ダブルファネルマーケティング

生活家電メーカーB社のソーシャルコマース事例

生活家電メーカーB社のソーシャルコマース事例

続いて、生活家電メーカーB社のソーシャルコマース事例を紹介しよう。B社は新商品のカメラを発売するにあたり、リアルイベントや自社サイト、Facebookなどの様々なメディアを連携させて、予約・販売数を大きく伸ばすことに成功している。

B社は、女性向けのデザインと操作性を兼ね備えた本格仕様のカメラを開発した。しかし、B社のマーケターはこの新商品の発売にあたり、限られた予算の中で従来通りのマスマーケティングや店頭販売施策を行っただけでは十分な効果を出すことができないと考えていた。

そこでB社のマーケターは、これまで通りのマス広告やWeb広告、展示会などのリアルイベント、ニュースリリースやブランドサイト/自社ECサイトに加え、Facebookやブログといったソーシャルメディアを組み合わせたダブルファネルマーケティング戦略を展開することにした。図2-8はその全体像である。

図2-8 生活家電メーカーB社のプロジェクト全体像
図2-8 生活家電メーカーB社のプロジェクト全体像

まずプロモーションフェーズでは、従来メディアを用いた新商品の認知向上のためのプロモーション活動を一過性の施策に終わらせず、そこで興味・関心を示した顧客をFacebook上のファンページへ誘導・集約し、新商品発表から商品サイト開設までの空白期間をFacebook上でつなぎとめることにした。

具体的には、新商品のニュースリリースや発売を告知するティザーサイトを閲覧した顧客、展示会などのリアルイベントに参加してモバイルでティザーサイトにアクセスした顧客、リリース記事や展示会から派生したニュース記事を見て商品検索で自社サイトへと辿り着いた顧客など、様々な認知経路を経て流入してきた顧客をFacebookページに誘導。そこでしか得られない新商品の予約・キャンペーン情報や製品仕様の詳細情報を継続的に提供し、新商品の発売まで徐々に期待を高めるようなスキームを構築した(図2-9)。

図2-9 生活家電メーカーB社のメディアミックスチャート
図2-9 生活家電メーカーB社のメディアミックスチャート

このような継続的なコミュニケーションを通じて、これまでは単発的で散在しがちであったリード顧客をFacebookページに集約し、いつでもメーカー側から働きかけられる「打てば響くファンリスト」としてストックした。ファンリストの顧客は発売までの間、ブランドサイトに能動的に情報を取得しに行かなくとも、日常的に接触するFacebookから高頻度で情報を得ることが可能になり、メーカー側とファンとの間に緊密な絆(エンゲージメント)を生みだした。その結果、B社は6000人の新規ファンとエンゲージメントを形成することに成功した。

次のアクイジションフェーズでは、プロモーションフェーズでつなぎとめたファンとの絆を足掛かりに、いよいよ発売というタイミングで大々的なキャンペーンを打ち、ファンの気持ちを最高潮に盛り上げた。その際、自社およびタイアップ先のECサイトへのリンクを整理したナビゲーションページや、リアル店舗で利用できるクーポンの配布を実施した。これらの施策により、Facebookページに集約したファンを予約サイトやECサイト、店舗へスムーズに送客し、予約数・販売数を大きく伸張させた。実際にアクセスログを解析すると、自社の予約サイトやECサイトへの流入数の約20%がFacebookからであり、発売前にFacebookページで形成しておいたエンゲージメントが販売初期の売り上げ増進に大きく貢献したことが証明された。

続くリテンションフェーズでは、購入後の顧客に対し積極的な商品使用促進施策を展開した。具体的には、Facebookページ上で購入後の悩み相談や使い方紹介などのカスタマーサポート情報を提供した。また、観光やグルメなどのエンタテインメント情報も提供し、そのようなシーンで商品を使用する場合のアドバイスや実際の使用例を紹介した。

一般的に、カメラのような一度購入すると当分は需要が発生しない耐久消費財では、会員ビジネスのCRM戦略のようなリテンション活動は難しいとされている。そこをB社はソーシャルメディアを用いたリテンション施策によって、顧客との継続的なコミュニケーションを可能にした。

その結果、Faceboookページ上のアクティブなユニークユーザー(UU)数は一日平均3000人と高い数値を叩き出し、新しいレンズやグッズのクロスセル、さらに性能の高い機種へのアップセル、次期シリーズの商品発売時の顧客基盤づくりなどに貢献した。

最後にインフルエンスフェーズでは、リテンションフェーズでの記事投稿数や記事についた「いいね!」数などのデータを用いて、顧客ごとにインフルエンススコアを算出し、インフルエンサーランキングを作成した。その際、インフルエンス力の高いエバンジェリストや、とくに多くの「いいね!」やコメントが付いた記事をピックアップして考察を深めた。

その結果、エバンジェリストが投稿したコメントをきっかけに、消費者同士のC2C(Customer to Customer)コミュニケーションが発生しているケースを特定することができた(図2-10)。具体例としては、セミプロの写真愛好家がB社のFacebookページに投稿している旅やグルメの写真に対し、「どこで撮影したのか」「身近な場所だけど幻想的だ。どのように撮影したのか」といったファン間の質疑応答や交流が発生していた。

図2-10 生活家電メーカーB社のクチコミ施策立案手順
図2-10 生活家電メーカーB社のクチコミ施策立案手順

このことに着目したB社のマーケターは、そのセミプロの写真家に直接コンタクトをとり、B社と共同で新商品を使った作品集の出版を打診した。実際のユーザーが撮影した作品集が出版されたというニュースは、この商品に対する話題性を再び高めることになった。加えて、このセミプロが講師を務める撮影教室やユーザー交流会などの企画も展開し、Facebookページで参加者を募集した。そして、撮影交流会の感想や体験談をFacebookやTwitterに投稿してくれたユーザーに出版書籍をプレゼントし、商品の使用体験や感想をSNS上で拡散するためのキャンペーンを展開した。

このようなクチコミ施策の結果、撮影交流会や書籍プレゼント企画に関連するバズが10万件以上拡散した。そのうち使用実感を含む10件の良質なレビューがFacebook上に投稿され、それがファンが新たなファンを増やす効果を生み出した。その結果、Facebookファンを新たに2万5000人以上増やすことにつながった(図2-9)。これらのファンが新たな購買層の開拓や次期シリーズの顧客基盤獲得につながったことはいうまでもない。

図2-9 生活家電メーカーB社のメディアミックスチャート
図2-9(再掲載) 生活家電メーカーB社のメディアミックスチャート

しかし、B社が真に優れていた点は、ダブルファネルマーケティングを効率よく展開するためにPDCAサイクルをしっかりと回していたことにある。B社は、マスメディア/自社メディア/ソーシャルメディアとリアルイベント/店舗/ECを総合的に活用し、ダブルファネル効果を最大化するようなソーシャルコマースのスキームを構築した。ソーシャルデータ/広告出稿データ/Webアクセスログ/販売データを統合的に分析することで、各フェーズにおける顧客の行動や発言を数値化し、立案した施策の検証と改善を繰り返した。そのようなデータ分析力が、B社のソーシャルコマース戦略の推進力となっているのは間違いない。

なお、B社は現在、データの収集・分析の効率化に向けた自動化と標準化に取り組んでいる。FacebookやTwitterのAPIはしばしば仕様変更が発生するため、ツールによるデータ収集・分析の自動化は後回しにしていた。しかし、B社では現在、計測すべき指標や必要最小限のデータを明確化し、その収集・分析プロセスの自動化・標準化を進めている。

B社の事例から学ぶべき教訓は、次の5つである。

  1. 商品発売リリース前に様々なメディアを組み合わせたコミュニケーションシナリオを作成する
  2. リアルイベントやリリースの効果を一過性で終わらせないために、Facebookページなどにファンをストックしておく
  3. 新商品発売前後にECや店舗などの販売チャネルにナビゲーションすることでストックした顧客を購買まで誘導する
  4. 顧客の行動や発言の分析によってインフルエンス要因を見つけ出し、ファン参加型施策などを通じて商品の使用体験を消費者間で共有させることで、さらなるファン層の拡大を促す
  5. 一連のコミュニケーションシナリオをフェーズごとに効果測定することでPDCAサイクルを推進していく
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ダブルファネルマーケティング
  • ダブルファネルマーケティング
  • トランスコスモス・アナリティクス 著/北出大蔵 編
  • ISBN 978-4897979106
  • リックテレコム 発行

この記事は、書籍『ダブルファネルマーケティング』 の内容の一部を、Web担の読者向けに特別にオンラインで公開しているものです。

マーケティング、CRM、データ分析の観点からソーシャル時代に適応するための処方箋

ソーシャルメディアの拡大により、クチコミの影響力が飛躍的に高まり、消費者コミュニケーションの主役は企業から「個客」へと移行しています。ダブルファネルマーケティングは、このような時代の変化に適応すべく、既存顧客の共感・感動体験のクチコミを新規顧客に共有・拡散することで、認知度・受注率・継続率などを底上げするような好循環を生み出し、顧客資産価値や顧客の感動を最大化していくための統合マーケティング戦略です。

その戦略の成功の鍵を握るのは、企業の「データガバナンス」力。顧客の行動/発言データを収集・分析・活用しPDCAサイクルを回すには、その推進役を担うデータサイエンティストの育成や、知的業務の効率化に向けたKPO(Knowledge Process Outsourcing)の活用が不可欠です。また、データや分析に対する考え方についても発想の転換が求められます。従来のような「統計的に正しい知識」を得るための分析(アナリシス)に終始せず、社内外の膨大かつ多様なビッグデータの統合(シンセシス)をもっと重視すべきでしょう。なぜなら、出現率の低いレアケースの行動/発言のタイムラインを観察し「個客」のインサイトを深めることが、クチコミの源泉となる「感動体験の創出に役立つ知恵」を得ることにつながるからです。

本書は、このような新しい時代のマーケティングやCRM戦略、およびデータ分析の理論と技法を、国内外の事例を交えて体系化したものです。

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