Twitterを通してなかの人の顔を知ってもらい、1対1でコミュニケーションする/ドクターシーラボ
メディカルコスメのドクターシーラボでは、Twitterを顧客との親近感・信頼感を醸成するためのコミュニケーションツールとして捉え、ブランドや部門別に10個ものTwitterアカウントを運用している。さらに、社内メンバーのアカウントや運用している店舗のアカウントもリストとして公開するなど、企業全体としてTwitterに積極的に取り組んでいる。今回は、同社のウェブマーケティングを担当しているマーケティング部 eコマースグループの西井敏恭氏に、ドクターシーラボのTwitterに対する考え方や運用方法についてお話を伺った。
名称:ドクター シーラボ 公式/cilabo | |
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自己紹介 | |
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Twitterはお客様と直接コミュニケーションを取れる場
2010年に入り多くの企業がマーケティングツールとしてTwitterに注目していたが、ドクターシーラボではどのような活用方法を考えていたのだろうか。
「Twitterに限らず、ドクターシーラボはお客様とコミュニケーションをちゃんと取っていくという企業姿勢なんです。今の主力商品についても、クリニックの現場で、今の会長の城野が他の化粧品を使うと肌が荒れてしまう、という悩みをお客様から聞くことが多かったことから生まれたんです。だから、現場の意見なしにこれが売れるから作りましょうということはしない
」(西井氏)
西井氏がお話してくれたように、ドクターシーラボがTwitterに積極的に取り組む背景には、創業以来、顧客とのコミュニケーションを大切にしている社風が大きく関係しているようだ。
「医者が監修している化粧品が世の中にいっぱいあるなか、僕らのメディカルコスメ・ドクターシーラボは何が違うのかというと、現場のお客様のニーズを拾いきれているかどうかなんです。ドクターシーラボの商品は、通信販売と直営百貨店が中心で、卸しをする場合でも調剤薬局などで取り扱ったりしています。一般的な化粧品会社さんは、商品を卸した後の販売方法は卸先に任せてしまっていますが、我々は末端のところ、お客様と対面でちゃんと商品を販売していこうという販売戦略をとっているのです。Twitterもお客様と直接コミュニケーションを取れる場であると捉え、会社としても“やってくれ”という感じでTwitterを運営しています
」
Twitterの運用がドクターシーラボのブランディングに直結
Twitterブームの波に乗り、2010年は多くの企業が活用に取り組み始めたが、Twitterはコミュニケーション手段の1つでしかない。ドクターシーラボではTwitterを企業活動のなかで何を達成するために利用しているのだろうか。
「お客様とコミュニケーションを取る場所と考えていて、ウェブの責任者としては企業ブランディングのためにTwitterを活用しています。ブランディングとは、世の中で一般的にいわれている好感度アップや高級感のような意味合いではなく、ドクターシーラボはお客様とコミュニケーションをする企業であるということ(姿勢)を伝えることです。その姿勢を出すためのツールとして、Twitterは優れていると思っています
」
では、Twitterを始める前はコミュニケーション(ブランディング)のためにどのようなことをしていたのだろうか。
「ウェブだけの話でいうとCGMですね。“みんなの声”というコミュニティサイトがあるんですけど、社員としてのブログを展開していって、ユーザーとコミュニケーションを取ったりしてきました。ただ、ブログは動きが重いので、ブログと比べるとTwitterは軽く動けるのでいいと思っています
」
Twitterの運用コストは無視できるレベル
だれでも手軽に無料で始めることができるTwitterだが、コストが掛からないわけではない。企業として利用するからには、運用に関わる人的コストなどを考慮しなくてはならない。ドクターシーラボでは、Twitterにかけている予算を、直接的なコストの部分と人件費的な部分でどのように捉えているのだろうか。
「直接のコストはつぶやきデスクの使用料ぐらいです。それ以外のコストは特にないです。たとえば、Twitterアカウントの紹介ページを作ったり、Twitterと連動したアウトレットセールの準備とかはあるけれど、しれていますよ。人件費の話も、コンタクトセンターの業務として一括で入っているので、Twitterのための追加コストはないです
」
Twitterにこれぐらいの人件費は掛かっているだろう、といったことも考えていないのだろうか。
「複数ある業務のなかの1つなので考えていないですね。コンタクトセンターはコストにはなりますけど、コールセンターで普通に受注を受けたり、メール対応で月間1,000通くらいのやりとりをしているなかのTwitterの140文字なので、1%以下でほとんどコストにならないです
」
だとすると、費用対効果や効果測定なども今それほど厳密には見ていないのだろうか。
「つぶやいたところのURLのアクセス数は見ていて、どれぐらいのアクセスがあったかなどは出しています。リプライを多くもらう人を囲い込むとかCRM的な考えはなくはないんですけど、いろいろ試して、たとえばちょっとしたアウトレットが有効だったら何回かやってみるとか、コミュニケーションを深くしていくことが大事だと思っていて、費用対効果とかあまり見ていないです
」
コミュニケーションという言葉はとても曖昧だが、ドクターシーラボでは、企業のなかにどんな人がいるかを知ってもらい、なかの人に親近感を感じてもらいたい、信頼関係を構築していくことをコミュニケーションと捉えているようだ。また、親近感・信頼感の軸というのは、社内のどのレベルでオーソライズされた目的設定になっているのか、という質問に西井氏は「ウェブのことは完全に僕に任せてもらっています
」と答えてくれた。常に顧客目線のトップと、売上の57%を支える通販事業を毎年150%で成長させ続けている現場があるからこそ、定量的な費用対効果よりも定性的なコミュニケーションを重視した、積極的なTwitter運用ができるのだろう。
関連するツイートを見かけたら個人アカウントで会話する
肌トラブルに悩む人を社員のだれかが手助けできるように
WBSの特集放送を使った勉強会で社員の仕事脳にスイッチを入れる
ゴールは一店舗ごとのTwitter活用
理想のTwitterアカウントは孫さん
アカウントごとのリプライ・DMはカスタマーサービスが対応
では、実際の運用方法ではどのような工夫をしているのか。ドクターシーラボでは、ブランドや部門別に合わせて10個もの企業アカウントを開設して運用している。
- ブランド別アカウント
- 部門別アカウント
- botアカウント
10種類のアカウントの内訳は、ブランド別のTwitterアカウントが3つ、商品開発部など各部門の最新情報を伝えるTwitterアカウントが6つ、CM連動の期間限定botアカウント「白のげるんちゃん」で、各ブランドや部門の広報担当が他の業務と兼任で1人ずつ担当している。ドクターシーラボのTwitter運用体制では、これらのTwitterアカウントに寄せられるリプライ・DMへの回答をカスタマーセンターが対応している点も特徴的だ。
「お客様からリプライ・DMをいただいた際のリプライは、普段お客様とコンタクトをとっているコンタクトセンターで返すような運用をしています。Twitter専用の人員を用意しているわけではなくて、コールセンターやメール対応も含めて兼任で担当しています
」
Twitterのメリットの1つとして、リアルタイムにコミュニケーションできる点が挙げられるが、営業時間外や夜間対応に関するルールはあるのだろうか。
「基本的にメールと同じルールでやっています。メール問い合わせについては、最低限の返信を24時間以内に行うようにというルールがあり、Twitterについても同様のルールで運用し、朝9時~夜9時までで対応するようにしています。今後チャットなどを入れるようになると、24時間対応にするのかどうかなど検討する必要があるとは思っています
」
関連するツイートを見かけたら個人アカウントで会話する
ドクターシーラボでは、公式アカウントへのリプライやDMへの対応だけでなく、ユーザーに直接コミュニケーションする場合もあるというが、そうした場合はブランド別のアカウントではなく個人アカウントを利用するケースが多いという。そのためか、昨今流行りの公式アカウントの軟式化には否定的で、公式アカウントは堅実であった方がいいと今は考えているようだ。
「たとえば、シャネルのTwitterアカウントの対応がゆるかったらブランドのファンとしてちょっと嫌じゃないですか。そう考えると、ドクターシーラボとしてはコミュニケーションをしっかりとった方がいいと思うんです。個人を出したいときは僕のアカウントでつぶやけばいいわけで
」
企業から話しかけるにしても、「ドクターシーラボ」とつぶやいているユーザーはかなりの数に上るだろう。そのなかでリプライする基準はあるのだろうか。
「たとえば、サイトにつながりにくいというツイートを見つけたときには、僕が個人アカウントで謝罪しているんです。他にも、サンプルが届いて喜んでいるツイートを見つけたときは、ぜひお試しください、と個人アカウントでつぶやくこともあります
」
また、商品に関連するツイートを見かけた際には、取締役の神戸氏(@CANBEatDCL)が個人アカウントでコミュニケーションをとっているという。
「(商品に対するネガティブなコメントにリプライをすると)、“ごめんなさい、そんなに文句言うつもりもなかったです”みたいなリプライが返ってきて、ああ、そんなに怒っていたわけではないんだと安心できることもあります。あとは商品の購入を迷っている人にはクチコミを紹介したりすると、“欲しくなったんで買っちゃいました”みたいなリプライをいただくこともありますね
」
こうしたTwitter活用のガイドラインはあるのだろうか。
「そこはトップが実践しているのでないですね。ただ、神戸は現場で発言している人はどうコンタクトしていいかわからないと思って見本を示しているのだと思います。トップがいろいろやることで、お客さんからお叱りを受けることもあるのですが、トップがやったら自分のツイートに自分で責任を取れるじゃないですか
」
肌トラブルに悩む人を社員のだれかが手助けできるように
フォロワー数を増やしていこうとは考えているのだろうか。
「取締役の神戸と話をしていたんですが、ドクターシーラボの企業理念は“肌トラブルに悩むすべての人々を救う”なので、理想でいうと地球上の70億人とコミュニケーションする必要があり、そこへ向かう最良のツールがTwitterだと感じているんです。公式アカウントだけじゃなくていいんですけど、少しでも肌トラブルみたいなのがあったときに、ドクターシーラボの社員のだれかが接することができればいいのかなと思っています
」
では、肌の悩みをツイートしている人を積極的にフォローしているのだろうか。
「今後はやろうと思っていますが、それも試行錯誤なんです。たとえばドクターシーラボ公式アカウントでは社名をつぶやいている人をこちらからフォローしていたんですけど、フォローすることでシーラボの話がしづらくなるかもしれない。だから今は、こちらから話しかけてみて、ユーザーさんからフォローいただいたらフォロー返しをするというのがルールです。今は順調に増えているので、有益な情報を流してさえいればいいと思います
」
ゴールは一店舗ごとのTwitter活用
理想のTwitterアカウントは孫さん
WBSの特集放送を使った勉強会で社員の仕事脳にスイッチを入れる
Twitterを組織で活用するには社員教育も大事だ。Twitterがどんなものなのかを知ってもらい、自分とどう関係するのかを理解してもらうこと、そして何よりもTwitterを個人でも体験してもらうことが欠かせない。ドクターシーラボの社内教育はどのようにしているのか。
「僕が社内の研修でやっているのは、最初の話の導入の時に、ワールドビジネスサテライト(WBS)で放映された米国のTwitter特集をみんなに見てもらいます。ザッポスではTwitterをこういうふうに使っているとか、ホットドック屋さんではこういうふうに使っているという話があると、みんな仕事で来ているので仕事に対するアイデアって凄く入ってくるんですよ。
放映後は、最初はみんな何もやらなくていいから、僕のことをフォローしてもらうようにしています。そうすれば僕が今仕事でこんな真面目な話をしていますけど、僕のプライベートがわかりますよ、という話をするんです。そうして、しばらく見ていたら面白くなるかもしれないから、そうなったら自分でもやってみてくださいと伝えています
」
フックとしてニュース番組の特集映像を使うことで、仕事モードの脳みそに影響を与える。そしてすぐに濃くやるわけではなく、だんだん慣れさせるやり方が功を奏しているのかもしれない。ドクターシーラボでは、このような勉強会を30人くらいの規模で3回実施しており、今後も1~2か月に1回のペースで継続的に行っていきたいという。
ゴールは一店舗ごとのTwitter活用
「ゴールとしては一店舗一Twitterなんですよ
」と話す西井氏。将来的には、ドクターシーラボに関わっている人それぞれが、それぞれに近いお客さんとTwitter上でゆるいコミュニケーションを取れるようにしたいという。
「店舗で本当にリピートしてくれているお客さんは、商品じゃなくて店員についているんですよ。この店員さんに良い化粧をしてもらいたい、良いスキンケアをしてもらいたいと思っている。だから、“〇〇さんいる?”みたいな会話が大きいんですね。
ただ、店舗でのコミュニケーションは深くなるまでがすごく大変。たとえば、初めて化粧品を買いに来たお客さんに、いきなり馴れ馴れしく話すことはできないし、そこで起こるコミュニケーションはあくまでも商品を介してのコミュニケーションであって、その人がサッカーを好きとかは知ることができないんですよ
」
顧客が化粧品を選ぶ際の選択基準は、商品ではなく店員にある。だからこそ、店舗がすべきコミュニケーションも店員の美容知識の豊富さや人間性を伝えることが重要なのかもしれない。だからこそ、お客様と1対1でやり取りできるTwitterが適しているのだろう。
理想のTwitterアカウントは孫さん
最後に、Twitterを企業で活用する上でフォローしておくといい、参考にするアカウントがあるのかを伺ってみた。
「理想は孫さん(@masason)だと思うんですよ。会社を背負った個人アカウントでいいと思っているのですが、孫さんが出てきたことで企業しか見えなかったところの人が見えてきたと思うんですよね。だからドクターシーラボで考えた時も、化粧品というのはプロダクトの1つでしかないので、ほんとはその店員さんから買いたいとか思ってくれるんじゃないかなとか。
化粧品は新しいものが良いとされがちで、結構浮気されやすい商品なんです。お財布具合によってアップグレードしたりダウングレードしたりします。それをつなぎとめるものって結構人によるんじゃないかなと。だから僕は孫さんが結構理想です。今まで文句を言っても受け付けてくれなかったけど、孫さんだったら受け入れてくれるんじゃないかなとか、企業のなかにいる人の顔が見えるようになった。そこにTwitterの価値があるんじゃないかと
」
ありがとうございました。
◇◇◇
会社を背負った個人アカウントでコミュニケーションをとる、という運用スタイルには炎上のリスクが付きまとう。しかし、西井氏が孫さんを理想のTwitterアカウントとして挙げたことで、炎上リスクを冒してまでも個人アカウントによる運用を展開する理由がわかった。なぜなら孫さんのTwitterアカウントこそ、ドクターシーラボが目指す顧客と信頼関係を築き、親近感を感じてもらえている個人アカウントの代表格だからだ。
今日、無機質に見えがちなTwitterアカウントをフレンドリーにするための手法として、ペルソナの設定や運営代行サービスが注目されているが、西井氏が掲げるように、企業に務める全社員が会社を背負った個人アカウントとしてパーソナリティを見せることこそが、真にユーザーフレンドリーなTwitter運用方法であるのかもしれない。一店舗ごとのTwitterをゴールとして掲げるドクターシーラボに今後も注目していきたい。
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