恐怖のリニューアル体験。検索結果から自社の名前が消える日
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の326
世界遺産はならず
20世紀のウェブサイトを今に伝えていた「愛生会病院」のサイトが閉鎖されました。コラムニストの「蛭”芸子(ビル ゲイコ)」氏が「IT世界遺産に」と「月刊Will」誌上で提唱するも、残念ながら7月1日に「Not Found」と幕を閉じます。
愛生会病院のサイトが公開されたのは1998年。当時は、未来永劫サイト更新は不要であると考える経営者は少なくありませんでした。自社ビルや看板のイメージが強かったのでしょう。
しかし、いまや数年に一度、あるいは毎年、さらには季節ごとのサイトリニューアルは必須といっても過言ではありません。CSSやHTMLのバージョンの変化だけではなく、サイトデザインにもトレンドがあることが認知されると同時に旧態依然としたデザインを嘲笑する向きもあります。
ところがその「リニューアル」による失敗は少なくありません。検索結果の順位が下がるどころか、「消滅」した事例もあります。スパムや違法ではありません。今回は「本当にあった怖いリニューアル」です。
問い合わせがゼロになった理由
ある健康関連施設のサイトがニューアルすると、モバイルサイトからの「問い合わせ」が減りました。モバイルサイトの問い合わせページを確認すると、当然のように表示されています。そこでリニューアルしたコンテンツに不備があり、他社との競争に負けているのだろうと考え改善を検討していました。リニューアルの直後に「減った」事実から、原因をリニューアルそのものに求めるのは自然な発想です。
ところがある日、お客がこう告げます。
サイトから問い合わせができない
その問い合わせページは「Perl」で処理されており、プログラムファイルの稼働が許可(パーミッションの設定が)されていなかったのです。
業者を怒鳴りつけても、過ぎた時間を取り戻すことはできません。また、契約内容によって異なるので一般論ですが、プログラムが稼働しなかった期間の逸失利益について損害賠償を求めるにしても、リニューアルの前後ということから損害の算定は難しいでしょう。そして業者の責任を免じるものではありませんが、そもそも公開前の自社サイトの稼働確認は、リニューアル後のWeb担当者の最重要業務です。
医者の不養生
また、ある別のIT系企業は、サイトリニューアルによって従来の事業コンテンツの整理統合を行いました。もちろん、自社内での作業です。リニューアルから2週間後、ようやくチェックしたGoogle アナリティクスで総PVの異常な減少(異常値)に気がつきます。整理統合したサイトからのリンクがいくつも切れており、サイト内の回遊ができなくなっていたのです。
中小のIT企業で、毎日のようにアクセス解析をしているところはあまり耳にしません。実務に追われてチェックする余裕がないというのが、医者の不養生の言い訳です。
こまめなチェックと真実と
技術的には階層とその指定方法の変更によるものです。先の「Perl」の事例と同じく、超初歩的なミスで弁解の余地はありません。超初歩的ミスを換言すれば「うっかり」であり、「うっかり」は原因特定に時間がかかることも少なくありません。「そんなはずはない」という思いこみが、初歩的な確認を遠ざけてしまうからです。
特にリニューアルにおいては、それまで「当たり前」に稼働していた機能のチェックが疎かにされる傾向があります。匿名ながら、この業者の名誉のために補足すると、顧客案件では複数のスタッフによるチェックを行っています。自社案件だからと、担当者1人に丸投げしたことで確認作業がなおざりになっていたのです。
そして「本当にあった怖いリニューアル」の最後は「消えた検索結果」です。
ビッグワードから彼らが消えた
ある団体のサイトが検索結果から消失しました。ビッグワードと言っても過言ではないキーワードを冠する団体で、準公的機関といっても大袈裟ではありません。私の知る限り5~6年以上、そのキーワードで上位表示されていたのに忽然と姿を消します。スパムリンクなど違反をするような団体ではありません。
そこで、ブラウザの訪問履歴からサイトを探し出してアクセスすると、「リニューアル」していることがわかりました。ざっと見渡した限り、やはり「検索エンジンのガイドライン違反」や「違法性」は認められません。しかし「ソース」を見た一瞬で、原因が特定できました。
フレーム構造
になっていたのです。
実務チェックはサイト管理者の仕事
スクリプト言語をふんだんに盛り込み、インタラクティブにリニューアルされたサイトは「今風」です。しかし、それがフレーム構造に納められているのです。愛生会病院のサイトが公開された時代、メニュー(ナビ)と本文を明確に区別させることができるフレーム構造は時代の花形でした。
しかし、検索エンジンとフレームページは相性がよくありません。フレーム内で指定されたコンテンツとページをクローラは紐付けしないため、まっさらな何も情報がないページと判断してしまいます。まったく効果が望めないということではありませんが、限定的であり、フレーム構造はSEOにおいて圧倒的に不利なのです。
幸いにも、最も多くの訪問者を連れてきていたビッグワードの検索結果は生きていました。もし、そのビッグワードの検索結果でも「消失」していたら……想像しただけ嫌な汗が額ににじみます。
ビジネス向けのサイトにおいて、PDCAを回して定期的なリニューアル(改善)を行うことは不可欠となりました。愛生会病院のような「古典」が通じないことは、閉鎖した現実が物語ります。そしてリニューアルに失敗はつきものです。失敗を最小限に抑える処方箋は、徹底的な確認作業しかありません。
今回のポイント
リニューアル後のチェックは発注者の仕事
あたり前の機能も必ず確認
追伸
12年前の今日。すでに辞表を提出し、独立への不安を希望で上書きしていた夜、飛び込んできたニュース速報が心のフォーマットを書き換えます。9.11、米国のツインタワーへ旅客機が突入したと報じられたものの、続報がほとんどないまま、明け方までまだ貧弱だったネット回線に接続し、情報収集をしていたことを思い出します。この日付の寄稿にあたり哀悼を捧げます。
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