杉原剛のデジタル・パースペクティブ

なぜ「Microsoft 広告」が話題? AIを活用して他の広告も一元管理、マイクロソフトの狙いとは?

GoogleやFacebook広告、Instagram広告などを一括管理もできる「Microsoft 広告」。その魅力とマイクロソフトの狙いとは。

マイクロソフトは、日本で広告サービス「Microsoft Advertising」のビジネスを5月31日から開始しています。「Microsoft 広告」が話題になっている理由やマイクロソフトの狙いを広告コンサルティング会社のアタラ杉原氏に推察してもらいました。

マイクロソフトの広告事業が話題になっている背景

ネット広告業界に関わり始めたばかりの方は、最近のマイクロソフトの動きを見て「マイクロソフトまで広告事業に参入したのか」と思われるかもしれませんが、実際はマイクロソフトの広告事業の歴史は長いのです。MSN、Outlook.com、Microsoft Edge などへディスプレイ広告、ネイティブ広告を掲載してきましたし、Microsoft Bingは唯一Googleに対抗できている検索エンジンとして検索連動型広告も提供してきました。

では、なぜ今、Microsoft 広告が話題になっているのでしょうか。まず一つ目に、事業強化のための着実な買収が挙げられます。

  • 2016年12月にビジネスソーシャルメディアのLinkedIn
  • 2019年8月に小売業者向けの広告プラットフォーム会社PromoteIQ
  • 2021年12月に広告プラットフォーム会社Xandr
  • 2022年1月にゲームソフトウェア会社Activision Blizzard

上記企業を買収しています。これにより、検索エンジン、ウェブサイト、ソーシャルメディア、アプリ、動画、コネクテッドTV、ゲームなど、さまざまなプロパティへ広告配信ができるようになったのです。

二つ目に、2022年7月にNetflixの広告付きプランの広告配信を担う大型の提携を電撃的に発表しました。Netflixの今後の成長の鍵を握るプロジェクトですし、それを下支えするパートナーの座を射止めるのはどの会社になるのかは必然的に注目を集めていました。

実績としても、すでにマイクロソフトのグローバルの広告事業の売上は1兆円を超えているとのことで、これはいわゆるGAFAといわれる大手の広告プラットフォームの中でも、Google、Meta(旧:Facebook)に次いで、Amazonと同規模の広告売上です。2022年11月に開始するといわれているNetflixへの広告配信や注力しているMicrosoft MeshMicrosoft HoloLensなどを使ったメタバース事業も含め、今後の伸びしろは大きいと考えられます。もはやGAFAMといわなければならない状況なのです。

こういった状況から、マイクロソフトが「広告事業に参入した」と捉えるのではなく「広告事業をリブートした」や「広告事業に本腰を入れ始めた」と言ったほうが近いと筆者は思うのです。

マイクロソフトがGoogleやFacebook広告などを一括管理する機能を発表

非常に勢いがあるマイクロソフトですが、2022年9月8日にユニークな機能の発表を行いました。Microsoft 広告の管理画面で、Microsoft 広告だけでなく、Google、Facebook、Instagramなど他のプラットフォームへの広告配信を管理するマルチプラットフォーム機能を備えたスマートキャンペーンを発表しました(2022年10月時点では米国限定)。

マルチプラットフォーム機能は、ガレージプロジェクトとして技術的には2020年から存在していましたが、人工知能(AI)を改良し、スマートキャンペーンの一部機能として一新され、広告主は、Microsoft 広告だけでなく、GoogleやFacebookなどの広告プラットフォームのキャンペーンを管理し、レポーティングを一元化し、リーチを広げたり、パフォーマンスに合わせて予算を最適化することができるようになりました。

また、広告のみならず、Facebook、Instagram、LinkedIn、Twitterでコメントを公開したり、返信したりするなど、ソーシャルページの管理もできるという機能までついています。

マルチプラットフォーム機能でできることは以下の通りです:

  • 検索広告の実施:Microsoft 広告とGoogle 広告で検索広告キャンペーンを実施
  • ソーシャル広告の実施:Facebook広告とInstagram広告でソーシャル広告キャンペーンを実施
  • ソーシャルページの管理:Facebook、Instagram、LinkedIn、Twitterでコンテンツの公開、「いいね!」、コメントへの返信を実施
  • レポートの一元化:インプレッション、エンゲージメント、オーディエンスの増加などの主要な指標を一元的に確認
  • キャンペーン作成:広告の目標を設定して、オンライン訪問者、実店舗の訪問者、ビジネスへの問い合わせを増加
  • 広告コンテンツの自動作成:いくつかの広告を作成した後、AIがキャンペーンのパフォーマンスを最適化するために追加の広告を作成
  • AIでROIを最適化:予算を各チャネルに自動分配
  • AIを活用したキャンペーン管理:予算、ターゲット、広告の目標を設定し、広告を作成したら、あとはマイクロソフトのAIがキャンペーンを管理
  • 広告と関連するキーワードやオンライン検索を結びつける:「キーワードテーマ」を設定することで、検索ユーザーと広告をつなげることが可能。また「オンライン検索フレーズ」を設定することで、検索ユーザーが広告主を見つけやすくする
  • ターゲット層を絞り込む:オーディエンスターゲティングで、年齢、性別、場所など、特定の条件を設定可能

各社の広告キャンペーンをまとめて管理でき、しかもパフォーマンスがよいキャンペーンに自動的に予算を寄せてくれたり、ソーシャルページの管理まで一箇所でできるようになったわけです。AIをはじめとする技術の発達により、広告運用は以前よりも効率的にはなったものの、仕様の違う各社の広告キャンペーンを管理したり、何よりもパフォーマンスに応じて予算を最適に配分するのは相変わらず大変な作業です。これをマイクロソフトのAIが吸収してくれるということです。

マイクロソフトによる発表でも、この機能強化は運用リソースの少ない中小企業を支援するためのものであることを言及しています。他社プラットフォームの管理機能も、全ての機能を網羅しているとは考えづらいので、実際のユーザーはシンプルな設定で自助努力で運用を行う中小企業が中心となると思われます。

マイクロソフトの狙いとは?

前述のとおり、2020年からアイデアは浮上していましたが、実際にスマートキャンペーンとして、他社プラットフォームの管理にも乗り出してくるというのは意外でした。従来はサードパーティのキャンペーン統合管理ツールが得意としていた領域に、広告プラットフォームが自ら乗り込んできたというのは新しい動きです。

この狙いはいくつか考えられそうです。まずは、元祖ソフトウェア大手企業として、そのAI開発力の高さを見せつけるショーケースとすることが挙げられるかと思います。そして、さらに大きいのは、統合管理機能を無償で提供することで、広告予算のポートフォリオにMicrosoft 広告を組み込むことが可能になります。つまり、広告主は、自然と広告予算をマイクロソフトに寄せることになるという考え方です。他社が追随するかというと、これは分かりません。マイクロソフトは広告プラットフォームとしては他社を追いかける立場ですので、むしろ販売戦略的な動きとしては考えられますが、すでに広告費のシェアでは先行しているGoogleやMetaなどが自らこのような機能を実装して、みすみす予算を他社に提供するきっかけを作るとは考えづらいからです。ただ、これから出現する広告プラットフォームでは考えられるかもしれません。

このような新規機能は米国で試験的に導入され、順次他国へ展開されていくのが定石なので、いずれ日本でも使える日がくるでしょう。日本におけるMicrosoft 広告の戦略はこれから明らかになってくると思われます。日本で、どのように競争していくのか、どのようなところに注力していくのか、どのような開発力を見せてくれるのか、とてもワクワクしますし、注目していきたいと思います。

用語集
Facebook / Instagram / ROI / インプレッション / オーディエンスターゲティング / キャンペーン / ソーシャルメディア / ディスプレイ広告 / ネイティブ広告 / 検索エンジン / 検索連動型広告 / 訪問者
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