【レポート】データドリブン・マーケティング&ADフォーラム

ネスレ日本のCMOが描く4つの成長戦略とCMOの役割

「ネスカフェ」や「キットカット」をトップブランドに押し上げたマーケティング戦略

「ネスカフェ」や「キットカット」をはじめ、知らない人がほとんどいない業界トップのブランドを多数抱えるネスレ日本。同社のビジネスを支えているのは、たゆまぬイノベーションだった。同社CMOの石橋氏が、自身の経験を踏まえながら、ネスレ日本におけるマーケティング戦略について、成功事例を交えながら解説した。

ネスレ日本のビジネスの成長を支える4つの成長戦略

ネスレ日本株式会社
マーケティング&コミュニケーションズ本部
チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)
常務執行役員
石橋昌文氏

「ネスレ日本におけるCMOの役割とその展開について」と題して、データドリブン・マーケティング&ADフォーラムの基調講演で登壇したネスレ日本のCMOである石橋昌文氏は、「ネスレ日本におけるCMOの役割は、縦割りを超えたマトリックス組織でマーケティング機能を発揮させることにある」と語り、自身の経験を踏まえながら、ネスレ日本におけるマーケティング戦略について、成功事例を交えながら解説した。

はじめに石橋氏は、「ネスレにおける成長戦略」について説明。その戦略とは、次に掲げる4項目となる。

  1. イノベーション&リノベーション
  2. 消費者コミュニケーション
  3. いつでも、どこでも、どんな形でも製品の入手が可能
  4. 低コストで高効率の運営
ネスレ日本グループの成長戦略

これらはネスレのグローバルの成長戦略として掲げられており、各国のネスレ法人が、それぞれの国の状況に応じて市場を分析、プランを勘案している。石橋氏は4つのポイントのうち、1~3においてネスレ日本が実施してきたマーケティング施策について、具体例を挙げながら紹介した。

新しいイノベーションを「ネスカフェ」全ラインナップに展開

まず、1の「イノベーション&リノベーション」で掲げられているポイントは、「新セグメントの創造につながる、より大きく、より大胆な、より優れた(B3: Bigger, Bolder, Better)イノベーション」である。そして、B3イノベーションの考えに基づいた施策の1つが、よりクオリティの高い製品の開発、つまり製品のイノベーションだ。

その一例が、「ネスカフェ レギュラーソリュブル コーヒー」である。これは、微粉砕した焙煎コーヒー豆を同社独自のコーヒー抽出液と混ぜ合わせて乾燥し、ソリュブルコーヒーの粉の中に封じ込めるという「挽き豆包み製法」を採用したコーヒーだ。同製法は、日本が世界ではじめて製品に導入した技術であり、非常に多くの消費者の方から評価を受けたという。その感触を得て、2013年秋に「ネスカフェ ソリュブルコーヒー」全ラインナップを“レギュラーソリュブルコーヒー”に一新したという。

家庭内のみならず、シェフや料理人、カフェ経営者など、外食産業に携わる方々からも高い評価を得ており、有名レストランでも提供されているという。

「ネスカフェ」全ラインナップへ展開したのは日本だけであり、各国の「ネスカフェ」の売上をみても、日本の業績は非常に伸びている。これは、新しいイノベーションを、「ネスカフェ」の全製品ラインナップに展開した結果だと考えている(石橋氏)

さらに、レギュラーソリュブルコーヒーを認知してもらう手段として、「ネスカフェ」をお店で採用している有名シェフや料理人にテレビコマーシャルやホームページに登場してもらうなどコミュニケーションの施策も進めている。

もう1つのコーヒーのイノベーションが「ネスカフェ システム」だ。これは、ネスレ日本のコーヒーマシンを家庭内にも提供し、より消費者とネスカフェの接点を増やすための試みとして展開したもの。5種類のカフェメニューを家庭内で飲める「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」をはじめ、14種類以上のカフェメニューを1台で楽しめる「ネスカフェ ドルチェ グスト」などが展開されている。

「ネスカフェ システム」コーヒー体験のイノベーション

例えば「バリスタ」はコーヒーの、見た目、香り、味の3点を楽しんでもらえるマシンであり、これまでの「ネスカフェ」と違った楽しみ方ができるといったイノベーションが実現されている(石橋氏)

2009年から提供開始された「バリスタ」は累計230万台以上、2008年に国内発売された「ドルチェ グスト」も累計140万台以上の販売実績に達しているという。

ビジネスモデルのイノベーションで家庭外にもネスカフェを拡大

これらのネスカフェシステムを用いたアプローチをさらに推し進め、家庭外をターゲットとした施策が「ネスカフェ システム インサイド」というビジネスモデルだ。具体的には下記の3事業が挙げられる。

  1. オフィスへの展開を狙った「ネスカフェ アンバサダー」
  2. スーパー、コンビニ、ベーカリーショップ、映画館内等での展開を図る「カフェ・イン・ショップ」
  3. 既存の喫茶・外食事業者に向けた「カフェ ネスカフェ サテライト」

例えば、ネスカフェアンバサダーはオフィスで使うことを前提として、ネスレ日本からコーヒーマシンを無料で借りているユーザーを言う。このアンバサダーにマシン専用のカートリッジをネスレ日本が販売、アンバサダーを通じたオフィスでの拡販を推進するというビジネスモデルだ。現在、全国17万人のアンバサダーが活動しているという。

これらの施策は、コーヒーマシンを基軸とした新しいビジネスモデルのイノベーションを広げることができた例である。これまでシェアを伸ばすことが困難だった家庭外にもビジネスチャンスが広がりはじめており、今後、この3つのアプローチがこれからの成長の大きな柱になると考えている(石橋氏)

ブランドのさらなる認知度アップと
ROI向上を目指し広告宣伝からPRへシフト

4つの戦略の2つ目となる「消費者コミュニケーション」では、重点施策として「広告宣伝からPRへ」を掲げている。

現在、ネスカフェ以外にも、チョコレート菓子である「キットカット」は、国内で知らない人がほとんどいないブランドに成長している。そのため石橋氏は、今からブランドの認知に広告が貢献できる役割は少なく、新たな施策を講じることが重要と考えたのだ。

そうしたPRのための施策の一つが「キットカット受験生応援キャンペーン」だ。九州の方言で「きっと勝つとぉ(きっと、勝つよ!)」が「キットカット」に似ていることから、口コミで広まり始めたことをきっかけに、「キットカット」を通じて受験生を応援するものだ。例えば、ホテルと提携し、宿泊した受験生が受験生会場に向かう朝に、ホテルからメッセージを添えてキットカットをプレゼントする。この取り組みは十数年続けられているが、受験生、ホテル側ともに好評を得ているという。「ブランド単体で難しいコミュニケーションやアプローチを外部のパートナーと組んで行った例で、現在、キットカット以外にもこうした枠組みを広げている」と石橋氏は話す。

直販とデジタルコミュニケーションの融合

ネスレアミューズ

4つの戦略の3つ目となる「いつでも、どこでも、どんな形でも製品の入手が可能」における、直販とデジタルコミュニケーションの取り組みが、ネスレ日本のエンターテインメントサイトである「ネスレアミューズ」の構築である。

これまでネスレ日本ではブランドごとにサイトを構築していたが、それぞれの情報は横串でつながっていなかった。そこで、ブランドサイト、ECサイト、集客のためのエンターテインメントサイトを融合した1つのコンシューマサイトの構築に着手。2010年11月からの運営を開始した。これも日本固有の取組みで、近年ネスレグループの中でも最もビジターを集客しているサイトにまで成長しているという。

活動結果をモニターし、新たな発見を探る

講演の終盤、石橋氏は、ブランドパフォーマンスのモニタリングとその費用対効果について言及した。さまざまな施策を実施する中で、最もROIが高かったのは「PR」と「店舗におけるデモンストレーション」であることが判明したという。

その結果に基づき実施されたのが、ソフトバンクロボティクスが開発した感情認識パーソナルロボット「Pepper」を、日本全国の家電量販店の「ネスカフェ」のコーヒーマシン売り場の接客に活用するというものである。この施策は日本の多くのメディアで紹介されたほか、オンラインメディアなどを通じて全世界への露出も図れたという。

最後に石橋氏は、4つの戦略の4つ目である「低コスト高効率」の実現のため、こうしたブランドパフォーマンスのモニタリングとその費用対効果を図っていくに当たり、ネスレ日本がどのような指針を定めているのか、次のように強調した。

私たちは、実際に何らかの活動を行った結果をモニターし、その中から新たな発見を探りながら次の施策を進めていくというサイクルで動いている。データも重要であるが、はじめにデータありきではなく、「このような施策を実施することで、次はどうなるのか」を考え、その結果に基づき次の一手に繋げているのだ(石橋氏)

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