もしも、「確定申告サイト」を解析するなら (前半)[第31回]

今回は国税庁の「確定申告サイト」をかってに解析
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誰もが知っている有名サイトをエキスパートレビューしながら、「もし、アクセス解析するなら」どのポイントに着目するかを第三者的な視点から解説。アクセス解析を用いてサイトの改善を行うための仮説構築力を身につけて、自社サイト、クライアントサイトをアクセス解析する際に役立ててほしい。

木曜9時は「かってに解析!」ということで、毎週連載「有名サイト、かってに解析!」では、有名サイトを取り上げ、アクセス解析で実際に解析データを見る前に、あらかじめサイトの問題点やチェックポイントにあたりをつける方法を解説していく。

今回は国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を取り上げる。ちょっと季節外れであるため、現在のページ内の機能が、申告期間の状態とまったく同じかはわからないが、トライしてみた感じでは、いつでも同じように使える仕様となっているようだった。筆者は税理士でもないし、省庁や公的機関のサイトが直面している課題や戦略・戦術を十分に理解しているわけでもない。あくまでもどのような点に着目したらよいのかを重視して読んでいってほしい。

「確定申告サイト」の閲覧シチュエーションを想定

今回はシチュエーションを想定してからサイトを見ていくことにしよう。

今回想定したサイト閲覧シチュエーション

誰が新規訪問の個人ユーザー
何の目的で確定申告書の作成

「確定申告サイト」をエキスパートレビュー!

目的は明確なので、検索エンジンで「確定申告」と入力して検索することにする。「Google」でも「Yahoo! JAPAN」でも、検索結果表示ページのトップは、「確定申告書等作成コーナー」のページになっている。さっそくサイトへ移動してみよう。

図1:「確定申告書等作成コーナー」のファーストビュー

最初の説明は、「画面の案内に従って入力すれば、申告書や決算書を作成できる。申告書は印刷して提出してもいいし、e-Tax用として利用してもいい」とあり、コンパクトで適切だ。その作成コーナーのリンク(図1の赤枠で囲んだ部分)をクリックすると、別ウィンドウ(別タブ)が立ち上がり、平成22年分の確定申告書等作成コーナーに移る。

確定申告書等の作成コーナーへ

大きなボタンがWebデザイン的には素人っぽいと感じるが、わかりやすくて好感がもてる。入力したデータを途中で保存できるし、過去のデータを利用しての作成も可能だということもすぐにわかる。数分ですべてのデータ入力が完了するとは思えないので、途中で入力データを保存する機能はよい。また確定申告では、確かに毎年決まった項目を繰り返し利用することが多く、前年に記入したデータが利用できるならしたい人はけっこういるかもしれないと思うので、前年に入力したデータを利用するという機能(図2の青枠で囲んだ部分)もいい

今回は初めて利用するという想定なので、[平成22年分の作成開始]ボタンをクリックして進んでいこう(図2の赤枠で囲んだ部分)。ボタンをクリックすると、図2のページが消え、その代わりに図3のページが新しいウィンドウで、ディスプレイの画面いっぱいに表示される。しかし、ウィンドウサイズの調整は可能だし、画面いっぱいに広がるほどの情報量があるわけでもない。

図3:「税務署への提出方法の選択」ページ

また、ブラウザのメニューが消え、通常のブラウザの機能を使わせないような画面に変化しているのだが、これはおそらく、ブラウザの[戻る]ボタンの機能を使わせずに、ページ下部の[戻る]ボタンだけを使わせるという意図なのだと思う。しかし、ユーザーに対して使い慣れないインターフェイスを強いるこのやり方には、あまり賛同できない。ユーザーはそんなに臨機応変でも賢いわけでもないのだから、なじみのないインターフェイスを押しつけるには混乱の元だ。

余談:e-Taxに関して

さて、このページでは、e-Taxにするか、書面提出にするかを選択できる。このe-Taxに関して、ひとこと言っておきたい。e-Taxとは、税金に関する申告や納税をオンラインで行える仕組みで、これを使えば、税務署に足を運ばなくても、オンラインで確定申告ができる。しかし、e-Taxで申告をするには、年に1度しかない確定申告であるにもかかわらず、ユーザーは自己負担で電子証明書とICカードリーダライタを用意しなくてはならない。しかも、その特典としては、最高5, 000円の控除が受けられるだけだ。国税庁は個人事業主への普及を進めようと躍起になっているようだが、これでe-Taxが普及すると思っているのだろうか。

サイトの評価とは関係ないが、このe-Taxの仕組みを考えた関係者の人たちは、自分が率先して使いたくなるサービスになっているのかを考えて、システムを作ってほしいものだ。法人税関係も、法人の決算は年に1度だけなので、わざわざe-Taxを使うメリットがあると思えない。準備が面倒な上にメリットも少ない仕組みは、筆者は使いたいとは思わない。普及が進んでいるという話はきかないが、それはうなずける。

  • パソコン環境の確認
  • 住所の入力を行う

パソコン環境の確認

さて、先に進もう。ここでは右側の[書面提出]のボタンをクリックする。下の図4のような「申告書等の印刷を行う際の確認事項」のページになる。

図4:「申告書印刷を行う際の確認事項」のページ
この確認事項の画面(図4)には、3つのチェック項目がある(図4の緑枠で囲んだ部分)。筆者のパソコン環境は、OSがWindows、ブラウザがChromeであり、ここでの推奨環境を満たしていない。試しにそのままChromeで「テストデータの表示」(赤枠で囲んだ部分)を行ってみたが、やはりうまく表示されなかった。しかし、Internet Explorer 8.0でやり直すと表示が正しく確認できた(図5)。しかし、このテストデータの表示も、新たなウィンドウが画面全体を占拠する動作で、画面が忙しいことこの上ない。
図5:テストデータの表示画面

3つのチェック項目(図4の緑枠で囲んだ部分)にすべてチェックを入れるか、あるいは全部を一度にチェック入れられる一括チェック(図4の青枠で囲んだ部分)にチェックを入れて、[入力終了(次へ)]ボタンをクリックして次へ進む。

住所の入力を行う

次は、「住所等入力」のページに進む(下の図6)。ここでは住所、氏名などを入力する。郵便番号を入力し、[住所検索]ボタンを押せば自動的にだいたいの住所は出てきて入力は楽だ。郵便番号入力では、はじめの3桁を入力すると、自動的に次の入力ボックスの方にカーソルが移動する作りになっているのも素晴らしい。ただ住所入力の部分では、数字の全角指定がわずらわしい

図6:住所等入力のページ

その下の「所轄の税務署」の項目も、住所検索をすると自動で入る。確かに年に1回の納税では、所轄の税務署名まで正確に覚えているのは難しいので、住所から自動的に入力してくれるのはありがたい。まだデータの入力はあまり行っていないが、この画面の下部に[入力データを保存する]ボタンがさりげなくある(図6の赤枠で囲んだ部分)。試しにこのボタンを押すと、「申告書等作成準備データ保存」のウィンドウが新たに立ち上がり(下の図7)、また全画面を占領された。

図7:「申告書等作成準備データ保存」のページ

全画面を占拠する意図は、やはりここで「閉じる」か「データ保存」か、限られた選択肢の行動に絞り込むという意図だろう図7で[データ保存]をクリックすると、自分のパソコンにファイルとしてデータが保存される仕組みになっている。図7の下の注記には、「このファイルを直接ダブルクリックして開かないように」という指示があるのだが、ユーザーがちゃんと覚えていてくれると期待しない方がいい。また、注意の文章を読ませるだけのために、1ページ挟んで全画面を占拠する必要があるのかは疑問だ。[閉じる]ボタンをクリックし、画面を閉じて元の住所等入力のページ(図6)に戻り、[入力終了(次へ)]をクリックする。

  • 作成する申告書の種類を選択する
  • 前半のまとめ

作成する申告書の種類を選択して、作成開始

次は図8の作成する申告書の種類を選択するページだ。しかしながら、住所氏名を入力させた後で(図6)、作成する申告書を選択する分岐ページ(図8)があるという流れは、あまり良いとは思えない。というのも、もしここで選択に迷って、ページ下部の[トップページへ戻る]ボタンを思わずクリックしてしまった場合に、先ほど入力したデータは保存されているとは思えないからだ。おそらくこの順番でないと、データの整合性がとれなくなるのだと思うが、図8のページで、作成する申告書の種類が決まってから、図6の住所等入力に誘導する方がよいのではないだろうか。ともあれ、ここでは、上から2番目の[所得税の確定申告書作成コーナー]のボタンを押して、次へ進む。

図8:「作成申告書等の選択・作成開始」ページ

ここでは質問形式による申告書作成という方法もある(下の図9の赤枠で囲んだ部分)。税金関係の言葉は難しいものが多いし、様々な控除や特例などの条件も多いので、初心者にはこういう選択肢があるのはよいことだ。ここでは右の「左記に該当しない方」、すなわち「申告書B様式」の方をクリックして先へ進む。

図9:「申告書選択」ページ

すると、「申告書の作成をはじめる前に」(下の図10)というページが表示され、電子申告についてもう1度確認させられる(赤枠で囲んだ部分)。かなり最初の方のページで提出方法の選択画面(図3)でe-Taxは選択しないで進んできたのに、ここでもう1度確認する意図がよくわからない。まあ図3のページでの選択が反映され、「印刷して提出する」の方のラジオボタンがあらかじめ選択されているので、特に問題はないのだが。

図10:「申告書の作成をはじめる前に」のページ

ここでは、生年月日を入れるだけなのに、わざわざ1ページを使っているのは無駄が多いと感じた。生年月日を入力の上、[入力終了(次へ)]をクリックする。

とりあえず今回はここまでにしよう。後半となる次回は、いよいよ申告書類の本体のデータを入力する部分に入っていくことになる。

  • 前半のまとめ
  • ユーザー視点からサイトをチェック

前半のまとめ:ユーザー視点からのチェック

最後に、今回見てきた範囲で、想定ユーザー視点でのチェックをまとめておこう。

ユーザー視点から気になったポイント

  • トップページ(図1)の説明は、コンパクトで適切だと感じられた。
  • 「確定申告書等作成コーナー」ページ(図2)は、大きなボタンがWebデザイン的には素人っぽいと感じる面もあるが、わかりやすくて好感がもてる。
  • 入力したデータを途中で保存できるし、過去のデータを利用しての作成も可能だということもすぐにわかる。
  • e-Taxか、書面提出かを選択させるページ(図3)では、ユーザーに対して使い慣れないインターフェイスを強いるやり方には、あまり賛同できない。ブラウザの表示を制御してなじみのないインターフェイスを押しつけるには混乱の元だ。
  • 「住所等入力」のページ(図6)の郵便番号入力では、はじめの3桁を入力すると、自動的に次の入力ボックスの方にカーソルが移動する作りになっているのも素晴らしい。
  • 住所氏名を入力させた後で(図6)、作成する申告書を選択する分岐ページ(図8)があるという流れは、あまり良いとは思えない。図8のページで、作成する申告書の種類が決まってから、図6の住所等入力に誘導する方がよいのではないだろうか。
  • 質問形式による申告書作成という方法もある(図9)。初心者にはこういう選択肢があるのはよいことだ。
  • 「申告書の作成をはじめる前に」(図10)というページが表示され、電子申告についてもう1度確認させられる意図がよくわからない。また、生年月日を入れるだけなのに、わざわざ1ページを使っているのは無駄が多いと感じた。

このあとの申告書類の本体のデータを入力する部分の「かってに解析!」は、来週の木曜9時をお楽しみに。

◇◇◇

さて、この連載では、

  • Webサイトのオーナーか管理者の方からの「かってに解析」してほしいリクエスト
  • 「かってに解析」されたサイト運営者・管理者の方からの異論や反論

などを随時募集している。希望者は、(web-tan@impressrd.jp)までお寄せいただきたい。

この記事の筆者

衣袋 宏美(いぶくろ ひろみ)

1960年東京都生まれ。東京大学教養学部教養学科卒業。大手電気メーカー勤務後、日経BP社へ。調査部、インターネット視聴率センター長などを経て、2000年ネットレイティングスへ。視聴率サービスやアクセス解析サービスの立ち上げに尽力。2006年株式会社クロス・フュージョンを設立し代表取締役に。2023年活動停止。

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