こんにちは。Webコンサルタントの森和吉です。
PR活動を始めてみたものの、成果が出ず、上司から次のように聞かれて困ったことはありませんか?
で、何件獲れたの?
多くの企業で、PR(広報)と広告が混同され、PR活動に対して短期的な成果(獲得単価:CPA;Cost Per Acquisition)を求めすぎるケースが散見されます。
前回の「間違った『独学』『専門家選び』をしていない?」では、デジタルマーケティングの学び方の落とし穴をお話しましたが、今回は、PRの誤解について深掘りします。
結論からいえば、PRは「狩猟」ではなく「農耕」です。
種をまいてから実がなるまでには、どうしても埋められない時間のラグが存在します。なぜPRには時間がかかるのか、そして獲得単価の代わりに何を見るべきなのか。その本質を、具体的な事例を交えて解説します。
デジタルマーケティングにおける「PR」と「広告」の決定的な違い
まず整理すべきは、駅の看板やWebバナーはあくまで「広告」であり、「PR」ではないということです。両者の違いを、以下のように表でまとめます。
| 項目 | 広告 | PR (Public Relations) |
|---|---|---|
| 提出方法 | お金で媒体の「枠」を買う | 第三者(メディア)を通じて情報が語られる |
| 効果の性質 | 即時的な認知拡大(売り込みとして届く) | 信頼の蓄積(コントロールしにくい) |
| コントロール度 | 高く、内容を自由に決められる | 低く、記者の判断に委ねられる |
| 評価指標 | CPA(獲得単価) | 指名検索数など長期的な信頼指標 |
多くの現場で起きている間違いは、この性質の違う2つを同じ「CPA(獲得単価)」というモノサシで測ってしまうことです。広告は、「枠」を買えば明日から露出でき、即座にコンバージョンが発生するため、CPAでの評価が機能します。
一方、PRは記者や社会に「価値がある」と認められて初めて記事になるため、露出までに関門があり、その効果も「信頼の蓄積」として時間をかけて現れます。この違いを無視してPRに短期的な獲得を求めると、「効果が出ないからやめる」という判断になり、せっかくまいた種を掘り返してしまうことになるのです。こうしたミスが予算の無駄遣いを招きやすいので、注意が必要です。
「種まき」から「収穫」までの期間は半年
私の経験則では、プレスリリースを出してから取材が入り、仕事(売上)につながるまでには、半年ほどの期間が必要です。なぜ、これほどの時間がかかるのでしょうか。以下に、主な理由を3つあげます。
理由1メディアの企画サイクル
雑誌やテレビの特集は、数か月前から企画が動いています。記者は「今」届いたリリースを、半年先の特集のネタとしてストックしています。たとえば、夏に届いた「暖房器具」のリリースが、冬の暖房特集で記事になるようなものです。Webメディアでも、季節ものやトレンド企画は事前準備が欠かせず、即時対応はまれです。
理由2信頼の醸成期間
一度のリリースで即取材とはなりません。半年間、定期的に情報を発信し続けることで、記者のなかに「この会社はちゃんとした活動をしている」という信頼残高が貯まります。この蓄積があって初めて、取材のハードルを越えられるのです。
たとえば、私が携わったクライアントでは、月1回のリリースを半年続け、ようやく経済紙の記者から連絡が来ました。初回リリースだけでは、ただの「売り込み」と見なされやすいのです。
理由3「点」が「線」になる時間
記者は一社の情報だけで記事を書くことは稀です。「A社がこんな動きをしている」「B社も似たサービスを出した」…こうした複数の情報(点)が集まり、業界のトレンド(線)になった瞬間に記事化されます。機が熟すのを待つ必要があるわけです。
たとえば、AIツールのリリースを複数社が出すと、「AIブームの今」としてまとめて取り上げられることがあります。この「線」になるプロセスに、数か月かかるのが普通です。
PRは、インフラ整備のような「ストック効果」をもつ施策です。蛇口をひねれば水が出る(広告)のではなく、井戸を掘り当てる(PR)作業だと捉えてください。デジタルマーケティングの観点では、PRはSEOやコンテンツマーケティングと似て、長期投資型の施策といえます。
【事例】忘れた頃にやってくる成果のメカニズム
では、実際に時間をかけて成果が出た「農耕型」の成功パターンをご紹介します。私のコンサルティング経験から、2つの事例をあげます。
事例1あるシステム開発会社の「急がないPR」
あるBtoBのシステム開発会社では、PRチームの立ち上げから約9か月間、目立った獲得成果が出ませんでした。彼らが行ったのは、自社サービスの売り込みではなく、「業界全体の課題」や「CSR活動(社会貢献)」の発信でした。
たとえば、地元学校への無料プログラミング講座を提供し、それをリリースとして発信。CSR活動として、教育格差の解消をテーマにした内容です。一見、売上には遠回りに見えます。しかし、この「社会性のある発信」が徐々に記者の目に留まり、9か月後に大手新聞社に掲載されました。
記事では、「教育貢献を通じたIT業界の新潮流」として取り上げられ、その結果、指名検索数が前年比で約3倍に跳ね上がりました。しかも、記事掲載後、問い合わせが急増し、売上への貢献も明確になったのです。
この事例では、Googleサーチコンソールで指名検索の推移を追跡し、PRの効果を可視化して、その数値を重要視していました。しかし、もし半年で「CPAが合わない」と判断してやめていたら、この爆発的な資産効果は得られなかったでしょう。
事例2掲載から半年後に問い合わせが増加したPR記事
検討期間が長いBtoB商材では、半年も前に書かれた「信頼できる第三者の記事」が商材購入の決定打になるケースが多々あります。
たとえば、あるクラウド管理ツールの「導入事例/コスト削減の成功ストーリー」がインタビュー記事としてWebメディアにのり、掲載から半年以上経ってから大手企業からの問い合わせを生み出した事例もありました。この例では結果として、記事経由の問い合わせが売上の10%を占めるようになりました。
ここでポイントとなるのは、先ほどのインタビュー記事がSEO的に強かった点です。担当者がクラウドの管理ツールを探して検索し、上位表示された本記事をみつけたからこそ、成果につながりました。
広告は出稿を止めれば流入は消えますが、PRのための記事はWeb上に残り続け、24時間365日働く「営業マン」となってくれます。効果的な記事かどうかは、記事のインプレッション数が半年後も安定して高かったかがポイントになります。これは、GoogleアナリティクスとGoogleサーチコンソールで確認できます。
CPAの代わりに見るべき指標は「指名検索」
「獲得単価を見ないほうがよい」というと、経営層からは「では何を指標にするのか」と問われます。その答えは、「指名検索数」です。ユーザーがわざわざ会社名やサービス名を検索窓に入力する行為は、認知と信頼が確立されている証拠です。広告をクリックさせるのではなく、探させる状態を作る。これこそがPRのゴールです。指名検索をKPIにするメリットは以下の3つです。
- 成約率(CVR)が高い:
指名検索してくるユーザーは、すでに興味関心が高いため、一般的なキーワード検索よりも圧倒的に成約(コンバージョン)しやすいです。私のクライアントでは、指名検索経由のCVRが一般検索の2倍以上になるケースがほとんどです。 - 資産になる:
Googleのアルゴリズムが変わっても、社名検索であれば常に1位に表示されるため、大切な資産だといえます。長期的に見て、ブランド力のバロメーターになります。 - 広告費の削減:
指名検索が増えれば、高いクリック単価を払って一般ワード(例:「システム開発」)に入札する必要性が減ります。結果、全体のマーケティング予算を最適化できます。
PR活動を続けていれば、必ず指名検索のグラフは右肩上がりになります。この傾きこそを成果として評価してください。測定には、Googleアナリティクス4(GA4)やGoogleサーチコンソールを活用しましょう。たとえば、GA4のサイト内検索レポートで「クエリ」に社名を含むものをフィルタリングすれば、簡単にトラッキング可能です。
広告費という「焼畑」から、資産を作る「農耕」へ
本稿の趣旨は「獲得を諦めろ」ということではありません。「目先の刈り取り(広告)に必死になって、将来の実り(PR)を捨てるな」という意味です。
- 広告:即効性はあるが、お金を止めれば終わる「フロー型」。
- PR:時間はかかるが、信頼と記事が積み上がる「ストック型」。
デジタルマーケティングにおいて、CPAは強力な指標ですが、万能ではありません。特にPRにおいては、半年待つという覚悟が必要です。焦らずに種をまき、水をやり、信頼関係という土壌を育ててください。そうして育った「指名検索」という果実は、広告費をかけずとも、長期にわたって安定した収穫をもたらしてくれるはずです。
あなたの会社は、PRを狩猟型で測っていませんか? 今すぐ種まきを始めましょう。半年後、1年後の「楽」をするために、今日から行動をしてみてください。
