百聞は一見にしかず:顧客心理が分かるユーザー行動観察調査

ものづくりの現場からWeb業界まで幅広い分野で活用され、多くのヒントと発見を与えてくれるユーザー行動観察調査について考察します。
※この記事は読者によって投稿されたユーザー投稿のため、編集部の見解や意向と異なる場合があります。また、編集部はこの内容について正確性を保証できません。

消費者の様々なニーズを狙う商品が溢れている市場で勝ち抜くためには、顕在化していない欲求にまで気づき、常に新しい体験と満足を創出し提供することが肝心と言えます。これを可能にする手段として、既に製品開発の現場で多くのメーカーが実践しているのは「行動観察」です。実はこの行動観察手法はものづくりの現場だけでなく、営業効率の向上、店舗・売り場作り、職場環境の改善、更にWeb施策の展開(Webサイト、Webマーケティング等)といった幅広い場面で活用されています。

ユーザー行動観察調査とは

皆さんは「エスノグラフィー(ethnography)」という言葉はご存知でしょうか。一般に「民族誌」と訳される文化人類学、社会学の用語で、集団や社会の行動様式を調査・記録するフィールドワークの手法であり、何の偏見や先入観も持たずにありのままの状態を観察し分析するのが特徴です。

私達は日常生活の中で、自分自身にとってごく当たり前で自然な行動であっても、同じ状況に置かれていない他人から見れば不可解なものに見えることが多々あります。また、自分は何が欲しくて何があれば満足といった要求も全て明確にわからず、言葉に出来ないものや、自分自身さえ気づいていない潜在意識などもあります。

ビジネス分野において、このような顧客やユーザーの行動や隠れた要求を理解するため、「コンテキスチュアル・インクワイアリー(Contextual Inquiry)」(「文脈的質問法」)というユーザー行動調査法が有名であり、文字通り顧客やユーザーが置かれている状況(コンテキスト)に入り込んで観察しながら質問する手法です。「師匠と弟子モデル」とも呼ばれ、顧客やユーザーが師匠となり、普段の行動を再現しながら、インタビュアーが弟子入りのつもりで疑問に思ったことをその都度聞くというやり方です。

ユーザー行動観察調査と人間中心設計

ユーザー行動観察は人間中心設計(HCD)と密接な関係にあります。現在は、高機能・高性能のものを作れば売れるという「技術中心」の考え方では通用できなくなり、ユーザーにシステムや機能に慣れることを強要するのではなく、人を中心に据えたいわゆる「人間中心設計」の時代に来ています。その人間中心設計のプロセスにある「利用状況の理解」という段階で、「コンテキスチュアル・インクワイアリー」のようなフィールドワーク的なユーザー行動観察調査は大きな力を発揮しています。

このステップでは、顧客やユーザーの行動だけに注目するのではなく、取り巻く環境や他人との関わり方、更に行動に至るまでの流れやその後の動向なども総合的に観察し、見えない深層心理の分析に活かします。利用状況の客観的な把握と価値観の理解ができているかは、ユーザービリティやコミュニケーションの設計の質に大きな影響を与えてしまうでしょう。

Web業界におけるユーザー行動観察

インターネットの普及とともに、ますます重要なビジネスチャネルとなってきているWebサイトですが、そのポテンシャルを最大限に発揮すべく努力している企業は少なくありません。しかしなかなか成果が上がらない、これ以上Webで打てる手が思いつかない、そもそも何をどこからやればいいか分からないといったお悩みを抱いている企業様も、少なくないでしょう。

このような問題を解決するには、まず以下2つの角度からWebサイトの役割を整理する必要があります。

  1. ビジネス目的: Webサイトは会社全体の目標を達成するための手段の一つです。その目標を踏まえた上で、Webがビジネス上のどの機能を補填できるかを検討し、サイトに反映させます。
  2. ユーザー行動傾向: ユーザーのWebサイトの使い方、またあらゆる接点の中でWebの登場場面を把握することでサイトの位置づけを明確にし、どんな役割・機能をもたせるべきかを決定します。

この2のところにユーザー行動観察調査を導入すれば効果的に成果をあげることが可能になります。

ユーザー行動観察調査の利点

Webサイトの新規構築やリニューアル、部分改修を行う際、施策を導き出すため、ターゲットとするユーザーの行動やニーズを把握しなければいけません。仮説を持たずにユーザーが普段どのようにWebサイトを利用しているかを目の前で再現してもらいます。どんな時にどんな使い方をしているのか等、行動の実態を専門知識を持つインタビュアーが観察しながら質問することで、その行動の裏にある行動原理を読み取り、潜在的なニーズを抽出することが可能になるのです。

また、インタビュアーはユーザーを取り巻く環境も含めて行動過程を観察しているため、ユーザーの意思決定に影響を与えている要素をより明確に把握でき、より精度の高いターゲットユーザー分類に貢献できます。

そして、Webサイトを利用する際の時系列の行動や反応、タスクに関連するコミュニケーション内容や人間関係等を総合的に分析することで、Webサイトとユーザーの間のインタラクション上の問題点と課題を洗い出すことができます。

ユーザー行動観察調査によって、ターゲットユーザーの性質を明確にし、行動パターンと行動原理のカテゴリー分けができれば、Web施策として数多くのやれること・やるべきことに優先順位をつけることができるようになります。つまり、リアル調査結果をもとに、ターゲット別にWebの役割を再定義し、ターゲットの優先順位から施策を整理することで、予算と時間の投資対効果(ROI)を最大化することが可能になります。

ユーザー行動観察調査×アクセスログ解析

Webサイトの構築や改善を行う際のユーザーの行動過程を把握するための手法として、アクセスログ解析もあげられます。

「ユーザーを知る」という目的から見れば行動観察もアクセスログ解析も共通していますが、比較するとそれぞれ以下のメリットとデメリットが考えられます。

  • ユーザー行動観察
    メリット:①行動の裏にある背景や心理を知ることができる
          ②データとして記録できない部分の文脈も把握できる
    デメリット:①サンプル数が少ない故、現象の普遍性を証明することが難しい
            ②高頻度で実施することが難しい
            ③追跡調査が難しいため長期傾向の把握に適していない
  • アクセスログ解析
    メリット:①大量のデータによるユーザー行動のパターン化、一般化が可能
          ②解析ツール等の利用で収集も分析も随時実施可能
          ③継続的にデータを蓄積しているなら時系列で変化を確認することが可能
    デメリット:①背景や行動理由を現象から推測しかできない
            ②データの取得方法やデータの質によって解析困難な場合もある

ユーザー行動観察は少ない対象を深く分析し、行動の理由と背景を探る手法であるのに対し、アクセスログ解析は大量のサンプル数で対象の行動パターンを把握する手法です。上記のメリット・デメリットの比較からも分かりますように、両者がうまく連携していけばより全面的かつ効果的な分析が期待できます。

ユーザー行動観察調査×グループインタビュー

ユーザーの要求事項の抽出にあたり、行動観察以外にグループインタビューもよく用いられる手法です。リクルートしたユーザーに、調査設計に基づいてインタビューを行うもので、数人同時にインタビューしたり、対象者同士でも語り合ってもらったりします。この手法の利点としては、一度に多くのユーザーの声が聞けるのと、インタビュー対象者同士がお互いの発言によって記憶の掘り起こしや連想の引き起こしができることにありますが、そもそも全ての行動が意識的に行われているものではないため、インタビューだけでは全ての行動とその背景にある要因を把握するのが難しいです。2つの手法にそれぞれ強みがありますので、プロジェクトの段階と目的に応じて選択するか、組み合わせて実施することがお勧めです。

まとめ

ユーザー行動観察調査はものづくりの現場からWeb業界まで幅広い分野で活用され、多くのヒントと発見を創出し続けています。特に海外進出をする際、ユーザー行動観察調査を通じて現地の顧客とユーザーの価値観やニーズを把握し、現地の習慣と風土に従って事業展開していく必要があることは言うまでもありません。

技術の進歩が目まぐるしいこの時代で、行動観察という手法は少々アナログに見えるかもしれませんが、「百聞は一見にしかず」のことわざのように、本当の顧客やユーザーに会って初めて得られる知見がきっとありますので、ぜひユーザー行動観察手法を活用してみてはいかがでしょうか。

 

■本コラムの元記事はこちら
百聞は一見にしかず:顧客心理が分かるユーザー行動観察調査

 

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