ウィルホフト氏がその典型例です。彼は商品を買いに店舗へ向かう前、頻繁にオンラインストアをチェックすると回答。細かく確認したい商品を決めてから、お店に向かうのです。
最近、世界最大の家電量販店Best Buy(ベストバイ)の店舗で買い物をした25歳のダン・ラングフィールド氏も同様です。彼は、配送中に傷がつく可能性があるため、テレビや大型家電をオンラインで買うのは不安だと言います。オンラインで商品をチェックすることは多いのですが、購入の意思決定は店舗ですることが多いそうです。
インターネットリテイラー社の調査では、消費者がオンラインで欲しい商品を探している時は、まだ購入を決めていません。53%のユーザーは店舗が近くにあるならば実際に商品を見てみると答えています。
オンラインで商品を探しつつ、最終的に店舗で購入する理由は、「すぐに商品が必要」(65.6%)、「配送料を払いたくない」(45.3%)、「他の商品も実際に見て見たい」(27.2%)という結果でした。
店舗を配送センターに位置付けるBest Buy
ベストバイの広報は、実店舗はオンライン戦略の大きな一部を担っていると説明します。消費者がECサイト「BestBuy.com」で商品を調べ、店舗で購入するパターンや、その逆のパターンもあるとベストバイは深く理解しています。
ベストバイの第3四半期(2016年8~10月期)のオンライン売り上げは、国内の総売上の10.8%を占めています。インターネットリテイラー社が発行する「Top500 Guide.com」によると、ベストバイの2015年のオンライン売上高は、40億ドルでした。
ベストバイは、店舗とECのオペレーションを一体化し、2014年以降はオンラインの注文を店舗から配送しています。店舗が配送センターの役割を担っているのです。ベストバイのオンライン注文の半分は、店舗受け取りか、店舗からの配送になっています。
ベストバイは最近、近隣の店舗で取り扱いがある商品だけをフィルターし、検索できる新機能をECサイトに追加しました。これは、CEOのヒュバート・ジョリー氏が第3四半期の業績報告会で投資家たちに説明しました。また、オムニチャネル機能の1つとして、店舗スタッフによる30分の接客をアプリ経由で予約できる機能も試験運用しています。
Best Buyでは店舗に「STORE PICKUP」を設け、店舗受け取りなどに対応している(画像はBest Buyのサイトから編集部がキャプチャ)
スピード配送はオンラインで購入する理由にはならない
J.C.Pennyは、店舗受け取りサービスの効果を実感しています。送料がかからないのでコスト削減に大きく寄与。そして、店舗で受け取る消費者の40%が、受け取りの際に50ドル以上を支払って別の買い物をしているからです。
「全ての買い物において、訪問頻度と購入金額を高めていくことができる可能性があります」。J.C.Pennyの広報はこう語ります。「Top500 Guide.com」を元に行ったインターネットリテイラー社の予測では、JCP.comの購買者の50%はリピート客で占めています。
店舗に足を運ばず、オンラインだけで買い物を済ませたい消費者向けには、ほぼすべての消費者が2日以内の配送を利用できるようにするそうです。J.C.Pennyの広報は、この施策がアマゾンのプライム会員向けの2日以内配送への対抗策なのかどうかに関してはコメントしませんでした。
興味深いのは、インターネットリテイラー社の調査において、スピード配送はオンラインで購入する理由のトップ3にランクインしていないことです。それよりも「すぐに商品を手に入れる必要がある」というのが実店舗に足を運ぶ最大の理由でした。
アマゾンへの対抗策として、立地の良い便利な店舗は小売事業者にとり有利に働くでしょう。ロイヤリティを高めることは、リピート客の購買促進に役立ちます。ただ、消費者はどんなサービスよりも価格に重きを置いていることは注意すべき点です。
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オリジナル記事:アマゾンに負けない買い物体験を提供する方法とは? 米国EC企業3社の事例 | 海外のEC事情・戦略・マーケティング情報ウォッチ
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