サードパーティCookieに頼らない「Amazon DSP」が切り開く広告ターゲティングの新時代
Googleは米国時間の7月22日、同社のChromeブラウザにおけるサードパーティーCookieのサポート廃止を実質的に取りやめ、代わりとなる新たなアプローチを取ることを明らかにしました※。
この発表に対してはグローバルで大きな反響、議論が渦巻きましたが、Googleが公約として掲げていた、プライバシー保護を実現するためにサードパーティーCookieを広告で使えなくするという既定路線は変わらず、それを実施する主体がGoogleからユーザーへと変わっただけです。
今後、Chrome上でサードパーティCookieを広告で利用するためのユーザー許諾が何らかの形で行われる予定です。一部ユーザーは許諾を与え、引き続きターゲティングや効果測定の対象となりますが、大部分のユーザーが許諾をしないことも想定されます。
つまり、サードパーティCookieは生き残るものの、結局「Cookieレス」な状況は拡大していく可能性が高いので「Cookie収縮後」の対策は今までと同じように進める必要があります。
これまで当たり前のようにできていたことができなくなるため、業界でも不安に感じている人が多いと思いますが、変化の時期は同時に新しいイノベーションが生まれる機会でもあります。Amazonは積極的にこれに取り組み、これまで以上に競争優位に立とうとしています。
今回のコラムでは、Amazon広告の最近の取り組みを解説します。
サードパーティCookieを使わない!
関連性の高い広告を出す「Ad Relevance」をAmazonが発表
Amazonはカンヌライオンズ2024で、Amazon広告の新機能“Ad Relevance”(訳すと「広告関連性」)を発表しました※。
Ad Relevanceとは、関連性の高い広告を配信できる
Ad Relevanceとは、サードパーティCookieを使用せずに、さまざまなデバイス、チャネル、コンテンツタイプに関連性の高い広告を配信できる機能です。
2023年を通じてテストされたAmazon広告のAd Relevanceは、Amazon DSPで利用できる機能です。この機能は、AmazonのECサイトやその他のサービスでのブラウジング、ショッピング、視聴行動など、何十億ものシグナルを活用します。
これらのシグナルを機械学習とAIで分析し、閲覧しているコンテンツに関するリアルタイムの情報と組み合わせることで、ユーザーがショッピングジャーニーのどの段階にいるかを把握します。これにより、サードパーティCookieを使用せずに、さまざまなデバイス、チャネル、コンテンツタイプに関連性の高い広告を配信することが可能になります。
Ad Relevance:誰か特定できていなかったインプレッションでも最大65%に届く
Amazonは、Ad RelevanceをAmazonオーディエンス、コンテキストターゲティング、そしてパフォーマンス自動化機能であるパフォーマンス+と組み合わせることで、これらの機能を強化できると主張しています。これにより、これまで匿名だったインプレッションの最大65%でアドレサビリティを拡張できるとしています。
アドレサビリティとは、広告が特定のユーザーやそのデバイスにどれだけ正確に届くか、つまり広告のターゲットをどれだけしっかり識別できるかという能力を指します。
つまり、Cookieがないなどで、ユーザーやデバイスを正しく識別できていないオーディエンスが100人いた場合、Ad Relevanceシステムはそのうちの最大65人に広告を届けることができるということです。さらに、CPM(千インプレッションあたりのコスト)を最大34%削減し、CPC(クリックあたりのコスト)を8.8%改善できているとしています。
「アドレサビリティ」と「関連性」の違い
Amazon DSPのプロダクト担当ディレクターであるブライアン・トマセット氏は、カンヌでのメディア向けインタビューに次のように答えています。
私たちは、サードパーティCookieのような広告識別子を、新しい単一のデータソースに置き換えることは、現実的ではないと考えています。
Ad Relevanceは、サードパーティCookieや単一の識別子に依存せず、すべての消費者に関連性の高い広告を表示できます。重要なのは「アドレサビリティ」と「関連性」です。この2つを業界ではよく混同してしまいますが、次のように違いがあります。
- アドレサビリティ:適切なオーディエンスを見つけること
- 関連性:その人がいる文脈を理解し、適切なクリエイティブを届けること
適切なクリエイティブを届けるために、その人が誰であるかを知る必要はありません。機械学習アルゴリズムを使って多次元コホートをまとめることで、これを実現できます。
Amazonは、特に米国市場では、Amazon DSPを、DSP領域でリードするGoogle ディスプレイ&ビデオ360、The Trade Deskと競争できる第3の勢力として位置付けようとしています。最近では、パフォーマンス自動化機能Performance+の実装も行っていますし、Amazonプライムビデオへの広告はAmazon DSPが独占的に配信しています。そして今回、Ad Relevanceが追加されました。Amazon DSPへの力の入れ具合がわかります。
メールアドレスや電話番号を大量に保有せずとも、ターゲティング精度を高められる
メールアドレスや電話番号などのデータを、ユーザーから利用許諾を取り、悪用されないような形に変換し、広告識別子として活用するようなIDソリューションはマッチング精度も高く便利ですが、そもそもメールアドレスや電話番号を大量に保有していないと活用ができません。
一方、AmazonのAd Relevanceは豊富なAmazonのデータとAIを活用すれば、簡単に広告のターゲティング精度を上げることができるため「技術的な実装の必要がなく、KPIを設定すればすぐに使える」ことを強力に訴求していくことが予想されます。
ソーシャルもやってます!