企業・読者・自分を結び付ける「言葉」を作り出す/聖幸さんのブログ論(第10回)
いしたに このインタビューは、おもに企業のWeb担当者が読むことを想定しています。今回は、前回の「たつをのChangeLog」のたつをさんからご指名をいただきました、「俺と100冊の成功本」の聖幸さんです。
聖幸 聖幸です。「俺と100冊の成功本」というブログを2003年11月からやっています。「成功本を100冊読んだら成功するか?」をテーマに、読書記録のような感じでブログを始めました。100冊は1年くらいで読み終わりましたが、「面白いから、そのまま続けたら?」という周りの方の応援もあって、今に至ります。勝間和代さんの本のヒットの火付け役とも言われてます(勝間さんの本を推薦するエントリーが、はてブ経由でホットエントリーに入り、その本がAmazonで1位になった)。最近では、『ダカーポ』の「この本がすごい2008」の選者に選ばれたり、『プレジデント』の読者が選ぶ書評ブログの第一位に選ばれました。本屋がない町で、書評系のブログをやっているのは結構珍しいと思います。
ブログ名 | 「俺と100冊の成功本」 |
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一言で言うとどんなブログ? | 「ビジネス書・自己啓発書などのいわゆる成功本を100冊読めば成功できるのか?」を検証する目的で立ち上げられたWebサイト |
運営者略歴 | |
開始年 | 2003年11月 |
1日のアクセス数 | 平日およそ3000PV |
RSS登録数 | 2475フィード(livedoor Reader調べ) |
究極のSEOは「自分だけの言葉を作る」こと
いしたに 青森県在住なんですよね。ブロガーって東京とその周辺に多い中で貴重な存在です。
聖幸 そうですね。珍しいかも。東京に住んでると勝手に思ってる人も多いみたいで、「取材に行きます」という申し出に「青森ですが、大丈夫ですか?」と答えると、たいてい沈黙されます(笑)。
いしたに 聖幸さんのブログに青森カラーは、あまりないですからね(笑)
聖幸 よく誤解されます。逆に、「DEAD or 速読。強制速読法:[俺100]」の印象が強い人もいて、自給自足みたいな生活してると思われたり。
いしたに 最初からブログにテーマ設定があった聖幸さんですが、そもそもブログを始めようとしたきっかけは?
聖幸 実は最初はツールありきで、Movable Typeを使ってみたかったんです。サーバにインストールしたり、日本語パッチ当てたりと、面倒くさそうなのが逆に興味をそそった。
いしたに けっこう軽い気持ちで始めたわけですね。
聖幸 そうですね。今はブログが飽和してアクセス増も大変かと思いますが、当時もそれなりに目立つのは大変でした。タイトルが「寒村に住む30代の日常」じゃ、自分でもアクセスしなそうなので、インパクトのあるタイトルやテーマにしようと。
いしたに 「俺と100冊の成功本」は内容が伝わりやすくてインパクトのある、いいタイトルですよね。
聖幸 このタイトルで良かったと思ったのは、ブログを始めた頃は誰もあまり使ってなかった「成功本」という言葉をタイトルに入れたことですね。ブログを始めた頃から、現在に至るまで「成功本」で検索すると、不動の1位です。言葉を作ると強いです。究極のSEOかも。アクセスはそれほど多くはないですが、濃い人がアクセスしてきます。成功本を探す以外の人で、「成功本」と検索する人はいないでしょう(笑)
いしたに いないいない。あとから追随しても勝てるわけがない。
聖幸 どのページにアクセスしても、冒頭で年別の「年間おすすめ書籍ランキング」にリンクしてるので、それを見て自分と合うかどうか、すぐに判断できるようにしています。
いしたに おー、なるほど。訪問者目線ですねえ。「言葉を作る」=「究極のSEO」→「ランキングに導線」という流れはお見事!
聖幸 訪問してくれる人と自分、お互いの幸せのためですかね。
勝間本をAmazon在庫切れにさせた、伝説のエントリー
ブログを始めて1か月で、橋本大也さんから…
ブログマーケティングのコツは、先に情報を発信すること
沈黙より有益なこと以外は口にしない
いしたに たつをさんからのリクエストです。たつをさん自身はどんなことでも、ある意味お気楽にどんどん書くタイプなのですが、聖幸さんは反対に、1つ1つのエントリーをじっくりやるタイプ。そのやり方や違いを知りたい、ということです。
聖幸 どちらかというと徳力さんに近いかもしれません。基本的に、人様が読むものと思って書いてます。「自分用メモ」みたいな記事でも、完全に自分用ではないです。座右の銘の一つがベンジャミン・フランクリンの「沈黙より有益なこと以外は口にしてはならない」ですから。
いしたに ということは、かなり個人的な資質の問題だと。どちらも正解ですからね。それよりも、自分がどっちに向いているかを知ることの方が大事。
聖幸 そうですね。やりやすいから、そうしてるだけです。身も蓋もないですが。自分がやりやすいようにやれば、長続きするんじゃないですかね。
勝間本をAmazon在庫切れにさせた、伝説のエントリー
いしたに さて、聖幸さんには自薦ベストエントリーを5つ選んでもらいました。
聖幸 1つ目は「社会人版ドラゴン桜!?「無理なく続けられる 年収10倍アップ勉強法」:[俺100]」です。勝間和代さんの著書の記事ですが、記事書いたときは今みたいにあまり有名じゃなかった。でも、この記事が「はてブ」でブレイクして、数日後にはAmazonの在庫切れにまでなった。その後、勝間さんが本を書くたびに、僕のブログを紹介してくれたので、「勝間さん=本売れて嬉しい」「僕=アクセス増で嬉しい」「読者=いい本を知ることができて嬉しい」、みんな、いい感じになりました。
いしたに いい感じ(笑)
聖幸 このときは、熟考したというよりは、勢いに任せた感じ。勢いは重要ですね。2、3日寝かせると「別に書かなくてもいいかな」とか思ってボツになることも。
いしたに 読んでいる人にも、その勢いが伝わるんでしょうね。
聖幸 次のベストは、常々思っていたことを、他のブログがきっかけで記事にした感じです。きっかけも重要です。「これを読んでおくと読書スピードが速くなる。自己啓発書編。ついでに知的生産編:[俺100]」です。danさんが記事にしたので、便乗して記事書いたら人気に。
いしたに 他のものから影響を受けて、というのも、1つのパターンですね。便乗は大事。
聖幸 そうですね。大橋さんも言ってましたが、質問されると、答えられるんです。脳にはデータというか知識があっても、引っ張り出すのが難しい。きっかけが必要ですね。
いしたに 勢い→きっかけと来ました。次は?
聖幸 「オリジナリティ+ネーミング」ですかね。「イタコ読書法:[俺100]」です。でも、斎藤孝さんがすでに「イタコ読書法」をやっていたわけですが…。僕も、ずっと前からやっていたのになあ。しかも、こっちの方が本場に近いぞ!(笑)
いしたに あはは。
聖幸 ついカッとなることも重要です(笑)
いしたに うだうだ思うぐらいなら記事を書け(笑)
聖幸 「沈黙は金」とは真逆ですが、くだらないことでも、書かないよりは書いた方がましということもあります。
いしたに 他人を傷つけないなら、それもよし。
聖幸 次もそんな感じなんですが…、「【ついてる】コメントスパムが大量にツイてる!:[俺100]」です。コメントスパムが大量に来たので、頭に来てネタにしたら「やじうまwatch(2004/7/13)」などに載りました(笑)。「これで、いいのか!!」と思った印象深い出来事です。しかし、狙うとすべります(笑)
いしたに 狙うとホントすべる(笑)
聖幸 次は「人脈と粘着」です。「人気書評ブログの作り方 書評から人脈を作る:[俺100]」。一歩掘り下げて書く感じの粘着力が差別化として有効かと思います。あと、せっかくのブログですから、人の輪も広げたいですよね。結局ツキは人によってもたらされることが多いので。
いしたに たしかに人ですね。
聖幸 ただ、それを狙って人脈を広げようと思ってもうまくいかないとは思います。人から感謝される機会が多いと人脈も増えるし、ツキもやってくる。どうせプライベートな時間を削って記事を書くなら、愚痴とかつまらないこと書いてないで、人から喜ばれるようなことを書いた方がいい。
いしたに 私は料理が好きなんですけど、料理をおいしくするコツは最後のひと手間なんですよ。そのひと手間が聖幸さんの言う粘着なんだなあと、すごく納得しました。では、最後のコーナー行きましょう。
ブログマーケティングのコツは、先に情報を発信すること
ブログを始めて1か月で、橋本大也さんから…
いしたに 聖幸さんのオススメブログ3つは?
聖幸 1つ目は「たつをのChangeLog」です。元々「たつをの雑文 : 雑文一覧」の文房具関係のネタ(特にメモ術)のファンでした。今で言う「ライフハッカー」ですね。ある日、セミナーで偶然隣の席になってビックリしました。ネットやってると、そんな事もあるもんだなと。これが5年前の話。今だと珍しくもないですけどね。
いしたに セミナーとかイベントとか増えましたからね。
聖幸 次が「情報考学 Passion For The Future」です。「アクセス向上委員会」の頃から橋本大也さんのファンでしたが、ブログを始めて1か月ぐらいのとき、橋本さんと百式の田口元さんのイベントに講師で招かれたんですよ。ビックリでした。思い出深い。
いしたに 大也さんは「書評+ブログ」というスタイルを確立した人、元祖みたいな感じですね。
聖幸 他の人に大きな影響を与えてるという意味では、元祖と言っても過言ではないでしょう。ファン層も幅広い。
いしたに そうですね、1日1冊ってのは、ホント感心するしかないです。
聖幸 次は「マインドマップ的読書感想文」で、同業です(笑)。こちらも毎日1冊の更新。意地でも毎日更新し続ける姿勢に感動します。橋本大也さんも、マインドマップ読書感想文のsmoothさんも、何が彼らをそこまで突き動かしてるんだろうと。僕は毎日1冊というのは最近は難しい。
いしたに 毎日やろうとすると、1つにそれほど時間かけられないですしね。
聖幸 僕と彼らの違いは、多分酒とたばこだね。
いしたに あはは。
聖幸 彼らは、酒もたばこもやらない。いいブログは、いい生活習慣からですね(笑)
まとめ:ブログマーケティングのコツは、先に情報を発信すること
2007年の1年間に発行された書籍の総発行点数は71,482点で、平均すると1日200冊以上発行されてます。すべての本を1冊ずつ買うと総額は約1億4000万円だそうです(聖幸さん調べ)。全部買って読める人はもちろんいないでしょうし、置ける書店もないでしょう。だからこそ、読者にとっても、出版社側にとっても、「俺と100冊の成功本」や「マインドマップ的読書感想文」「情報考学 Passion For The Future」「404 blog not found」のような書評ブログが重宝されているのではないでしょうか。
書評ブログで取り上げて宣伝してもらうために、担当編集者や著者が自ら献本するのはごく当たり前のマーケティング活動になっています。書評ブログというのは、企業(出版社)とユーザー(読者)をダイレクトに結びつけるメディアとしては、もう完全に一つのジャンルを形成していると言えるでしょう。他の業種や商品にも応用できる点はたくさんあるはずです。
書評ブログをすでにやっている人、これから始めたいと思っている人には、聖幸さんから「ベストセラーばっかり紹介するよりは、ジャンルを絞って同好の士と楽しんだ方がいい。ネットが広く繋がるというのも事実だが、狭く同じ趣味の人とダイレクトに深い話ができるのが魅力」というアドバイスをいただきました。
もちろん、同好の士を集めようとしても簡単に集まるものじゃないですが、そのためのポイントが「情報出し」です。「情報や人をただ待っていたり、探したりするよりは、自分で先に情報を出すことが大事。そのうち、情報や人は向こうからやってくるので、先に出した方が絶対良い」と聖幸さん。そういう意味では、企業も今すでにあるブログをマーケティングに活用するだけでなく、自らブログを立ち上げて情報を発信することが、長い目で見れば、自社商品にとって最も有効なマーケティングにつながっていくとも考えられます。
最後に聖幸さんからは「著者や編集者から著書の読みどころや苦労話を聞く機会が多いという役得もあるが、一方的に苦労話を聞かされて困惑することも多い(笑)」という感想もいただいていますので、売り込みはほどほどにしておきましょう(笑)。
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