現場のマーケティングノート

あなたの「昼のプレゼン」が通らない理由 マーケの実務は9割が社内調整

昼のプレゼンが通らない原因は社内調整不足。マーケティング思考で社内を動かす具体策を解説します。

垣内 勇威(WACUL)

9月3日 7:05

「正しい戦略を渾身の資料にまとめて、意思決定者にぶつければ、きっと通るはず」

そう信じて何日もかけて資料を仕上げ、意思決定の会議に持ち込む。しかし返ってきたのは、想定外の角度からの辛辣な反論だった。

そんな経験に心当たりはないでしょうか。

原因は、あなたの説得力不足でも、上司の理解力不足でもありません。戦う場所を間違えているのです。

※当記事は8月20日発売の新刊『なぜ定石だけでは組織は動かないのか?』(日本実業出版社)より、中核を抜粋してお届けします。

あなたの「昼のプレゼン」が通らない3つの理由

昼のプレゼンだけで上手くいかない理由は、シンプルに3つあります。

1. 「正論」ほど言われて腹が立つものはない

その正論に気づいているのは、あなただけではありません。正論が実行されないのは、他に優先すべきことがある・利害対立が激化する・管掌役員のメンツを傷つけるなど、様々な制約から「あえて無視」されているだけ。そこへ何も知らないメンバーが正論をぶつければ、即座に反論されるか黙殺されて当然です。

2. 昼の会議は「ポジショントーク」の闘技場

昼のプレゼンでは「正しさ」よりも「立場」が優先されます。仕事が増える部門に気遣う役員や、少し頭が良いことを言いたいだけの役員から、辛辣な反論が飛んでくる。ジャズ並みに即興で何が起こるか分からない場に、相手を知らずにプレゼン資料で挑むのは自殺行為です。

3. プレゼン資料の10%も伝わらない

昼のプレゼンだけで理解できるほど、人間の頭は良くありません。特に相手の役職が高いほど、専門外を管掌しているため理解されにくい。役職者といえど、ただの人間です。瞬時にプレゼン資料から意図を汲み取る優れた脳を持っているわけではありません。

つまり、昼のプレゼンは「勝負の場」ではなく、「合意済みの内容を形式的に確認する場」でしかない。本当の勝負は、その前に済ませておく必要があるのです。

社内の人は「マーケティングの対象」である

「社内なら正論を受け入れてほしい」という願いは、はっきり言って「甘え」です。社内の上司や同僚は、あなたの肉親ではありません。ちょっとやそっとの正論を無条件で受け入れてくれる関係ではないのです。

一方で、マーケターは顧客という「人間」を知り、動かすことを本業にしています。であれば、上司や同僚という「人間」を知り、動かすことも、同じアプローチで攻略できるはず。

社内のメンバーは、マーケティングの対象である。こう頭を切り替えれば、面倒だと思う気持ちも、イライラする気持ちも軽減されます。目の前に立ちはだかる社内調整のターゲットは、「マーケティング」で攻略できるわけですから。

準備1|まず「意思」から「目論見」を作る

社内調整で最初に作るべきは、資料ではありません。「意思」と「目論見」です。

例えば、上司から「社長がWebサイトをリニューアルせよと言っているので、まずは相見積をとってほしい」と言われたとします。ここでいきなり見積もりを依頼しに走れば、確実に地獄を見ます。ゴールが定まらないまま作業だけが進み、最後に「なんか違う、やり直し」と妄言のようなフィードバックが返ってくるからです。

こんなときは、「せっかくリニューアルするなら動線を改善し、問い合わせを増やしたい」といった具合に、まず自分の「意思」を持ちましょう。曖昧な仕事を自ら再定義することが、社内調整のスタートです。

次に、その意思を通すための「目論見」を作ります。目論見とは、「中間ゴール」のようなもの。例えばWeb制作会社から見積もりをもらうとき、あえて一つは高めに出してもらい、松竹梅の竹や梅に落ちるよう誘導する、といった具合です。

  • 松プラン:全面リニューアル(1,500万円)
  • 竹プラン:主要ページデザイン刷新+動線改善(500万円)
  • 梅プラン:動線改善のみ(200万円)

他にも、Webサイトを管掌する役員の合意を先に得たり、リニューアル失敗事例を社長の耳に入れたりと、意思を通すためにできることは様々にあります。社内調整とは、常に「目論見」ドリブンで考えなければなりません。

準備2|キーマンは「攻略対象」ではなく「親交対象」

次は、ターゲットの解像度を高めます。ここで多くの人が勘違いするのが、「直属の上司さえ説得すればOK」「社長さえ説得すれば通る」という発想です。

日本企業では、経営者も役職者も周囲の顔色をうかがいながら徐々に意思決定を進めていくため、誰か一人がズバっと決められるケースはほとんどありません。

そこで大事なのが「キーマンを決めつけない」姿勢です。社長とマーケ本部長を説得できていても、システム部門や広報部門から刺されるかもしれません。念のため話を通しておくべき相手を、常にアンテナを張って探し続ける必要があります。

キーマンを見つけたら、「攻略対象」ではなく「親交対象」として捉えます。下心が見える軽薄なコミュニケーションは、必ず見透かされます。短期の攻略ではなく、長期の友好関係を作るつもりで、相手に純粋に興味を持つのです。

親交の入口としておすすめなのが、相手の趣味を自分でも始めてみること。私自身、お客さんが釣りをやっていたので自分も始めてみたことがあります。相手からすれば、自分のためにわざわざ趣味を始めてくれたわけですから、返報性の原理が働きコミュニケーションが増えていく。さらにその趣味で別のキーマンとも話題が重なるようになり、親交の幅がどんどん広がります。

準備3|「権威」と「証拠」を揃える

ゴール(目論見)とターゲット(キーマン)が決まれば、次は説得のコンテンツです。ここで失敗しやすいのは、自分の頭だけで考え込み、自分の実績だけで戦うプライドの高い人です。

人は説得の中身そのものよりも、「誰が言っているか」という権威の方を信じます。なぜなら、仮に成功しなくても「権威者が言っていた」という免罪符が残るから。権威の調達源は主に次の3つです。

  • 社外の声:自社より他社の人の話を信じる。同業のプロや、最近転職してきた外様人材が使える
  • 役職者の権威:社長のインタビューや中期経営計画に載っている文言を、都合よく解釈して権威として使う
  • セルフブランディング:自ら登壇・寄稿・外部メディア露出で社内プレゼンスを高める。ただし嫉妬を買う諸刃の剣

また、権威よりも強力な武器は「顧客の声」という証拠です。例えば、定性インタビューを録画して被験者の発言を切り取り、会議で放映する。実在する顧客が困っている姿を目の前で見れば、N=1でも強い説得材料になります。定量アンケートで大多数の顧客の声であることを裏付けるのも有効です。

準備4|「根回し」は1対1で、雑談の中で完了させる

最後の準備が「根回し」です。

私は根回しを「配慮あるコミュニケーション」だと思っています。会議でいきなり多数決で強引に決めるより、事前に関係各位に納得してもらい気持ちよく進めてもらう方が、日本の職場にはよほど合っている。根回しには、2つの鉄則があります。

根回しの鉄則

  • 鉄則1:必ず1対1で行う。別の人が混ざるとポジショントークをされて本音が引き出せませんし、複数人の前で恥をかかせるリスクもあります。面倒でも、必ず一人ずつ説得していきます。
  • 鉄則2:会議室ではなく、雑談の中で行う。平日の会議室に呼び出すと相手は「議論モード」になり、難しいネゴシエーションほど端から否定されかねません。軽い雑談のノリで始めて、少しずつ手札を出していき、気づいたら合意していた、と仕向けるべきです。

根回しの順番にもコツがあります。まずは決議に好意的な人物から始め、そこから権限の強い人の合意を集めていく。「社長は賛成している」という切り札があれば、それを聞いて自分も賛成する役職者が現れます。反対しそうな人物は外堀を埋めた後に回すのです。

わらしべ長者のように根回しのカードを集めていけば、合意形成は完了します。そうなれば、昼間のプレゼンは誰も反論することのない「ただの儀式」として、良い意味で形骸化するのです。

定石だけでは組織が動かない理由

私はこれまで、『デジタルマーケティングの定石』『BtoBマーケティングの定石』『LTVの罠』と3冊の書籍を通じて、マーケティングの「正解」を届けてきました。4冊目でついに組織論に踏み込んだのは、正解を届けるだけでは不十分だと痛感したからです。

私自身、若い頃は「社内調整」が大嫌いでした。当時の私にとってコンサルタントとは、誰よりも頭脳明晰で、誰も気づかない「正解」にたどり着き、その素晴らしいプレゼン資料にクライアントがひれ伏す、そんなヒーローだったのです。

コンサルティングが「正解を出す仕事」ではなく「クライアントを導く仕事」だと腹落ちしたのは、比較的最近のこと。そのきっかけは、意外にも「飲み会」でした。

30代中盤からクライアントと飲むようになり、彼らが最も熱量を注ぐ話題が、社内の愚痴、キーマンの噂、仕事の悩みだと気づいたのです。要するに「社内調整」の苦労話。私はお金をもらっているプロジェクト中の彼らしか知りませんでした。しかし彼らには毎日の社内調整があり、それこそが本丸だった。「こんなに社内調整に悩んでいるのに、コンサルとして何もしなくていいのか?」。この問いから、日中の仕事でも相手の領域にどんどん踏み込むようになりました。これが今回の4冊目に至る出発点です。

私はこの「社内調整」を、誰もが誇れる仕事No.1にしたいと本気で思っています。生成AIの進化で、マーケの「正解」を出す仕事はますます自動化されていくでしょう。しかし、意志をもって組織を動かし、正解を実行に移す仕事は、決してAIに代替されません。現場で「社内調整」の技術を武器として磨いていく価値は、AI時代においてこそ、むしろ大きくなっているのです。

本稿で紹介した4つの準備は、書籍の一部にすぎません。ご興味を持っていただけましたら、ぜひ書籍を手に取ってみてください。

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