勝手広告/ユーザー作成広告 (CGA) 最前線 「ネット動画はCMの世界をどう変えるのか?」レポート

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テレビとネットの近未来カンファレンス
「ネット動画はCMの世界をどう変えるのか?」レポート
~CGAの「C」はコンシューマ or クリエイター? 「A」はアド or アート?~

KNN(KandaNewsNetwork,Inc.)の神田敏晶氏がコーディネータを務める「テレビとネットの近未来カンファレンス」。第13回となる今回のテーマは、「CGA(Consumer-Generated Ad)」。ユーザー参加型のネット動画サイトなどを活用し、消費者自身や一般クリエイターが企業CMを制作・公開するという潮流だ。“消費者自身がCMを手掛ける”背景とは何か、そしてそれらは今、どのような動きを見せているのか。2008年10月9日に開催された、CGAの可能性を探るカンファレンスをレポートする。

「テレビとネットの近未来カンファレンス」は六本木・東京ミッドタウンで開催

ネットが変えるCMの有り様
消費者が作るCM=CGAだ

【モデレータ】
  • 神田 敏晶 氏(KandaNewsNetwork,Inc. 代表取締役)
  • 橋本 大也 氏(データセクション 代表取締役)
【ゲストスピーカー】(登壇順)
  • 有田 智治 氏(株式会社エニグモ filmo プロデューサー)
  • 神酒 大亮 氏(株式会社ムービーインパクト代表取締役)
  • 長友 肇 氏(株式会社リクルート メディアテクノロジーラボ チームリーダ)
  • 田中 泰生 氏(芸者東京エンターテイメント株式会社 代表取締役CEO/ファンタジスタ)
  • 井上 大輔 氏(株式会社メタキャスト チーフヴィジョナリー)

KNN(KandaNewsNetwork,Inc.)の神田敏晶氏がコーディネータを務める「テレビとネットの近未来カンファレンス」。第13回となる今回のテーマは、「CGA(Consumer-Generated Ad)」。ユーザー参加型のネット動画サイトなどを活用し、消費者自身や一般クリエイターが企業CMを制作・公開するという潮流だ。

CGAという概念の登場以前にも、ありもののロゴや画像、ムービークリップなどを固定でつなぎ合わせてCMを作ると行ったキャンペーンサイトは過去にあった。ただ自由な発想と緩やかな枠組みの中で、斬新な視点から企業CMを作り上げるといった仕組みは、ここ最近急速に目立ってきた。一般消費者の目線で、コードに捕らわれずクリエイティビティが発揮されたCGAは、今までにないおもしろさを持っている。

マス媒体でのCM展開とネット動画との差異化、広告主の心情の変化、CM作品における消費者参加の現状、広告ビジネスモデルの変化など、CMを取り巻く環境もネットの影響を受けて刻一刻と変化している。なによりCMスキップ、テレビ離れが叫ばれる今日この頃。今後CGAは、テレビCMさらにはデジタルサイネージなどにも影響を与えていくだろう。

今回のカンファレンスでは、欧米のネット動画事情も踏まえてCGAのあるべき姿がディスカッションされた。ゲストスピーカーは、CGAに関係深いプレイヤーということで、消費者参加型CM制作ネットワーク「filmo(フィルモ)」を展開するエニグモの有田智治氏、Youtubeで「勝手広告チャンネル」を展開するムービーインパクトの神酒大亮氏、CM簡単作成サイト「コマーシャライザー」を展開するリクルートの長友肇氏、キャラクタビジネスのあらたな展開を摸索する芸者東京エンターテイメントの田中泰生氏、ネット動画の視聴率調査ともいえる「Mitter」を展開するメタキャストの井上大輔氏が登場し、それぞれの持論を語り尽くした。

左より、KandaNewsNetwork,Inc. 代表取締役 神田敏晶氏、データセクション 代表取締役 橋本大也氏、株式会社リクルート メディアテクノロジーラボ チームリーダ 長友肇氏
左より、株式会社エニグモ filmo プロデューサー 有田智治氏、株式会社ムービーインパクト代表取締役 神酒大亮氏、株式会社メタキャスト チーフヴィジョナリー 井上大輔氏

まずオープニングにCGAの作例として、勝手広告風のおもしろムービー「大正製薬リポビタンDの視聴者CM」、ジブリ風アニメがモノクロのちょっと怖いMADムービーになる「ハウスカレーCM公共広告機構版」、ハイレベルなCGで、企業CMと比べても遜色のない「Samsung Omnia (i900) Unboxing」、そして神田敏晶氏自身がコマーシャライザーで作った「レーシック手術検査を大比較!」が上映された。ちなみに「レーシック手術検査を大比較!」で使われた写真はたった5枚。ツールがしっかりしていれば、ごく一般の人でも十分にクオリティの高いCMを作れることがここからわかる。

モデレータの橋本大也氏は「時間も限られており、テーマもハッキリしておりCMは作りやすいのでは?」という見方を示す一方、神田氏は「CGAで一番問題になるのはやはり著作権だが、ユーザーは、“自分が買った物だから、勝手に出して良いだろ!”という感覚があるのでは」と、作りやすさとともに、そこに潜む問題点を指摘した。確かにCGAでは、企業側すら思ってもいなかったブランドイメージが提示されることもあるが、ときには逆効果、真逆のイメージとなってしまう可能性も含んでいる。多様性ということで成功に結び付けばよいが、やはりなかなかに難しいところだ。

勝手広告作品などを実際に視聴しながらカンファレンスは進められた
海外のネットコミュニティで大きな反響を呼んだ、「Samsung Omnia (i900) Unboxing」。高い完成度にもかかわらず、アンオフィシャルなムービーだという
  • 企業依頼によるオープンなCMコンペ「filmo(フィルモ)」
  • 企業CMへのオマージュあるいはパロディ「勝手広告」

企業依頼によるオープンなCMコンペ「filmo(フィルモ)」

株式会社エニグモ filmo プロデューサー 有田智治氏

最初に登壇したのは株式会社エニグモ filmoプロデューサーの有田智治氏。「filmo(フィルモ)」は、企業のCM側の制作依頼に従って、一般クリエイターがCMを制作・応募できるサービスだ。制作された作品の中から選考/投票により制作者へ賞金や制作費が支払われる仕組みとなっており、企業主体である分、ビジネスモデルもはっきりとしている。投稿動画のほとんどは、もともとバイラル指向のミニムービーが多かったが、ここ最近の動画は、企業のCMをまねる・トリビュート動画、そしてさらにオリジナル動画へと進化しているという。filmoは消費者参加型の動画CM制作ネットワークを目指しているが、やはりネックとなるのは著作権、そして公序良俗の観点だ。filmoではこれらをすべて目視でチェックした後、YouTubeにアップ、審査や講評を行っている。

filmoではすでに50点を超えるコンテストが行われており、バンダイナムコゲームス、JR九州、住友スリーエムなど、多彩な有名企業がCM(CGA)を募集・公開している。テレビの映像紹介番組などで、よく「海外のオモシロCM動画」といったものが紹介されることがあるが、クリエイティビティがフルに発揮された動画の数々は、非常に見応えがある。実際、海外の人が参加した動画の応募もあったとのこと。

こういった現状に対して、有田氏は「ブログのようなテキストコンテンツだとひとり歩きしない。動画の力はやはり強い」と、動画の持つ潜在パワーを指摘した。動画が流行ることで、クリエイター気質の消費者だけでなく、さらに一般の消費者をも巻き込めるというのがなにより大きいという。ただ、その潜在パワーに比較して、CGA動画の活用方法がまだまだ見いだせていないという課題を指摘して、コメントを締めくくった。

エニグモが手掛けてきた事業は、複合的に展開中
世界の動画CM事例も紹介された
filmoの会員は約2万人
海外からの参加者も見受けられる
filmoの持つメリット

企業CMへのオマージュあるいはパロディ「勝手広告」

続いて登壇したのは株式会社ムービーインパクト代表取締役の神酒大亮氏。「勝手広告」というのは、自分の好きな企業やプロダクツを、とくに頼まれたわけでもないのに、CMを作ってしまう活動だ。もともとは好きで始めたことだったため、とくに宣伝したり活動したりしたわけでもないのに、ほっておいたら、ものすごいヒット数になっていたという。2か月前時点でほぼ400万件の再生件数となっており、クリエイターが自分の腕を発表していく場ともなっているようだ。

「勝手広告」はすでに645万件がヒットする。ただし、海外でこれに当たる造語がないことが悩みだとか。

そんな勝手広告が話題になったところ、テレビ東京の番組「うぇぶたま」で採り上げられたことで、ますます知名度がアップ。それまでの勝手広告は40/50代の視聴者が主だったが、テレビでの紹介以降はM1層が増加したという(YouTubeInsightで調査)。

神酒氏自身は「勝手とはいえ失礼があってはいけない」「かといってベタボメではない」として企業側のイメージを尊重。著作権においても十分に配慮して、映像を作り上げているという。ロゴや映像についても、あくまで“似ている”ものを使用し、企業オリジナルのものは使用していない。また勝手広告を作るときのスタンスは、徹底的に調べて、ものすごくいい点を調べ上げて、それをテーマとして宣伝するというものだとしている。

広告を見てもらうために広告を打つのはダメ」「勝手広告に興味が湧いたら、ぜひ検索してみてください」というのは、なにげなく神酒氏がいった言葉だが、従来のCMと違い、「消費者が興味が湧いたら、ネットで検索して視聴できる」というのも、CGAの大きな特徴だ。

勝手広告チャンネルにはさまざまな作品が掲載されている
勝手広告の最後には、コーションが表示される
地方の個人が作成したという、雄大な個人CM。神酒氏のお勧め作品だ

そしてついには、企業(Z会)側からのアプローチで「うちの“勝手広告”を作ってくれないか」という話になった。会場にはZ会の担当者である、商品企画本部の寺西隆行氏も来場しており、勝手広告される側のスタンスなども語られた。寺西氏は「クリエイターの気持ちを尊重したい」「世界観が違うから良い」として、勝手広告においては、とくに制限を設けなかったということを明らかにした。実際、「勝手広告 Z会 女子高生篇」など、通常のCMであれば、企業イメージに配慮して絶対に採用されないような手法が使われている。企業側のスタンスがCMそのものの枠組みまで変える可能性が出てきているわけだ。

Z会の広告を勝手に作成し、YouTubeにアップロード。それがTVで採り上げられるという流れ。
「勝手広告 Z会 女子高生篇」は、通常のCMでは考えられない作りとなっている
ムービーインパクトの磯田氏(画面中央)。「勝手広告 Z会 女子高生篇」に出演し、女子高生を演じたという
Z会 商品企画本部の寺西隆行氏は、企業側の立場から「勝手広告」と企業の関係について解説してくれた

CGAの「C」はConsumerだけでなく、Createrでもある。勝手広告は広告ではなくコンテンツであり、クリエイターの“腕の見せ所”=勝手広告、という発想が垣間見える。ニコニコ動画などの投稿文化が充実しつつある今、豊富な機材があるクリエイターなら、当然腕を振るってみたいだろうし、「Windows ムービーメーカー」など無償ツールの充実で素人も参加できるなど、その境界は限りなく曖昧になっている。

実際、氏の指摘によれば、全国にアニメ系学校が87校、CG系アニメ学校が137校、映像学科のある大学が69校あるなど、全国でクリエイターは育ってきている。一方でそれだけのクリエイターの受け皿となる企業は、147社。しかもうち133社は関東で、とにかく偏りが目立つ。勝手広告は、地方や就職難のクリエイターにとっては腕の振るいどころとなるかもしれないのだ。

今年は映画作品とコラボし、勝手広告として企業CMを展開している。その境界はきわめて曖昧だ
神田氏の司会も熱を帯びてくる
  • 誰もがCMを簡単作成できるサイト「コマーシャライザー」
  • “広告”の本質を考え直そう「芸者東京エンターテイメント」
  • 動画の効果を測定し指標化する「Mitter」

誰もがCMを簡単作成できるサイト「コマーシャライザー」

続いて登壇したのは株式会社リクルート メディアテクノロジーラボ チームリーダの長友肇氏。「コマーシャライザー」は、写真をアップロードし、簡単なコメントを付けるだけで、自由に動画コマーシャルを作ることができるサイトだ。実際に長友氏はデモということで、目の前ですぐに動画CMを作ってしまった。その時間はわずか5分ほど。特別なスキルがなくても、表現力豊かな迫力あるCMを誰もが作成できるのだ。

豊富なテンプレートが用意されている「コマーシャライザー」

長友氏によれば、「もともとは街の飲食店などがコマースで使うと思っていた。しかし実際に公開したら、個人による、思いもよらない使い方が多数登場した」という。その使い方というのは、子供やペットの自慢スライドショー、結婚おめでとうCM、さらには映画予告編風の合コン不参加のお詫び、草野球のチームメイト募集などがあったという。一見カオスにも思えるが、CTRがとにかく高い(そもそも広告だから)というメリットも機能して、当初想定していた、中小企業や個人商店のCM動画作成サイトとしてもしっかり機能しているという。さらに今後に向け、リクルートの他サイトとの連携によるビジネスモデルを考案中とのことで、まずは旅行サイト「じゃらん」の広告主が、自由に広告を作ってじゃらんの中で流せるようになるという。長友氏個人は勝手広告にも興味アリとのことで、デジタルサイネージで動画を流すといった活用事例についても言及を行った。

コマーシャライザー開発の背景
コマーシャライザーは、すでに月300万PV以上となっている
作成されたコマーシャルは、どれもユニークだ
合コン不参加のお詫びを、コマーシャライザーで作るという発想が凄い。しかもこの作者は女性だという
手軽さ/質の高さ/CTRの高さがコマーシャライザーのウリ
CTRの高さを活かしたコマーシャライザーのビジネス展開
デジタルサイネージでCGAを流している事例も紹介

“広告”の本質を考え直そう「芸者東京エンターテイメント」

芸者東京エンターテイメント株式会社 代表取締役CEOの田中泰生氏

続いて登壇したのは芸者東京エンターテイメント株式会社 代表取締役CEOの田中泰生氏。同期間に開催されている東京ゲームショウ 2008からの連続参加とのことで、少し遅れて登場となったが、氏自身はあくまで「ゲームクリエイター」であり、CGAやその環境を作っているわけではない。実際、東京ゲームショウに出展していた製品も、拡張現実を使った電脳フィギュア「ARis アリス」だったりする。

ただ、田中氏が目指すのは「広告の価格破壊」であり、氏が薫陶を受けたエニックスの社長の言葉を引き合いに出し、「広告を出すような商品を作っているようなもんはアホ」という極論を展開した。これはCMの全否定だが、ようは商品そのものが魅力的であれば、CMなどは必要なく、ちゃんと売れるということだ。「広告作るよりコンテンツを作ろう」というのが氏の考えであり、1つの例として奈良県の1300年祭の公式キャラ「せんとくん」を例に出す(せんとくんは、ネガティブな印象が話題となり、逆にどんどんと著名になっていった稀有なキャラクタだ)。

そういう発想のもと、芸者東京エンターテイメントが展開しているのはキャラクタビジネス。具体的には、著作権やキャラクタグッズのコントロール権は彼らが保持するが、企業側に包括的なプランを提案し、最適なコンテンツを作成する“エンタメソリューション”というスタンスだ。飲料品メーカーのポッカとは「ふってふってゼリー」でタイアップ。芸者東京が制作を担当した公式サイトでムービーが評判となり、filmoで「ふってふってゼリー」のCM募集を行うことで、さらに勝手広告が作られるという、2次創作が3次創作を生み出すような状況となっているという。

一方で地方放送局の深夜枠(放送していない砂嵐状態)を有効活用する、として、オリジナルムービーを作成、それを放送することで、地元のレジャー観光地などでキャラクタビジネスの展開ができるのではないかと、複合的なプランを進めているという。いわば「勝手広告を会社ぐるみでやっている」状態だという。

芸者東京エンターテイメントが提唱するエンタメソリューション
ポッカのふってふってゼリーのキャンペーンサイトは芸者東京エンターテイメントが手掛けたもの
filmoでふってふってゼリーのCM募集が行うことでさらなる効果を狙う

動画の効果を測定し指標化する「Mitter」

株式会社メタキャスト チーフヴィジョナリーの井上大輔氏

最後に登壇したのは株式会社メタキャスト チーフヴィジョナリーの井上大輔氏。メタキャストは、動画の動向を調べる「Mitter」などのサービスを提供しており、CGM(Consumer Generated Metadata)から見たCGAという視点で、現在のCGA周辺事情への展望を切り取った。

CGMを駆使することで、見たい動画を見たいときに見られるようにするのがメタキャストの事業ビジョンとのことで、やはりなにより「最終的にできあがった動画をどうするか」というのが同社にとっては最大の関心事となる。Mitterでは動画に関するCGM(履歴+コメント)が蓄積されることで、各動画の人気度、さらには視聴率が計測可能となっている。さらには、M DataによるテレビのCM放送履歴、データセクションによるブログの書き込み履歴、Mitterによる動画の再生履歴、SHINQOO(ShoppingFinder)によるネットショップ購買経路調査などを横断的に調査することで、従来ではわからなかったような消費者動向を把握できるとしている。

CGAにおいてもそれは同じで、各動画の視聴率的なもの+視聴質的なものを指標化することで、ビジネスを発展させたいとした。最後に「究極の効果測定サービス」ということで、実際に動画を視聴している他ユーザーの表情が見られるという、みんなと一緒に動画を楽しむ仕組みを紹介するなどして、話を締めくくった。これなどは、“ニコニコ動画の表情版”ともいえるだろう。

ネット動画が消費に与える影響を調べられるように、各社協力の横断調査・分析の体制を作り出した
iPhone発売時のブログとネット動画の利用率動向などの重ね合わせグラフ。みごとにそれぞれの動きがシンクロしている
メタキャストが目指すのは、視聴率+視聴質という指標化
「究極の効果測定サービス」として紹介された、同時に視聴している人たちの表情が見えるサービス
  • やはり最大の問題は著作権? CMはコンテンツたり得るのか?
  • CGAはまだまだ胎動期。これからのモデル構築に期待

やはり最大の問題は著作権? CMはコンテンツたり得るのか?

パネルディスカッションでは積極的な意見交換が行われた

ここからはパネルディスカッションということで、各人がさまざまな意見を述べていくことに。やはりまず課題となったのは、「著作権と勝手広告の兼ね合い」の問題だった。

芸者東京の田中氏は「著作権は、(制作者側である)自社で全部持つべきだ」としたうえで、「Flashはパロディと一発ネタしかない。大きな物語を語りたいときには一定の時間・没入感が必要」として、小手先に頼らない制作スタンスをとるべきだとした。仮にパロディなどを行うにしても、特定の作品をパクるのではなく、ジャンルそのものをパクる、いわゆる本歌取りスタイルであるべきだと問題提起した。

一方でエニグモの有田氏は「著作権侵害や誹謗中傷は起きないようにチェックし、音楽などは連絡してクリアしている。素材を提供することで問題は回避している」としつつ「著作権を侵害している物がおもしろかったりする。内緒だけど評価1位とかを獲得したり……」という実状を明かし、“クリエイター魂”と著作権の兼ね合いの難しさを覗かせた。

クリエイターである側のムービーインパクト神酒氏は「勝手広告のルール、出す側のリテラシーとして侵害しない。ロゴなども本物は使わない」と、プライドやリテラシーなど、作り手側の意識の問題である、という認識を示した。

それに対してリクルートの長友氏は「この時代感の中ですべてをクローズにはできない。誰のために何を守るか、ビジネスの見方をしたときに金になればいいのでは、という考えもある。企業側が姿勢を表明していく責任があるだろう」と、企業側の意識にも踏み込んだ意見を示した。

メタキャストの井上氏は「CGAや勝手広告は、やはり動画の中でも人気がある。著作権については、ニコニコ動画などでも見られるように、後付けでもいいから認めようという“後付けフェアユース”的動きがある。そこでやはり大事なのは“愛があるかどうか”なのではないかと思う」とした。

これらは、オマージュの基本的な姿勢であり、パスティーシュやパロディなど、二次創作すべてが対面する古典的な問題だ。企業にとって収益となるのに愛がない作品。愛はあるのに企業に収益はもたらさない作品。そして愛があって収益ももたらすのに、ときに法律などにより認められない作品。現在の情勢はたまらなく複雑だ。それは制作者はコンシューマなのかクリエイターなのか、出来上がった制作物はアドなのかアーティスティックなコンテンツなのかという問題でもある。これについては「明確に線があるはず。コマーシャライザーはたとえ、個人が作ったものであってもアドである」と長友氏がする一方で、「物が良ければ売れるはず。つまり良いコンテンツであれば、それだけで売れるはずだ」と田中氏がするなど、ゲストスピーカーの中でも、それぞれの立場により意見がわかれた。

モデレータの橋本氏はpixivの驚異的な伸びに言及しつつ、「描いても良いよ/描いてみたのタグが、緩やかなクリエイティブコモンズになっている。絵を描く過程を示す仕組みもpixivにはある。このように著作権を明確にしたうえでクリエイティビティをインスパイアする仕組みがあれば、どんどん増えていくのでは」として、解決策の一例を提示した。

CGAはまだまだ胎動期。これからのモデル構築に期待

古くは杉山登志から始まり、近年なら川崎徹や佐藤雅彦のような著名な広告業界人、CMクリエイターがいた。しかしここ最近は、特定個人のCMクリエイターで、一般人にもリーチするような人物はあまり登場していない。時代の趨勢だけでなく、メディアを取り巻くさまざまな規制、そしてなによりインターネットの普及といった要素が、CM業界にも大きな影響を及ぼした結果かもしれない。

昔のように、インパクトあるCM、クリエイター魂に溢れたCMを生み出すのは、ひょっとしたらCGA畑から出てくるかもしれないと思わせるカンファレンスであった。

ただそのためには、CGAならではの安定したビジネスモデルや商業サイクルが必須となる。これについては、各社さまざまな方策を摸索しているのが現状だ。この秋以降も、filmoを初め各社が新サービスを投入するという。しばらくは注視しておくべき分野だろう。

カンファレンス後の懇親会の模様
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この記事の筆者

冨岡 晶(Web担当者Forum 編集部)

編集者/ライター/リサーチャー。

大学時代は言語学(日本語学)を専攻。日本文学の定量的解析、かな漢字変換のシステム・辞書データ開発などに従事。光村図書出版、ソフトバンク、ジャストシステムなどを経てフリーに。

フリー時代のインタビュー対象は、アイドルから経営者・開発者まで幅広く。浅井愼平(カメラマン)、浮川和宣(ジャストシステム創業者)、奥華子(歌手)、小倉優子(タレント)、笠原健治(mixi創業者)、越中詩郎(プロレスラー)、ジャンヌダルク(ロックバンド)、田中良和(GREE創業者)、長州力(プロレスラー)、ティム・バートン(映画監督)、手塚紗掬(女性プロ麻雀士)、弘兼憲史(漫画家)、総務省など。※敬称略

数年前に、どうしても都合が合わず、SKE48・須田亜香里さんのインタビューを担当できなかったのが心残り。

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