2015年に始まる無人飛行機による配送など、アマゾンジャパン責任者が語る米国アマゾンの革新
この記事は、姉妹サイトネットショップ担当者フォーラムで公開された記事をWeb担当者Forumに転載したものです。
配送スピードを早めるための試験的な取り組みとして、米国アマゾンが2013年12月に発表した小型無人飛行機による商品配送サービス「Amazon Prime Air」。ネット上で話題となったこのサービスが2015年にもサービス化するようだ。アマゾン ジャパンのセラーサービス事業本部事業開発部・井野川拓也部長が、4月に行われた関西を中心としたEC団体「一般社団法人イーコマース事業協会」のイベント内で次のように言及した。
ラジコンを使って商品を届けるアマゾンプライムエアー。クレイジーなアイデアだと思ったが、2015年にアマゾンドットコムで開始する。お客さまのメリットになる。
無人飛行機を使った配送サービスは、米国アマゾンが先進的に行う革新の1つ。米国アマゾンではどのような革新的な取り組みが行われているのか。日本にはまだ導入されていないサービスなどに視点を当て、米国アマゾンの革新的なECマーケティングを井野川氏の講演内容をもとにまとめた。
「赤字でもお客様のためになることはやっていく」というアマゾンの理念
アマゾンはお客さまを中心に考えている。イノベーション、改革などを通して、品揃え、利便性、価格をよりいいものにしていこうとしている。お客様のためになることはやっていくという理念がある。上場から赤字を続けているが、正しい判断だと思う。
井野川氏によると、創業者のジェフ・ベゾスCEOは「アマゾンのビジネスの本質はモノを売ることではなく、お客様の購買決定を助けることにある」という理念を掲げている。カスタマーレビュー、購入履歴の情報開示などがその代表例。必要な情報を適切に提供することで、利用者の購買判断を正しい方向に導いていると説明する。
アマゾン全体の売り上げ規模は日本円で約7兆5000億円。前年比22%で成長しており、その40%が北米以外の売り上げが占めている。現在は米国、英国、ドイツ、日本、フランス、カナダ、中国、イタリア、インド、オーストラリア、スペイン、メキシコ、ブラジルの13か国で事業を展開。自前でフルフィルセンターを持てる環境を前提に、今後も進出国を増やしていく方針という。
ちなみに、アマゾンジャパンの月間ユニークビジター数は4000万で、販売している商品数は1億種以上。2013年の総売上は日本円で約7600億円の規模だ。アマゾンジャパンのサイト上で売れている金額を示す流通総額はもっと大きな数字になるという。
アマゾンジャパンの特徴の1つに圧倒的な配送スピードがある。これを支えるのが全国に構える物流センター。2014年1月現在、埼玉県に川越フルフィルメントセンター(FC)、川島FC、狭山FCの3拠点。千葉県には八千代FC、市川FCの2拠点。神奈川県に小田原FC、岐阜県に多治見FC。大阪府は2拠点で、大東FCと堺FC。九州では佐賀県に鳥栖FCの計10拠点だ。
主要都市近郊に構えた配送ネットワークを通じ、2013年9月現在、当日配送で日本全国の77.3%、翌日配送で同95.7%をカヴァーしている。
海外販売支援、自社ECサイトの販売支援、キーワード広告など、アマゾンが先進的に取り組んでいること
井野川氏は、通常のアマゾンでの取り組みを「オン アマゾン」、外部企業に対する支援的な取り組みを「オフ アマゾン」と呼び、アマゾンが今後、力を入れていくことについて説明した。
「オン アマゾン」で取り組むことで上げたのが「海外販売支援」。現在、海外販売の面ではヨーロッパ圏の取り組みが進んでいるという。アマゾンがヨーロッパ圏で展開しているのは国は、ドイツ、英国、フランス、イタリア、スペイン。このいずれかの国でアマゾンのアカウントを取得すると、そのアカウントはヨーロッパ圏内共通アカウントとして利用することが可能。例えば、英国で銀行口座を開設すると、フランス、ドイツなどの売り上げを、1つの銀行口座に集約することができるという。
英国においては、同国のフルフィルメントセンターに商品を納品すると、ヨーロッパ圏内の購入者に英国から発送することが可能。英国を基軸に、ヨーロッパ圏への進出が容易にできるようになるという。日本のEC企業もこの仕組みを利用し、ヨーロッパ圏に商品を売ることが可能だ。順次、他の国でも同様のビジネスモデルの展開を考えているという。ちなみに、ヨーロッパ圏では特定言語をヨーロッパ各国の言語に翻訳する多言語サービスを提供し、海外販売支援をサポートしている。
海外販売では、関税などの手数料などが大きな障壁になる。米国アマゾンではこの課題を解消するサービスを始めている。海外向けに商品を販売する際、関税などの諸経費を表示できる仕組みを提供。実際に商品を配送した際、表示された金額を超過した場合は、アマゾンが超過分を負担、安くなった場合はチャージバックする仕組みを供給している。国によって異なる通関の金額などを、手間をかけずに把握するシステムになっている。
日本にも導入間近?キーワード広告、自社EC支援のための決済ソリューションなど米国アマゾンの新規事業
アマゾン内で広告を出稿し、膨大な商品の中から自社の取り扱いアイテムを見つけやすくするキーワード広告「amazon sponsored products」。訪問者がキーワード検索した際、検索結果画面の一番下にキーワードに関連した広告を表示するものだ。
広告経由で商品が購入されると課金される仕組み。アマゾン内ではあまり売れていないユニークな商材などを見つけやすくする取り組みだという。広告をクリックしたときの移動先は、出稿企業の商品が販売されているアマゾン内のページ。あまり売れていないユニークな商品といった利用条件があるもようだ。
米国アマゾンではEC企業が運営する自社ECサイトを支援するための広告や決済サービスなどを提供している。日本ではアマゾン以外のチャネルで売れた商品をアマゾンが配送する「FBAマルチチャネルサービス」が知られている。しかし、米国では決済機能を他のオンラインショップで利用できるようにしたり、外部の自社ECサイトにアマゾンユーザーを誘導するサービスが提供されている。
決済機能を他のオンラインショップで利用できるようにする「Pay with Amazon」。自社のECサイトにアマゾンの決済機能を導入できるサービスだ。消費者はアマゾンで登録した住所情報、カード情報を使い、他社サイトでアマゾンの決済機能を使って商品を購入できるようになる。
井野川氏は、利用者のメリットは「必要情報を登録する手間がない」「慣れ親しんでいる決済フロー」「セキュリティの不安がない」と説明。導入企業のメリットについては、「アマゾンカスタマーに最適な購買経験を提供し、CVRを改善」「詐欺などのリスクを軽減」できるとしている。
もう1つのサービスが、アマゾンで取り扱っていない商材については、アマゾン以外のサイトにアマゾンの顧客を誘導する広告「Product Ads」。利用できるのは、アマゾンで取り扱いがない商品を販売している企業で、自社サイトにアマゾン利用者を誘導することができる。ニッチな商品が主な販売対象になると想定される。
「見つけたいものは必ず見つかるようにしたい」と力説する井野川氏。アマゾンはこうしたサービスを展開することで、アマゾンに出店や出品しないニッチな商材も集め、圧倒的な品揃えを目指す考えのようだ。1時間以上にわたった講演で井野川氏は、次のようにアマゾンが目指す方向性をまとめた。
- 地球上で一番の品揃え、見つけたいものは必ず見つかる
- Amazonで最高のカスタマーエクスペリエンスを提供する
でも、Amazonでないときは - Amazonのカスタマーエクスペリエンスをどこででも
- どなたでもAmazonと同じカスタマーエクスペリエンスを提供できる
◇ ◇ ◇
米国アマゾンで展開されている広告や決済ソリューションサービスは、将来的に日本でも導入される可能性が高い。例えば、自社サイトにアマゾンの決済ソリューションが導入できる「Pay with Amazon」、アマゾン以外のサイトに顧客を誘導する広告「Product Ads」。アマゾンの利便性やトラフィックを上手に活用し、自社サイトでの売り上げ増加につなげている米国企業は多いようだ。
米国アマゾンが手掛けている先進的な取り組みは、EC支援を手掛ける、いつも.が販売する、米国EC最新事例を収録した「IRCE講演動画DVD-BOX」でも確認できる。米国で開かれた世界最大のEコマースカンファレンス「IRCE(アイアールシーイー)」の講演を収録したもので、米国アマゾンの取り組みについて語られている。
その中では米国アマゾンの先進的な取り組みを活用する方法の他、アマゾンに対抗するための企画やサービスを提供する米国EC事業者、EC支援事業者の事業展開についても触れられている。今回紹介したアマゾンの先進的な取り組みを詳しく知りたい方は参照して欲しい。
日本のアマゾンはEC事業者にとって、競合サイトでもあり、販売支援のプラットフォーマーでもある。今後、日本のEC事業者がアマゾンジャパンと共存共栄目指すためにも、米国アマゾンの取り組みにも目を向けていきたい。
オリジナル記事はこちら:2015年に始まる無人飛行機による配送など、アマゾンジャパン責任者が語る米国アマゾンの革新(2014/05/29)
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