Web広告研究会セミナーレポート

エステー宣伝部が仕掛ける魅惑のクリエイティブ、愛あるコミュニケーションが生み出す共感

消費者の心に届く、数々のテレビCMを手掛けてきた鹿毛氏が考えるWeb戦略とは
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Web広告研究会セミナーレポート

この記事は、公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会が開催およびレポートしたセミナー記事を、クリエイティブ・コモンズライセンスのもと一部編集して転載したものです。オリジナルの記事はWeb広告研究会のサイトでご覧ください。

Web広告研究会の宣言を受け、WABフォーラム第一部では、エステー 宣伝部長/クリエイティブ・ディレクターの鹿毛康司氏が講演。宣伝部長として、消費者の心に届く、数々のテレビCMを手掛けてきた鹿毛氏が、Web戦略も含めた舞台裏を語った。

消費者のハートへ、エステーが仕掛ける魅惑づくりのクリエイティブ

鹿毛康司氏
エステー株式会社
執行役
宣伝部長/クリエイティブ・ディレクター
鹿毛 康司氏

第一部では、ポルトガルの少年ミゲル君の歌声で話題を呼んだ「消臭力」のテレビCMを仕掛けた、エステーの宣伝部長 鹿毛氏が登壇し、テレビCMを消費者の心へと届けるために、どのようにネットを活用・展開していったのかが、CMの舞台裏とともに語られた。震災直後に鹿毛氏は何を考え、何を伝えていきたいと考えたのだろうか。

Web、宣伝、広報とさまざまな言葉が使われ、ビジネスモデルが分かれているが、これらが融合するためには、宣伝部長だけではなく、みんなで行っていく必要がある。分裂させないということは何か、伝えるということは何かという根本的なことから話していきたい

まず、鹿毛氏はWeb広告研究会宣言を受けてこのように話し、「企業がお金を使って何かを伝えようとすると、言いたいことをすべて詰め込んでしまうため、結局は伝わらない。まずは、何を伝えるべきなのかを整理する必要がある」と説明を続ける。企業が「伝えたいこと」を優先順位で発信するのは大きな間違いであり、お客様にどれが響くのかを冷静に観察し、「捨てる! あきらめる」ことが重要だと指摘する。

そのためには、消費者のリサーチを調査会社だけに任せるのではなく、自分でお客様の反応を見て、伝わるものを魅力あるものに変換して届ける「魅惑づくりのクリエイティブ」が必要だと話す鹿毛氏は、「お客様の目をハートにさせること、“好きにさせる”ことが重要な目的であるのに、愛を忘れて、“伝える”とか“認知”とか、“イメージ戦略”といった言葉で何とかしようとしている」と指摘する。

企業は顧客に響くメッセージは何か、冷静に判断しなくてはならない
企業は顧客に響くメッセージは何か、冷静に判断しなくてはならない
伝えるべきメッセージを魅力あるものに変換する
伝えるべきメッセージを魅力あるものに変換する

現在、1か月に放送されるテレビCMは4,500本、毎月1,000本ものCMが制作されており、消費者に素通りされないように届ける“工夫”をしなければならないと鹿毛氏は説明する。エステーの広告宣伝費は年間約30億円、日経広告研究所の広告費ランキングでは230位、上位には数百億円の広告宣伝費をもつ競合がいるなかで、エステーはCM到達度ではベスト10に位置し、日経企業イメージ調査の「よい広告活動をしている」企業でも上位にランキングされている。エステーがこれほどの成果を上げられたのはなぜか、鹿毛氏は、CM展開と同時にそのCMを拡散させる工夫をしてきた結果だと話す。

一例として鹿毛氏は、エステーの強みである月9ドラマのCM活用を挙げる。「月9に流れることが話題になる。毎週違ったCMを流そうと考えた」という鹿毛氏は、第一回の放送では、予定していたCM制作が間に合わなかったと、CMに出演する女優がお詫びするCMを流し、ニュースやソーシャルメディアで大きな話題を生んだ。また、鹿毛氏が扮する自社キャラクター「特命宣伝部長 高田鳥場(たかだのとりば)」がホームページにお詫びを掲載したことも話題となった。しかし、これは単に思いつきでやったわけではなく、企業がお詫びするということに対して役員を説得し、カスタマーサポートの協力を得るなど、さまざまな調整を行う努力が必要だ。

この高田鳥場というキャラクターについて、鹿毛氏は「よく目立ちたいの? と聞かれるが、目立ちたいならカブリモノは着けない」と説明。キャラクターを登場させたのは、宣伝費の多い競合製品に打ち勝つために、自分がキャラクターになれば予算がなくてもコンテンツを飛び出してさまざまな活動ができ、メディア露出を獲得できると考えたからだという。これらの奇抜なCMやキャラクター作りは、「Webで展開するために仕掛けている」と鹿毛氏は続ける。

2009年5月には、さまざまなクリエイターが高田鳥場を自由にクリエイティブした書籍を発刊。これも、自費出版ではなく、商業出版にこだわって出版することによって、話題の本としてネットニュースなどに取り上げられることを目指したものだ。また、高田鳥場自身も全国のテレビ局を回って出演することで話題を盛り上げている。

コンテンツと広告の壁を越え、有料の広告とは別に、独自にキャラクターというコンテンツを無料で露出させた、その手法自体も話題となったエステーだが、鹿毛氏は「このような手法だけが奇策ではなく、奇策を続けることがネット展開の王道だと思っている」と話す。

エステーじゃないからこんな奇策はできない、とよく言われるが、エステーも生活雑貨で伝統のある会社で、何でも自由にできるわけではない。成功を続けているからこそ、社内に承認を得ることができるし、これらの奇策をやることができる

Twitterを見ていればCMのストライクゾーンがわかる

講演は、震災時のエステーのCM対応に話が移る。2011年3月11日以降、ACジャパンのCMだけになったテレビを見て、鹿毛氏は「お客様に喜んでもらうことで成り立ち、商品やサービスで成り立っている企業が、震災直後はそれを忘れ、ただ単に“頑張ろう”と連呼させれば何とかなるだろうと、愛のないコミュニケーションを氾濫させ、何もしないことに腹が立った」という。

震災に際し、個人としては支援できても、企業として支援できなかったことは反省する必要があると話す鹿毛氏は、「消臭力で成り立っているエステーは、消臭力をちゃんと伝えなければ、と考えていた。Twitterをずっと見続けて、ACのCMに飽きている人も多かったし、いつかエステーのバカバカしいCMで笑いたいという声も聞こえていた」と当時の様子を語る。そして3月15日、夢のなかで「ららら」と口ずさむ子供たちの姿を見たことで、鹿毛氏はCM制作を決意したという。

鹿毛氏は、エステーのトーン&マナーをストライクゾーンのど真ん中に投げるのではなく、ストライクゾーンぎりぎりに投げることだと説明する。その結果、ストライクゾーンを外してしまった場合は、人を傷つけたり、誤解を生む可能性もあるため見極めが難しい。鹿毛氏は、「ストライクゾーンは調査などではなく、ネットの世界を見れば一番わかる。Twitterを見れば一目瞭然だし、Twitterがあることで広告を作ることができると思っている」と話す。

震災直後はストライクゾーンが見えず、わからなかった。それでも今すぐ作らなければならないと思い、ウケを狙うとか、CM好感度上位を狙うとかを一切考えずに自分の胸に聞きながら考えた

震災直後で迷うところもあったが、被災した家族がクスッと微笑んでもらえるものを作ろうと考えた鹿毛氏は、日常に戻ろうというテーマでCM制作を開始した。社長にCM制作の許可を取ろうとした鹿毛氏は、社長から偶然ロケ地に選んだリスボンが1755年に地震と津波に遭い、6万人以上の被災者を出しながら、その後美しい街に復興したことを聞かされ、「ロケ地をポルトガルのリスボンにしたのは偶然だった。リスボンに呼ばれたと感じた」と振り返る。

ミゲル君が消臭力のテーマをアカペラで歌うCMは4月22日から放送されたが、このCMの放送を決断したことについて、鹿毛氏は次のように話す。

CMによってバッシングを浴びたり、抗議の声が上がったりすれば、宣伝部長はそれに立ち向かわなければならない。その覚悟を持ってCMを制作するためには、その覚悟を助けるための周りのやさしさも必要となる。自分は1人でやっているから1人で解決できるが、大きな会社の宣伝部長にはみなさんから声をかけ、一緒に飲んで、お互いに共通認識を作らなければならない。そのうえで、ただ面白いだけでなく、目的のために何をやるかを、折り合いながら決めていかなければうまくいかない

※エステーのCMに対する思いは、CM動画とともに「エステー宣伝部ドットコム」でも語られている。

会社を辞めることも覚悟してCMを制作したという鹿毛氏だが、放送後の反響の大きさは想像を超えていたという。また、2011年7月には、CMに共感した歌手の西川貴教氏のコンサートにミゲル君を登場させるイベントを仕掛けている。コンサート終了に合わせてプレスリリースを打つなど、拡散の仕組みも仕掛けられた同イベントについて、鹿毛氏は当時の心境を次のように明かした。

ファンからの要望も多かったが、サプライズのような形でお祭騒ぎするのはやめたほうがいいのではないかと悩んだ。しかし、インターネットでは、むしろ被災地である東北の人たちの要望が多く、批判的なのは被災地以外の人たちだった

ネット展開を考えてリーダーシップを発揮する

西川貴教氏のコンサートにミゲル君が登場したCMは、2011年8月のCM好感度調査(作品別)で1位を獲得している。また、エステーは2011年にYahoo! JAPANのヤフトピに5回も取り上げられたという。鹿毛氏は「もちろん、話題性や好感度のために一連のCMを制作したわけではない」と前置きしながら、これらのCMをベースにネット展開の手法について説明する。

鹿毛氏は、「ネットのネタはほぼテレビからきている」とし、テレビとネットを掛け合わせることで、相乗効果を呼ぶことができると話す。ネット展開を考えてCMを制作し、ソーシャルメディアで論調を作り、最終成果としてネットのニュースに取り上げられることを狙うのが鹿毛氏のネット戦略だ。

鹿毛康司氏

ソーシャルメディアで数万人と簡単につながれるのがすごいというが、月9ドラマで1回CMを流せば1,000万人が見ることになる。数万人ではミニコミ程度の効果しかない。自分は、ソーシャルメディアは署名活動だと考えていて、ソーシャルメディアを論調やムーブメントの核とするようにしている

続けて鹿毛氏は「自分の活動は、30%がCM作りで、メディア戦略が20%。ネットが活動の50%を占めている」と、CM出演者の活動や高田鳥場のツイートとネットの反応を示したグラフを示しながら、「CMが急に当たったということではなく、どう展開するかを常に考えながらやっている」と話す。

また、消臭力のCM制作にあたり、ネット展開も含めてまとめた、アイデアのメモについても説明する。

CMを作るたびにこのようなメモを作って展開を考えている。もちろん、毎回当たるわけではなく、消臭力の場合は自分が考える何倍も理想的な展開ができた。ただし、これを考えるのは宣伝部長である必要はないが全体を知りうる広告主が真剣にまず考えるべきだ。Web担当者でも、メディアの担当者でも、誰が考えてもよいが、広告会社やPR会社にこれを考えろと言っても無理。なにかいい方法はないかといった丸投げでなく、主体的に誰かが考えて、リーダーシップを発揮することでネット展開を考えたCMを作るなどの手法がとれる

最後に鹿毛氏は、「ただ面白いものをやればいいというものではなく、ハートのあるものを作らなければならない」と話し、福島県の光南高校の合唱部が震災復興を支援する一環として消臭力の歌を歌っていることを知った鹿毛氏が同校を訪問し、サプライズとしてミゲル君が合唱部とともに歌を歌った模様を収めた福島中央テレビの番組を上映した。

鹿毛氏の講演は、アクションやジョークも交え、CMの舞台裏の動画を交えながら進められ、テレビCMとネット展開についての考え方や、宣伝部全体としてメディアをどう捉えるかがわかる貴重なものとなった。また、震災直後のCM作りに対する考え方にも触れることができ、感動で涙ぐむ参加者の姿も見られた。

この記事は、2013年2月22日に開催されたWeb広告研究会「第27回WABフォーラム」のレポート前編です。→後編を読む

オリジナル記事はこちら:「エステー宣伝部が仕掛ける魅惑のクリエイティブ、愛あるコミュニケーションが生み出す共感」2013年2月22日開催 WABフォーラムレポート(1)

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