企業ホームページ運営の心得

真実は原典にあたれ。ネットの情報に振り回されないための必須スキル

玉石混交の情報があふれるインターネットでは、真実を見極める力が必要です
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の百七十

テレビ報道の限界

保育園の頃、保母さんに「真実は1つ」と諭されました。嘘がばれる前に白状しろという脅しを含んでの言葉でしたが、大人になると真実は1つではないことを知ります。たとえば、沖縄の米軍基地問題でも、沖縄市在住の知人は「基地に土地を貸したお金で朝からパチンコ店に通っている地主がいる」と教えてくれました。基地を迷惑と思い、被害を被っているのも真実ですが、経済効果を得ている人がいるのも真実だといいます。ちなみにテレビが「1つの真実」しか伝えなくなった理由の1つについては最後に。

1つ以外の真実を知るためには「原典」が役立ちます。時には雑誌や書籍ですら「原典」となります。「ネットの情報」に振り回されないための必須スキルです。

野焼きから全焼へ

ある週刊誌の記事がツイッターで話題になりました。取材を受けた人が、意図していない記事に「編集」されたとブログに投稿したことがきっかけです。ツイッターブームへの疑問を呈する企画だったことから注目度も高かったのでしょう「リツイート」の嵐が吹き荒れました。「リツイート」とは他者の発言を引用、あるいは転載することのツイッター用語です。

週刊誌発売日の朝は電車の「中吊り」への発言が多く、お昼頃から記事への感想が寄せられるようになります。ブログが公開されてからも賛否相半ばする状態でしたが、ある著名ブロガーがリツイートしてから燎原の火の如く「拡散(リツイートが広まっていくこと)」されていきます。そして著名ジャーナリストが、その週刊誌で仕事をしたことがあると前置きしたうえで「よくあること」とつぶやき、野焼きが山火事になりました。

日本語がほろぶときはどう?

真実を知るために「原典」を見ます。この場合は週刊誌。記事には「取材・構成」としてルポライターの名前があり、インタビュー記事だとわかります。雑誌などの「商業誌」の文章は一定の「品質」が求められ、自分が満足すれば公開できる個人ブログとは異なり、比較すれば品質の違いは一目瞭然です。

インターネット上では、真実をさしおいて誤った情報が独り歩きすることは珍しくなく、「原典」を見なければ「拡散」された情報が世界のすべてとなります。書籍も同じです。水村美苗著「日本語が亡びるとき」を読み、世界で流通する英語と対比しながら「日本語」への激しい愛情を綴ったラブレターと私は解釈しました。一方、同じく日本語への愛情は認めても、著名なITエバンジェリストはそこから「インターネット」というグローバルな環境での英語の重要性を語り、返す刀で日本の英語教育への「自虐論」をネット記事で展開します。

フリーになりフラット化する社会

リツイートや書評は「伝言ゲーム」のようにずれていくものです。トーマス・フリードマンの「フラット化する世界」はインターネットにつながれた世界はフラット化すると主張する啓蒙書で、楽天的に米国の成功を信じる著者の筆からはバラ色の未来が広がり、翻って日本のグローバル化の遅れを嘆く文脈で引用されることが多いのですが、じっくり読みこむと米国の教育レベルの低下について警鐘が鳴らされており、これはそのまま日本にも当てはまります。

また、話題のクリス・アンダーソン著「フリー」にもこういう指摘があります。

フリーも慎重に使わないと、利益以上の損害を与える恐れがあるのだ(91ページ)

原典でなければ得られない情報です。書籍とは一冊をもって完成するもので、随所に散りばめられる苦言や疑念というスパイスがコース料理の味わいを深くします。書評が無駄というのではありません。しかし、アマゾンの「レビュー」も最近では料理を論じずに、スパイスを語るものが多く、それは知識自慢の自己満足であって書籍の正当な評価ではありません。

さらに原典へ踏み込む

本来、「原典」とは原書などを指すのですが、邦訳や雑誌も「原典」となります。リツイートや書評では触れることのできない「いくつもの真実」がそこにあるからです。

物見高い私は、前述の週刊誌の件を編集部に尋ねました。直接尋ねたのはもちろん「原典」を探るためです。細かなやりとりは教えてくれませんでしたが、騒動を聞き付けたIT系の報道媒体に事情を説明したところ「記事にならない」と判断したといいます。そして某大新聞の記者のつぶやきを思い出します。

丹念な取材の上に書いた記事でも取材者からクレームが寄せられることは珍しくない

マスゴミとネットの住民の相似形

いつの頃からか、マスコミは「真実の1つ」だけを報道することが多くなりました。陰謀論はさておき、語弊を怖れずにいえば、マス=大衆に向けての発信は「レベルの下限」をどこに設定するかがカギだからです。難解な背景や、複雑な問題から視聴者は目を逸らします。そこで「1つ」を拾い出し単純化することで視聴者におもねるのです。これを見て育った世代がテレビ局に入り、下限はさらに低く設定されます。あるテレビ番組制作会社ディレクターはこう溜息をついていました。

複雑な内容に視聴者はついてこない

そして「マスゴミ」と批判しながらも、ネットの住民は「テレビ」をネタにツイートします。社会での真実は1つではありません。Web担当者は情報を操る側。書籍や雑誌にはリツイートで埋没する幾つかの真実が散りばめられています。

今回のポイント

ネットの話題は偏りやすいと心得る。

話題の雑誌や書籍は必ず現物に目を通す習慣を。

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