「自治体ウェブ2.0」を目指した先進サイトの背景にある理念とは/藤沢市役所
かわちれい子のウェブマスターのお仕事
藤沢市役所ウェブマスター 田中 理氏
取材・文:かわちれい子(CreatorsNet)
PHOTO:佐治輝幸(OPR)
会社によって大きく異なる「ウェブマスター」の実態。所属部署は? 予算確保は? ワークフローは? サイトの目的は? 注目しているテーマは? さまざまなウェブマスターの姿を見ることで、これからのウェブマスター像を見出したい。
江ノ島などで知られる神奈川県藤沢市のウェブサイトでは、早くからCMS(コンテンツ管理システム)を導入するなど、先進的な動きをしており、『日経パソコン』の「e都市ランキング」でも2004年に1位、2005年に4位、2006年には2位を獲得している。
自治体では珍しく、ウェブ担当の仕事とともに課をわたり歩いたウェブマスターの田中氏に、自治体サイトのウェブマスターとしての心得を伺った。
藤沢市ウェブサイトの基本的な情報はこちらを参照
ポッドキャスト+文字で徹底的に情報公開
システム連携の防災情報はケータイサイトでも
●かわち 最近、ウェブサイトをリニューアルされたばかりだそうですね。
●田中 はい、4月1日にリニューアルしました。
●かわち 4月1日って、日曜だったのでは?
●田中 CMSを入れているので、そういうこともできるんですね(笑)便利です。
●かわち 今回のリニューアルの目玉は、どこですか?
●田中 いくつかあります。昔から、目の不自由な方にも市の広報をお届けするのに「声の広報ふじさわ」というのを作っていたのですが、この4月から、これをポッドキャストでも配信するようにしました。また、「市長の部屋」というコンテンツを新設しました。プロフィールは当然のこと、市長動向や交際費の支出などまで公開しています。
●かわち かなり細かいところまで公開されていて、驚きました。
●田中 そうですね。やはり、自治体として情報公開というのは、大きなミッションですからね。まだ正確には集計していませんが、市長の部屋へのアクセスは結構あって、人気コンテンツの1つになりました。
●かわち ポッドキャストでの広報紙の配信というのも、おもしろい取り組みですよね。
●田中 昔から、広報紙の読み上げテープの貸し出しはしていたんですよ。文字を読むことに対して不自由な思いをしていらっしゃる方も多いですからね。でも、それが今年の4月10日発行の号からCDでの貸し出しということになって、それだったら、ポッドキャスト用に音声ファイルを作るのも簡単になるということで始めた取り組みです。
●かわち そういう連動はよくあるんですか?
●田中 僕の所属は広報課で、広報紙の発行、CATVやFMの広報番組の制作なども広報課の業務なんですね。なので、連動させるのは難しいことじゃないんです。
●かわち 広報ということは、市民の方の声なんかも届くんですよね?
●田中 はい。メールや電話、お手紙などをいただきます。もちろん、ウェブサイトへのご意見やご要望も数多くいただきます。今回のリニューアルでは、市民のみなさんの声から実現した機能もあるんですよ。
●かわち それはどんな機能ですか?
●田中 トップページの「防災インフォメーション」です。光化学スモッグの注意報や暴風雨警報のときなどに使用される防災無線の放送が聞き取りにくい、というご意見をいただくことが多かったんです。確かに、風向きによって聞き取りにくいことがあったり、大雨のときなどは雨の音にかき消されてしまうこともあったりして、肝心なときに情報を伝えられない可能性があるんですね。そこで、防災無線のシステムと連動させて、トップページにリアルタイムで情報が掲載されるようにしたんです。
藤沢市は、海もあれば河川もある。ということは、津波や河川のはんらんなどの自然災害の危険性もあり、その危険性があるときは、あらゆる手段で市民のみなさんに伝えなければならない。その手段の1つとして、インターネットがあるということです。
藤沢市では、「ぷちネットふじさわ」というケータイサイトも用意していますが、こちらのケータイサイトとも連動しているんですよ。
更新作業は各課の現場の手で
自分はエバンジェリスト兼ヘルプセンター
●かわち 藤沢市のウェブサイトは、どのようなユーザーを想定しているんですか?
●田中 第一のターゲットは、住民の方です。個人でお住まいの方もそうですが、藤沢で事業を営んでいらっしゃる事業者の方も含まれる、広義の住民ですね。また、藤沢といえば江ノ島がありますから、観光でおいでになる方も多くいらっしゃいます。また、これから藤沢に住んでみようかな、という方もいらっしゃいます。このような方々が、主なユーザーですね。コンテンツの分類も、そのように分けています。
●かわち そういったユーザーが欲しいと思う情報も、多岐にわたりますよね。生活に関することから事業に関することまで、本当にたくさんの情報が掲載されていますが、ウェブサイトの更新はどのような手順でやっていらっしゃるのですか?
●田中 基本は各担当課が作業しています。ウェブサイトの情報を更新したいというときは、その課でページを作ってもらって、課長の承認を経て公開、という手順です。CMSを導入しているので、アップデートしたいと思ってから実際に更新が反映されるまで、導入以前に比べると格段にスピードアップしました。
●かわち ということは、更新の権限は各担当課にあるということですか?
●田中 はい。内容についても、各課の権限で掲載しています。藤沢市には120以上の課があって、それらが独自に内容を更新しています。最終的には課長が決めることになりますね。
●かわち では、田中さんの業務は、全体の統括ということになりますか?
●田中 そうですね。普段はエバンジェリスト的な役割です。部内や課内の研修で講師をやることもあります。リニューアルのような大きな業務のときには、全体の方向性を決めたりだとかがメインの業務になります。どんなシステムを導入するか、ということも考えますね。
●かわち 職員のみなさんの意識レベルも高そうですね。
●田中 はい。リニューアルをするぞというときには、庁内の部局横断でワーキンググループを作って、そこでウェブサイトの役割やディレクトリを考えたりするので、庁内全体にウェブサイトのことを考える人がまんべんなくいる、という感じですね。
もちろん、年中リニューアルをやっているわけじゃありませんから、私以外は本来の業務に加えてウェブサイトの更新を行うことになります。なので、ウェブサイトの更新作業は負担といえば負担ですよね、でも、その壁を乗り越えられるように、簡単に更新できる仕組みを作るのが私の仕事ということになります。ただ、本来業務の内容によって発信する情報が多いところと少ないところという偏在はありますね。そこらへんは、まだまだ意識改革が重要だなあと思います。
●かわち 庁内の職員の方から、電話がかかってきたりしませんか。CMSの使い方を教えてくれ、とか。そういうときは、どうされてるんですか。
●田中 ありますよ。更新したいんだけど、どうしたらいいんだ、って。
●田中 庁舎が同じ人の場合は、なるべく僕の席まで来てもらって、一緒にやるようにしています。庁舎が違った場合や電話で足りそうな場合には電話でコミュニケーションしますが、会話の最後には「わからなかったらまたいつでも電話してきてくださいね」と付け加えるようにしています。
こういう場合にやっちゃいけないのは「マニュアルの○○ページに載ってるので見てくれ」という答え方ですね。これではコミュニケーションが成り立ちません。ウェブサイト運営って、結局は人と人とのコミュニケーションじゃないですか。そこには、相手のことを考えるという「やさしさ」が必要ですよね。それなのに、使い方がわからない人を突き放すのは、やっぱりダメですよね。
ウェブサイトは市民とのコミュニケーションのために
●かわち アクセス解析などもご自分で?
●田中 はい。マンスリーで集計しています。
●かわち 集計結果は、職員のみなさんと共有されているんですか?
●田中 イントラネットで人気トップ100コンテンツを発表したりしていますよ。人気コンテンツがわかると、情報発信のやり方も変わってきますよね。ひいては、ウェブサイトの活性化につながります。
イントラネットで共有するだけでなく、アクセスの多かったカテゴリやサイト内検索でよく使われたキーワードは、サイトのトップページにも表示しています。
●かわち 「よく参照されるカテゴリ」や「注目のキーワード」ですね?
●田中 はい。そこは自動で更新しているのではなく、家内制手工業とでもいいましょうか、手動で更新しています。もちろん、ログ解析はツールを使ってますけれどね。
●かわち やっぱり、季節性は出るんですか?
●田中 季節性というか、生活している人が見えます。たとえば、今年は統一地方選挙の年でしたけれど、選挙の時期になると議会や選挙管理委員会のページへの関心が高まります。転居シーズンになると「ごみ」の情報へのアクセスが増えますし、冬になると予防接種のページにアクセスが増えたりして、市民のみなさんに使われているんだなあとわかります。
こういった情報は、同時期に多くの方が必要とされることが多いので、「最近はこんなコンテンツにアクセスが多いんですが、あなたが探していらっしゃるのは、もしかして、この情報じゃないですか?」という提案として、「よく参照されるカテゴリ」や「注目のキーワード」という形で表現しています。こういうことは、常に市民のみなさんがどんなことをウェブサイトに求めていらっしゃるのかを考えていないとできないことです。常に市民に向いている。自治体のウェブサイトって、それが重要なことだと思います。
●かわち ウェブサイトを通じて、市民のみなさんとのコミュニケーションをとる努力をしていらっしゃるということでね。
●田中 はい。PCサイトでもケータイサイトでも「意見提案箱」というコンテンツを用意して、フォーム形式で市民のみなさんから市政に関するご意見やご提案をいただくようになっています。
また、テキスト版を含めてPCサイトの全コンテンツページにページ評価機能を「このページに関するアンケート」として設置していて、ウェブサイトに関するご意見やご要望をいただいています。たとえばイベント情報をカレンダー形式でも表示してほしいというご要望がありまして、これは、リニューアルで実現できました。イベント情報のページは、他にも市民のみなさんのご意見が反映されていて、イベントの絞り込み検索条件に「夜間に実施」「一時保育あり」というような項目があります。このような検索条件は、市民の方からのご意見がなければ思いつきませんでした。
「自治体ウェブ2.0」を目指して
●田中 僕ね、「自治体ウェブ2.0」を目指してるんですよ。情報公開は大事だけれど、出しっぱなしは良くない。市民のみなさんのご意見も大事だし、情報を出す側の職員にも使い勝手が良くないとダメだと思うんです。僕が考えている、CMSのようなシステムを含めたウェブサイトのあり方や方向性と、ウェブサイトのリニューアルに携わった外部のプロデューサーやSEの方が考えるところが一致していたのは、リニューアルという大きな業務を進めていく上では非常に良かったし、やりやすかったと思います。だれでもいつでも情報が手に入るというのは、非常に重要な方向性だと思います。
●かわち 参考にしている他の自治体サイトはありますか?
●田中 リニューアルのときには全国の自治体のウェブサイトを3000サイトぐらい見ましたけれど、他のサイトを常にウォッチしているわけではないですね。よそがどんなことをやっているかを考えるより、藤沢市民のみなさんのことを考えるほうが重要ですから。
●かわち そういえば、全ページに広告が入ってますよね。
●田中 はい。テキスト広告ですけれど、結構人気の広告枠なんですよ。藤沢市では、市有の自動車の車体に広告を掲載したりして、収入を増やすさまざまな取り組みを行っていますが、これもその一貫です。「藤沢市に事業所がないとダメなんですか」というようなお問い合わせもありますが、そんなことはありません。どなたでも、出稿していただけますので、これをお読みの方でご興味をお持ちの方は、どしどし、ご連絡ください(笑)。
●かわち ところで、いわゆるウェブマスターの業務は、何人体制でやられていらっしゃるのですか?
●田中 この3月までは、私1人でした。4月に広報課に異動して、やっと3人体制になりました。
●かわち 一挙に3倍ですね。
●田中 はい。3倍です(笑)。これからは、後進を育ててかなくてはいけないと思っています。マニュアルを作っただけじゃダメですからね。マニュアルって手順書になってしまいがちですよね。でも、判断が必要になったときにはマニュアルって役に立たないこともあって、そこらへんは今後の課題だなあと思います。
●かわち 今日はお忙しいところ、ありがとうございました。
藤沢市ウェブサイト概要
- URL:http://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/
- 目的:行政情報提供
- 総ページ数:1万6,000ページ以上
- 訪問者層:市民や藤沢への訪問者・勤務者など
- オープン:1996月10月
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