AIが接客&提案、BOPISが浸透――米国・ロサンゼルス視察から見る、アメリカの小売りと日本の違いとは?

AmazonやWalmartといった革新性の高いリテールテックの聖地であるアメリカ。筆者は2022年10月、そんなアメリカ・ロサンゼルスに1週間ほど滞在し、最新のリテールテックを体験してきました。2004年からアパレルのEC制作に携わり、現在はスタッフDXツール「STAFF START」を提供するバニッシュスタンダードを経営する筆者が経験した、アメリカの最新のリテールテックを紹介します。
EC購入商品のピックアップ文化が当たり前
アメリカのECでは、ECサイトで購入した商品を店舗などで受け取る手法「ピックアップ」がメジャーです。日本でもコンビニ受け取りや指定のロッカーで受け取るという方法がありますが、利用したことがある人はあまり多くはないのではないでしょうか。筆者もその1人です。
アメリカでは、「BOPIS(Buy Online Pick-up In Store:ボピス=ECサイトで購入した商品を店舗で受け取る仕組み)」「クリック&コレクト(ECで購入した商品を、宅配ロッカーやドライブスルーで受け取る仕組み)」の文化が浸透しているように感じました。
また、AmazonやWalmartなどでは、「品物をカゴに入れるだけで支払いまで完了する」という自動決済を採用しています。他にもあらかじめ注文した商品を受け取りに行く「BOPIS」「カーブサイドピックアップ(ECサイトで購入した商品を、店舗の駐車場で受け取る仕組み)」の利用が盛んです。
アメリカのオンラインショップ利用に関するとある調査では、回答者の半数以上が「過去12か月の間に食品・飲料、日用雑貨をピックアップで購入した」という結果が出ています。
※2022年6月2日までの12か月間に、オンラインで商品を購入した13歳以上の米国人回答者920人(2022年6月2日調査)を対象とした調査(出典:Coresight Research)。
配送のきめ細やかさ、配送料の高さが日本と異なる
さらに、型番商品の多い日用品店だけではなく、スニーカーブランド「NIKE」でもピックアップが多く利用されていることにはとても驚きました。
日本人の買い物の感覚の多くは「ECサイトで購入=自宅への配送」でしょう。わざわざ店舗に赴くのであれば「接客を受けて実際に商品を見て試着をして吟味したい」「スタッフとコミュニケーションを取って、買い物を楽しみたい」と思う消費者に対して、店舗側は実店舗でその対応をしているという側面が強いのではないでしょうか。
一方、アメリカの小売店舗は日本と異なり、店舗の役割は倉庫の側面が強くなっています。ピックアップは増加傾向にあるようなので、今後は店の作り方もさらに変化していくと予測しています。
なぜ日本と異なりピックアップが流行っているのか? それは配送のきめ細やかさの違いが大きく影響しているのではないかと考えています。
日本の物流は「世界一のクオリティ」とも言われています。日にちだけでなく時間も細かく指定でき、再配達も可能。荷物は丁寧に扱われます。
一方、アメリカでは誤配送や指定日への遅れが頻繁に発生し、配送料も高額。「せっかく買った商品を確実に早く受け取りたい」という気持ちは、日本も米国も変わりませんが、その手段がアメリカの場合は「自ら店頭に受け取りに行く」ということのようです。
「Amazon Style」では接客・提案はAI、単純作業は人
Amazonのアパレルショップ「Amazon Style」を訪れました。「Amazon Style」は、2022年5月にロサンゼルスにオープンしたばかり。Amazon初となるファッションの実店舗です。
広い店内には、アパレル、シューズ、雑貨が置いてあり、品ぞろえはとても充実していました。
商品についている二次元バーコードのタグを手持ちのスマホアプリで読み込むと、試着または購入を選択できます。ただし、陳列されている商品はすべて見本品のため、購入はできません。購入する場合はアプリ上で商品購入を選択し、受け取り専用カウンターで商品を受け取るというピックアップ形式を採用しています。
筆者は試着を選択しました。試着を選ぶと、画面上で試着室の予約が行われます。試着室の準備が完了すると、プッシュ通知でお知らせが届きます。指示された試着室に行くと、頼んだ商品だけでなくレコメンドされた商品が置かれていました。
さらに試着室にはタッチパネルが設置されており、試着中もデバイスにレコメンドが次々に表示され、追加で試着するかどうかを選べるようになっています。
日本のアパレルショップではスタッフが行う一連の流れが、すべてデバイス上で実施されているのです。追加で試着商品を選んだ場合は、スタッフが商品を運んでくれます。ここでやっと人の登場です。
接客提案はAIが行うのに対し、商品を試着室に届けるという単純作業は人が行うという構図に衝撃を受けました。
一見とても効率的で、最先端技術が詰まった店舗に聞こえるかもしれませんが、まだまだ不便な面もあり、肝心の買い物の体験価値はそこまで高くないと感じました。
最初にレコメンドされた商品は自分の好みに合わず、タッチパネルに表示される商品は数が多すぎて、好みのものを見つけるには根気が必要そう。「スタッフと話をした方が早いなぁ」と感じました。
日米のアパレル店舗スタッフの違いとは?
アメリカの小売スタッフの生の声も聞きたいと思い、日本の「イオンモール」や「ルミネ」のようなカジュアルブランドが並ぶ商業施設にも足を運びました。
ハイブランドではなくカジュアルなブランドのスタッフは、自ら話しかけてくることはありません。椅子に座ってスマホを触っている光景をよく見かけます。
もちろん話しかけたら商品の在庫を確認したり、最低限の提案をしたりしてもらえますが、日本のアパレルスタッフのように、自ら来店客に挨拶をしたり、声をかけて接客したりすることはありません。
自分のペースで商品を見たい人、話しかけられることが苦手な人にとっては嬉しい対応かもしれませんが、初めてこの光景を見たら驚くのではないでしょうか。
一見「アメリカの接客は悪い」と感じるかもしれませんが、どちらかというと海外ではこの光景がスタンダード。日本の接客が素晴らしすぎるのだと実感しました。
インセンティブの有無が接客内容につながっている
では、なぜそうなるのでしょうか。理由はシンプルで、丁寧な接客をしてもチップやインセンティブなどプラスの給与が一切つかず、「それならできるだけ省エネで働きたい」と思っているからのようです。
しかし、「チップやインセンティブがつかないとしても、このブランドが好きだから、ここで働いている」と言います。
そこで、スタッフによるオンライン接客が行えるサービス「STAFF START」について説明し、興味があるかを聞いてみました。
筆者が話したスタッフは、そもそもスタッフがブランドの公式サイトに載るということ自体にとても驚いていて、「私たちなんかが公式サイトに出ていいと思えない。会社がOKする気がしない」と言っていました。
「『STAFF START』は店舗スタッフのECへの貢献度も可視化することができる。実際に導入企業の7割が結果を元に給与アップなどの評価・報酬で還元をしているから、導入できればあなたの報酬も上がるかもしれない」とも伝えました。
すると、またとても驚きつつも、「もしECに活躍の場を広げられ、報酬が上がるのであればやってみたい気持ちはある」と話してくれました。
今回の視察で、アメリカではカジュアルブランドのスタッフに「接客」という概念自体が希薄だと感じられたものの、働くスタッフたちに意欲やブランドへの愛はあります。彼らがそれを活かし、活躍できる日が来ることを願っています。
アメリカ視察から見えた、日本のECのあるべき姿
今回の視察で筆者は、日本はこのまま「日本らしいEC」を突き進む形で良いのだろうと感じました。
日本と比べるとアメリカは土地が広大すぎて、まだまだ流通面に不便さが残っており、その解消に取り組んでいる印象を強く感じました。また、そもそもの文化として一部ラグジュアリーブランドを除いた小売に接客は求めていないため、より機械化・効率化をして利便性を突き詰めているように感じます。
一方日本は、再配達の負担など物流を担う企業の課題はあるものの、流通面は一定のシステムが整っています。加えておもてなし文化が根強く、カジュアルブランドであっても接客が重要視されています。そのため、単なる機械化・効率化だけでは顧客のニーズに合いません。
サービスは文化の上に成り立っている。そう考えると、日本は日本独自の「おもてなし文化」に基づいたECを追求する「日本らしいEC」を突き進む形で良いのだと考えています。
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:AIが接客&提案、BOPISが浸透――米国・ロサンゼルス視察から見る、アメリカの小売りと日本の違いとは?
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DECENCIA 経営企画部 マーケティングテクノロジー開発グループ 加田恵子氏
DECENCIA ブランド推進事業部 CX統括グループ 星野葵氏
ZETA 執行役員副社長 博士(情報科学) 出張純也氏
ZETA 執行役員 営業部 ジェネラルマネージャー 市川敬貴氏
ZETA マーケティングG. マネージャー 村上あすか氏
























この連載で何度も書いているように、ECがどんどん伸びるという時期は終わりました。外に出て実店舗に行くようになると、必然的にECに割く時間が減ってきます。つまり、他社の商品に接する機会が増えるということ。そうなったときにCRMが必須になってきます。ここをさぼってしまうと、数か月後にはお客さんが減ってきてしまうので、きちんとやっておきましょう。