SATORIの9年間から見るBtoBマーケティングの変遷と成功パターン:データ活用の舞台裏
いまやデータ活用は、Web担当者やマーケターにとって不可欠となっている。かといって、目先のコンバージョンに囚われていては、企業の成長、売上高の成果につなげることは難しい。
「Web担当者Forum ミーティング 2023 秋」に、マーケティングオートメーション(以下、「MA」)ツール「SATORI」を提供するSATORI株式会社の代表取締役 植山浩介氏が登壇。MAツールにデータを統合することで、日々の取り組みを最適化することの重要性と、データの力を活かし、Web担当者から事業貢献できるビジネスパーソンとして成長するために必要な要素について、これまでのSATORIの取り組みを例に紹介した。
この30年間における、Web担当者の立ち位置
植山氏は、自身がおよそ30年程経験してきたWebの世界を振り返り、Webの世界は、モノづくりや技術、データが好きなWeb担当者が牽引してきたとして、「デジタル化の中心にいたのはWeb担当者と言っても過言ではないと思います」と話す。
草創期のWeb担当者は、サイト構築やブログを作るといったマーケティング活動における一部分を担っていただけだったが、やがてWeb広告やコンテンツマーケティング、SNSなどへ活動の範囲を広げ、特に初期にWebを導入した企業は業績を大きく伸ばしてきた。しかし現在、そうした先行者メリットはすでに失われ、「Webマーケティングは過当競争と言っても過言ではない」状態になっている。
ここ数年でWebを含む世界中に存在するデータ量は爆発的に増えており、2022年に比べ2025年のデータ量は2倍になるというデータもある。データ量が増えるに従って、消費者はWebから得られる情報の取捨選択が難しくなっており、企業はただWebサイトにコンテンツを置けばいい、あるいはSEOで上位表示されればいいという時代は「二度と来ないと考えるべき」と植山氏は述べる。
では、Web担当者は今後どう進化していけばいいのか。その課題について、SATORIがこの9年間どうWebマーケティングを変化させてきたかを、「量を追う」「質を追う」「価値の再創造」という3つの取り組みをもとに紹介した。
SATORIのこれまでの歩みからヒントを得て、どんなマーケターを目指していけばいいかヒントを得て頂けたらと思っています(植山氏)
フェーズ① 量を追う
ライトコンバージョンを狙ったオンライン/オフライン施策
オンラインで認知とCVを稼げ!
SATORI立ち上げ当初は予算もなかったため、まずはWebで認知とコンバージョン(以下、「CV」)を稼ぐことに注力した。具体的には、「SATORI」を知ってもらうためのコンテンツマーケティングを行い、3年間で200〜300程度の記事コンテンツを掲載したオウンドメディアを構築。早い時期からBtoBマーケティングへ取り組んだことで、3年目には月間20万ページビュー(以下、「PV」)を達成した。
さらにCVを増やすために「マーケティングの教科書」などのダウンロード資料も用意した。多くの場合、自社のコンテンツサイトにはお問い合わせや資料請求へ導くためのポップアップを表示するところ、今すぐに「SATORI」を検討しているわけではない潜在顧客にも求められるコンテンツを用意することで、ダウンロードしてもらい、初回接点を創出する戦略を実施。FacebookやWeb広告にも同様のコンテンツを拡散することで、目標を大きく超過するメルマガ登録者数獲得や資料ダウンロード実績を実現した。
CPA(※1)が1リードあたり200〜300円程度まで抑えられたこともあり、非常に少ない予算で幅広いユーザーを獲得することができました(植山氏)
(※1)Cost Per Action:顧客獲得単価
オフラインでも認知とCVを稼げ!
同時に、オフラインでも予算をかけずに名刺情報を集めることを目指した。展示会では、ただの商品紹介ではなく、雑誌風のマーケティングトレンドが書かれた冊子を配布することで顧客の興味を惹き、多くの名刺情報を獲得することができた。
幅広いコンテンツを用意するために、自社だけでなく、3社協同で展示会に出展したこともあります。自社だけではなしえない幅広い喚起メッセージを伝えることができ、ユーザーの足を止めることに成功しました。
3社で行うことで、自社の出展ブースへの来場数が3倍になる一方で、費用は3分の1に抑えることができます。それだけで効率が9倍になりました(植山氏)
ある展示会では約5万人の来場に対して約1万1,500枚と、来場者全体の約20%の名刺を集められたことや、他の会場では約5万人の来場で約9,000名の名刺を集められたことがあり、リード単価が100円前後とWeb並みに効率的なリード獲得ができたという。セミナーも展示会と同じように共催で実施するなど工夫をした。
こうして、オンライン/オフラインともにライト層を狙い、認知を広げCVを増やすことで、「SATORI」というツールがMA業界での認知度の向上につながったというのが初めの4年の出来事でした(植山氏)
フェーズ② 質を追う 広げた施策の取捨選択
商談化率をあげよ!
だが、次第に顧客獲得コストが歪みとして出てきた。ただCVの量を増やしても商談や受注につながらなくなってきたため、次のフェーズでは「質」に目を向けるようになる。
まずは商談化率を上げるため、マーケティングチームとインサイドセールスチームが手を組み、どういった顧客なら商談につながるか、MAツールの機能を使いながら施策を行っていった。
ホットアラート機能では、ただスコアが高いだけでなく急激な変化をしたリードを追うことで商談化率を上げることに成功した。また、それまで実施していた幅広い展示会出展や頻繁なセミナー開催、Webコンテンツのダウンロード資料についても、ROI(※2)を考え、取捨選択を行った。
その結果、商談数を増やしながら、商談化率を下げることなく進めることができ、結果として商談数を4年で約10倍に増やすことができたという。
(※2)Return On Investment:投資利益率
受注率をあげよ!
こうして商談化率を上げていったところ、次に起きたのは、受注率が下がるという問題だった。そこで、受注率を上げるために、マーケティングチームとインサイドセールスチームに加え、フィールドセールスチームとも連携を強化し、商談現場からのフィードバックを踏まえた施策を行うことにした。
まずは、新たなKPIとして「案件化率」「案件化数」を定義し、どのチャネルなら効果が高いかを分析した。すると、顕在顧客向け資料ダウンロードやインバウンド問合せ、SATORIの指名検索などが受注につながる率が高いということがわかったため、Web広告の出し先を絞ることにした。また、商談前にあらかじめメルマガやセミナー、資料などの情報を送ることで、商談前のナーチャリングを行うようにした。さらに、展示会やセミナーでは、その場で相談や商談ができる場所と人員を多く設置したという。
その結果、展示会やセミナーからの案件化は上昇。受注率の底上げにもつながり、無事、CAC(※3)も改善した。
量と質を同時に取ることは非常に難しいため、それぞれのフェーズごとにどちらかに振り切らなければ中途半端になってしまったと思います(植山氏)
(※3)Customer Acquisition Cost:顧客獲得費用
LTVをあげよ!
ここまでの施策により、安定して商談につなげ、受注できるようになった。次は、受注してもリピートにつながらないという問題に直面する。そこで今度は、LTV(※4)が高い顧客を絞り込み、類似した顧客をメインターゲットとしてマーケティングを展開した。
また、導入時と導入後に期待値がずれていることが解約の原因になると考え、利活用やアフターフォローについてのコンテンツを提供。適切な期待値調整をしたうえで導入してもらえるようにした。
植山氏は、既存顧客の分析例として、売上高と業種で継続率を示した表を紹介。たとえば建設業では、2年目から3年目にかけての更新率が他業種よりも低いため、初年度と2年目のサポートを手厚くするという施策につなげていったという。
(※4)Life Time Value:顧客生涯価値
フェーズ③ 価値の再創造 データではなく1社1社を見る施策へ
そして、まさに今SATORIが取り組んでいるのが、売上の縮小均衡を打破するための、「価値の再創造」フェーズだ。
さらなるインサイトの獲得を目指し、全体データだけでなく、導入企業への個別インタビューを実施、自社のLTVを伸ばすために必要な勘所や、USP(Unique Selling Proposition:他者にはない自社独自の強み)、そして弱みなどを把握することができつつあるという。
そこで得られたインサイトを、マーケティング、カスタマーサービス、商品開発に活かし、新しい価値を作っていこうとしているのが、SATORIの今だ。
個別のディープインタビューを通して、手触り感のある、生きた情報が入ってくる。こうしたLTVを伸ばすための活動が、マーケターにとって非常に大事です。マーケターは積極的に顧客に会いにいくべきです(植山氏)
Web担当者が次に備えるべき素養とは?
結局、Web担当者が次に備えるべき素養とは何でしょうか。それは、「データ×人」だと思っています。なぜなら、ここまで私はデータと顧客の話しかしていないからです(植山氏)
商談化率、受注率など「率」をあげるのは、データを見ればできる。しかし、その先の、LTVをあげたり、商品開発をするフェーズになると、データだけではなく1社1社の「個」、つまり「人」を見なければならない。それこそが新しい価値や商品開発につながると植山氏は語る。
SATORIは、マーケティング部門の人間だけでなくすべての部門がマーケターの意識を持つべきだという「全員マーケター」が理念の会社だ。そのため、社員が取り扱えるデータとして108のメトリクスを週次で閲覧できるようにしている。それにより、「効率化」「最適化」は実現できるが、イノベーションは起きにくい。そこからLTVが長い人を見つけ、ディープインタビューと組み合わせることで、顧客が購買した理由を具体化し、そこからインサイトを見つけていくという取り組みこそが顧客提供価値を増やす。
社内データだけでなく、どれだけ顧客や人に対して興味を持てるかがカギだと思っています(植山氏)
植山氏は、セッションの最後に改めて、Web担当者が次に持つべき素養として「データ×人」をあげ、Webマーケターは、文系と理系、両方の考え方を持たなければいけない難しい仕事だとしながら、「マーケティング担当者は、事業ビジョン達成においてもっとも中核的な人物であるべきです。チャンスが広がっている仕事でもあるので、わくわくしながら挑戦してほしい」と話を締めくくった。
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