狭くなることを恐れない/日本のライフハックに「ひとこと言いたかった」堀 E.正岳さんのブログ論(第8回)

ブログを長く続けるために重要な「テーマの絞り方」や「ネタを探さずに探す方法」など、今回も役に立つ話題が満載です。
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いしたにまさきのブロガーウォッチング

日本のライフハックに「ひとこと言いたかった」

いしたに このインタビューは、おもに企業のWeb担当者が読むことを想定しています。今回は前回の「シゴタノ!」大橋さんからご指名をいただきました、堀さんです。

 「Lifehacking.jp」という、ライフハックや仕事術全般を扱うブログをやっています、堀正岳といいます。ブログを始めたのは2007年2月ごろ。それから今までに500くらいのエントリーを書いています。

ブログ名Lifehacking.jp
一言で言うとどんなブログ? 仕事をするよりも仕事術が好きな「私」が、LifeHackやGTD、「7つの習慣」や関連するWebサービスなどと同時に、本や、文具などのオススメについて書くブログ
運営者略歴 堀 E. 正岳。1973年、米国イリノイ州生まれ。
某国立大学で地球温暖化研究を行う研究者。理学博士。
一方で、ブロガーとしてライフハック、仕事術全般を紹介する活動をしている。「人生を変える小さな習慣作り」をブログのミッションとして、幅広いテーマをカバーするのが持ち味。著書に、『情報ダイエット仕事術』(大和書房)、『Life Hacks PRESS Vol.2』(技術評論社、共著)。Gihyo.jp にて「ライフハック交差点」を連載中。
開始年2007年2月
1日のアクセス数平日およそ6000PV
RSS登録数726フィード(livedoor Reader調べ)

いしたに ほぼ1日1本ぐらいのペースですね。

 数日空くこともあるのですが、だいたい1日に1回を目安で書いています。それ以上は文章力の限界で書けません……。いつも、エントリーを1つの「文章」あるいは「コラム」のようにするので、力尽きてしまうんです。

いしたに みなさんにお聞きしているのですが、そもそもなぜブログを始めようと思ったのですか?

 もともと私は大学の研究者をしていたのですが、いつも周囲の人が忙しそうにしているの見ていて、研究者にもビジネスパーソンの仕事術を活かすことが出来たらと思っていました。

いしたに 「なんだか忙しい」というのは、よくわかります。私も人のこと言えません(笑)

 ちょうど自分が博士論文を書いていて人生崖っぷちだったので、仕事術にすがっていたというのもあります(笑)

いしたに まずは自分のため(笑)

 そうです(笑)。また、ちょうどその頃アメリカでライフハックがブームになっていて、ずいぶんと読んでいたので、これを日本のオーディエンスにも紹介しなければと思ったのがブログを始めたきっかけです。実を言うと、あまりにビジネスに偏った日本のライフハック界にひとこと言いたかったというのもあります。

いしたに あー、なるほど。「ひとこと言いたかった」んですね。これってけっこう大事なところだと思うんですが。

 アメリカでライフハックが始まったときは「Every man's hacks and tips」という雰囲気があって、どんな職種の人も読んでいた気がしたのです。もちろんIT系に偏っていましたが。ところが、日本だと早いうちから「ビジネス・仕事術」として書籍化され、紹介がされたような気がして、なんだかビジネススキルの一種と受け取られているのかなと思ったのです。結局、それは私の誤解という一面もあったのですが。

いしたに そもそものアメリカでのライフハックというのはもっと広義の意味だったということですか?

 アメリカにはもともとSelf Help系の本が膨大にあって、Life hackはその中でもIT系の人がボスに隠れて使う日常のスキルというのが最初は多かった気がします。

いしたに なるほど。もともとは「自分を変える」というか、あくまでも自分が主体としてあって、「じゃあ実際どうするの?」ということでスキルが出てきたのに、日本だとまずスキル、という感じになってる、という具合ですか?

 そうなんです。偏見かもしれませんが、日本でのライフハックの受容は、「企業にとって都合の良い人材なるため」のスキルに偏っている気がします。そこで、「幸せ」「満足」「気持ちを楽に」「自分を変える」ライフハックのブログを始めてみたいと考えたんです。

いしたに なるほどなあ。そっか、それで堀さんのライフハックはひと味違うんだ。そもそもの目線が違う、ってことなんですね。さて!

「自分の好み」というフィルターで絞る
堀さんの自薦エントリーベスト1
堀さんのネタソース&気になるブログ
まとめ

「自分の好み」というフィルターで絞る

いしたに この連載は一応企業のWeb担当者向けだったりします(笑)

 はい。

いしたに 企業ブログだと、普通目標設定をしてテーマを絞ることが多いのですが、でも、なかなかうまくいかないことがあるはずなんですよね。そんなときどうするのか?というのを堀さんにお聞きしたいのですが。

 ちょっと回りくどい説明をさせてください。

いしたに お願いします(笑)。

 私の場合、「欧米のライフハックの情報を日本に紹介する」というのが手法として先にありました。その取捨選択に自分の好みが入るわけです。モレスキンの記事を書いたら、次はWebサービス、という具合に。「Lifehacking.jp」を始めたときに最初悩んだのは、アメリカにおける「Lifehacker」のようなニュースソースになろうと思っていたのですが、それはそもそも無理だということに気づいたわけです。

いしたに 無理だということが、少しやってみたらわかったんですね。

 そうですね(笑)。いちいち文章を練るのが大変で……。そうするうちに「自分の考え」をニュースに練り込んで書くと、一番アクセスが伸びるということに気づき始めました。

いしたに ほー。

 なので回りくどく取捨選択の話題に戻るのですが、「自分の考え」や「ブランドイメージ」をフィルターとして、欧米からの膨大な情報を「自分の好み」のものに絞って、1日1回エントリーにするということが習慣として定着しました。それと並行して、アクセス解析の情報を見ながら、どういう話題がどのくらい動くのかを観察する、というのを、いまだに続けてます。

いしたに いやあ、ホント基本に忠実。近道ってないですね(笑)

 「ProBlogger」などで言われている基本に忠実に、という感じです。私の場合、「ProBlogger」や「Copyblogger」で言われていることを実験している面もあります。自分で試してみて、本当かどうかチェックしているんですよ。

いしたに あはは(笑)。でも、コンテンツが人によって違うので、試してみないと分からない、というのは本当ですよね。購読層も違いますし。

 そうですね。ブログを始めたばかりの人や企業にとって、購読層をあまり早く絞ってしまうのはリスキーですね。いったい、誰が読んでいるのか、こちら側からはわかりませんので。

いしたに 同感です。

 でも、いったんある程度の読者のツボをつかんだら、そこからさらに「広く」するのではなく、「狭く」絞っていくことも重要だと考えています。実は最近、私はなんとか読者層を狭めようと気を遣っているんですよ。

いしたに 狭めよう、と?(笑)

 はい。自分の文体が非常に硬質なので、それをかえってブランドとして利用して、「自分の考え」と「自分の文体」で差別化したいと考えています。「Jack of all trades, master of none」(多芸は無芸)という英語の慣用句みたいに、「すべての人」に向けて書くと、かえって誰も聞いてくれない気がするんですよ。

いしたに そうだと思います、企業ブログだと「とにかく広く、たくさんの人に」ということにフォーカスが当たりがちなんですが、すべての人に企業が顔を向ける必要なんかないわけです。また、狭いところ向けに書くと、意外に広くの人に受けたりするんですよね。

 不思議ですよね……。

いしたに こんな狭いところにこんなに人がいたのか!、という感じで(笑)

 はい、「Wine library TV」のGaryが、「ワイン全般のブログを書いたら自分と競合するけれども、1つのワイン品種だけのブログだったら成功の可能性は十分にあると指摘したうえで「Niche can go crazy.」(ニッチを攻めればすごいことになる)」と言っていたのと同じですね。

「ワイン業界のベストセールスマン」として名高い「Wine library TV」のゲイリー・ヴェナチャック(Gary Vaynerchuk)

いしたに (笑)。「狭さを怖がるな!」ということですね。

 はい。私は途中から、この頭の固さを、怖がらずに書くようになりました。そのために、文体も非常に固定して、一人称には絶対に「私」を使います。外向きに作り上げた文体を頑固に維持しているという感じです。

いしたに いいですねー(笑)。私は自分の飽きっぽさを怖がらずに書くようになりました(笑)

 ただ、実は私は仕事が出来る人間でもなんでもなく、「仕事術」が好きな人なのですが、この文体のせいで、どうも人はそうは見てくれないのが悩みの種なんですが(泣)

堀さんの自薦エントリーベスト1
堀さんのネタソース&気になるブログ

堀さんの自薦エントリーベスト1

いしたに さて、堀さんのベストエントリーです。これまでの方にはなんとなくベスト3とかベスト5をピックアップしてもらってきたのですが、今回は頑固な堀さんらしくベスト1の1個のみです(笑)。2008年11月11日の「一流の研究者と「80:20の法則」の落とし穴」ですね。

 アクセス数ベスト1ではないのですが、ブログを成長させてくれたベスト1のシリーズです。

いしたに 自薦のベストエントリーがアクセス数No.1でないことはよくあります。

 このシリーズは、たまたま本業で同室になることになった、今では伝説的な研究者の方がいて、その人の言動をまとめたものです。それまでは、「今日は何かいいネタがないか」と受動的に書いていたブログを、「次はこの側面で書いてみよう」「この側面でこの人を観察しよう」という取材としての書き方を定着させてくれたシリーズでした。方向性を絞って、「このテーマでネタを探す」と決めてしまうと、膨大な情報の海から面白い物を探さなくてもいいので、結果的に楽なんです。

いしたに ブログを書き続けていると、ある日突然、ネタ探しってしなくなりませんか? ネタが勝手にやってきてくれるというか。

 ええあります。Google Readerに2000近く記事がたまっていても、フォローする必要のない時期がわりとあります。「テーマを決めて探す」と、かえって楽に、クォリティが上げられる、という簡単なことを気づかせてくれたシリーズ記事でした。

いしたに フィルタリングも速くなりますよね。「できるだけ楽しよう」という姿勢は、ブログを続けるためには必要なマインドですね。

 そうですね。そういった意味で、私はいつも「地味にブログを書いてます」と口にするようにしています。あまりアグレッシブには書けませんから。

堀さんのネタソース&気になるブログ

いしたに さて、その堀さんのGoogle Readerに登録されているブログからオススメをお願いします。

 はい。実は欧米の情報がほとんどなんです。日本のライフハックブログは追ってはいるものの、記事の重複を避けるためで、そこからネタを拾うことはあまりありません。

いしたに なるほど、それもノウハウですね(笑)

 その中で一番影響を受けているのがやはりMerlin Mannの「43Folders」です。

43Folders

 彼は「最短時間で」「読者に良いものを提供する」ということを徹底していて、「43Foldersの使い方」なる、最短時間で情報を拾ってサイトから離れるための記事まで書いています。「ライフハックとは効率化」「その効率化の邪魔になってはいけない」ということを徹底して考えて読者第一に書いているところがいつも魅力的です。

いしたに 徹底的にライフハックな人ですね。

 2番目は、ブログを書くための情報収集として「ProBlogger」は欠かさず読んでいます。「ブログで収入を稼ぐためのブログ」というと、嫌がる人も多いですが、「価値ある物を提供して、対価を受け取る」という基本を非常にわかりやすく書いてくれています。

いしたに 対価を受け取るというのは大事だと思います。

 そうなんです。でないと、続かない側面もありますし……。

いしたに ブログはホント続いてなんぼなので、続くためには対価というのは、どういう形でもいいのですが大事だと思います。

 本当にそう思います。3番目がちょっと変わっているのですが、おそらくほとんどの方が知らない、名古屋ローカルの話題、NHKの話題を書いている「M's Blog」という方を、挙げました。

M's Blog

いしたに 堀さんは名古屋在住なんですよね。

 ええ。実は夫婦でこの人のファンです。というのも、けっして暗くならずに、毎日のできごとをユーモアで切り取る、しかもおおむね3行程度で。

いしたに それはすごい!

 これも文体だと思うのですが、このブログの著者からは、いろんなつらいことも経験したうえで、それを笑いに変えているようなパワーを感じます。こうした、明るくて、個性があって、どこか変というブログがあるのを見つけると、本当に「なんでもあり」だなと痛感します。いずれ、「Lifehacking.jp」がその役割を終えたら、次のブログでは違う文体で違うことを書いてみたいです。

いしたに 最近また本を出されたとお聞きしたのですが。

 今回の話にも出てきた「減らして楽にすると、能率だけでなく成果も上がる」という理屈を1冊の本にまとめた『情報ダイエット仕事術』という本を大和書房から、12/20に出版しました。

いしたに 今回のインタビュー内容に興味をもたれた方は、こちらの本を読むと、もっと参考になることがたくさんあるかもしれませんね。ということで、ありがとうございました。

 こちらこそ、ありがとうございました。

まとめ

今回は、やっぱりテーマ設定、という話だったと思います。そのテーマに沿った文体で書き続けていくことが大事で、それである程度「狭さ」が出てきてしまったとしても、恐れるな、ということですね。狭いところを突き詰めていったら、案外普遍的なところに通じていたりして、多くの人の共感を得ることができるかもしれません。ただ、狭くしたら、基本に忠実に、ちゃんとアクセスログをチェックすることも、同じぐらい大事です(笑)

この記事の筆者

いしたにまさき(ライター&ブロガー)

1971年大阪府生まれ。ライター&ブロガー。みたいものを見つめて、日々それをレビューするブログ『みたいもん!』を運営中。2002年メディア芸術祭・特別賞受賞メンバー。

共著に『ソーシャル・ネットワーキング・サービス 縁の手帖』『マーケティング2.0』『クチコミの技術』。

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