“バズ”は一日してならず。人を惹きつける広告プロモーションを企画するコツ

マーケターコラム、今回はテレビ東京・明坂真太郎氏。プロモーションで少しでもヒットを生む確率を上げる心構えとは?
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テレビ東京 明坂真太郎氏

こんにちは、テレビ東京の明坂です。

商品プロモーションなどで広告に携わっている人なら誰もが一度は「バズりたい…」という欲望を抱いたことがあるのではないでしょうか。人によっては上司や雇い主から“バズる企画”を求められることもあるかもしれません。

しかし、当然ながらそう思い通りに“バズ”は生み出せません。私は普段テレビ局で働いています。日頃接している番組プロデューサーたちの発想力や構成力などは、日常では到底出合わないレベルで、極めて高いクリエイティビティを持っているなと感心することが多くあります。そんな企画の天才たちでも、ヒットコンテンツの影には多くの失敗もあります。

さて今回は、そんな中でもプロモーションで少しでもヒットを生む確率を上げるために何ができるか、その心構えを自分なりに考えましたので、私が直近担当した広告の事例を交えてまとめさせていただきます。

心構えその1「戦略的に、多く生み出す」

お笑い芸人のチョコレートプラネット(チョコプラ)さんをご存知でしょうか。多くのテレビ番組に出演されており、TT兄弟やIKKOさんのモノマネをテレビで見かける方も多いのではないかと思います。

*テレビ東京で放送中の番組「日本シン人種図鑑」にも出演中(https://twitter.com/shinjinshu)です。

テレビやキングオブコントなどの賞レースでの活躍を始め、YouTubeチャンネルにおいても「悪い顔選手権」「スーパーマウスホーン」など、オリジナルのヒット企画を多く生み出し、企画がテレビに逆輸入されたり、動画内で作ったアイテムがオリジナルグッズとして商品化されたりと、さまざまな場面で影響力を発揮しています。

*たとえば、チョコプラの長田さんのツイートで、スーパーマウスホーンの発売告知が出ていました。

そんな幅広いシーンでのヒットメーカーであるチョコプラの長田さんも、先日Webのインタビューで、以下のように語られていました。

*Marketing NativeのSpecial Interview#12「チョコプラのYouTube動画はなぜバズるのか ~チョコレートプラネット 長田庄平」(https://marketingnative.jp/sp12/)を要約させてもらいました。

打率が高いように見えるがそうではなく、伸びてない企画ももっといっぱい出している。打率は3割だとしても、10打席だと3本、1000打席なら300本ヒットが生まれる。ヒットの方が人の記憶に残るので、300本もヒットを生めば打率3割でもヒットメーカーの印象を持たれる。自分は全然クリエイティブではない、だからこそむしろ数を多く出すようにしている。

あれだけのヒットメーカーのチョコプラでさえ、そんな努力でヒットを生み出しているということにも感心します。行動量を上げてアウトプットを増やすことは、その行動によって得られる経験値の価値がまずありつつ、さらには成功した瞬間にしかわからない学びを得るという観点も重要だと私は思います。当然失敗からも得られるものはありますが、「失敗要素を全部潰す=ヒットする」というわけでもありません。

私も過去、さまざまWeb上のキャンペーンや広告クリエイティブを企画してきましたが、めちゃくちゃにバズった時の方が多くの人から感想や感心したポイントをフィードバックされました。すると、自分の中で大事にしたポイントと、実際に刺さった部分とそうじゃない部分をつぶさに認識でき、結果的に多くの学びが得られ、次企画をするならここまでを目指さないといけないなと、目指すべき箇所の解像度が上がりました。

多く打席に立つことで得られる経験値、そしてなによりヒットを生み出した時に得られるさまざまな気づきを得るため、1つでも多くの打席に立ち、大小構わず成功を積み重ねることが重要です。

心構えその2「広く目をくばり、インプットを増やす」

私はマーケティングという仕事柄、日頃から面白いプロモーションキャペーンや広告、広告コピーなどは意識的に目を向けるようにしています。

よく、一見新しく見えるアイデアも元々ある要素の掛け合わせだと言います。1つの完成されたアイデアを少しズラしたり、追加で味付けしたりするだけだとパクりと思われることも多いと思いますが、さまざまな過去の成功要素を一度分解して、再構築をする。その過程で新たなアイデアとして認められるまでに成熟していくものだと思います。

少し前に、テレビ東京が放送中の番組をTVerのWebサイトおよびスマホアプリで視聴できる、「リアルタイム配信」というサービスを開始しました。その際に日本経済新聞の1ページをまるまる使ったお詫び広告を出す、というプロモーションを企画し、多くの反響をいただきました。

テレビ東京が日本経済新聞に出したお詫び広告

謝るタイミングでも無いはずなのに自らお詫び広告を出すというアイデアは、私が1から思いついたわけでもなく、なんなら比較的昔から使われてきたアイデアです。

その中でも私が特にインスパイアをされた事例があります。私が日頃から注目しているエンタメ企業にWACKというBiSHやBiS、豆柴の大群をはじめとするアイドルグループが所属する事務所があります。過去に多くの奇抜なアイデアでプロモーションを仕掛け、BiSHは紅白歌合戦に出場するまでに人気グループとなりました。

そのWACKもまた2018年9月に渋谷109の壁面広告で「今後、何か間違って謝ることがあると思うので、先に謝罪する。」という主旨の広告を出しました(参照:https://mag.sendenkaigi.com/brain/201809/up-to-works/014033.php)。

*WACK謝罪というハッシュタグで、ツイートもありました。

何に対してかもわからないのに先に謝罪するという、お詫びのもう一段先に行った謎掛けみたいになっていますが、当時はなかなかに個人的にはインパクトがありました。この「半分ジョークのお詫び」というアイデアは共通していますが、テレビ東京のお詫び広告のアウトプットとはもはやまったく別物です。それは、WACKの謝罪広告以外で私が過去に「コレは!」と思った広告やキャンペーンの要素を、いろいろと盛り込んでいるためです。

アウトプットに盛り込むための、種となるインプットは多いに越したことはありません。Webやテレビ、SNSなどさまざまなキャンペーンや広告に対して自分なりの「面白い」を探してみてはいかがでしょうか。

心構えその3「誰がどう伝えてくれるかにこだわる」

コンテンツや広告を企画する以上、受け手がそれをどう思うか想像して作っていくものだと思います。ただ、上記のお詫び広告の例においては、受け取った人の感じ方だけでなく、さらにそこからその人がどのように他の人に伝えるかにこだわって詰めを行いました。

広告クリエイティブを制作する過程では、もう少し複雑なクリエイティブやメッセージなども検討の中には存在していましたが、それらは仮にニュースになった際にどんな見出しが付けられるかを想像したときにイマイチ良い画が浮かびませんでした。

最終的にはそれらの案の中でもシンプルな形でアウトプットした結果、ニュースに取り上げられた際も「全国放送っぽくふるまっていた」「ユーモアある謝罪が話題」「テレ東見れないの声にお詫び」などなど、少しずつ切り口は違いつつも、どれも興味を引く見出しで取り上げていただけました。

しかもニュースメディアだけでなく、SNS上の反応においても、驚く、笑う、喜ぶ、感心する、共感する、ツッコむ、などさまざまな感情で多くの方に反応していただくことができました。

自分含め、アニメ好きは特に思い入れが強いテレビ東京(引用:https://www.tv-tokyo.co.jp/genre_anime/index.html

マス広告はデジタル広告のように特定のセグメントにだけ見せることはできません。それだけさまざまなコンテキストに対して同じメッセージを伝えるわけですから、複雑すぎても伝わりませんが、シンプルすぎても引っかかりがありません。なにより、多くの人に目につく以上、嫌われたりネガティブに思われることの無いよう(完全に0にはできないにしても)最大限のケアが必要だと思います。ユーモアと取られるか悪ふざけと取られるかは紙一重です。

クリエイティブを高める観点を多く上げてきましたが、その前段階として自社のブランドが世間からどのように認識されていて、自社サービスがどのように触れられているのか、それらをつぶさに把握し、設計することはマーケターとして必須の任務です。優れたクリエイティブもそういった日々のマーケティングの積み重ねの上に成り立つ部分は大きいと思います。

自社のブランドや世間の感情、タイミングなど、多くの流動的な要素から生まれるミズモノ的な要素が強く、自社ですら全く同じ手は打てないと思いますが、多くの人に届いた先にどのような反応をしてもらいたいのか、という部分にこだわることの重要さを今回の事例を通じて深く感じました。

*広告と同時にプレゼントキャンペーンを開始。このキャンペーンのために制作した純金のナナナ像に注目が集まりました。

いかにテレビ東京がエンタメに強い企業であるとはいえ、自社の中に、ヒットを生み出すためのセオリーを言語化し、定着させているわけではなく、属人的な部分も多くあります。そんな中、少しでも重要そうな要素や必要そうなスタンスを言語化し、組織として打率を上げていけるよう取り組んでいこうと考えています。

本テーマやそれ以外についても詳しく聞きたいことなどあれば、ぜひお気軽に私のTwitterアカウントへリプライをいただければ幸いです。

それでは。

この記事の筆者

明坂真太郎

ちょっと笑えるプロモーション企画や、テクノロジーを活かすデジタルマーケティングが得意なマーケター。
SIerでのエンジニア職を経験後、マーケターとしてリクルートにて広告、SEO、アライアンス、コンテンツ、アクセス解析など、メディアの集客におけるデジタルマーケティング全般のディレクションを担当。2017年、テレビ東京コミュニケーションズに入社し、テレビ東京に出向。地上波番組のプロモーションや広告の企画、自社運営メディアの集客、ファンコミュニティ運営などに従事。
2022年、自身が企画・プロデュースした広告(全国放送っぽくふるまっていた件に関してのお詫び)で新聞広告賞、日経広告賞を受賞。
現在は独立し、企業のマーケティング支援やプロモーション企画などを行う。

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