企業ホームページ運営の心得

キャラ立ちぬ。マンガ文化の恩恵をうけるなり

Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の七十伍

せんとくんの大成功

「南都(710年)見事な平城京」の遷都1300年祭マスコットキャラクタ「せんとくん」が物議を醸しました。その可愛らしさへの疑問に端を発したのですが、話題作りという点からは大成功の「キャラクタ(キャラ)」だったといえます。

民間企業の販促目的だけでなく、地方自治体や行政機関まで「キャラ」をもつ、日本人のキャラ好きはグローバルスタンダードに照らし合わせて珍しいものです。また、粗製濫造されるお粗末キャラは嘲笑の対象だったはずが「ゆるキャラ」と呼ばれ暖かな失笑に包まれるようになりました。お笑いタレントの「キモかわいい」と重なります。

2001年に発表された書籍「87%の日本人がキャラクターを好きな理由(香山リカ著)」でキャラ好きについて指摘されていましたが、その傾向は年々強くなっています。しかし、キャラが増え続けるのには「好まれている」だけではなく、非常に便利な大人の事情も見え隠れします。そして同時に、ウェブ担当者にとっても便利なツールでもあるのです。

ゆるキャラがこけるワケ

最近は「ひこにゃん」に「まりもっこり」と、「地域キャラ」が注目されるようになりました。「キティ」や「たれぱんだ」のような全国区でなくても、効果を上げるものと期待されます。我が町足立区もキャラの多い町です。カエル、鳥、犬、ドラゴン、雲に乗った双葉など、「ネットで検索」すると、わずか3分でこれだけ見つかりました。それも自治体や関連団体に限定したものだけです。しかし、彼らが区民に愛されているかというと……名前すら思い出せません。

キャラは取り組みやすい反面、失敗しやすい「企画」です。その最たる理由が、「イラストとキャラを混同」していることにあります。イラストを使えばウェブやポスターの見栄えは良くなります。もちろん、その効果も期待してキャラは作るのですが、後述するようにキャラは動きだし語り出したときに真価を発揮するもので、決して「余白の穴埋め」ではないのです。

イラストありきで始めたキャラは何も語らず、静かに退場していきます。

禁断の木の実。命名イベント

「人事異動」で愛情が引き継がれず消えていくキャラも後を絶ちません。

自治体・行政系特有のしきたりも失敗を誘発します。「単年度会計」により継続性が失われ、「縦割り行政」が組織間でキャラの共有を妨げるのです。

キャラ量産の裏側に大人の事情が眠ります。粗品の1つも用意しておけば、「名付け親」になりたがる素人は多く、「命名イベント」は他の公募イベントに比べて反響が高いのです。それが「実績」となります。命名されたキャラクタが活躍するイベント、つまり本番がコケたとしても「言い訳」が担保できるという寸法です。

本末転倒です。しかし、どうしても「目に見える効果」を求められる場面に遭遇したときは思い出してください。

ジャビットもピーポくんも苦労人

失敗を避ければ成功は容易く、単年度で完結せずに継続を重視します。

訂正、更新が容易なウェブは失敗をなかったことにするのに長けた媒体ではありますが、「キャラ」を活かすためには続ける勇気が求められます。どんな愛くるしいキャラであっても受け入れられるまでは時間を要するからです。

プロ野球、読売巨人軍のマスコットキャラクタ「ジャビット」が登場したのは1992年です。東京ドームの開幕戦は必ず球場に見に行くという生粋の巨人ファンの友人でさえ、「YG」を顔に配した「狩られる動物」をイメージするウサギ風の見た目に沈黙しました。バブル直後の時代、ゆるキャラはダサイという評価が一般的でした。警視庁のピーポくんも「なんで警察がキャラ?」と、その微妙な容姿と共に評されました。しかし今、東京ドームを湧かせ、「I SHOT ピーポくんTシャツ」が登場し、逮捕者をだすほどの人気(?)となりました。

商売人の代弁者としてのキャラ

中日ドラゴンズのマスコット「ドアラ」も、1994年が初出ですから苦節14年です。但し、これは「大ブレイク」の話しで、ジャビットもドアラもファンの間では以前から愛されており、ファンに愛されることがキャラの本分です。

商売用のキャラは「人型」が便利です。動物をモチーフにしても、「人型」にすることでなんでも演じさせることができます。とあるテレビゲームソフト販売店に、販促用のオリジナルキャラクタを用意することにしました。桃太郎をモチーフにした「桃子」を中心として、サル、イヌ、キジのパーティーです。彼女は正月になると干支の着ぐるみを来てチラシやホームページに登場します。サルとイヌは初めから「着ぐるみ」をきている人間だという設定で、さらにサルの性格は「エロ」としていたので、アダルトな商品は彼の出番です。今では彼らの活躍なしでの販促は成立しません。大ブレイクはしていませんが、近隣の同業者との差別化に成功しています。

漫画文化の恩恵を利用する

いいにくいことが言えるのもキャラのメリットです。角が立つ台詞も「キャラ」がいう分には、当たりが柔らかくなります。そして、漫画文化の恩恵から、吹き出しをつけてあげれば「人」以外が話すことに日本人は違和感を感じません。「キャラ」が話しているというお約束があるからです。

そして、必ず職場に1人ぐらいは「簡単な絵なら描ける人」がいるのも漫画文化の恩恵です。プロのイラストレーターに発注し、モデルさんに依頼するよりはるかに安価に「専属広報マン」が雇えます。

漫画家や作家が「キャラがしゃべる」と表現するのは、そこに個性が存在するからです。逆に「こんな台詞は言わない」を排除することで、台詞が浮かんでくることもあります。キャラはこのレベルに達して「一人前」です。そして、余白を埋めるだけのイラストでないと知ります。

苦情係、商品案内、教育係。キャラが育つとどんな「不当労働」もこなしてくれて便利です(笑)。

♪今回のポイント

キャラでなんでもいえるポジションをゲット。

始めた以上は続ける覚悟を。

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