制作工数6割削減、運用の機動性向上! ベネッセがノーコードCMS「Studio」で実現した次世代Webサイト運用
教育・出版事業の大手、“進研ゼミ”のベネッセが推進するDX戦略が、デジタルマーケティング分野で革新的な成果をあげている。
「デジタルマーケターズサミット 2024 Summer」に登壇したベネッセホールディングスの水上宙士氏は、ノーコードWeb制作プラットフォーム「Studio」の導入により、WebサイトのCVRを前年同期比で139%向上、コストは6割減、制作工程も3週間削減させた“次世代型Webサイト運用プロジェクト”を含む、同社のDX戦略の全体像を紹介した。ベネッセのDX成功の鍵は、段階的なDX推進と、デジタル専門組織による全社的なサポート体制、そしてノーコードCMSにあった。
事業フェーズにあわせたベネッセのDX推進
ベネッセグループは「よく生きる」を企業理念に掲げ、妊娠・出産期の「たまごクラブ」「ひよこクラブ」から、幼児教育の「こどもちゃれんじ」、小中高生向けの「進研ゼミ」、大学・社会人向けリスキリング(学びなおし)支援である「Udemy(ユーデミー)」、さらには介護事業に至るまで、人生のあらゆるステージをサポートする幅広いサービスを提供している。
ベネッセのDX推進は、このような事業の多様性を反映し、下記の3つのステップで段階的に進められている。各事業の状況に応じ、適切なアプローチが選択されているという。
- デジタルシフト:既存サービスのデジタル化
- インテグレーション:オフライン×オンラインの統合
- ディスラプション:ビジネスモデル・収益モデルの転換
各事業の特性や成熟度を見極めながら、何をDXとして推薦していくべきか、適切なアプローチを選択することが重要です(水上氏)
200プロジェクトを手掛けるベネッセのデジタル専門組織“DIP”
ベネッセでは、社内のデジタル専門組織「Digital Innovation Partners(DIP)」を中心に、これらのDX推進に尽力してきた。DIPのメンバーは、事業戦略からUI/UX開発、PDM支援、データ利活用、デジタルマーケティング、システム開発まで、さまざまな事業部門に入り込み、DXの課題解決の支援にあたってきた。
DIPの強みは、デジタル技術の専門知識と、ベネッセの各事業に対する深い理解を併せ持っていることであると水上氏は説明し、これにより、技術主導ではなく、事業のニーズに即したDXを実現できていると述べた。
3つの課題が顕在化していた進研ゼミの販促サイト
ここからは、ベネッセDX推進の取り組みの大きなひとつである次世代型Webサイト運用プロジェクトが詳しく紹介された。
進研ゼミの中学講座、高校講座などのサービスでは、2000年前半からデジタルマーケティングの一環として販促サイトを制作している。毎月変わる商品にあわせた月1回の更新だけでなく、週に3回程度、進研ゼミ入会率などのコンバージョン率(CVR)を見ながら細かな改善を行っている。
しかし、このサイト運用においては、以下のような課題が顕在化していた。
- 社内でExcelで作成したデザインラフを制作会社に送るという作業フローが非効率的だった
- 紙のダイレクトメールの構成やコピーを安易にWebに当てはめると読みづらいため、Webに落とし込まねばならないが、その制作スキルに担当者間でばらつきがあった
- 紙のダイレクトメール制作スケジュールとWeb更新スケジュールが整合していないため、ダイレクトメール側の変更が発生するたびにWebへも反映せねばならず、煩雑だった
これらを解決するために、コーディングスキルを持たない担当者でも、質の高いWebサイトを短期間で構築できるソリューションが必要とされていた。
Studioを利用した次世代型Webサイト運用プロジェクト
そこで導入されたのが、ノーコードでWebサイトを構築できる「Studio」だ。
Studioは、コーディングの知識がなくてもプロフェッショナルなWebサイトを制作・運用できるWeb制作プラットフォームだ。従来、Webサイトを制作するには、デザイナーやエンジニアの専門的なスキルが必要だった。そのため、ページ制作や修正のたびに外部の制作会社に依頼せざるを得ず、それが時間的・金銭的コストの増加につながっていた。
そこに、ノーコードCMSのStudioを導入することで、更新・修正は社内で対応するよう、制作フローを抜本的に見直すことにした。
コンポーネントによる直感的なWebサイト制作を実現
Studioの大きな特長は、事前に用意された「コンポーネント」と呼ばれるデザインパーツを利用して、直感的にWebサイトが制作できる点だ。
ベネッセの次世代型Webサイト運用プロジェクトでは、デジタルマーケティングに精通したチームが、「説明型ボックス」「Q&A用アコーディオンボックス」など、約200種類ものコンポーネントを作成した。これらのコンポーネントをいわば“レゴブロック”のように組み合わせ、簡単にサイトを構築できるため、コーディング知識を持たない社員でも質の高いページを作成できるというわけだ。
StudioのユーザビリティとUXの高さは群を抜いています。特に、コンポーネント管理のしやすさと、新しいコンポーネントの追加のしやすさは、我々の制作スピードとスタイルに非常にマッチしていました(水上氏)
事業部門の視点を活かした迅速なプロジェクト推進
Studioの導入は迅速に進められた。Studio導入の意思決定は2023年8月に行われたが、そこから1か月で制作会社とプロジェクト計画を策定し、10月には中学講座サイトでテスト運用を開始、その後2か月間の結果を見てStudioから、他のサイトにもStudioの導入を広げていったという。
このような迅速な導入が可能となった理由を水上氏は「自分自身がDIPの副本部長であると同時に、進研ゼミ部門のマーケティング担当も兼任していたため、横断部門と事業部門の両方の視点を持って、スピーディーに意思決定を行うことができたから」と分析している。
また、Studioの導入にあわせて、生成AIを活用した「進研ゼミ販促サイト専用コピー生成ツール」も内製開発した。これは、紙のダイレクトメール用に作成された長めのコピーを、Webに適した文字数や表現に変換するツールで、これによって、Web制作の経験に乏しくても、誰でもWebの特性にマッチした適切なコピーが作成できるようになった。
この生成ツールを活用して、ダイレクトメールのコピーをWeb用に最適化し、そのままStudioのコンポーネントに反映させるワークフローを確立したことも効率化に大きく貢献した。これにより、クリエイティブの質を維持しながら、制作スピードの大幅な向上を実現することができた。
コスト削減、制作期間の短縮に加え、CVRが139%向上
このプロジェクトによる成果は、明確に数字で表れた。
成果① 制作工程を3週間短縮
まず1つ目の成果が「短納期化」だ。
もともとWebの制作工程には8週間ほど必要としていたが、これを3週間短縮できたという。紙のDMを校了してからWebの制作に取り掛かるフローに組みなおすことで、DMに変更が発生したからWebにも反映するという煩雑さをなくすことができた。
水上氏は、「Studioでコンポーネントを大量に準備して、社員がそれを使ってサイトを作れるようにしたことで、この短納期が実現できた」と述べる。
成果② 制作工数・コストを6割削減
2つ目の成果は「コスト削減」だ。
それまで大人数で行っていた制作会社の運用体制をスリム化したことによって、コストを約6割も削減できたという。
運用体制のスリム化は、制作会社の方にとって嬉しい話ではないかもしれませんが、今後、ノーコードCMSでのWebサイト構築・運用は、ベネッセだけでなく、いろいろな会社でありうることだと、制作会社側でも認識しておられました。
ベネッセとStudioと制作会社の3社で、どういった体制にしていくべきかというのを何度も話し合いました。制作会社もその知見をもって、他社向けにこうした次世代Web構築・運用の拡販を行っておられるそうで、最終的にはWin-Winになったのではないかと考えています(水上氏)
成果③ CVR139%向上
最期の3つ目の成果が「CVR向上」である。
進研ゼミ小学講座において、2024年5月1日~8月25日の期間で昨年と比較したところ、コンバージョン率(CVR)が139%向上していた。Studioと生成AIを導入した今回のプロジェクトによって、マーケティング面も強化されたことがわかる。
顧客の状況に合わせて、フレキシブルに更新をかけられるようになったことが大きかったですね。顧客視点でサイトを更新できるようになったことが、コンバージョン率の向上につながったと考えています(水上氏)
ベネッセは、Studioの全社展開を視野に入れ、今後の課題として、Studio側にデータ容量制限の緩和や大量のコンポーネントを組み込んだ際の動作速度の改善などを求めている。また、大規模組織におけるコミュニケーションコストを低減するコメント機能や承認フローなどのコラボレーション機能、SEO関連の機能の充実にも期待していると述べた。Studioの取締役COOである菊地涼太氏からは、現在、対応を進めているとの回答があった。
テンプレートに縛られないノーコードCMS
Studioは、ノーコードでありながらテンプレートに縛られず、コーディングと遜色のないWebサイトの制作、運用ができるプラットフォームである。その特長は、構築・公開・運用の3つのステップで説明できる。
構築
- デザイン性の高さと直感性を両立したデザインエディター
- ダッシュボードからのデータ入力が可能なCMS機能
公開
- 安定したホスティング基盤を提供(アップタイム99.9%以上を数年にわたって達成)
運用
- アナリティクス機能やフォーム機能を標準搭載
- 他社サービス(Google AnalyticsやSalesforce等)との連携も可能
現在、Studioは50万人以上のユーザーを抱え、10万件以上のサイトをホスティングしており、最大規模のサイトは月間500万PVと、大規模サイトの運用でも定評がある。また、ベネッセをはじめ、金融機関、損害保険会社、医療系上場企業、さらにはデジタル庁などの公的機関まで幅広い業種で利用されている。
今後、SEO対応の強化やサーバーサイドレンダリングへの移行など、さらなる機能拡張が予定されている。また、Studioでは外部パートナーとして100社以上の制作エキスパートを認定しており、必要に応じて、初期構築や部分的なサポートも依頼できるという。
菊地氏は最後に、「近年、クリエイティブをいかに改善してコンバージョンを上げていくかがWebサイト制作の鍵となっています。Studioは、Webサイトにおける機動力を高めるツールとなります」と胸を張ってアピールし、セッションを終えた。
- ノーコードWeb制作プラットフォーム「Studio」
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