生成AIの進化によって、「検索体験」は大きな転換点を迎えている。Googleは検索画面で「AI Overviews」を開始し、検索キーワードに対する要約が検索結果画面のトップに表示されるようになった。検索体験の変化によってどんな影響があるのだろうか。「Web担当者Forum ミーティング 2025 秋」に武蔵大学の宇田川氏とJADEの長山氏が登壇し、「AI時代の検索」をテーマに語り合った。
AI Overviewsで最も表出が多いのはYouTube
長山氏は2019年までGoogleに在籍し、検索サービスのスパム対策などに従事。2019年にWebコンサルティング会社JADEを創業し、現在は代表取締役を務めている。宇田川氏は日本IBM、楽天トラベルを経て、2022年から武蔵大学でメディア論を研究・教育している。
対談のテーマは「AI時代の検索」。ChatGPTの登場以降、AIは検索体験にも大きな影響を与えている。中でも注目されるのが、検索結果の最上部に要約回答を表示するGoogle検索のAI Overviews(AIO)だ。日本では2024年8月頃から提供が始まり、表示条件を含めてSEOに取り組むマーケターの関心を集めている。
JADEの分析によると、約20万キーワードを対象とした調査で、2025年3月以降AIOの表示機会が急増した一方、強調スニペットは減少。この傾向は一時的ではなく、講演が開催された2025年11月時点でも継続しているという。
では、AIOに一番選出されるサイトは何か?
宇田川氏はウィキペディアと予想したが、惜しいことに現在は第2位。AIOが増え始めた3月頃はウィキペディアが1位だったが、現在一番表示されるのはYouTube※だという(※2025年11月現在)。
たとえば「嬉野温泉 観光」とGoogle検索すると、AIOは要約のソースとして関連するYouTube動画を複数表示する。
おもしろいのは、その動画が有名なチャンネルであったり、再生回数が多かったりという訳ではない。恐らく、トピックに対して最もレリバントだ(関連性がある)とGoogleが判断した動画が出ている(長山氏)
AI Overviewsは公共機関のサイトや、クエリ別だと「情報収集型」で表出が多い
あくまで私の勝手な想像だが、YouTubeがAIOで最も表出されるようになったタイミングで、GoogleはYouTube動画内の音声を、Webサイトのテキストと同様に扱う変更を行ったのではないか。YouTubeはGoogleが保有する動画プラットフォームであり、他よりもインデックス化しやすい。現在は自動生成字幕もあり、技術的な下地は整っている(長山氏)。
従来の検索エンジンは主にWebサイトの文字情報を収集・整理してきたが、AIの進化により動画も文字情報のように扱えるようになった。その結果、AIOでYouTubeの表出が増えたのではないかと長山氏は分析する。AIOの特徴として、go.jpやac.jpといった公共機関サイトやウィキペディアが多く表示される点も挙げられる。
クエリ別に見ると、各ジャンルで信頼性の高いサイトが選ばれやすい。ヘルス領域では症状検索アプリや実在のクリニック、ファイナンス領域ではクレジットカード会社などがその例だ。AIO表示に万能な対策はなく、狙うカテゴリーに応じて目指すべき立ち位置を考えるべきだと長山氏は助言する。
検索意図ごとにAIOの表出を比較すると、「情報収集型」での表出が非常に多いという。たとえば、「フォトブック 作り方」は情報収集型で、AIOが表示されやすい。対して、「心理テスト 当たる」のような娯楽型では表出が少なくなる。
「ゼロクリック」増、生成AIによって検索エンジンは不要になる?
「ゼロクリック」も大きなトピックだ。AIOで回答要約が結果画面に表示されると、「ユーザーはリンクをクリックしなくなる」いわゆる「ゼロクリック」が増えるのではないか。これに対し、長山氏は、ゼロクリックは今に始まった話ではないと言う。
AIの登場によってゼロクリックは増加している。しかし、ゼロクリックにつながる仕組みは強調スニペットがすでにある。いわば、AIOは強調スニペットのリッチ版でしかない。AIOによってゼロクリックが増えたというより、そもそも増加傾向だったゼロクリック検索のなかにAIOがあると考えた方がよい(長山氏)
しかし、Googleの収益源は広告だ。広告がクリックされて、はじめて収益が生まれる。ゼロクリックが増えると、Googleのビジネスに影響が出るだろう。それでもなぜAIOを推進するのか、よく考える必要がある――宇田川氏はそんな問いかけを口にする。
AI時代の検索不要論は、マーケターなら一度は考えたことがあるだろう。検索はもう死に、ゾンビ状態であがいているに過ぎないと語られることも多い。だが、長山氏はこうした論調に懐疑的だ。生成AIの登場で、少ない労力でコンテンツの量産が可能になった。しかし、AIでコンテンツを大量に生成し、そのコンテンツで大量のトラフィックが得られる状況にはなっていない。
ある調査では、世に出ているコンテンツのうち半分以上はAIによって作られたものだが、人の目に触れるコンテンツは人力で作られたものがほとんど。JADEの調査でも、ある日を境にAI生成コンテンツの検索順位がガクッと下がった時期があった(長山氏)
では、AIをまったく使わず完全に人力に頼ったコンテンツ作りをすべきかと言えば、そうでもない。「ヒューマン・イン・ザ・ループ(HITL)」という言葉があるように、部分的にAIを使いつつ、最終的な品質の担保は人間が担うことが重要だと、両氏の意見は一致していた。
AIか、検索かではない。ユーザーは検索意図や目的によってツールを使い分けている
生成AIによって検索エンジンはオワコンになると言われた時期もあったが、競合分析ツール「Semrush」の調査によると、ChatGPTがGoogle検索を置き換える存在ではないことがわかる。データによれば、ユーザーはChatGPTを使うことによって、Google検索の回数がむしろ増えているという。
ChatGPTかGoogle検索かのどちらかではなく、両方とも使うというユーザー実態がうかがえる。宇田川氏にとって、これは興味深いデータだという。いわゆる、「アテンション・エコノミー」問題と相反する結果だからだ。
インターネットの登場で、供給される情報は爆発的に増加したが、人間が認知できる情報量には限界がある。その結果、「どこに注意を向けるか」が貴重な資源となり、情報発信者にとっては人のアテンション(注意・注目)をいかに獲得するかが重要になる。これがアテンション・エコノミー。検索せずにクイックに答えを得られるなら検索は減るはずだが、このデータはそうではないことを示している(宇田川氏)
DatosとSparkToroという2社の調査データも興味深い。2023年1月頃からChatGPTなどAIツールへの訪問者は着実に増えている。しかし、Googleなど伝統的検索エンジンへの訪問者数は減少せず、ほぼ横ばいで維持されている。
「AIも使うけど、確認のためにGoogle検索もする」という行動が起きているのかも(宇田川氏)
AIは、相談や話し相手として活用され、単なる情報収集をAIには任せない。具体的なことが知りたければ、結局Googleを使っているのでは(長山氏)
真の対立軸は「Google対non-Google」。だが、Googleが構造的に有利
ChatGPT、Claude、PerplexityなどAIサービスのライバルは多い。モデル性能において、Googleと比べて競合他社が先行していたのは間違いない。しかし2025年の今、AI性能の比較では各社で近似しつつある。
では、AIにおいてこの先何が差別化要素となるのか――それは、Deep Research機能であり、技術としてのRAG(Retrieval Augmented Generation、検索拡張生成)だ。初期のAIはあらかじめ学習した内容だけで回答を出していたが、現在のAIはWebをクロールし、回答に反映させている。
今のAIは、ユーザーのプロンプトを受けて考え、オープンWebから情報を取得・解釈して提示する。これは実は、Google検索が長年やってきたことと同じ。Webをクロールし、インデックスし、パブリッシャー(クロール先となるWebサイトのこと)との関係性を築いてきたGoogleは、あらゆる面で有利になりつつあると思う(長山氏)。
わかりやすいのが、ニュースサイトだ。報道機関にとってニュース記事は大事な商品であり、検索エンジンが勝手にニュース記事をスクレイピングしては困ると、訴訟になった例がある。逆に言えば、GoogleはWebサイトパブリッシャーと(100%円満にではないが)長年にわたり関係を築いてきた。
よって、robots.txtで「クロール不可」とされれば、クロールしない。しかし一部のAIサービスは、robots.txtを無視してWebサイトをクロースするケースもあるという。そして何より、クロールはタダではない。サーバーや通信のコストがかかる。
Googleであれば既存のインデックスを活用でき、20年以上にわたってクロール最適化も積み重ねてきた。どのサーバーにどう問い合わせれば負荷をかけずに済むかまで把握している。一方、non-Google勢は「クロール=フリーデータ」という前提が崩れ、Webをライブでクロールする必要が生じ、法務・コスト・技術のすべてでハードモードになっている(長山氏)
さらにGoogleは、検索やYouTube、サブスクリプションなど既存サービスにAIを組み込み、売上拡大にも成功している。新興AI企業がプラットフォーム事業者との提携を模索する中、プラットフォームとAIの両方を持つGoogleは大きな強みを持つ。
Googleが死なない以上、SEOも死なない
宇田川氏は、AIを「答え(アンサー)の質で勝負する存在」、検索を「答えを提供してくれるサイトとユーザーをマッチングさせる仕組み」と捉え、「アンサー対マッチング」という図式を示す。
Googleはこのマッチングをビジネスとして成功させてきた。たとえば、会場にいるマーケターの皆さんが時間をかけて作ったコンテンツをユーザーに届けてくれるからこそ、Googleにはクロールされたい。一方でOpenAIは答えを提示し、コンテンツを奪う存在に見えるため、ChatGPTにはクロールされたくない。この違いは大きい(宇田川氏)
もっとも、ユーザー行動は変化しつつあり、従来通りの「ユーザーとコンテンツのマッチング」だけで十分かは未知数だ。検索が今後も重要であり続けるのか、SEOはどうなるのかは、実務に向き合うマーケターの最大の関心事だろう。これに対し長山氏は「Googleが死なない以上、SEOも死なない」と語る。仮にGoogleの存在感が低下しても、「大規模分散システムに存在を認知させ、情報を拡散させる」という本質は変わらないという。
GEO時代になってもコンテンツのクオリティが重要
SEOからGEO(生成エンジン最適化)の時代に移るとも言われるが、懸念されるのはSEO黎明期のような混乱の再来だ。生成AIに表示されるためのハックが横行する可能性もある。
これについて宇田川氏は、SEOが時代とともに変化・進化してきた点を踏まえるべきだと指摘する。裏技的な手法は淘汰され、時にペナルティが課され、議論を重ねた結果、現在はコンテンツのクオリティが最重要視されるようになった。
AI検索時代でも、新たなハックを追うのではなく、SEOの延長としてコンテンツの質を重視することが重要。これが「SEOは死なない」のもう1つの解釈なのでは(宇田川氏)
宇田川氏は上記のように語り、今回の対談を締めくくった。

