IBMの企業Twitterアカウントは30以上、全社員が自由に活動するためのガイドライン/日本IBM

ガイドラインを設けて、個人として自由にTwitterを活用できるIBMのTwitterに対する考えや運用方法を伺った
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日本アイ・ビー・エム株式会社では、@IBM_JAPANなど約30のTwitterアカウントを運営している。これだけ多くのTwitter運営を可能とする背景には、同社で策定された「ビジネス・コンダクト・ガイドライン」と「ソーシャル・コンピューティング・ガイドライン」を遵守すれば、社員のだれもがウェブ上で自由に活動ができるという柔軟な企業体制がある。今回は、同社にて社内広報を担当しながら@IBM_JAPANを運営するマーケティング & コミュニケーション ワークフォース・イネーブルメントの栗原進氏に、同社のTwitterに対する考え方や運用方法について話を伺った。

@IBM_JAPANのプロフィール(データは2011年5月9日時点)
名前:日本IBM

ID@IBM_JAPAN

自己紹介
IBM、日本IBM関連のニュースをお知らせしています。

  • リスト 409
  • ツイート 2,648

一般ユーザーとのコミュニケーションを目的にアカウントを開設

IBMおよび日本IBM関連のニュースを伝える@IBM_JAPANは、2009年6月11日に開設され、2009年10月6日からツイートをスタートしている。Twitterアカウントを開設したきっかけはどこにあったのだろうか。

日本アイ・ビー・エム株式会社
マーケティング & コミュニケーション
ワークフォース・イネーブルメント
主任広報担当部員
栗原 進氏(@kuri_bo

一般消費者の方との接点としてTwitterのようなソーシャルメディアが使えるのではないかと考えたのがきっかけです。企業ホームページのトップから情報を探すスタイルから、検索エンジンやSNSから情報にたどり着くユーザーが増えてきていると思います。B2Cビジネスの会社ではないのですが、それでも会社としてどのような取り組みをしているかを、一般ユーザーのみなさんに知ってもらいたいと思いTwitterアカウントを開設しました

Twitterアカウントの運営部門は企業によってさまざまだが、社内広報部門が担当するのは珍しいケースだ。栗原氏がTwitterを運営するのはどういった理由があるのだろうか。

TwitterのIDは早い者勝ちなので@IBM_JAPANというIDを2年ぐらい前に取得していました。私は社内広報を担当しているので、社外広報チームのメンバーに『@IBM_JAPANのアカウントを取ったから使わないか』と話をしてみたのですが、彼らは@IBMJapan_PRというアカウントで運営を開始しました。そちらでは、主に記者をターゲットとしたプレスリリース配信のみの情報発信ツールとして利用することになりました。私は一般ユーザーとのコミュニケーションこそソーシャルメディアの魅力と考え、取得していた@IBM_JAPANを利用して運営を始めました

記者向けのアカウントである@IBMJapan_PRとはどのような差別化が行われているのだろうか。

@IBMJapan_PRはプレスリリースのみをツイートしているので、@IBM_JAPANでは、私どものお客様や潜在顧客の方をターゲットに、ウェブ上で取り上げられたIBMのニュースを伝えたり、ホームページのなかで埋もれてしまっている良い話を紹介することからはじめました。

その後、運営していくなかでフォロワーにIBMの社員が多くいることもわかったので、IBMの社員向けにイントラネット内の情報を伝えられる範囲でツイートすることにしました。社員向けの情報はイントラネットに掲載していますが、お客様先に常駐して日中にイントラネットにアクセスできない社員も多いです。そんな社員でも、Twitterなら日中や外出先でもスマートフォンなどで見ることができると思いました

社内広報部署としてのミッションと関連する点はあるのだろうか。

部署のミッションとしては被らないですね。IBMでは社員個人のソーシャルメディアの活用を奨励しています。@IBM_JAPANもみんな公式アカウントだと思っているんでしょうけど、会社としてではなく私個人が始めたものですから、私のなかでは個人アカウントとして位置づけています(笑)。ただ、今回の震災時の連絡手段として、社長レターのなかでも取り上げられたので、もう公式アカウントですね

企業アカウントはガイドラインを守れば社員が自由に作成できる

IBMでは日本法人だけでも約30の企業Twitterアカウントが公開されている。これらのアカウントは、どのように管理されているのだろうか。

実は、会社としては企業アカウントを管理していないのです。弊社のソーシャルメディアに対する基本的な考えとして、ソーシャル・コンピューティング・ガイドラインというポリシーがあり、このガイドラインを満たしていれば社内外で自由にソーシャルメディアを利用できる仕組みになっています。ですから、会社として企業アカウントを作成する際にどこかに申請を出すような体制は取っていません。ただ、監視をするつもりはないですが、だれがどの企業アカウントをやっているかは押さえておき、何かあった際の対応をきちんとできるようにしています。また他のアカウントと効果的に協業するために、企業アカウントのDBの登録を開始しました

ソーシャル・コンピューティング・ガイドラインを守ればだれでも自由に企業アカウントを作成できるのだろうか。

会社としてはソーシャル・コンピューティング・ガイドラインを遵守すれば、自由に取り組んでいいというスタンスになっています。また、大前提としてビジネス・コンダクト・ガイドライン(IBM企業行動基準)という倫理規定を熟知して遵守しなければなりません。ビジネス・コンダクト・ガイドラインは、毎年承認をする社員と会社との契約です。会社と個人の両方を守るため、IBM社員のビジネス活動における拠り所になっています

ソーシャル・コンピューティング・ガイドラインを守っているかどうかチェックする人はいるのだろうか。

現在はおりません。かっこいい言い方をすれば、社員を信じているというスタンスです。コミュニケーションでは、対面でも電話でもメールでも、社会人として常識的に振舞うというのが前提ですよね。ソーシャルメディアもあくまでもコミュニケーションツールの1つなので、特別なものではないと感じています

炎上などの問題が発生してしまった際はどのように対処するのだろうか。

ソーシャルメディアは、これまでの紙媒体などと違ってネット上にやりとりが残ってしまいます。ですので、別途ガイドラインを設けたという経緯があります。ただ、ソーシャル・コンピューティング・ガイドラインを遵守していたとしても、内容を不快に感じる方がいらっしゃるかもしれません。もし炎上のようなことが起こってしまった場合には、会社として真摯に対応していく必要があります。また、再発防止のための改善策を検討しなければなりません

遵守すべきガイドラインを設けていることから、企業としてソーシャルメディアに消極的であるかのような印象を受けがちだが、実際はそうではない。栗原氏によると、ソーシャル・コンピューティング・ガイドラインの目的には社外で意見を言える社員を多く輩出することにあり、IBMのブランドを支えるだけでなく、会社と本人をトラブルから守るためにも作成されている。実際にIBM社員によるTwitterアカウントやブログは数多く見られるため、社員にも肯定的に受け止められているのだろう。

  • プレスリリースに合わせたツイートで社員をイントラネットへ誘導
  • フォロワーのなかにいる社員が自然とリツイートで広めてくれる
  • フォロワー数を2倍にした@IBM_JAPANの震災対応
  • 今後はマーケティング視点での活用方法も検討

プレスリリースに合わせたツイートで社員をイントラネットへ誘導

会社としてではなく、栗原氏個人で始めたという@IBM_JAPANだが、現在の運営体制はどのようになっているのだろうか。

基本は私1人で担当していますが、部門のメンバーで他に3人ぐらい担当者がいます。私が休んだ時に代わりにツイートしてもらうようにお願いしていますが、社外でもツイートできるので休みの日も私がつぶやいていることが多いですね。会社のイントラネットに日々ニュースを掲載する作業をしているのですが、Twitterの運営はその業務の合間にやっています。午前中につぶやくことが多いのですが、IBM関連のニュースを入手した際は、iPadのEchofonなどを利用して、柔軟に対応しています

イントラネットの管理業務とTwitter運営に関連する部分はあるのだろうか。

社内向けであるイントラネットの情報をそのままつぶやくことはありませんが、新製品やサービスのプレスリリースに合わせた詳しい記事をイントラネットでも用意しているので、記事が公開された段階で社員向けにイントラネットを見るようにTwitterでうながすことはあります

Twitterの効果測定指標は持っているのだろうか。

ソーシャルメディアの効果測定は、なかなか難しいですね。B2Cの企業ではないので、Twitterによってモノが売れることもないでしょう。他のソーシャルメディアもそうですが、数字としてとらえるのに良い指標をこれから作っていこうと思います。まだまだ試行錯誤をする段階だと思っていますが、逆に指標がないからこそ自由に運営できている側面はありますね

フォロワーのなかにいる社員が自然とリツイートで広めてくれる

マーケティング視点での効果測定は行っていないというが、@IBM_JAPANのフォロワーを増やすための工夫はしているのだろうか。

広めたいと思うツイートは、自然とフォロワーのなかにいる社員がRTして広めてくれるので無理にフォロワーは増やさなくてもよいと思っています。RTをしてくれた社員のフォロワーを見ると1000人ぐらいのアカウントを持つ人も多いので、多くの人々へ情報が伝わっていますね。フォロー返しについては、単純にRTしてくれただけの人ではなく、コメント付きのRTやリプライをしてくれた人をフォローするようにしています

フォロワーのなかにいる社員にRTを依頼することはあるのだろうか。

それはありませんね。RTしてくれた社員が実名アカウントで顔と名前がわかる場合、社内ですれちがったときに『実は@IBM_JAPANは私が運営しています。いつもコメントつけてRTしてくれてありがとう』といった会話をすることはあります。社員のフォロワーが協力的なので、フォロワーを増やそうと思ったことはないですね

ツイートの内容で工夫している点はあるのだろうか。

社外で取り上げられたニュースを網羅的に集めるようウェブ上に掲載されたものはすべてツイートしています。フォローしている社員も、お客様にウェブに掲載された記事を紹介できますね。また、社会貢献関連のネタは積極的にツイートしようと考えています。IBM社員のビジネス以外での活躍は結構あるんですよ。良き企業市民でありたいと思う気持ちが多くの社員にあると思います。あまりビジネス色が出すぎるのも硬くなりますしね、たまにほのぼのとしたネタをつぶやくようにしています

リプライやダイレクトメッセージを受け取ったときの対応方針はあるのだろうか。

確実に質問を投げかけられている場合はなるべく返すようにしています。ただし、米IBMのソーシャルメディアを担当しているメンバーの何人かに聞いたところ、『メンション(リプライ、ダイレクトメッセージ)全部に返す必要はない、それがソーシャルだ』という回答だったので、すべてに返信するといったルールは設けていません。また、わからない質問は他の部署のTwitterアカウントに返答を依頼するようにしています

勤務時間外の対応状況はどうだろうか

土日でもiPhoneやiPadから見ることができるので返信することもありますね。自分の仕事のミッションとされているわけではないので、運営ルールを作っているわけでもなく、自分のペースで運営しています

@IBM_JAPANは公式の窓口として明確な体制やルールを設けて運営するのではなく、あくまでも個人アカウントとして栗原氏が対応できる範囲で運営されているようだ。また、フォロワーが自然と増える理由の1つとして、IBM社員という濃いフォロワーの影響力も大きい。

さらに、東日本大震災の対応で@IBM_JAPANはフォロワー数を2,250人からおよそ2倍に伸ばしていくことになる。

  • フォロワー数を2倍にした@IBM_JAPANの震災対応
  • 今後はマーケティング視点での活用方法も検討

フォロワー数を2倍にした@IBM_JAPANの震災対応

IBMでは震災後すぐに災害対策本部を設置し、速やかに震災に対する対応方針を決定した。震災後には「震災復旧・復興支援ポータル」も開設しているが、Twitterの利用方法については検討されたのだろうか。

社員との情報共有は原則として、社内のイントラネットであり、安否確認については、会社から届いた携帯メールに社員が返信すると安否情報を一元管理できる仕組みを設けていたので、Twitterの利用はまったく検討されませんでした

だが、実際には被災した社員向けのツイートがリアルタイムにつぶやかれていた。当時はどのような状況だったのだろうか。

社員に安否確認のメールを送っても返信がなかなか返って来なかったのです。電話もつながらずメールも遅延していた状況でしたが、Twitterは動いていたので@IBM_JAPANからも安否確認の返信依頼をツイートし、携帯メールが利用できない場合は直接社内のDBに安否確認を入力するよう呼びかけました。また、社員向けの情報は原則としてイントラネットに掲載しますが、災害などの緊急時は社外の人も閲覧できるホームページ上に社員向けの情報を出してもいいというルールがあります。社外向けホームページに掲載できる情報ならTwitterで流しても問題ないだろうと判断し、イントラネット内の文章を要約して積極的にツイートすることにしました。そうすることで、PCを会社から持ち出せない、自宅が停電でLAN経由で社内にアクセスできない、派遣社員で自宅から社内へログインできないなど多くの社員のためになると思ったのです。結果的に、@IBM_JAPANのツイートは、多くの社員から反響があり、社内での認知も急速に高まったので震災後の3連休と土日はずっとつぶやくことにしました

TwitterCounterによる@IBM_JAPANのフォロワー数の推移。3月11日からの数日間にフォロワー数が急増している

東日本大震災を通してTwitterの利用方法に変化は生まれたのだろうか。

有事におけるTwitterがこれほどまでに有効とは思いませんでした。社内向け情報をサマリーしてつぶやくことで、結果として、詳細を求めてイントラネットにアクセスする社員に情報を伝えるという社内広報部門のミッションにも使えると改めて気づかされました。

また、震災後は節電のために会場を利用したイベントが少なくなるかもしれません。米国ではイベントの代替ツールとしてTwitterなどソーシャルメディアを利用する動きが活発と聞いています。米国では元々、国土が広く都市が分散しているのでインターネットを使ったイベントの活用が進んでいますが、日本では大都市圏に人が集まっているのであまり注目されてこなかったと思います

今後はマーケティング視点での活用方法も検討

IBMで運用する企業アカウントについて運用ルールを強化していくべき、といった話は社内から出てこないのだろうか。

ちょうど今月(2011年4月)から私を含めて比較的ソーシャルに精通している社内のメンバーを集めた、ソーシャルに関するバーチャルチームを作ったので、今後はそこで運営していくことになっています。メンバーは、社内広報、社外広報、マーケティング、ibm.comホームページのブランドを担当しているチームなどから参加しています。まずは、社内メンバーで運営しているソーシャルメディア・アカウントの把握を含めた管理体制を整えていきます。IBMの電話セールスを担当するibm.comチームも積極的にソーシャルメディアの活用を始めたことで、今後はマーケティング目的のターゲットがでてきますから、ソーシャルを利用してどのぐらいのパフォーマンスを上げてビジネスにつなげていくか、といった定量的な評価もできるようになると考えています

バーチャルタスクに対する栗原氏の思いを伺った。

私個人としては、あまりルールでガチガチに固めてしまって、自由な活動を阻害することはないようにしたいと思っています。IBMでは、ビジネス・コンダクト・ガイドラインを守ってさえいれば、いかなるコミュニケーションも個人の判断で行うことができます。ただ、社員のなかには、炎上などを警戒して不安に思っている人もいると思います

バーチャルタスクではどのようなことを検討する予定となっているのだろうか。

まず、会社・組織名のソーシャルメディア・アカウントも増えてきたので、どの部署にどのアカウントがあるかを明確にします。今後はアカウントを開設する際には必ず知らせてもらうような仕組みにします。弊社内のSNSであるLotusConnections上に共有DBを作り、どの部門の誰がどのアカウントを運営しているか、社員の誰もが参照できるようにしました。また、読むべきガイドやグローバルからの最新情報、成功や失敗などの事例もまとめて情報共有を進めます。場合によっては、教育マテリアルも用意する予定です

社員教育ではどのようなことが教えられているのだろうか。

基本的にはソーシャル・コンピューティング・ガイドラインビジネス・コンダクト・ガイドラインを守りましょう、ということをわかりやすく伝えるようにしています。私に相談があった際によくアドバイスするのは、ビジネスの話だけでなく発信者の個性やパーソナルな面も出るような内容を心がけるよう伝えます。また、他者の著作権や肖像権を侵害しない、そして自身のプライバシーも守るということも重要ですね

会社組織のミッションとしてではなく、個人としてTwitterを通してユーザーとコミュニケーションをしてきたという栗原氏。最後に、コーポレートサイトとの連動や、Facebookなど他のソーシャルメディア活用をどのように考えているのか伺った。

100周年を迎えるIBM。米IBMでは一足先に100周年向けのコンテンツを展開

Facebookは基本実名ですから、ビジネス利用時のターゲットを明確にできるメリットがありますね。イベントの事前告知で盛り上げ、参加いただいた方への事後のケアやサポートのための情報提供に有効ではないかと注目しています。Twitterは匿名性が高いので、大多数に広めるという利用に長けていますね。

弊社ウェブサイトとの連動については、今後ソーシャルメディアからウェブサイトへの誘導、ウェブサイト内へのソーシャルメディアの組み込みなどが増えていくでしょう。米IBMのウェブサイトをご覧いただくと、TEDの動画やTwitterのウィジェットを埋め込んだものも見られます。IBMが開発した質問応答システムであるワトソンがクイズ番組に出演した際には、ソーシャルメディアの情報をまとめた専用のウェブページが設けられました。IBMは、今年100周年を迎えることもあり、日本のウェブサイトも一新されました。今後はよりソーシャルメディアと融合したウェブサイトに進化していくと思います

◇◇◇

Twitterの企業活用は、マーケティングやPRの側面で語られることが多いため、社内の情報共有ツールとして利用している同社の取り組みは興味深く感じられた。企業向けのソーシャル・ネットワーク・サービスとしてはYammer(ヤマー)などを利用することで社員限定のクローズドな利用も可能だが、顧客情報を含まない業務連絡や企業に関連したニュースなどの情報共有については、あえてTwitterを利用することで、ユーザーとのコミュニケーションを生み出すきっかけとして役立てることができるのかもしれない。

この記事の筆者
アユダンテ株式会社
酒井 亮平(Sakai Ryohei)

愛知県出身。84年4月生まれ。学生時代に競泳・ヒッチハイク・インド放浪など。中央大学経済学部を卒業後、株式会社ECホールディングスにて数多くのECサイトへSEM、ユーザビリティ、アクセス解析に関するコンサルティングサービスを提供。2010年7月より、アユダンテ株式会社にてSEOコンサルティングとTwitterマーケティング・アクセス解析を担当中。Google Analytics IQ 保持。

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