いまさら聞けないアドテクノロジーの基本と課題、戦略と運用なくしてアドテクは使いこなせない
RTB、DSP、SSP、第三者配信など新たなキーワード・手法が続々と登場するなか、「いまだからこそ、もう一度アドテクノロジーのおさらいをしておこう」と題した、Web広告研究会の3月月例セミナーが開催された。第一部では、スケールアウトの菅原健一氏によるアドテクノロジーの解説が行われ、顕在化しつつある課題、戦略構築の方法論などについて、媒体社と広告主の両方の視点から、実践的かつ有益な情報がもたらされた。
人手による純広の買付からアドネットワーク、RTBへと進化
まず菅原氏は「アドテクノロジーとは何か」というテーマで、言葉の定義から解説を始める。読んで字のごとく、アドテクノロジーとは広告(Ad)技術(Technology)を指す言葉で、広告配信や広告流通のための技術を示す。媒体社と広告主、それぞれにある広告配信のためのアドサーバーの間でどのように広告を流通させ、広告主が出したい場所や人に広告を出せるか、また媒体社が出したい広告を自社のメディアに出せるかという2つの側面で最適化させる技術となる。
アドテクノロジーでは、こうしたメディア売買にかかわる手間を簡略化させることと、媒体社や広告主、アドテクノロジーのプレイヤーそれぞれの付加価値を高めることが重要になる、と菅原氏は説明する。
アドテクノロジー自体がディスプレイ広告配信のことを指すと思われがちだが、ディスプレイ広告領域はアドテクノロジーの一分野となり、SEMやリスティング広告にもアドテクノロジーが活用されている。デジタルマーケティング領域全体で見ると、インターネット広告領域の一分野としてアドテクノロジー領域が含まれており、菅原氏は「今日説明するのは、アドテクノロジー領域のなかのディスプレイ広告領域の話になる
」と説明を続ける。
また、2013年2月21日に電通が発表した「2012年 日本の広告費」に新たに追加された「運用型広告」という分類もアドテクノロジーを示しており、「アドテクノロジーを活用したプラットフォームによって広告の最適化を自動化もしくは即時的に支援する広告手法」と定義されている。
一言で言うと、あまり人間が介在しないものが運用型広告の領域。純広などでは手続きに人が介在するが、システムで手続きを行えるようにしたのがアドネットワーク。これまで、広告主が「あの媒体に広告を出したい」と考えたときには、手売りで純広の直接売買を行っていたが、広告主は純広の在庫を持たずに、ほしいときにほしい在庫を調達して運用できることがポイントになっている。
一方、媒体社は月間の想定インプレッション数をもとに、未来に発生する純広の在庫を売ってきたが、在庫を超えた分の使いきれない広告枠を売りたいと考えていた。
この余った在庫に悩む媒体社と、多くのメディアのなかから自社に最適な媒体に広告を出したいという広告主、双方の悩みを解決する手段として出てきたのが「アドネットワーク」だ。広告主に最適な媒体在庫を自動的かつ効率的に売買できるようになり、広告主はメディアプランを行わなくても、アドネットワークに広告を出しておけば、複数の媒体からより効果の高いインプレッションを優先し、自動的に選択して購入できるようになっている。
一方で、「アドネットワークによって、効果を重視する広告主が純広を出さなくなってきたことが問題
」だと菅原氏は話を続ける。媒体社は余った広告在庫をマネタイズするため、純広よりもかなり安い価格を付けており、広告主は純広よりも多くのインプレッションを効果の高い媒体に出せることになる。本来、媒体社は純広の在庫処理を期待していたが、アドネットワークの比率が高くなり、逆に純広が売れなくなってしまったというのだ。
もっと高く在庫を売りたいと考える媒体社と、より効果が高く、「枠」よりも商品を買ってくれそうな「人」を対象に広告を出したい考える広告主に対して、アドネットワークの次に登場してきたのが「RTB(Real Time Bidding)」取引だ。媒体社はシステムを通じて1インプレッション単位で「DSP(Demand Side Platform)」に情報を開示し、広告主はDSPを使って必要なインプレッションを買う、という取引がされるようになった。
メディアの収益構造改善に向け期待が高まるSSP
続いて媒体社側から見たアドテクノロジーの進化を解説する菅原氏は、媒体社のサーバーに広告を入稿して掲載していたベタ張り時代から、外部のサーバーを通じて広告を配信するアドサーバー時代、自動化されたアドネットワーク時代の流れを説明していき、「SSP(Supply Side Platform)」時代に話を移す。
メディアの広告空き枠が発生したことがSSPからDSPに伝わると、リアルタイムに約0.1秒間で入札(RTB)が行われ、DSPでより高い入札を行った広告主の金額がSSPに応札される。媒体社はアドネットワークへ広告在庫を供給する前にSSPを使い、まず本当に高く買ってくれる広告主に対してオークションを行えるようになり、媒体社は現状ではより高い金額で広告枠を売ることができるようになってきていると菅原氏は説明する。
ただし、現状で最適と思われるSSPにも問題が発生している。RTB取引を行う広告主やDSPが増えてきたため、入札競合が増えて適正価格での売買が困難となり、場合によっては純広よりも高くROIが合わないといった場合もあるというのだ。しっかりとしたDSPの運用ができていないために、SSPを疑問視する声もあるというが、「一度登録した後は自動化されるアドネットワークとは異なるため、運用が重要なことを啓蒙する必要がある
」と菅原氏は説明する。
高単価の純広と低単価のアドネットワークの中間として登場したSSPだが、媒体社にとっては、純広の売上比率を下げずに、大きくなってしまったアドネットワークの比率を下げるために、中単価のSSPの比率を上げていくことが今後の課題となってくる。それを解決するためには、売る側と買う側の両方に、運用や適正価格で販売するための努力が必要だと菅原氏は説明する。
アドテクノロジーが広告配信のPDCAサイクルを高速化する
続いて、菅原氏は広告主側から見たアドテクノロジーの進化について解説を始める。従来であれば、たとえば純広を買い付けするのに発注から素材納品まで1週間、掲載期間が1か月、レポートは掲載終了後といった場合があった。1つのメディアに決め打ちで掲載する場合はこれでもかまわないが、予算や効果を考えて複数のメディアプランを立てるとすると、メディアごとにやり取りを行う手間がかかる。予算や掲載期間のスケジュールが合う複数のメディアを細かく計算していくことも必要だ。
一方、アドネットワークでは発注から素材納品までの1週間は変わらないが、アドネットワークに素材をセットしてしまえば、掲載期間中に効果の良い媒体を自動的に選択して掲載させることができる。レポートが1週間単位など、早く出てくることも広告主のメリットだ。半年や1年など掲載が長期間になると、どうしても効果の悪い媒体がでてくるが、菅原氏は「常に複数の媒体を比べながら、良い媒体を探し続けるという意味でもアドネットワークは良い仕組みだった
」と話す。
これが広告主でもアドネットワーク側でもない第三者が配信する「第三者配信」になると、第三者配信側のシステムに素材をセットして、第三者配信が発行するタグをメディアやアドネットワークに入稿し、配信結果も第三者配信側に届くことになる。これによって、広告ごとにばらばらだったレポートを、純広やアドネットワークに関係なくまとめることができ、媒体横断で広告効果を比較できるようになる。
DSPを利用するようになると、SSPを通じて届く広告在庫のオークション通知をもとに、1インプレッションごとに購入を決定できるようになる。これによって必要な分だけのインプレッションを買うことができ、レポートをリアルタイムで随時チェックして、よりよい買付を行えるように運用することが可能となる。アドネットワークに比べてレポートのタイムラグがないため、前日に効果の高かった媒体を中心に買付を行うといったことができ、PDCAサイクルを高速化できるというメリットがある。
DSPは、アドネットワークのように一度設定したら効果の高い媒体を勝手に選んでくれるわけではないので、どのようなインプレッションを買いたいという定義ができていないと運用が難しい。DSPは運用をしっかり行わないと、いくらで何を買うかを適切に決めることはできない。
このように説明する菅原氏は、広告主側のアドテクノロジーの進化と課題を次のようにまとめる。
- 純広を買うには手間×媒体数で大変
- アドネットワークでは手間は1回
- 自動的に効果の良い媒体に出せる
- 効果が悪いと改善できない
- これからは枠と人で運用できるDPS
アドネットワークに対して「効果が悪いと改善できない」とされているが、菅原氏は「アドネットワークは基本的に自動であるため、広告主側のチューニングポイントがない
」と指摘する。たとえば、競合他社が同じ枠を高く買い付けている場合は、アドネットワークだけでは広告を出す機会すら与えられないリスクがあり、効果が悪い時に単価を上げることでしかチューニングポイントが見出せない可能性があるという。そうしたなか、広告主にとって最適な人(オーディエンス)のいる媒体枠があればいくらで買いたいという、枠と人の両方で、しかも運用ができるDSPの期待が高まっているという。
最新のアドテクノロジーに対応した戦略構築とは
最後に菅原氏は、メディア売買以外のアドテクノロジーについて簡単に説明する。広告側のテクノロジーとしては、複数の媒体間におけるレポートやクリエイティブの評価を行う「第三者配信」、多くのタグの管理を行う「タグマネジメント」、アドネットワークでどのような媒体に出しているかを確認する「アドベリフィケーション」の3つ。媒体社側としては、アドネットワークとSSPのどちらに出すかを判断する「パフォーマンスツール」、広告在庫以外の収益化を実現する「オーディエンスデータ提供」の2つを説明した菅原氏は、「広告主と媒体社の間を活性化する仕組みも出てきている
」と話す。
「手動の純広からアドネットワークによる自動化が行われ、自動化の弊害を解決するためにRTBの運用が行われるようになった。RTBでは、運用する側の負担が増えてきており、何を実現したいかが今後のカギとなる
」
このように全体をまとめる菅原氏は、DSPやSSPなどのアドテクノロジーを使った戦略を構築するためには、まず「ゴール」設計をしたうえで、ゴールにたどり着くまでの「ファネル」と「KPI」、どのような人に何を伝えるかの「ペルソナ」と「クリエイティブ」を設計しなくてはならないと話す。そのうえで、これらを実現するためにDSPでどのように「配信」するのか設定する必要があると説明を続ける。
戦略構築では、「実現可能性の有無」「効果の最大化が見込めるか」「仮説が検証できるか」という3点が重要になる。
「自分の商品を買いたいと思っている人」を漠然と対象にするのではなく、認知施策、要求施策、獲得施策などのファネルを考え、認知の有無、無料コンバージョンやコース、有料コンバージョン、ライフタイムバリューなどのゴールごとの導線に数値設定を設けて、どこを向上させるか、不要なゴールはないか(たとえば無料コンバージョンがないほうが有料コンバージョンに導きやすい)などの戦略を立てる必要があり、DSPによってこれらを実現できる。
このように菅原氏は説明し、たとえばライフタイムバリューを見ることで、コンバージョン数は多くなくても、無認知層へのリーチに最適な優良オーディエンスのいるメディアを発見した事例があることを話した。
その上で菅原氏は、戦略構築のポイントを以下のようにまとめ、第一部の講演を終えた。
- クライアントを理解し、目線で考える。
- ファネルは上からではなく、下から構築する。CVRを2倍にできれば、上層のコストは半分にできる
- 施策ごとに予算は固定せずに、対象者によって変動させ増やしていく
- どのような立場であれ、ゴール設計から関与すべき
- ターゲットにできないターゲット(自社製品を買いたい人など)を設定しても意味がない
- 設計を分けすぎると投資の判断ができなくなり、作業ばかりが増えていくので、意味のある投資を行う
- 運用のためにはKPIがやはり重要。仮でもよいのでKPIを立てて追跡していく
- メディア売買の進化によって必要なタイミングで広告が買える。仮説に対して高速にPDCAを回し、対策をすばやく立てる
- お客様のためは、長期的な視点かつ予算を増やす取り組みが必要。そうでなければ、結果的にだれのためにもならない
オリジナル記事はこちら:「いまさら聞けないアドテクノロジーの基本と課題、戦略と運用なくしてアドテクは使いこなせない」2013年3月26日開催 月例セミナーレポート(1)
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