最先端すぎるデジタルマーケの潮流――アドビが示す第三の企業変革の波「エクスペリエンスビジネス」
IoT・AR・機械学習……さまざまなデジタル変革の根底には、「顧客体験の重要性」があり、企業にはデジタル化の第三の波「エクスペリエンスビジネスの変革の波」が迫っている。
デジタルマーケティングのトレンドと近未来を示す場としてアドビが定期的に開催しているセミナーイベントの基調講演から、企業がこれから考えるべきデジタル時代の企業変革のポイントをお届けする。
デジタルマーケティングの大規模セミナーイベントとしてアドビ システムズが定期的に開催しているイベントは、今年も盛況だった。「Adobe Digital Marketing Symposium 2016」として2016年10月5日に東京は赤坂ANAインターコンチネンタルホテルで開催された、今年で7年目を迎える本イベントは、参加者数が毎年増えており、今年の登録者数は4700名。デジタルマーケティングにおける潮流を把握したいという参加者の高い関心と期待感が伺える。
本レポートでは、イベントの基調講演について伝える。
近年のデジタル変革トレンドや、顧客体験中心の時代におけるデジタルマーケティングの支援を強力に進めるアドビ システムズの動きが把握できるものであった。
デジタル変革のトレンドを表す5つのキーワード
基調講演に登壇したアドビ システムズの佐分利氏は、近年のデジタル変革のトレンドについて、5つのキーワードを示した。
- IoT
- VR/AR
- 機械学習/AI
- オムニチャネル
- FinTech
IoT
「Internet of Things」、つまり「インターネットに接続するさまざまなセンサーや家電」がデジタルに変革をもたらしている。
たとえば、NEST社が提供する自動空調デバイスだ。他にも、周囲の温度がある一定基準を越えると、自動的にスプリンクラーが作動するような機能も、米国では普及が始まっている。
モノ同士が共通のAPIを連携利用することで、新しい顧客価値を生み出している。
VR/AR
VRは「仮想現実感」、ARは「拡張現実感」を示す。
たとえば、YouTubeやNetflixは、単なる動画だけでなく、360度動画配信を始めている。
ポケモンGOが社会現象になったように、2016年はVR元年と呼ばれている。オリンピックにおいてもVRによるコンテンツが配信された。先日の東京ゲームショーでもVRゲームの発表が目玉だった。
機械学習/AI
AIは「人工知能」のこと。最近では、IBMのWatsonが病名を10秒で特定し患者の命を救ったと話題になった。
米国ではAIによるコールセンターシステムが普及してきているが、さらに電話で質問を受けて、消費者の感情まで感知するようなシステムの開発と試験運用が進んでいる。今後、実用化されれば消費者の利便性も上がり、企業の効率も高まると期待されている。
オムニチャネル
オンライン・オフラインを問わず、あらゆるチャネルの顧客接点を統合的にとらえ、コミュニケーション施策をデザインする動きが進んでいる。
たとえば米国の高級百貨店であるバーニーズの旗艦店では、すべての店員がiPadを持って接客をしている。
また、顧客が店舗に近づくと、イベントのプッシュ通知、在庫状況、お気に入り情報が表示されるようなアプリも出てきている。
さまざまなチャネルでの顧客の行動データを把握し、コミュニケーションに反映することによって、顧客に伝える情報をパーソナライズしたり、高い接客を実現したりできるのだ。
FinTech
金融とITの融合を示す言葉。
iPhone 7でデバイスがFelica対応したことなども、FinTechの一部だと言える。
日本では、2016年5月に改正銀行法が施行されたことで、日本でも銀行とFinTech企業の連携が進むと思われている。海外では、すでに金融機関によるAPI公開が進んでいる。
一方で、資産に関係するジャンルであるため、そのメリットとセキュリティが天秤に掛けられる分野でもある。
そのためか、銀行側でもパスワードだけでなく、顔や声を通じてログイン認証する生体認証が実用化されてきている。生体認証では、暗証番号を盗まれる心配もなく、わずか2秒で認証される。すでに100万人以上の利用者がいるという。
映画『デッドプール』(Deadpool)
ソーシャル系のキャンペーンで人気にマーベルの映画『デッドプール』は、当初は無名だったが、主にデジタルやソーシャルでのキャンペーン展開により、R指定映画として過去最大規模の興行収入を上げるまでに育った。
マスターカード
体験型のキャンペーンで人気マスターカードは、DJマーク・ロンソン氏の即興レコーディングセッションや第58回グラミー賞パーティに無料で参加できる「体験型」のプレゼントを企画した。マスターカードの保有者を対象に、同社のTwitterやInstagramにフォローすることで“Priceless”の体験を提供するという、ソーシャルを活用したキャンペーン実施だった。
ARショッピング
洋服の販売店といえば商品が陳列されているものだが、それが変わりつつある。棚やハンガーがなくても、スマートフォンやタブレットさえあれば、ARであたかも実際に試着したかのように体験でき、顧客にとってジャストなサイズの服が買えるようになる。しかも、同様のことが自宅でも実現できるようになってくる。
第一の波:バックオフィスにおける変革の波
1960年代、主に製造業を始めとして、バックエンドのシステムがコンピューターで制御されることになり、従来のワークフローそのものを変革することになった。
企業の役員会では、業務効率を高め、さらに企業優位性を高めるために、いわゆるERPやMRP導入投資が決議された。
しかし、それらは徐々にコモディティ化していった。
第二の波:フロントオフィスにおける変革の波
従来、営業部署が顧客と対話した記録を残す方法は、カードに書いたものをファイリングする原始的なものであった。しかし、それでは管理が煩雑になり、ミスも発生していた。
そこで、テクノロジーを用いて、いわゆるCRMに取り組む企業が増え、顧客とのコミュニケーションの管理方法が効率化されることになった。
しかし、徐々にこれのみで優位性を保てるわけではなくなっていった。
第三の波:エクスペリエンスビジネスの変革の波
第一の波と第二の波は、企業側の業務効率に関するものだった。しかし第三の波は、顧客への価値提供に関する変革である。
企業はエクスペリエンス至上主義である必要性が高まってきている。喜びと驚きを、あらゆるタッチポイントで顧客に提供する必要がでてきているからだ。
私を知り、尊重してほしい
何を欲しているのか、わざわざこちらが言わなくてもわかってほしい。でも、プライバシーは尊重してほしい。
わかりやすい、1つのメッセージで伝えてほしい
組織の部門の違いなんて、関係ない。企業として一貫性のあるメッセージを伝えてほしい。
テクノロジーを意識させないでほしい
大切なのは技術ではない。新しいテクノロジーがかっこいいからやるというのではなく、顧客に素晴らしい体験を提供するために利用をするものであってほしい。
すべてのタッチポイントで喜ばせてほしい
私が期待していることは常に変動している。その時々の気持ちに合わせて驚きと喜びを与えてほしい。
これら5つに共通するのは、「いずれもデータとコンテンツを利用したビジネスであるが、根底にあるのは顧客体験のためのものであること」だと強調した佐分利氏は、
2020年には東京オリンピック、パラリンピック開催が控えている。国内外のおもてなしをデジタルで提供することは、企業にとって重要なことだと言えるのではないか
と語り、基調講演の冒頭で顧客体験の重要性を伝えた。
「顧客体験中心の時代」のビジネスのあり方
続いて登壇したのは、米Adobe Systemsの社長兼CEOであるシャンタヌ・ナラヤン氏。今は顧客体験中心の時代であると提唱し、デジタルが人々の体験を変革しているいくつかの事例を取り上げて紹介した。
こうした優れたデジタル体験を一度でも経験すると、消費者は他の企業に対しても同様のことを期待するようになる。そのため、どのような業種であっても、企業はデジタルファーストで顧客に対して良い体験を提供するコミュニケーションが求められるようになってくるという。
従来、デジタル化というと、もともと印刷したものをWeb化することを指していた。しかし、今では「デジタル」として利用するデバイスはPCだけではない。電話や時計のような、常に持ち歩くデバイスを通じて、あらゆるタイミングで、あらゆる場所で、企業が顧客とコミュニケーションできる時代だ。そのため、コミュニケーションの設計には常に新しいアイデアが求められる。
さらに言うと、VR/ARなどを活用できる時代であるため、そうした技術を利用し、新たな世界感を構築し、顧客がその世界に没入するような体験を価値提供することも期待されるようになっていく。
そういった状況に対してナラヤン氏は、次のように釘を刺す。
さまざまなことが想像できるが、それを実現するとなると、難易度は非常に高い。
なぜなら、わざとらしい演出は受け入れられないからだ。
“自然な体験”として顧客の要望に応え価値を提供するシナリオ設計が欠かせないというのだ。またその際に、人々の体験に驚きや感動を与えるものになるのは「優れたコンテンツ」「優れたデザイン」であることも、忘れてはいけない。
ナラヤン氏は強調する。
企業の経営層は、デジタルによってこれまでの常識が覆る「デジタル・ディスラプション」の時代に合わせて、最適なデジタル戦略を見直すべきだ。
そして、適切な顧客に、適切なコンテンツやメッセージを、適切なタイミングで届け、より最適なデジタル体験を提供するには、組織もそのための体制が必要となるのだ。
そして、企業がそうしたことを包括的に推進する支援を、アドビが進めていくとナラヤン氏は述べた。
Adobe Creative Cloudが、クリエイティブ側からデジタルメディア業界に変革を起こしてきたと、アドビでは自負している。
そして、PhotoshopやIllustratorなどで作られたコンテンツを使うのは誰なのかを考えた結果、デジタルマーケティングの業界に踏み込みAdobe Marketing Cloudを展開することを決意した。
アドビというとクリエイティブ関連のソフトウェアをイメージする人も多いだろうが、PhotoshopやIllustratorは、クリエイティブに大きな変革をもたらした。
それと同様のことを、デジタルマーケティングにおいてもアドビは進めていくのだ。
ナラヤン氏は最後に、デジタル時代に企業がとるべき姿勢を次のように示した。
顧客に価値体験を提供するためには、デジタル技術を最大限に活用し、さまざまなチャネルで一貫して優れたコンテンツを提供する必要がある。
それを企業が実現していくには、組織をサイロ化させず、良いデジタル体験を実現できる組織へと変えていく必要がある。
企業変革が迫られる第三の波 ―― エクスペリエンスビジネス
続いて登壇した、米Adobe Systemsデジタルマーケティング担当のブラッド・レンチャー氏は、新しい流れを次のように表現した。
「エクスペリエンスビジネス」という新たな時代の波が押し寄せている。
それは、過去の企業変革とは異なる種類の、「第三の波」である。
企業も担当者も、この流れに対応すべく変革を迫られているのだという。
「第三の波」というのは、次のようなことだ。
レンチャー氏は、第三の波に対応するには、企業の経営、マーケティング、製造、セールス、サポートなどが一枚岩となる必要があると強調する。顧客に対するエクスペリエンス提供において、企業の都合でつくられた組織の構造が壁になるようなことは、決してあってはならないのだ。
エクスペリエンスビジネス時代における4つの顧客の要望
では、「エクスペリエンスビジネス」はどのように実現していけばいいのだろうか。
そのヒントとしてレンチャー氏は、いまの時代にある顧客の要望として次の4つを挙げる。
結局のところ、成功をしたかどうかを決めるのは顧客だ。
要望に応えるために、適切で一貫性のあるメッセージを提供するために、準備を進めていく必要があるとレンチャー氏は訴えかけた。
Adobe Digital Marketing Symposium 2016の基調講演をお届けするこの記事は、前後編の2回でお届けする。
後編となる次回は、前編で示された「エクスペリエンスビジネス」への変革を進める企業を支援するAdobe Marketing Cloudの機能を、LINEとの連携やLivefyreの統合などの情報とあわせて紹介する。→後編を読む
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