企業ホームページ運営の心得

宅急便では北海道へ届かない? 通販をはじめる前に其の2

ネット通販の真のスタートラインは「売れる」を体験するところからです
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の百六十伍

楽天市場がなくなる日、その後

拙著「楽天市場がなくなる日」への問い合わせが増えています。書籍の存在を知りショッピングモールから「脱出」するためや、通販をはじめる前に読んでみたいというのです。しかし、増刷の予定もなく、すでに完全完売で出版社にも在庫はありません。

同書は「楽天のバカ」という誹謗中傷への期待に応えることはできませんが、「ネットで商売をする基本」について述べており、商売を営む方からは感謝の声が多く寄せられています。それもそのはず、「ネットで1億円儲けた」「楽して儲かる●●」「××市場必勝法」という類ではなく、ネットビジネスの「現場の心得」と「基本技術」についての解説書だからです。つまり、このコラムの執筆方針と同じということ。

今回はネット通販をはじめる方向けに、好評だった「通販をはじめる前に」の第2弾をお送りします。

議論百出する理由

実は「通販」を決心しても実際にはじめる企業はわずかです。

これは架空の企業の「会議室」でのできごと。不況に加え、経営環境の変化が利益を圧迫し、打開策をネット通販に求めることにしました。まず、配送方法が議題に上ります。クロネコか佐川急便か日本郵政か。料金表をネットで調べてみると、配送距離だけでなく「重さ」や「大きさ」でも異なり、売れた商品の大きさや個数で配送料が変わることを、どうやって購入者に伝えるかで頭を抱えます。

さらに女性社員が「振り込み料」を尋ねます。彼女は通販マニアで、振り込み手数料はジャパンネットバンクが安いが、クレジットカードなら手数料無料(正しくは店舗負担)で私ならそれを利用するといいます。

まずは超シンプルにできること

それではと、彼女に主要銀行の手数料とクレジットカードの仕組みについて尋ねると、使うだけだから詳しくは知らないと両手を前につきだして左右に振り、「無理」と意思表示し、代換え案として配送会社が集金を代行する「代引き」を提案します。配送方法、配送料金、支払い方法。組み合わせに広がる樹形図はうっそうと茂りをジャングルに変えます。

会議の結論は「継続審議」。次回までに各自で調べるという課題が課せられますが、次回の開催前に参加者全員が思うことは1つです。

探さなかった言い訳を考える

……「結論は次回へ」というのは日本人の伝統芸「先送り」です。

ベストプラクティスは排除

先送りが起こる理由の1つが「選択肢の多さ」です。一方、二者択一で先送りになることはまれです。なぜなら2つに1つの選択ならば多くの日本人は議論もそこそこに「多数決」で決めてしまうからです。この習性を利用します。

通販を初めてはじめるときの配送方法として、私はまず「メール便」か「定形外郵便」と二者択一で提案します。前掲の理由ともう1つ、「全国一律料金」だからです。制約はありますが、届け先ごとの料金設定は不用で基本的にもっとも安く発送できます。急ぎの場合は「速達」といオプションもあります。

ここまでで疑問を持たれた方は「経験者」でしょう。ショッピングモールやカートソフト(通販処理に特化したWebアプリケーション)を使えば、こうした設定は簡単にできると。しかし、本稿は「はじめる前」が前提条件。先ほどの「会議室」を思い出してください。どのショッピングモールを選ぶのか、当社に適したカートソフトはどれか、という選択肢は「先送り」の原因を増やします。また「簡単にできる」とは開発者や経験者の意見で、「ズブの素人」にはハードルが高いものです。

とにかくネット通販をはじめさせることが本稿の狙いです。

支払いは現金のみでもOK

全国一律料金の配送方法としては、日本郵便の「レターパック500(同350)」もあります(エクスパックは平成22年3月31日で販売終了)。もちろん、こちらでもOK。ただし、これらは「代引き」に対応していません。代引きであれば、クロネコヤマトの「宅急便コレクト」、日本郵便の「定形外郵便」が可能です。代引きの手数料はクロネコなら315円(1万円未満)、日本郵便は250円(30万円以下の場合)、これに送料プラスしたのが配送費です。たとえば、宅急便コレクトなら送料+315円の手数料、これに「事務手数料」を加えて客に示します。伝票を書く人件費、梱包にかかる資材、出荷する手間賃はバカにならないので必ず上乗せします。ちなみに、クロネコヤマトでは「瓶詰めのアロマオイル」は北海道や沖縄など、空輸になる地域には送れないのでご注意下さい。

ヤマト運輸 航空搭載できない品物

代引きよりもオススメしているのが「前金(先払い)」です。購入申し込み後に、指定口座に代金を振り込んでもらいます。商品を欲する人なら前金にも応じますし、「BtoB」で「初回前金」は普通の取引条件です。

まずは「売れる」を経験する

振込先もはじめは1ついいでしょう。選択肢を増やさないことに加えて、入金確認(オンラインでの確認が有料の金融機関もあり)や現金の移動(当たり前ですが、自分の金でも銀行間で振り込み手続きをとれば手数料がかかります)といった間接経費は馬鹿になりません。クレジットカード決済も最初は見送ります。「どのクレジット会社と契約するか」という「会議」を避けるためです。

ここまで絞り込めば、その日から通販をはじめることができます。ネット通販に挫折する企業は、選択肢の多さに結論を出せないことが主な理由です。またネット業界は毎分単位で新しい「ネタ」を提供し続けており、会議のたびに新たなネタ(選択肢)が提供され会議は踊り出します。一方、始めた企業のほとんどは「成果」を得ることができます。そしてこれは当然のこと。ネット通販とは「市場(いちば)」を変えただけで、別の市場(リアル)で売れているものは河岸をかえてもそれなりに売れます。

複数の決済方法や配送方法を用意し、選択できるようにすることは通販のベストプラクティスの1つですが、通販初心者がはじめから100点を目指そうとするのは敷居が高く、議論ばかりで前進しないことは目に見えています。

ネット通販をはじめてみると、24時間注文が相次ぐという幻想は砕かれます。しかし、ネットでも「売れる」を経験します。これがネット通販の真のスタートラインです。

今回のポイント

はじめるために選択肢を減らす。

案ずるより売るが易し。

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