企業ホームページ運営の心得

誰のためのAISASか。楽天、三木谷浩史氏に学ぶ現場視察術

Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の四十八

商売は会議室で生まれない

商売用ホームページで何が肝心かと問われることがあります。厳密には業種業態で優先順位が変わりますし、企業の体力や体質により戦い方が変わるので「これ」というのは無理があります。そこで私は「あなたの(会社やスタッフ)の方が知っていますよ」と答えることにしています。人気ドラマ「踊る! 大捜査線」での名台詞「事件は現場で起きている」はそのまま商売に当てはまるからです。

売上は「現場」で立つのです。決して会議室ではありません。会議はその「効率化」の為にあり、会議だけで生まれる売上げなどありません。ところが「組織」はこれを忘れがちです。

大企業や老舗企業になるほど、会議室を重視するようになります。現場を離れて久しい社内の「エライ人」の意見に従う空気が醸成され、思考停止に陥いってしまうからです。まるで「生活習慣病」のようで、気がついたときには動きの重いメタボリックな企業体質になってしまいます。商売用ホームページでは致命的な体質です。

コンテンツは現場にあり、売り上げも現場で上がります。

そこで処方するのが「客になれ」というサプリメントです。

切腹ではなく自腹を切る

実際に繁盛店や好感を持つ店で、通販なら商品を購入し、サービスなら登録や入会をします。

自分の店を客の視点で見ることは大切です。しかし自分や身内には優しいものですから、贔屓も弁解もしない視点を身につけるのは容易ではありません。そこで自分が本当の客になってみるところから始めるのです。

会社の経費を使わず自腹を切って。

経費では会社の論理に結論を寄せることがありますから、一番安いもので良いので必ず自腹を切ります。

自分の財布からだし「本当の客」になることで「現場」を体感することができます。

30万円のマッキントッシュで悩んだ経験

経験は人を成長させます。

会社員の頃、DTP部署設立の責任者に任命されました。ほとんど業者の言いなりの数百万円の機材の見積もりにOKを出したのは、私を選んだ任命責任と最終決定は会社が下したという甘えを否定しません。独立後30万円のマッキントッシュを一台買うのに数か月の検討期間を要しました。その過程で学んだものは計り知れません。スペック、トレンド、スティーブ・ジョブズの奇行等々。

経費での購入と自腹との差は、会社の親睦会の野球チームに参加するのと、自費でマイナーリーグの練習に参加するぐらいの開きがあります。最近では「ネット未経験」は減りましたが、「通販」「問い合わせ」「申し込み」となると激減します。

客として「経験値」を積んで、未経験者のタワゴトをたしなめるのもWeb担当者の仕事です。この際、自腹で勉強したと告げるとオジサン達に一目置かれるので「自己申告」をお忘れなく。

あなたを、もっと、知りたくて

経験は最良のコンテンツです。経験は現場でしか積めません。以前、アマゾンで1円出品が可能な理由を紹介(第26回コラム)したのも、「長い文章は読まない(第45回コラム)」の中で紹介した「マクドナルドのセット割引き」もすべて経験から得たものです。そして毎日のように、私の事務所にネット通販で買った商品が届くのは、買う側の気持ちがわかれば売ることは簡単だからです。

客は「欲しい」と思った瞬間に買い、理屈は消費行動を正当化する為のものです。これも客になるとわかります。

友人の新築祝いを探しているときに、国内最大のネット市場で数々の賞を受けている「カニ屋さん」に辿り着きました。

「まずは自分で食べてみて」「不揃い品だからお試しにはちょうど良い」「冷凍だからいつでも食べられる」

などなど理由付けしましたが、甲殻類をこよなく愛する故の「欲しい」という衝動を抑えることができなかっただけのことです。ちなみに届いたカニは近所の「角上魚類(魚専門のスーパー)」より味が数段落ちました。

AIDMAのビジネスモデルとAISASという普通

マーケティングの古典にある「AIDMA(アイドマ)」はAttention(注意)、Interest(関心)、Desire(欲求)、Memory(記憶)、Action(行動)の頭文字で、広告を見た人が商品を購入するまでの過程を表すと引用する人が多いのですが、コンサルタントや評論家という「売れた理由を解説するのが商売」の人のツールとしては便利でも、売る方法を考える現場ではあまり役に立ちません。

Action(行動)以外は殆ど無意識で行っていることをどうやって導くというのでしょうか。後付ならどんな解説でもできます。

最近ではインターネットでの消費動向をアイドマになぞり「AISAS」というものがこれも微妙です。気になったらまず検索で探すという、今時のライフスタイルから、AIDMAのDがSearch(検索)に、MがShare(ネット上で情報を共有しあう)になったものです。しかしSearchを「探す」に、Shareを「井戸端会議(情報交換・共有)」と置き換えると、何のことはない普通のおばちゃんのライフスタイルでしかありません。また、Dの欲求(=欲しい)がなければ誰も商品を買わないのですが。

専門家の言葉(=商売道具)はときに商売用の足かせとなります。

「楽天マニア」三木谷浩史

楽天市場の三木谷浩史さんは急成長時代の取材で「楽天マニア」と自らを語っていました。誰よりも楽天市場で買い物をすることが理由で、その経験をシステムや企画にフィードバックさせたといいます。自身が「客」となることで、送料や振り込み手数料、返品、他の客の声に使い勝手などさまざまな課題が浮き彫りになるのです。

ロマンティックなたとえをするなら「恋をして初めてドキドキと切なさを知る」といったところでしょうか。そして現場を知らない会議室は、恋愛経験のない男子中学生の妄想のように不毛で徒労に終わります。

商売用でネットに取り組むなら、まずは買ってみること。メタボな会社も同じです。

売り手の前に「よき消費者であれ」。客の本当の気持ちを知るのは現場しかありません。

♪今回のポイント

理屈をこねるより自腹を切る。

経験を積むなら会社経費ではなくポケットマネーで。

何事も独りよがりはNG。客観的視点でお客の立場に。

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