ユーザエクスペリエンスに対応する『ポイントサービスの共通化』

ポイントサービスを活用したCRMに関する市場の最新動向-「ポイントサービスの共通化」を、事例を踏まえてご紹介いたします。
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近年、スマートフォンやecサイトの普及など消費者が商品を購入する購買環境の変化によって、顧客の購買行動は大きく変化しています。購買チャネルの多様化によって顧客の選択肢は大きく広がり、顧客はその時々のニーズやシーンに合わせて様々な行動をとるようになりました。

『ユーザエクスペリエンス』という顧客視点でのサービス展開が求められる近年、CRM(顧客関係管理)も大きな変化を求められています。
企業のCRMの1つとしてはポイントサービスが多く導入されており、各社・各ブランドがそれぞれ独自の強みを追求した施策を実施してきましたが、このような多様性の流れの中で、従来のポイント施策だけでは近年の購買行動への対応が難しくなってきているのです。

そして近年、このポイントサービスが『共通化』するという新たな流れが起きていることをご存知でしょうか。
ポイントサービスを『共通化』することによって、新たに顧客満足度向上につなげる動きが徐々に見られているのです。

本コラムでは、この『ポイントサービスの共通化』に注目し、CRMの新たな動向について考察します。

従来のポイントサービスの課題

ポイントサービスの影響力が近年低下していることについては、実際にデータで示されています。
野村総合研究所の調査データ(※1)によると、ポイントの有無が消費者の購買行動に与える影響は2010年あたりにピークを過ぎ、近年低下しているとのことです。

理由としては、以下が挙げられます。

  • ポイントサービス・会員サービスを導入する企業が増えたことで、消費者にとって「ポイントがもらえる」こと自体に対する特別感・プレミアム感が薄れてきた
  • 購買チャネルと販促手法の多様化により、様々な魅力的な特典が充実してきており、ポイント以外の選択肢が増えてきた
  • 消費者自身の購買経験の蓄積とSNSなどで消費者間の情報交換・共有が可能になったことで、ポイント以外にも判断材料が増えた

新たなCRM施策『ポイントサービスの共通化』

上記のような消費マインドの変化に伴い、従来のように店舗やブランドが独自で顧客を囲い込んでいくのはより困難となり、他チャネル・他ブランド・他社間におけるポイントサービスの共通化が積極的に進められています。

本コラムでは、『ポイントサービスの共通化』を、以下3パターンに大別して整理します。

  • 自社内での統合(自社独自のポイント運営)
    自社内で展開する複数のサービス/チャネルの会員ID・ポイントシステムを統合する。   
    例)オンラインショップと実店舗間、複数ブランド間など
  • 他社との提携(自社独自のポイント運営)
    企業間で、各社が管理している会員ID・ポイントシステムを統合する。ユーザーは、現状のポイントを提携先でも利用できるようになる。
  • 共通ポイントサービスの導入
    自社独自のポイントは持たず、Tポイント、Pontaポイント、楽天ポイントなど、業種業態を超えた提携先企業で利用できる「共通ポイントサービス」を導入する。

『ポイントサービスの共通化』の導入メリットデメリット

各パターンのメリットデメリットについて、以下のようにまとめました。(※各社のサービスごとに詳細は異なります)

  • 自社内での統合(自社独自のポイント運営)
    【メリット】
    ・O2Oによる顧客囲い込み
    オンラインオフライン上の顧客データを統合することで、相互送客による会員の囲い込みができる
    ・より高度なマーケティング活動による他社との差別化
    オンラインオフライン限らず顧客の行動を全て統合して分析し、マーケティングに活用することができる
    【デメリット】
    ・全て自社で管理するため、導入負荷・運用負荷がかかる
    ・自社顧客に対してのアプローチになるため、他の施策に比べ新規顧客の獲得にはつながりにくい
  • 他社との提携(自社独自のポイント運営)
    【メリット】
    ・提携店との相互送客
    提携店を利用している顧客を誘致し囲い込むことができる
    【デメリット】
    ・他社のシステムと統合するため、仕様決めなど統合時の負荷やリスクが大きい
  • 共通ポイントサービスの導入
    【メリット】
    ・加盟店間の相互送客による来店促進
    他社店舗を利用している顧客に対し、クーポンやキャンペーン情報などでアプローチすることができる
    ・顧客情報の管理コスト削減
    既存のシステムを利用することができるため、自社でシステムを管理する必要がなくなる
    ・顧客データを活用したマーケティング
    自社だけでなく他社顧客も含めたより高度な購買行動の分析ができる
    【デメリット】
    ・ポイント発行元の仕様に依存するため、自社独自の施策は打ちにくい

それぞれメリットデメリットが異なるため、要件に合わせて、最適なパターンを検討する必要があります。

『ポイントサービスの共通化』の事例

各パターン別にいくつか事例をご紹介します。

1.自社内でのポイント統合

■ ≪自社内サービスの統合≫ 株式会社アイスタイルの全サービス会員IDとポイントシステム統合
日本最大の化粧品・美容の総合サイト@cosmeを運営する株式会社アイスタイルは2013年4月に、@cosmeを基盤に、同社傘下の化粧品専門店@cosmestore、化粧品ECサイトcosme.com、またサロン検索&予約サイトisopとの連携をすべて完了させ、同社が提供するすべてのサービスの会員IDとポイントシステムを統合したことを発表しました。

同社は、この取り組みによって化粧品からサロンまで幅広い美容関連サービスを網羅した美容業界全体をつなぐ「ビューティプラットフォーム(美容の総合マーケティングプラットフォーム)」の実現を目指すとしています。

 

■ ≪オンライン・オフラインの統合≫ ユナイテッドアローズの店舗とネットの一体化O2O戦略
2013年3月期にはecによる利益が全売上の11.1%を占めるなど、オンラインの活用が盛んな同社は、ネットで買い物する際に実店舗ポイントかECサイトポイント、更にポイントによる募金の三つの形態から選べるサービスを提供しています。

オンライとオフラインの会員情報を活用し、実店舗だけ利用する顧客に比べてECと実店舗の併用顧客は平均単価が2.2倍にもなるなど顧客の購買行動の分析も進めてマーケティング活動に役立てています。在庫、サービス、利用体験、管理体制、世界観等あらゆる面で一体化・統一化し、ネットとリアルを分けない組織スタイルを徹底しています。

 

2.他社ポイントとの提携

■ DeNAショッピングと西友「SEIYUドットコム」のID共通化
2013年6月、DeNAは同社が運営する総合ショッピングサイト「DeNAショッピング」の会員ID「DeNA ID」を、西友が同社と協働で運営する「SEIYUドットコム」の会員IDと共通化したことを発表しました。更に「SEIYUドットコム」で買い物する際にDeNAポイントが付与され、両方のサイトで利用可能になりました。

 今回SEIYUはDeNAとの連携により、ポイントをきっかけに相互送客を図り、店舗の商圏外からの集客も強化する狙いです。DeNAもサービス間の買い回りを促進することで、より付加価値の高いオンラインショッピングサービスとして運営していく計画を立てています。

 

3.共通ポイントの導入

2011年度の共通ポイントサービスの市場規模(ポイント発行額ベース)は前年度比21.8%増の530億円、2012年度は前年度比23.2%増の653億円になると見込んでおり、市場は拡大し事例も増え続けています。(※2)
ここでは、三つの共通ポイントサービス(Tポイント、Pontaポイント、楽天スーパーポイント)について紹介します。

■ Tポイント
【概要】
 ・運営会社:カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(通称CCC)
 ・サービス開始:2006年10月
 ・主な提携先:TSUTAYA、ファミリーマート、エネオス 等
 ・会員数:4602万(2013年6月末時点)
 ・提携店数:約6万店(2013年6月末時点)

【事例】 ヤフーとTポイントの会員ID統合及びポイントサービス移行
ヤフーとカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)は2013年7月1日付で、ヤフーが展開するポイントサービスを「Tポイント」に、CCCが展開する「T-ID」を「Yahoo! JAPAN ID」に統合することを発表しました。今回の提携で、日本最大級の「O2Oプラットフォーム」が構築され、ネットとリアル両方における圧倒的な経済圏の確立が狙いだと思われます。
ヤフー側にとってはリアル店舗からのネットサービス(広告等)に対する需要の獲得、CCC側にとってはTポイントサービスの拡大という、大きな相乗効果が見込まれます。お互いの得意分野に浸透し、更なるマーケットの拡大とネットとリアル間の送客が期待できそうです。
現時点では両社のポイントサービスの統合のみですが、今後購買履歴などの情報の提携も視野に入れて話を進めているとのことです。

 

■ Pontaポイント
【概要】
 ・運営会社:株式会社ロイヤリティ・マーケティング
 ・サービス開始:2010年3月
 ・主な提携先:ゲオ、ローソン、昭和シェル 等
 ・会員数:5471万(2013年5月末時点)
 ・提携企業:69社(2013年7月時点)
 ・提携店数:21,900店(2013年7月時点)

【特徴】
事業を展開する際、ポイントの実用性を強調するだけでなく、「Ponta」というキャラクタ(ブランド)を作り上げていくことも重視しています。ソーシャルメディアとの連携(ミクシィ、Twitter)も積極的に進めており、幅広い業界で新しい試みを次々と展開しています。このようなブランド戦略が成果を挙げ、会員5000万人の目標を8か月前倒しで達成したなど、短時間で急速な成長・普及ぶりを見せています。

【事例】 WILLER TRAVELはPontaと提携、高速バスの旅でPontaポイントがたまる
高速バスのマーケティング事業を展開するWILLER TRAVEL株式会社はPontaポイントの運営会社ロイヤリティ・マーケティングと提携し、WILLER GROUPが提供する商品・サービスのオンライン予約・利用にてPontaポイントがもらえるようになりました。
また、2013年7月31日(水)からは、「Ponta」のサービスキャラクター「ポンタ」がバス全面に塗装された「Ponta EXPRESS」の運行を始めました。かわいくて親しみのあるデザインが話題となっています。
更に、この特別デザインのバスの乗客に、ローソン、ピザハットなどのクーポンも贈呈し、共通ポイント導入企業間の連携集客や露出度増加効果が見込まれます。

 

■ 楽天スーパーポイント
【概要】
 ・運営会社:楽天株式会社
 ・サービス開始:2002年
 ・会員数:8357万(2013年3月末時点)

【新たな動き】
今までリアル店舗で楽天スーパーポイントを貯めるには、クレジットカードの「楽天カード」と電子マネー「楽天edy」を使って決済する必要がありましたが、2013年3月に「Rポイントカード」(クレジット機能なし)という共通ポイントカードの本格的始動を発表しました。これにより、クレジットカードと電子マネーを使わなくても、現金決済でもリアル店舗で楽天ポイントをためて、使うことが出来るようになります。
HPにて公開されている加盟店は現在タマホームだけですが、今後順次公開していく予定とのことです。
実店舗での利用にあたりカードを読み取る機械などの導入が必要となり、加盟企業にとって事前投資は避けられませんが、楽天はコストを抑えた端末の開発や取扱い手数料の軽減などの施策で、より多くの加盟店の獲得に注力しています。楽天のブランドと影響力で市場を拡大していくことが予想されます。

今後共通ポイント業界の勢力地図はどう変化していくのかは注目したいところです。

おわりに

以上のように、様々な企業においてポイントサービスの共通化が進められています。 より流動的になった顧客との継続的なリレーション構築のためには、企業側も従来の施策の枠にとらわれずに流動的な施策を打つ必要があると感じています。
顧客は今後どのようなサービスに集まっていくのか、今後のサービス動向に注目です。

参照元
※1 『ポイント・マイレージの最新動向』・野村総合研究所
※2 『2013年版 ポイントサービス・ポイントカード市場の動向と展望』・矢野経済研究所

 

■本コラムの元記事はこちら
ユーザエクスペリエンスに対応する『ポイントサービスの共通化』

 

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