BOOK REVIEW Web担当者なら読んでおきたいこの1冊

ルーメン? カメラのF値? 数学基礎で知ったかを卒業/書評『アートのための数学』

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『アートのための数学』

評者:森山 和道(サイエンスライター)

アートに関するさまざまなテーマを数式とイラストで解説
Web担当者の常識力を向上させるには格好の一冊

  • 牟田 淳 著
  • ISBN:978-4-274-06723-5
  • 定価:2,000円+税
  • オーム社

プロジェクタのカタログに書いてある「ルーメン」という単位の意味は? 照度ルクスとルーメンの関係は? カメラのF値とはなに? 一眼レフデジカメで撮影すると同じレンズを使っても35mm判フィルムカメラよりも画角が小さくなる理由は? 人間の目に黄色センサーがないのに黄色が見えるのはどうして? xy色度図の見方や意味は? 星空をうまく表現するには? シンメトリってなに?

本書は、写真加工するときのトーンカーブや、音色と倍音、お絵かきソフトに出てくるベジェ曲線など、アートに関係ある数学を解説した本である。東京工芸大学での著者の講義内容をまとめたものだそうだ。大学の講義だけあって、アートといっても内容はかなり多岐にわたっている。また、人間がもっとも聞き取りやすいのは4000Hzであり、それは赤ちゃんの泣き声とほぼ一致している、といったトリビアも散りばめられていて読者を飽きさせない。

写真加工のトーンカーブにせよ何にせよ、通り一遍の使い方であれば、何も考えずにソフトウェアのマニュアル本のとおりに操作していけば、誰でもそれなりにできるようになる。だが、それでは応用が利かない。しばらく仕事を続けていると、たいていの人は、基本からちゃんと学び直したいなと思い始めるのではないだろうか。基本さえわかっていれば、あとは応用すればいいだけだし、長い目で見ればそのほうが効率的である。そのように考え始めたときに、最初にめくってみるのに向いている一冊だ。

勉強の意義がわかったあとならば、学生時代にはあまりおもしろくないなと思っていた数学的な話でも、スッと頭に入ってくるものである。

たとえば、人間の感覚と対数の関係はおもしろい。夜と昼の明るさはどのくらいだと思うだろうか。実は1億倍も違う。だが、人間にはそこまでの違いは感じられない。それは、人間の感覚量に「刺激強度の対数に比例する」という性質があるからだ。対数、いわゆるlogとは、何乗したかを表す数だ。たとえば、log10Mは、10を何乗したらMになるかを表す数のことである。ちなみに、1を対数で表すと0(log101=0)、10を対数で表すと1(log1010=1)、1億を対数で表すと8となる(log10100000000=8)。対数を使うことで、小さなものから極端に大きなものまで量が大きく異なる量を一緒に扱うことができる。そして、対数的な情報表現が行われていることで、人間は同じ目、同じ耳で、世界を当たり前のように捉えることができるのだ。

このように、本書はちょっとした数学の知識が、具体的にどんなところに使われているのか知ることもできる。そういう意味では、中学校や高校の数学を学ぶことにどんな意味があるのかなあと感じていた若い学生たちだけでなく、仕事のさまざまな局面で数学に接している人たちにとっても意義のある本かもしれない。先に目的を立てて、手段として数学を学ぶというの大いにありだと思う。

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