【レポート】デジタルマーケターズサミット2024 Summer

たった1年でSNS総登録数100万人超、新卒エントリー4倍! eスポーツが企業ブランディングに与える影響

eスポーツの取り組みで新卒エントリーが4倍に!? 「キノトロープゲーミング」のオーナーである生田昌弘氏が、eスポーツでZ世代にリーチするマーケティング戦略を語った。

創業30年の老舗Web制作会社・キノトロープがeスポーツ市場に参入! eスポーツチーム「キノトロープゲーミング」の活躍により、わずか1年でSNSの総登録者は100万人を超え、新卒エントリーも4倍に伸びているという。

デジタルマーケターズ・サミット 2024 Summer」では、キノトロープの代表取締役社長である生田昌弘氏が登壇。単なるゲームの枠を超え、巨大メディアに成長した「eスポーツ」を、マーケティング視点で分析した。

キノトロープ 代表取締役社長 生田昌弘氏

eスポーツは「スポーツ」ではなく「メディア」である

キノトロープは創業30年の老舗Web制作会社だ。大規模なCMSの導入や運用を中心に、デジタル戦略をワンストップで支援している。長年Webの知識と経験を蓄積してきた生田氏が、eスポーツ市場への参入を決めたのは、約2年前のことだ。

「なぜeスポーツなのか」という質問は、非常によく聞かれます(生田氏)

そう語る生田氏は、まず30年前の自身とインターネットとの出会いを振り返った。

僕は30年前にインターネットに出会い、「これはメディアだ」と思いました。当時のブラウザはモザイクという、左寄せでグレーバックしかできないようなチープなものでしたが、見た瞬間に「これはメディアになる」と確信しました(生田氏)

インターネットと出会い「メディアだ」と確信

生田氏はすぐにクライアントから資金を調達し、およそ1か月でホームページのサーバーを立ち上げたという。まだコンテンツが少なく、学生の論文などしかなかった当時のインターネットで、いち早くメディア運営に乗り出したのだ。

そして62歳のときに、eスポーツに出会いました。最初はゲーム好きの少年たちが遊んでいるだけだと思っていましたが、関わっていくうちにそうではないと気づきました。eスポーツはスポーツではなく、メディアです(生田氏)

「eスポーツに対し、インターネットに出会ったときと同じような感覚を抱いた」と語る生田氏。では、「eスポーツはメディアである」とはどういうことだろうか。

eスポーツは「スポーツ」ではなく、「メディア」である

そもそもeスポーツとは、野球やサッカーのように1つのルールで戦うものではない。さまざまなゲームタイトルがあり、年代によって好まれるものは異なる。プロリーグや世界大会が行われているタイトルも数多く存在するという。

先日サウジアラビアで開かれた「2024年eスポーツワールドカップ」では、19もの人気ゲームタイトルが選抜されました。eスポーツ史上最大の大会で、賞金総額は約93億円にのぼります。来年は初の「eスポーツオリンピック」が開かれますが、おそらく20タイトル以上が選ばれるでしょう(生田氏)

生田氏は、このタイトルについて、「テレビのチャンネルのようなものだ」と説明している。eスポーツというメディアの中に複数のチャンネルがあり、さまざまなゲームコンテンツにアクセスできる。そして、チャンネルごとに違う話題がある。

昔は「今日は巨人が勝ったね」「阪神が勝ったね」といった話題が日常的なコミュニケーションとして使われていましたが、今後はこれがeスポーツにかわります。「昨日はSCARZが勝ったね」「REJECTが世界で活躍したね」という会話が当たり前になっていくでしょう(生田氏)

生田氏によると、すでにそのような現象は起きているという。彼のX(旧Twitter)のタイムラインには、主に20代前後の若者たちの投稿が流れ、ほとんどがeスポーツに関連した話題で占められている。つまり、eスポーツはすでに若者たちとのコミュニケーションにおいて重要なメディアとなっているのだ。

Webの時代が終わる? Z世代のeスポーツ好きはブラウザを見ない

さらに、30歳以下にリーチしようと思うなら、もう1つ重要なポイントがあるという。それは、Z世代のeスポーツファンはWebを見ないということだ。

彼らのスマートフォンのホーム画面には、ブラウザがないです。ブラウザからスタートするという概念が彼らにはなく、使うのはもっぱらX、Instagram、DiscordといったSNSです(生田氏)

Discordとは、無料のチャットアプリです。音声、ビデオ、テキストでのコミュニケーションが可能で、ユーザーは「サーバー」と呼ばれる個別のコミュニティを作成・参加してやり取りができる。特に、ゲームをしながらボイスチャット機能を使ってコミュニケーションを取ることができ、若者の間では標準装備になっているという。

ここでキーとなるのは、Webがなくなるということです。もちろん完全に消えるというわけではありませんが、新しいメディアが出現すると、古いメディアは必ず廃れていく。現在のようにWebで多くのことができる状況は変化するでしょう。

今のZ世代が成長を続け、5年後10年後には、働き盛りの30代~40代に突入します。その頃には、日常的にWebを見る習慣はなくなっている可能性があるということです(生田氏)

その代わりに台頭してくるのが、eスポーツとその関連メディア、そしてソーシャルだ。「eスポーツ自体が、ソーシャルの中のコンテンツメディアだと考えるといい」と生田氏は語る。

なぜキノトロープがeスポーツに参入したのか、その答えは「Web屋がなくなるから」です。今我々は大規模CMSなどの価値を売っていますが、新しいメディアが到来したことで、今後Web関連の仕事はどんどん儲からなくなるでしょう(生田氏)

採用にも有効! eスポーツへの参入で新卒エントリー数が4倍に

eスポーツの有効性

生田氏によると、現在eスポーツが特に有効なのは「採用活動」だ。マイナビ経由での採用活動が主流になってからは、学生が知っている企業しか検索されず、中小企業は学生にリーチするのが難しくなっている。そんな中で、SNSはきわめて重要なツールだ。

とはいえ、無名な会社がSNSで採用活動をしたところで、見る人は少ない。そこでeスポーツの出番だ。

キノトロープは、「キノトロープゲーミング」というeスポーツチームを運営しています。そのオーナーとしてSNSで発信することにより、若い人たちに非常にリーチしやすくなりました(生田氏)

eスポーツに参入したことで、新卒採用のエントリー数は約4倍になった。また、「どこでキノトロープのことを知ったか」という質問に対して、本年度は99%の人がキノトロープゲーミングだと答えたという。

プロeスポーツチーム「キノトロープゲーミング」

eスポーツが有効なのは採用だけではない。生田氏は今すぐeスポーツを活用できる例として、次の2つを挙げた。

  • 20代のユーザーに告知したい場合:eスポーツというコンテンツを通じてリーチをかける。
  • 社内コミュニケーションツールとして:実業団やクラブ活動としてeスポーツを実施。支店が多く、社員が集まりにくい企業でも、eスポーツならオンラインで集まることができる。

また、eスポーツの長期的な活用例として、次の3つを挙げた。

  • 若者向けのブランド戦略:海外では若者向けの長期的なブランディング戦略として、eスポーツへの大量投資が行われている。ディズニーランドやレッドブル、GUCCIなど。
  • 継続的なコンテンツマーケティング:eスポーツはさまざまな分野でネタがあるので、定期的・継続的なコンテンツマーケティングが可能になる。
  • eスポーツ関連での収益:eスポーツ自体が競技として有効であり、収益を上げる手段となる。

日本では、バトルロイヤルゲーム「APEX」に対して、すでに楽天やSBIが参入している。来年には大手コンビニも参入予定だ。生田氏は、「eスポーツに参入している企業は、どこも若い人へのリーチを重要視しているのは間違いない」と語っている。

SNSはどこに行く? インフルエンサーからアンバサダーに

ここで、SNSについて見直してみよう。Webが廃れていく中で、これからのSNS戦略はどう変化するのだろうか。生田氏は「SNSはインフルエンサーからアンバサダーに移り変わっていく」と予想する。

アンバサダーとは、企業やブランドを積極的に応援し、クチコミで広めてくれる“ファン”のことを指す。つまり、インフルエンサーにお金を払って自社の商品を宣伝してもらうのではなく、現在のファンをサポートし、そのクチコミを広めてもらうことでファンを増やしていくという手法だ。

企業やブランドを積極的に応援しクチコミしてくれる「アンバサダー」

インフルエンサーというのはテレビ広告の概念をそのまま持ってきたものです。一時的に効果はあるけれど、継続的にお金を払い続ける必要があります。それは代理店にとっての収益になるだけで、インターネットでは有効ではないと思います(生田氏)

本当にその商品が好きで使い続けている人や、価値のあるクチコミをしてくれる人に対して、企業はただ「ありがとう」の一言を返すだけでいい。そうして「顧客が顧客を生むサイクル」を基盤として築くことが、これからのSNS戦略となる。

注意してほしいのが、アンバサダーは宣伝広告ではないということだ。「お金や物を渡すとステルスマーケティングになってしまう。企業はアンバサダーに対しクチコミの対価を払ってはならない」と生田氏は強調する。

アンバサダーにできること

そして、アンバサダーによってファンがファンを呼ぶスキームを築いた後に重要になるのが、「そのソーシャルにどんなコンテンツを流すか」ということだ。キノトロープでは、ソーシャルでどんなコンテンツが有効なのかという実験を長年続けてきた。eスポーツもそのうちの1つだ。

どんなコンテンツがどんな人にリーチするのか、さまざまなコンテンツを実際に提供して、経験を蓄積してきました。そしてここ2年間で得た結論として、30代以下のZ世代に対して、eスポーツは最高のコンテンツになると確信しました。皆さんもぜひeスポーツに参入してみてください(生田氏)

いざ実践! eスポーツに参入するときのポイントは?

まずは「コンテンツ」を作ってみよう

では、企業がeスポーツに取り組む際に重視すべきポイントは何だろうか。eスポーツへの参入を決めてから約2年で「キノトロープゲーミング」は、eスポーツをしている人ならほぼ全員が知っているほどのネームバリューを持つまでになった。SNSは約1年前から立ち上げ、SNS総登録者(公式アカウントや選手を含む)は100万人を超えたというから驚きだ。

生田氏によると、成功のカギはキノトロープの制作する「コンテンツ」にあるという。

コンテンツ作り

私は制作を始めてもう40年になります。Webに来て驚いたのは、人が作ったコンテンツを整理したり、そのまま載せたりするだけのことが“コンテンツ制作”と呼ばれていることです。しかし、それではWebやSNSで機能するコンテンツにはなりません(生田氏)

たとえば、カタログで撮った写真や動画などのコンテンツをそのままWebに押し込むことはできるが、それだけでは有効に機能しない。写真のライティングがバラバラだと、Web上では綺麗に見えなくなってしまう。

また、掲載する文章についても、Webで見てもらえる書き方を意識する必要があるという。結論を最初に書くなど、基本的なテクニックではあるが、それすらできていない企業は多い。

キノトロープゲーミングの選手紹介ページを見てもらうと、一定のライティングをとっていることがわかると思います。Webのために作らないと、Webで綺麗に見えることはないんです(生田氏)

チーム作りにおいて明確な「コンセプト」を掲げる

「選手ファースト」という明確なブランドプロミスを提示

生田氏が挙げたもう1つのポイントは、「コンセプト」だ。

キノトロープゲーミングは、「選手ファースト」というコンセプトを掲げている。たとえば、選手としてのキャリアを終えたときのセカンドキャリアとして、Web関連の仕事を提案するなどのサポートだ。

最初は選手集めに苦労していたが、1年経つ頃には優れた選手が集まり、今では他のチームからも声がかかるほど、「選手に選ばれるチーム」に成長していると生田氏は語る。

eスポーツのチーム作りも、一般的なブランディングと同じです。明確なブランドプロミスを作って、それを守っていくという作業を着実にやってきました(生田氏)

今後働き盛りを迎えるZ世代にリーチするために

講演の様子

キノトロープがやろうとしているのは、主にZ世代に対し、「eスポーツというメディアでコンテンツを提供する」ことだ。

繰り返しますが、今後Webでリーチすることは難しくなっていきます。10年も経てば、Z世代と呼ばれる人たちが、会社で一番の働き盛りの世代になる。そういった人たちに告知が届かない状態は死活問題です。

eスポーツはそれを回避するための選択肢の1つです。もちろんeスポーツでなくても構いませんが、いずれにせよSNSは絶対的な影響力を持つでしょう。Z世代は常にSNSを見ていて、何があってもそこから離れません(生田氏)

そんな今の若者にリーチする方法として、eスポーツとSNSを活用したアンバサダープログラムが非常に効果的であるというのが、キノトロープの結論だ。

生田氏は、「今日の話をぜひ頭の片隅に置いておいていただき、2年後、3年後に思い出していただけるとありがたいです。eスポーツにチャレンジしてみたい方がいれば、ぜひ相談してください」と語り、講演を締めくくった。

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CMS / Instagram / SNS / X / Z世代 / インフルエンサー / キャリア / クチコミ / コンテンツマーケティング / スマートフォン / ブランディング / リーチ
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