悪口を書かれることを恐れない/渡辺千賀さんのブログ論&良い文章を書くための3箇条(第3回)

「ブログマーケティングを考える際には、悪口を書かれること過度に恐れないように」というアドバイス、ブロガーさんにも、マーケターさんにも、きっとお役に立ちますよ!
よろしければこちらもご覧ください

いしたにまさきのブロガーウォッチング

2002年当時、ブログが仕事に使えるとは全然思わなかった

いしたに 前回の田口さんからのご指名で、今回は「On Off and Beyond――テクノロジー・ベンチャー・シリコンバレーの暮らし」の渡辺千賀さんです!

渡辺 よろしくお願いします。

いしたに このインタビューは、主に企業のWeb担当者が読むことを想定してます。多くのブロガーに影響を及ぼすような有名ブロガーは普段どんなことを考えているのか、彼らにとってブログとは何なのか、読者が会社という立ち場で彼らと一緒に動くために大切なことは何なのか、そういったことについてお話を聞きつつ、何か腑に落ちるところがあるといいなあ、という感じです。ということで、まずは簡単に自己紹介などお願いできますか?

ブログ名On Off and Beyond――テクノロジー・ベンチャー・シリコンバレーの暮らし
URLhttp://www.chikawatanabe.com/
一言で言うとどんなブログ?米シリコンバレーの第一線で働く女性コンサルタント渡辺千賀さんが、「On:シリコンバレーの技術やベンチャー事業に関すること」と「Off:日々の生活から感じること・考えること」を綴るブログ
運営者渡辺千賀。三菱商事、マッキンゼー、ネオテニーを経て、シリコンバレーのコンサルティング会社Blueshift Global Partnersの創設者・社長として、技術関連事業での日米企業間アライアンスと先端技術に関する戦略立案を行っている。著書に『ヒューマン2.0――web新時代の働き方(かもしれない)』(朝日新書)がある。
開始年2002年11月
1日のアクセス数非公開
RSS登録数10000ぐらい
「On Off and Beyond――テクノロジー・ベンチャー・シリコンバレーの暮らし」

渡辺 三菱商事、マッキンゼー、伊藤穰一さんのネオテニーを経てシリコンバレーに渡り、コンサルティング会社をやってます。ブログは確か2002年からやっていたと思います。

いしたに やっぱり早いですね。ということは、ブログはアメリカに行かれてから、ということですよね。

渡辺 アメリカに行ったのが2000年で、当時はブログというコンセプトが無かった(笑)

いしたに なるほど、ブログ以前はウェブサイトなどはやられてました?

渡辺 いいえ。

いしたに 最初に始められたきっかけは?

渡辺 伊藤穰一(Joi)さんのブログ「Joi Ito's Web」を見て、私もやりたいと思って、Joiのサーバーで始めました。

「Joi Ito's Web」

いしたに ということは、まあなんとなくやってみるかあ、という感じですか?

渡辺 もともと、モノを書いてみたいなぁという気持ちはあって、話し言葉では全然伝わらないことがいろいろあるように思っていたのでした。

いしたに それはいわゆるコンサル的なこととは別の意味ということですか?

渡辺 全然別。仕事に使えるとはまったく思わなかった。

いしたに なるほど、あくまでもプライベートの延長として?

渡辺 そうそう。誰にもブログを書いていることを言わないで何年か書いて。Joiのサーバーではアクセス解析を見られなかったので、どれぐらいの人が見に来てるか全然わからなかったのですが、JoiのサーバーからTypePadというブログサービスに移行して、初めてPV数を見てびっくり。

いしたに そこで初めて見たんですか(笑)。私はすぐに宣伝しまくりましたよ。

渡辺 こっそり書いていた2年間は、ずっと30人くらいしか読んでないと思って書いていた。

いしたに あの内容で、30人なわけがない(笑)

渡辺 コメントで「K」とかイニシャルが書いてあると、どのKさんだろう、とかネオテニー関係者の顔を思い浮かべていました。

いしたに で、実際にはPVどれぐらいだったんですか?

渡辺 えっと確か2004年ごろで1日3000PVとかだった。

いしたに それは個人のブログとしては多いですね。

渡辺 そうですかね。

いしたに 1か月だとざっくり10万近いですよね。

渡辺 そうね。当時としては多いんじゃないでしょうか。ブログという言葉が普及していない頃から始めて、いろいろ意外なことはありましたね。

いしたに 今でも十分多い方ですよ。ちょっと不思議なのは、たくさんの人が見に来ているということを知らなくても書き続けられていたのは、個人的な「書きたい」という欲求があったからですかね?

渡辺 そうですね。多分。

いしたに ああ、でも少しわかります。私も当時のことを思い出して、自分がブログ書き出した頃、なんか書く事に夢中で、PVとかあんまり気にしてなかった気がします。

話し言葉で伝えにくいことを伝えられるメディア
「経済」「男女関係」「英語」の記事がウケる
最短時間で読み手を満足させることを考える
大ヒットした『ヤバい経済学』も実はブログ発
まとめ: 悪口を書かれることを恐れない

話し言葉で伝えにくいことを伝えられるメディア

渡辺千賀『ヒューマン2.0 ――web新時代の働き方(かもしれない)』朝日新書、2006年

渡辺 私の考えることって、話し言葉では伝えにくいことが多いんですよね。「書き言葉」というメディアで伝えられるのが楽しかったんでしょうね、最初のうちは。

いしたに 「伝えにくい」というところに個人的なもどかしさがあったのですか?「あれ?なんか伝わってないぞ」とか。

渡辺 そうですね。なんかこう、血も涙もない人間だと思われてる感じがしました。怖い人なの。ははは。

いしたに あははは、ただ、ブログを続けた結果、今は著書もあるわけですよね。

渡辺 そうですね。

いしたに こういう展開は想像されてました?

渡辺 うーん、どうだろうか。始めるときは全然。

いしたに 先ほど「仕事に使えるとはまったく思わなかった」とおっしゃってましたけど、今はお仕事につながっているわけですよね。

渡辺 それなりに、ですね。

いしたに その変化を実感してきた頃というか、なにかきっかけはありました?

渡辺 最初は随分前で、2004~5年ごろ、クライアントの人から、「渡辺さんのブログのあれを読んで笑っちゃいました」と言われて、「おっと、仕事関係者も読んでいるのか」と驚き、しかしそれがネガティブではなく、親しみを持ってもらえるという効果があることがわかり、ちょっとびっくり。「バーチャル飲み会効果」です。

いしたに クライアントのみなさんは怖い人なのにおもしろい!って感じなんでしょうか?

渡辺 ああ、怖い人、っていうのは、昔、学歴とか職歴が先歩きしてた時代の話です。最近はけっこう仕事相手の人はブログも読んでくれているし、そう思われてないと思うのですが、どうでしょうね??

いしたに 少なくとも私は怖い人って印象はないですよ。

渡辺 ああ、ありがとうございます(笑)

いしたに ただ、さっき過去のエントリー読んでて、怖いというか、この人すごいや、と冷静に思ってしまいました

渡辺 それはまたなぜ??

いしたに 過去に千賀さんのブログは全部リアルタイムで読んでいるのに、今改めて読み直しても、おもしろいというレベルではなくて、思わず自分が反省してしまうクオリティが、どのエントリーにもあって、これはすごいなあと。普段は更新されたら読むという感じなので、私にとってはまとめ読みは初めてだったせいもあるかもしれませんね。

渡辺 いやいや^^; でもね、プライベートの馬鹿話も書いているわけですが、そんなのをクライアントが見てよいのだろうか、というためらいはありました。

いしたに あはは、でも、見ていいんですよねえ、あんまり根拠ないんですけど。

「経済」「男女関係」「英語」の記事がウケる

いしたに 千賀さんにはベストはてブ記事を選んでもらいました。1位がビーフシチューなんですね、ちょっと意外。

はてブ数エントリー名内容日付
395users天国のビーフシチュー泣くほど面倒くさいけど、絶品。本格的な複雑な味でありながら、日本風あっさりした優しさもあり、ご飯にも合うビーフシチューのレシピ。2007.12.8
311users日本は世界のブラックホールか桃源郷か「日本が世界から隔絶されているのは良くない、何とかしてその壁を乗り越えるべきだ」とは思いません。2007.6.24
289usersすばらしい英語勉強法マトリックスのDVDをみながら、ヘッドフォンで聞きつつ画面と同じスピードでせりふを言うのはかなり効く英語勉強法だ!2006.6.18
285users中3を家庭教師した頃の話大学時代、死ぬほど家庭教師をしてました。週8回ほど。教えるコツは「正解なき問題を解かせる」こと。2007.11.20
268usersコンサルタント:頭が良いフリをする方法(1)外向的、(2)批判的、(3)自分の得意な分野について語る。2006.3.28

渡辺 インターネットとかベンチャーとか、そういうシリコンバレーらしいことをいっぱい書いているのに、トップはビーフシチュー。その後も経済の話とか英語の話とか、普段の本流とは違う話。

いしたに そうですよねえ。

渡辺 「経済」「男女関係」「英語」が受けがちです。でも一番よく書いていることはIT、シリコンバレーのベンチャー、VC(ベンチャーキャピタル)とか。

いしたに お仕事の延長線、ですよね。

渡辺 そうです。ヘルスケアとかバイオとかの仕事も多いんですが。時々しっかりした話を書けば、実名、顔写真つき、馬鹿話つきでも、仕事に役立つ、という。

いしたに 千賀さんを指名した田口さんに指名理由を聞いたのですが、「文章力がすごい」と、もうひとつが「千賀さんの話をこれだけ長く聞けるのはブログのおかげ」というものでした。

渡辺 「長く聞く」とは?

いしたに そもそも日本にはいらっしゃらないわけですし、ブログを読んでいるほとんどの人は、お会いしてお話を聞く機会もありません。でも、ブログのおかげで、あんまりそういうことは感じないどころか、もしかすると直接話していても伺えないような考えやお話を読めます。これは本当にありがたいことです。

最短時間で読み手を満足させることを考える
大ヒットした『ヤバい経済学』も実はブログ発
まとめ: 悪口を書かれることを恐れない

最短時間で読み手を満足させることを考える

渡辺 ちなみに「文章」を書く上で気をつけていることがあるんですが……。言ってもいい?

いしたに もちろんです!

渡辺 (1) 1文字でも少なくする。全体を短くする、ということではなく「吉田さんから言われた」を「吉田さんが言った」にすれば、2文字減る。

いしたに (耳が痛すぎる……)

渡辺 (2) しかし、すべてあまりに短くするとリズム感が崩れるので、リズムを失わない程度に、無駄な語尾などを足す。

いしたに なるほど

渡辺 時間がないと適当になっちゃいますけどね。

いしたに でも、確かに私も一度勢いで書いて、そういう整理はしていますね。

渡辺 (3) 文章は流し読みできるスピード感が大事。漢字だけ眺めても、雰囲気が伝わるように。

いしたに 言われてみるとそうですねえ。最近は企業でブログを書くケースも増えてきていますが、千賀さんの書く秘訣は役立ちそうですね。ちょっと乱暴な言い方になるんですけど、ブログって基本まずはざざっと読みますよね。そして、気になると読み込む。千賀さんの「書くときに気をつけていること」というのは、そういう読み手のことを考えてのことだなあと、また感心してしまった。

渡辺 仕事に関するようなことであれば、最初の段落で結論が書いてあったほうがいいですね。できれば最初の一文。

いしたに うわあ、ホントそう思います、まず結論!

渡辺 そそ。ブログに限らないですけど。

いしたに 興味ない人はそこで読む読まないを判断できる。

渡辺 みんな忙しくてじっくり読む時間なんかない、という前提で書かないと。逆説的ですが、そうすることで、ブログが「sticky」になる。stickyは直訳すると「ネバネバする」ですが、ここでは「何度も見に来たくなる、離れられなくなる、依存症のようになる」という感じのニュアンスです。最初にまずそのエントリーの結論をズバッと書いちゃう。結論を書くと、当然ながら「そっかそういうことを書いているのか」といって、そこだけ読んで最後まで読まない人もいるけど、それでいいと思うんです。というのは、

いしたに うんうん。最短時間でその人を満足させることがれば、そういう人は必ずまた読みに来るんですよね。それでいつの間にか、stickyになってリピーターになるんじゃないかな。

渡辺 私もどちらかと言うとコグレさんの「まずは書いてみる」に近いのですが、ブログマーケティングをやってみたい、ブロガーと何か仕掛けたいと思っている企業のWeb担当者には、まず自分でブログを書いてみることをオススメします。書いているうちに、だんだんと読む人のことが気にかかりだします。数ももちろんですが、数だけでなく「読む人はどういう状況で読んでいるのか?」「自分のブログに何を求めてきているのか?」を考えるようになるはずです。会社で仕事をしていると、よく「ユーザーの視点に立って発想しろ」とか言われるわけですが、言われてすぐにできるわけではない。でもブログを書いていると、自然と「読む人はどう読むかな?」と考えるようになるのです。

いしたに 確かに、私も少し書いてみては読み手の立場になって読み返して、おもしろいからこれでいい、とか、ちょっと退屈するからここは段落をカットして早めに展開しようとか、いろいろ考えます。

渡辺 読み手にとっておもしろい内容というのは、結局のところ読み手の予測や想像を上回る内容なのかもしれませんね。私の場合は、普段から考えることが周りの人とずれていて、実生活では「変な人」「そんな考え方する人いない」といわれ続けてきたんですが、それがブログを書く上では役に立ったようです。実際、ブログを書き始めたころは「私もそう思う」といった類のコメントをもらうたびに驚きました。それまでの人生で同意されることはほとんどなかったので。

いしたに 読み手の予想や想像を裏切ることが「普通」でない人は、「読み手の予測」を予測して、それを超え、驚かせ、満足させ、納得させるような記事を書こうとしてそれを繰り返すことで、自然と「ユーザーの視点に立って考える」ことが、自分の思考パターンの中に刷り込まれていく。だから、ブログマーケティングをやって見たいと思っている人は、まずはブログを書き、そして読み手を引き付けるstickyなブログにするにはどうするか、悩み続けることをオススメしたいですね。

この連載の第1回の結論が「まずは書いてみる」、第2回が「ブログを読め、区別しよう」、そして今回が「読者のことを考えよう」といういい流れになりました、ありがとうございます。

大ヒットした『ヤバい経済学』も実はブログ発

いしたに 千賀さんにはいつも読んでいる「英語」のブログを選んでもらいました。簡単に理由を教えていただけますか?

渡辺 「Freakonomics」は、同名の本も書いている人のブログ。アメリカに経済学ブームを巻き起こし、170万部のベストセラーになりました。日本語訳のタイトルは『ヤバい経済学』でしたっけ。日本でもかなり売れたみたいですね。もともと独立していたのがNYTに吸収された。経済に関するあれこれおもしろいことが載っている。

「Freakonomics」
スティーヴン・D・レヴィット/スティーヴン・J・ダブナー著『ヤバい経済学』東洋経済新報社、2007年

BLOG.PMARCA.COM」はfuck you money(世の中の誰に嫌われてもまったく怖くないだけのお金)を手に入れたMarc Andreessenの本音がちらつくブログ。ちなみにMarc Andreessenは本人を上回る資産家の奥さんがいます。

「BLOG.PMARCA.COM」
マーク・アンドリーセンは、最初期のウェブブラウザMosaicやNetscape Navigatorを開発した人物。

fakesteve」は、シリコンバレーのオタクが全員読んでいる、というのは大げさですが、まぁそれに近い。Steve Jobsの偽者が、まるでSteve Jobsのように書いているブログ。笑えます。実は本職の記者の人が書いていて、最初は偽名だったのがばれてしまった。その後有名になり本も出ました。

「fakesteve」

いしたに なるほど、どれもとてもおもしろそうですね。ありがとうございます。

次のゲストは

では、最後に、コグレさん→田口さん→千賀さん、と続いているのですが、次回は誰がいいでしょうか?

渡辺 ごめんなさい、シリコンバレー在住の方でもいいですか? 日本語のモノあまり読まないので…。

いしたに できれば、日本在住の方もいると嬉しいのですが。ご紹介いただいたブロガーの方も含めて、ご意見は参考にさせていただきながら考えます。今日はありがとうございました。

渡辺 こちらこそ。

まとめ: 悪口を書かれることを恐れない

最後に、千賀さんからこの連載を読んでいるWeb担当者に向けてのアドバイスをいただきました。ブログマーケティングを考える際に大事なのは、それは悪口を書かれること過度に恐れない、ということでした。

企業のブログが炎上したり、2ちゃんねるでバッシングされたりと、最近はネットでの口コミ、書き込みが企業のサービスや商品の評価に直結することが多くなりましたが、それを恐れて何もしないのは、大変もったいないことです。

同じ商品でもとても喜んでくれるユーザーもいれば、たまたまあまり気に入ってもらえないユーザーもいるのは、至極当然のこと。「悪いことを書かれても、いいことを500書かれれば、悪い評判は自然と打ち消されるはず。長い目で見れば良貨は悪化を駆逐するのだから、目先の評判にそれほど一喜一憂しなくてもよい」という心強いメッセージをいただきました。自社でブログを運営している方や、これからブロガーさんと何か仕掛けたいと考えている担当者の方は、ぜひ参考にしてみてください。

この記事の筆者

いしたにまさき(ライター&ブロガー)

1971年大阪府生まれ。ライター&ブロガー。みたいものを見つめて、日々それをレビューするブログ『みたいもん!』を運営中。2002年メディア芸術祭・特別賞受賞メンバー。

共著に『ソーシャル・ネットワーキング・サービス 縁の手帖』『マーケティング2.0』『クチコミの技術』。