無人店舗をオープンした化粧品ブランドのオルビス、有人→無人化で見えた変化や課題とは?
コンビニや書店、トレーニングジムまで、人手不足の解消やコスト削減を目的に無人店舗が増えている。ついに化粧品業界まで無人店舗に乗り出した。
オルビスは2023年5月、JR立川駅直結の商業施設「グランデュオ立川」に、化粧品業界初となる事前の顧客登録などを必要としない無人販売店舗※「ORBIS Smart Stand(オルビス スマートスタンド)」をオープン。約2坪(約7㎡)の無人店舗のほか、「オンラインカウンセリング」コーナーも併設されている。決済には、TOUCH TO GO社のシステムを採用した。
どのような買い物体験ができるのか。店舗を訪れ体験するとともに、店舗事業統括の石田龍太郎氏に戦略や反響を聞いた。
無人店舗の決済、仕組みは「天井のカメラ」と「棚のセンサー」
「ORBIS Smart Stand」は、グランデュオ立川1階の化粧品コーナーの一角にある。以前は、スタッフが接客する従来の店舗運営だった。
無人店舗の基本的な利用の流れは次のとおりだ:
- 入り口から店舗内に入る。ゲートは自動になっている。
- 購入したい商品を手に取ったら、出口付近のレジで決済を行う。商品をレジに持っていくだけで、レジの画面に商品名や金額が表示される。
- 決済が終わったら、ゲートが自動で開くので退出する。購入しない場合は、レジ画面上の「お店を出る」ボタンを押して退出する。
支払いは、交通系ICカード、クレジットカード、QR決済のみで現金対応はしていない。一連の操作はシンプルなため、無人決済やセルフレジに慣れている人であれば、それほど難しく感じないだろう。もし商品がレジに正しく認識されないことがあれば、スキャナーでバーコードをスキャンすれば決済ができる。
操作中に不明点があれば、画面の「呼び出し」ボタンを押すと問い合わせができる。対応はTOUCH TO GO社のコールセンターが担当している。
無人決済を実現しているのは、天井に設置された複数のカメラと商品棚に取り付けられたセンサーだ。カメラが顧客を認識し追跡、センサーが商品を手に取った際の棚の重量の変化を感知し、商品を特定する。
なぜオルビスが無人店舗を? 狙いは人手不足解消や働き方改革
なぜ、オルビスは化粧品業界初の無人店舗オープンに踏み切ったのか。店舗事業の統括を担う石田氏は、「複数の課題を解消できる側面があった」と話す。
まず、昨今の社会課題でもある販売職の人手不足です。土日祝を含むシフト勤務であるビューティーアドバイザー(美容部員)の採用が困難になっている状況がありました。それから、一定の固定費がかかる店舗運営は黒字化が難しいこと。過去には110店舗以上を運営していましたが、赤字を含むさまざまな理由で撤退した直営店舗があり、現在は94店舗です。
しかし、退店した地域にも一定のお客様がいます。通常の業態では営業が難しくとも、無人化して人件費と賃料を抑えることで再出店ができるのではないかと考えました。加えて、コロナ禍での非対面接客のニーズもありました(石田氏)
さまざまな課題から店舗の新しいあり方を模索していた石田氏は2021年8月、羽田空港の第2ターミナルにオープンした無人販売店舗「ANA FESTA GO」のプレスリリースを見て、運営元のTOUCH TO GO社に問い合わせたそうだ。
当時、同社のシステムは最先端であり、化粧品業界で無人店舗の実績がないことからパイオニアになれるかもしれないと考えたという。TOUCH TO GO社が強みとする、「事前登録やアプリのダウンロードを必要としない手軽さ」と「ランニングコストが抑えられること」も導入の決め手になった。
初の無人店舗にグランデュオ立川店を選んだことにも複数の理由がある。オルビスの店舗は立川駅に2店舗あり、一つがグランデュオ立川、もう一つが同じく駅直結のルミネ立川にある。これまで両店舗とも有人の店舗だったため、差別化をはかった。グランデュオ立川店には接客を求めないリピート購入の顧客が一定数いることに加え、ある程度の売上規模があったグランデュオ立川店を無人化することで売上の変化も見たかったそうだ。無人店舗を拡大する上での指標になると考えたという。
オープンから約1か月、有人→無人化による変化は?
無人店舗をオープンして約1か月が経過した現在、どんな反響があったのか。石田氏によれば、数件の問い合わせや「戸惑った」という声はあるものの、目立ったトラブルはないという。
導入前の懸念事項として『万引き』がありましたが、センサーとカメラ、周囲の有人店舗など四方八方から監視されているため、むしろ起こりづらい環境です。実際、高輪ゲートウェイの無人コンビニでも万引き事例はほとんどないと聞きました。もし、万引きが発生した場合は棚卸しのタイミングで気づくことになりますが、通常の店舗運営と同じく警察に通報して対応する予定です(石田氏)
グランデュオ立川店では、以前はスキンケアに加えてメイク商品も取り扱っていたが、無人化にあたりスキンケア中心のラインナップにスケールダウンしている。そのため売上は以前より減っているが、一方で店舗のランニングコストは約4分の1に抑えられている。来店客層については、以前よりも男性客が増えている傾向がうかがえると石田氏。
現状の仕組みでは来店客層を詳細にチェックできていませんが、無人化前後の売れ行きの変化を見ると男性向けの『ORBIS Mr.(オルビス ミスター)』シリーズが伸びています。以前は、『女性のビューティーアドバイザーしかいない店舗に入るのに抵抗がある』という男性客の声が聞かれていたため、無人化により男性客が利用しやすくなったのかもしれません。そのほか以前からの売れ筋商品も相変わらず好調ですし、また閉店間際に売上が伸びる傾向もあり、既存のお客様が“仕事帰りにサッと購入する”といった需要があるのだろうと思います(石田氏)
オンラインカウンセリングも、一定の需要が見えてきている。これは専用フォームに簡単な情報を入力すると、その場でオンラインカウンセリングが15分程度、無料で受けられる仕組み。5月の「オンラインカウンセリングサービス」利用実績のうち、約4分の1が「ORBIS Smart Stand」グランデュオ立川店を通じたカウンセリングだったそうだ。
課題は「マーケティング」と「わかりやすさ」
「ORBIS Smart Stand」は、通常の店舗同様にブランドの世界観を大事にしている。派手な装飾を控えて、極力シンプルにしており、購入方法などの説明も最低限に抑えられている。
既存顧客の方であれば、無人店舗は必要なものだけをサッと購入できる利便性の高い場所だと思います。一方で、新規顧客の方からは『商品特徴がわかりづらい』『その場でパッと聞けない』という声も聞かれます。さまざまなフィードバックを参考に、顧客満足度を上げていけたらと考えています(石田氏)
当社視点での課題は、オンラインカウンセリングを受けない限りビューティーアドバイザー美容部員の接客がない中で、どう店内での買い周りにつなげていくか。そして、どう店舗の認知を拡大していくか。マーケティングについては、施設側とも調整しながら施策を打っていく予定です(石田氏)
最後に「その他の店舗を無人化する可能性」についてたずねると、「ゼロではない」とのこと。
現在の店舗をしばらく運営するなかで黒字化が見えてきたら、退店したエリアや複数路線が走るターミナル駅で未出店のエリアに無人店舗を拡大するかもしれません。有人店舗においては店舗数の拡大というより、有人だからこその価値や体験を研ぎ澄ませていきたいですね(石田氏)
今回、実際に無人決済サービスを体験してみて、「一度仕組みを理解すれば、使い勝手が良さそう」だと感じた。一方で、セルフレジなどのITサービスに慣れていない人にとっては、少々ハードルが高いかもしれない。広く浸透するには、よりわかりやすいガイドが求められそうだ。
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