ここは、東京下町のとある居酒屋。板だけ載せた酒瓶ケースの上に、ずらりと焼鳥やもつ煮を並べ、路上で立ち飲みが基本の店だ。気さくなおかみさんが、手作りの肴を振る舞ってくれ、深夜までずっと賑わっている。
そんな気取らない店に、IT系勤務のホットなやつらが夜な夜なつどって業界の噂話に花を咲かせ、ときには激高しときには愚痴をこぼし、ときには成功を喜び合う……。店内では、聞き逃せないような最新情報、そしてモバイルの未来に関わるような貴重なアイデアが飛び交っているのだ。
今日も、おもしろそうな会話が耳に飛び込んできたようだ。
文、写真:清水亮(ユビキタスエンターテインメント)
今回のテーマは携帯電話プラットフォームの「Android」。7月にドコモから搭載機種である「docomo PRO series HT-03A」が発売され、日本でもユーザーが拡大中。ガジェット好きにとってはたまらないプロダクトだけに、話題のタネは尽きません。
登場人物
ケータイ業界歴10年、iPhoneユーザー歴2年の自称ガジェット評論家。
M氏=女房を質に入れてもガジェットを買う! Newtonの昔からガジェットを買いまくる筋金入りのマニア。
バイバイ・コンピュータ — Androidはクラウド携帯の夢を見るか?
■ついに日本上陸!のAndroidケータイ
M氏「いやー、ついに発売されましたね!」

「発売されたね。Androidケータイこと“HT-03A”」
M氏「まあね、まず疑問なのは、『なんで第一弾なのに03なのか』ってこと」

「HTCの端末として3番目ということじゃないですかね」
M氏「どうも去年の暮れ以降、ドコモの機種名は特徴がなくて覚えられないんだよね」

「そうだねえ。まあいまは、ケータイも世代によって劇的に機能や性能が違っているわけでもないから、売り方を変えてきてるんだろうね」
M氏「でも“HT-03A”ってほんとにわかんないよね。あと、萌えない」

「まあまあ。嫌ならHTCの付けたコードネームの“MAGIC”ってのもあるし」
M氏「第1弾(日本未発売)がG1こと“HTC Dream”で、第2弾が“HTC Magic”だっけ? なんかそのネーミングもなあ」

「でも“ケータイは魔法の杖だ”と主張し続けて来た僕としては、“Magic”ってのはなかなかの名前だと思うな」
M氏「どうなの? 売れてるんですか?」

「どうかなあ。けど、発売日にいくつか店をまわってみたけど、売り切れてる店もちらほらあったみたいだよ」
M氏「iPhoneのときみたいな行列はできなかったねえ」

「どこに並んだらいいのか、わかんなかったんじゃないかな。Softbankの場合は表参道ってのが解りやすかったけど」
M氏「ドコモって、発売日にイベントやったりしないもんね、あんまり」

「まあ、そうだねえ」
■iPhoneとAndroid、どっちを買えば良いの?
M氏「まあ、記事になること前提で言うけど、いまみんなが気になっているのは、iPhoneとAndroid、どっちを買うべきかってことだと思うんだけど」

「まあ、個人的には、『業界人なら、両方買いなさい!』って感じだけど」
M氏「そりゃ業界人じゃなくて『マニアなら』でしょう(笑)。もちろんiPhone 3GSもHT-03Aも買ったけどね、ワシ」

「一般ユーザの視点に立つと、いまAndroid端末を買うのは、まだ時期尚早かなという気はしちゃうね」
M氏「ほうほう。どのあたりが?」

「まず、アプリのオンラインショップ“Android market”の問題だね。まだ日本だと無料アプリしかダウンロードできないし、日本語と英語で説明に区別がないんだよね。というか、すべてのアプリが英語のみのタイトル/説明で統一されてる。一般ユーザーは、英語でしか説明されていないアプリを、わざわざダウンロードしたりしないよね」
M氏「あー、それはあるね。僕も英語は苦手だったんだけど、こういう、海外モノのガジェットで遊んでるうちに英語アレルギーそのものはなくなった。だいたい読まずにOKボタンを押しちゃうし」

「それ凄い危険だよね。そういう人は少なくないと思うけど」
M氏「でもデフォルトのアプリだけで使うには、ちょっと物足りないかもね、Androidは」

「どのアプリも完成度は高いし、なによりドコモだから電波がかなりいい。屋内でもWi-Fiに頼らず使えるから、普通に使うぶんにはiPhoneより便利な点がたくさんあるね」
M氏「逆に不便な点は?」

「やっぱり、マルチタッチがないことかなあ。iPhoneの操作に慣れてると、つい指でつまむ動作をしちゃう。これは“慣れ”かもしれないけど」
M氏「iPhoneのフリック入力に慣れてると、デフォルトでそれが使えないのも痛いね」

「うん。ただ、フリック入力に関しては、フリーソフトの『simeji』というIMEをインストールすれば、かなり快適に使えるよ」
M氏「そういうアプリをユーザーが作ってシステムレベルで取り込めるのが、Androidのおもしろいところだよね」

「細かい部分では、けっこうAndroidのほうが良く出来てるところもある。ただねえ……」
M氏「いかんせん、全体の動作がザックリしてる感じがするよね」

「そう。iPhoneのあの丁寧な動きの作り込みにくらべると、いまのAndroid端末はものすごくザックリ動いてるように見えるんだよね。それでも文字のレンダリングとかはかなり頑張っていて、現行の主力ケータイより数段美しい文字なんだよね」
M氏「そう。あれは奇麗だよね。iPhoneほどじゃないけど」

「ハーフVGAって、要するに現行最新端末である“N-06A”の半分の解像度しかないんだけど、“HT-03A”の解像感ってのは、明らかにそれより上だからね」
M氏「日本のケータイOSはなんか壁にぶつかってる気がするよ。VGAケータイが登場してから何年も経つのに、未だに文字は汚いんだもん」

「文字が汚いと画面全体が汚く見えちゃうんだよね」
M氏「そう。けど、文字はともかく全体的な動作の感じは、HT-03AよりiPhoneのほうが断然上だね」

「僕もそう思う。MacとWindowsくらいの違いがある」
M氏「ただ、Windows Mobileと比べると、iPhoneもAndroidも、段違いに良い出来のOSだから」