ブログマーケティングをやるなら、まずブロガーの違いを理解せよ/百式 田口さん(第2回)

ブロガーを相手に何かしようと思ったときに「“ブロガー”ってひとくくりに考えちゃだめだよ」という田口さん、そのココロは?
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いしたにまさきのブロガーウォッチング

いしたにまさきのブロガーウォッチング第2回です。今回も引き続き、ブロガーはいつも何を考えてエントリーを書いているのか、普段何を見ているのか、自分のブログをどう思っているのかなど、聞いてみたいと思います。

第2回のゲストは、「百式」の田口元さんです。

百式
概要海外のユニークなドットコムサイトを日替わりで取り上げるサイト。日本のビジネスパーソンの起業、企画、営業、雑談のネタにと土日も含め毎日更新。
運営者田口元 コンサルティング会社を退社したのち、有限会社点灯夫として独立。企業のコンサルティングやシステム設計、セミナーの講師などを手がける。著書に『アイデア×アイデア』『起業・企画・営業・雑談のネタは日常の諦めている不便利から』『ライフハックプレス(共著)』など。
開始年2000年1月(ブログは2005年1月)
記事数2996(2008年4月2日現在)
1日のアクセス数非公開
RSS登録数2034users(livedoor reader調べ)
ブログからのリンク数920リンク(テクノラティ調べ)

いしたに 前回のネタフルのコグレさんからのご指名で、今回のゲストは、百式の田口さんです。

田口 よろしくお願いします。

いしたに まずはお約束で、自己紹介をお願いします。

田口 「百式」の田口です。海外のユニークなドットコムサイトを紹介するサイトを2000年ごろから粛々とやっています。その当時はブログがなかったので手作業で更新していました。2005年ごろからブログにスイッチして、あわせて個人ブログの「IDEA*IDEA」も立ち上げました。他にも気ままにブログを立ち上げたり更新停止したりしていますが、メインはその2つですね。

あとは「Check*pad」を開発していたりと、開発者の顔もあったりしますかね……。その他にも、「PR board」みたいに自分で企画して、ブロガーと企業はどうコミュニケーションすればいいのかを、模索中かな。プランナーに近いと思います。

いしたに 「東京IT新聞」などの執筆活動もありますよね。

田口 「東京IT新聞」は基本的には転載なのですが、「Biz.ID」ではよく書いています。連載は、「ひとりで作るネットサービス」「ライフハックテンプレート」などです。不定期更新ではありますが(笑)。

なぜ「百式」だけじゃダメだったのか?
田口さんの自薦ベスト5
尊敬できるブログを探せ
ブログといっても、いろいろなブログがある
まとめ:「ブログがわかる」には、まず「ブログを分ける」こと

なぜ「百式」だけじゃダメだったのか?

いしたに いろいろな顔を持つ田口さんですが、ここでは「ブロガー田口」にフォーカスしたいと思います。田口さんの場合、もともと百式があり、システム的によさげなのでブログにスイッチ、ということですよね。

田口 そですね。ただ、CMSとしては自作のものを使っています。ブログを使い始めたのは、コメント&トラックバック、Ping、RSSなどの技術を使ってブログを広めたかったからです。

いしたに なるほど。システム依存ではなく、最初から「カルチャーとしてのブログ」も意識していたわけですね。

田口 海外では、よく見るコンテンツはすでにブログだったので。あぁ、こういう流れか、と思って。

いしたに 百式の田口さんですから、当然の流れですね。実際ブログにスイッチしてみて、どうでした? システム的な効果はある程度予測していたにしても、カルチャー的な部分はやってみてわかったのではないかと思うんですが。

田口 そですね。まず、Pingが打てたことでトラフィックが増えましたね。トラックバックも今ほどスパムだらけじゃなかったので、効果ありました。

いしたに 「あ、ブログいけそうだ」と思ったのは、トラフィックが増えだした辺りからですか?

田口 いけそう?というのはどういう意味ででしょう?

いしたに 話をうかがっていて、最初にCMSとして惹かれ、次にブログを紹介したい、そして「IDEA*IDEA」も開設したということは、どこかで、「こりゃブログおもしれーな」というポイントがあるんじゃないかと思ったんです。コグレさんの場合は検索からのトラフィックが増えた結果で実感したという発言がありました。

田口 前にやっていた普通のHTMLサイトではインタラクティブ性がなかったので、広がっていくコンテンツの形態として、コメントやトラックバックはいいなぁ、と思いました。

いしたに ここはもう少し突っ込みたいんですが、それだったら、「百式」だけでもいいじゃないですか?

田口 「IDEA*IDEA」を始めたのは、「百式」がコンテンツとしてあまりにも制限があったからですね。1日1サイト取り上げて毎日更新なので、書きたいときに自由に書けるわけじゃないのですよ。「IDEA*IDEA」はそれを克服するために作りました。あわせて、当時話題になり始めていた「Lifehacks」というコンセプトにぐっときたというのもありますね。好きなんですよ、ちっちゃな改善が(笑)

いしたに やっぱり、そこがブロガー田口の誕生の瞬間だ。田口さんはホントにいろいろやってるし、それぞれのコンテンツのクオリティが高いので、この人はいったい何なんだろう、とよく思うんです。

田口 そうなんだ(笑)。器用貧乏というやつです(笑)

いしたに あえていうと、システム(理系的)田口が「百式」だとすると、ブロガー(文系的)田口が「IDEA*IDEA」だと思うんですよね。

田口 それはそうかもしれませんね。「百式」はブログっぽくないですし。

いしたに 「百式」は、コンテンツの枠がしっかりしている分だけ、自由度がないですよね。

田口 ストイックでいいとは思いますが(笑)。なんだかんだで毎日更新しているので、ブログ的な力をつけるための基本稽古というか、ある程度軸にはなっていますね。

いしたに 素振りみたいなものでしょうか。そういうの1個あるといいですよね、エンジンのかかりがよくなる。

田口 素振りだ(笑)。確かに毎日のリズムができます。ブログ、更新しなくなると、うっとおしくて、そのままになってしまうようなときもありますよね(笑)

いしたに 最近のカフェシリーズはとても参考になります(笑)。いいカフェを探すのって、けっこう大変なので。

田口 ああいう企画考えるの楽しいですね。個人的に。移動時間は『SPA!』の中吊りとか見ながら、よく企画を考えていますよ(笑)。勢いが大事ですね。

田口さんの自薦ベスト5
尊敬できるブログを探せ
ブログといっても、いろいろなブログがある
まとめ:「ブログがわかる」には、まず「ブログを分ける」こと

田口さんの自薦ベスト5

いしたに ということで、コグレさんにはネタフルのアクセス数ベスト15記事というのを出してもらったのですが、「IDEA*IDEA」の企画ベスト5とエントリーベスト5を自選で挙げていただけますか。

田口 ある程度力を入れている、という意味では、「百式企画塾」「記事広告(PR記事)」「夜カフェ」「CakePHP修行」「開発合宿」かな。

表1 田口さんが力を入れているオススメ企画ベスト5
企画名解説開始時期
百式企画塾歯磨きせずにはいられない歯ブラシ、さば寿司パッケージ、ブロガー向け本の企画、傘など2007/11/5
記事広告(PR企画)ジョギングのための「ジョグノート」「ソニー・エクスプローラサイエンス」2007/10/22
夜カフェ深夜2時ぐらいまで開いているカフェ。三軒茶屋、恵比寿を中心に。Bon Sweets & Smile、astral lamp、a-bridge、loger cafe、cafe Cup Bearerなど2008/1/6
CakePHP修行PHPのフレームワークを使って、SNSやログイン画面などを作ったり。2007/6/20
開発合宿はてなのように。鴨川、水上、軽井沢、府中、御殿場などで旅館に泊まり、美味しいものを食べながら、ガシガシ開発。2005/12/13

いしたに おもしろいですね。田口さんの振れ幅がそのまま反映されている気がします。

表2 「idea*idea」を初めて読むならこのエントリーからベスト5。今日から使える
はてブ数エントリー名内容日付
353usersバブルマップのすすめ ~ ストレスすっきり解消型ToDo管理手法「いやーな感じがするToDoは大きく、そうでないToDoは小さく」のバブル形式で書くTodoリスト2005.10.10
328usersストレスフリーのホワイトボード術ミーティング参加者のストレスを軽減するホワイトボードの使い方。「右端に縦線を引く」「発言していない人に話しかける」など8か条2006.8.7
489usersTo Do 2.0 (どんどん片付くTo Doの科学)どんどん片付いていくToDoを作るには。「全体像を把握している」「2分以内で出来るToDoを書かない」「ストレスレベルでソートする」など、9つのポイント2007.12.19
1323usersプレゼンハック ~プレゼン改善のための10個の小技~出席者の心を引き付けるプレゼンで定評のある田口さんが、普段プレゼンで気をつけていること。パワポの効果的な使い方から、ウケるテクニックまで2005.9.25
910usersミーティングで使えるちょっとした話法いろいろ田口さんがミーティングで使っている言い回し。「今日何を決めますか?」「じゃ、○○が解決したとして…」「質問ですか?コメントですか?リクエストですか?」などの一言でミーティングの進行を制御する2008.2.19

田口 エントリーの方は、Lifehacks系が多いですね。

いしたに いや、これはよくわかりますよ、発見したことは言いたくなります(笑)。そこが「百式」ではできないことか。今日書いたら明日に更新しなくちゃいけないので、書きたいときに書けない。企画屋ゆえに自由を求める。うむー、これはなかなかおもしろいですね。

田口 自由にというか、起きたことを書かずにはいられない、という衝動がまずはあります。

いしたに 「百式」と「IDEA*IDEA」がいい関係にあるんだなあ。

田口 いいフィードバックループにはなっていますね。

いしたに ぼくは個人的になっちゃいますけど、「『クチコミの技術』とビジネスブロガーとブロガー広報などいろいろ」はよかったなあ。書評エントリーで5本指に入ります。

田口 「なんか書評書け」という無言のプレッシャーをコグレさんから受けました(笑)

尊敬できるブログを探せ
ブログといっても、いろいろなブログがある
まとめ:「ブログがわかる」には、まず「ブログを分ける」こと

尊敬できるブログを探せ

石谷 いつも読んでいるブログの中から「これは外せない!」ブログを3つ挙げていただけますか?

田口 「Life is beautiful」(中島 聡氏)、「On Off and beyond」(渡辺 千賀氏)、「404 Blog Not Found」(小飼 弾氏)。定番すぎますか?

いしたに なるほどお、いやいやそんなことないです、コグレさんなんかもっとひどい(笑)

田口 理由は、彼らにしか言えないことを誰にでもわかるように書いているからに尽きますね。特に千賀さんの文才は異常。僕もそうありたいですね……といいつつ、海外ブログで見つけた猫写真とかついアップしちゃいますが(笑)

いしたに 伝わらないと意味ないんですよねえ。

田口 そうですね。論壇系ブログって、人生の時期的にちょっと読めない時期ってありますが……。

いしたに いつ読んでもおもしろいって、ホントすごいと思う。

田口 中島さんのブログもそうですね。彼自身を尊敬している、というのがあるので多少バイアスがかかっていますが。

いしたに 地力が違うんだろうなあとか思います。スポーツ選手にたとえれば、肩が強いとか、脚が速いとか(笑)

田口 小飼さんは最後は自慢話になっているとか言われていますが(笑)、やっぱり自分の意見をサクッと書くところがいいですね。dan kogai伝説、ガッツポーズで1エントリーです。

いしたに ということで、無理やりまとめると「尊敬できるブログを探せ」と(笑)。中島さんや小飼さんや千賀の話はブログなかったら聞けませんからね。

田口 まとめたー(笑)

ブログといっても、いろいろなブログがある

いしたに さて、この連載を読んでいる企業のWeb担当者に向けてアドバイスをお願いします。

田口 ブログの一言で片付けないことが大事だと思います。「ブログ」とか「ブロガー」ってひと括りで片付けないで、個々のブログやブロガーをちゃんと「区別」できるようになりましょう、かな。「マーケティングにブログやブロガーを活用しよう」という漠然とした感じの表面的な議論では、効果的な連携やマーケティングはできません。個々のブロガーにであれ、代理店にであれ、ブロガーを巻き込んだマーケティングをやってみようとするのなら、どのブログを対象に、どのブロガーと、どうアクションをしたいのか、具体例や具体名を挙げて言えるように、もっと興味をもって知ろうと思うことが大事なのではないでしょうか。

いしたに 前回は「書いてみる」だったんですが、今回は「まず読め! 区別しろ!」ですね。

田口 そんなに強い口調でもないですが(笑)。「ブログ」を理解するには場合分けして考えてみるのが手助けになります。「わかる」ためには、まず「分ける」です。十把一絡げではなくて、個々の物事の細かな違いが見えてきて、区別して見られるようになって初めて理解ができるのではないか、と思っています。

いしたに 前回のコグレさんと対象的なので、とてもいい感じです。

田口 それはよかった(笑)。ブログをよく知らない人は「ブログ」「ブロガー」を、ある1つの共通特性を持っていると考えがちなのですが、実はブログって、趣味嗜好によって細かく細分化されているんですね。雑誌みたいなものですよね。届くメッセージも読んでいる人もまったく違います。たとえば、女性向けファッション雑誌に釣具の広告を出しても無意味だというのはスグにわかると思いますが、ブログでも同じです。数打てば当たるとばかりに数を頼みにたくさんのブログに同じような仕掛けをしても意味がありません。個々の雑誌を理解してこそ効果的なマーケティングができるように、個々のブログの違いを認識し、さらにその影響力を冷静に分析して初めて、仕掛けるべきことが見えてくるのではないか、と。

いしたに そのためにはまずは読みましょう、ということですね。

田口 ですね。「ブログマーケティングしましょう!」だけでは、「野菜で料理つくりましょう!」ぐらいざっくりしていると思いますね。何の野菜だよ!って感じで(笑)

いしたに 田口さんは野菜にたとえると何ですか? 白菜か(笑)

田口 白菜好きですね。なんだかわからなくなってきたな(笑)

次のゲストは……

いしたに それじゃそろそろお友達を……。次の指名をお願いします。コグレさん→田口さんと来て、さて次に誰が来るとおもしろいでしょうか?

田口 個人的には「この人の話を聞いてみたい!」という人はたくさんいるのですが、場所柄、あまり個人的な趣味に突っ走りすぎるのはよくないですよね(笑)。そこらへんも考えたうえで考えます。

いしたに よろしくお願いします。ありがとうございました。

まとめ:「ブログがわかる」には、まず「ブログを分ける」こと

もし、ブロガーとなにか企画をやってみたいと思ったときには、まずは自分たちはどういったブロガーにコンタクトしたいのかを考えてみるといいでしょう。

まずは、単純に普段自分が読んでいるブログをRSSリーダーで分類してみるというところから始めてもいいと思います。前回のコグレさんのブログ論とは、また違う切り口が田口さんのブログ論にはあります。たった2人のブロガーでも、これだけ違うわけです。とても対照的な2人ですが、どちらかが正解という話ではありません。それだけブログとブロガーは豊かなコンテンツがあるということです。

実際、ブログを分類するにはいろいろな方法がありますが、田口さんからは、「企業で何かやるなら、ブログのグループマップを描いてみるといいと思います」とアドバイスを受けました。一口に分類するといっても、なかなかアクションにするのは難しい部分もあるかもしれません。田口さんからは「最近は区別している企業さんも一部ですが出始めている」というコメントをもらっています。これからなにか始めようとする前に、まず「ブログを分ける」ことから始めることは、いい結果につながるのではないでしょうか。

この記事の筆者

いしたにまさき(ライター&ブロガー)

1971年大阪府生まれ。ライター&ブロガー。みたいものを見つめて、日々それをレビューするブログ『みたいもん!』を運営中。2002年メディア芸術祭・特別賞受賞メンバー。

共著に『ソーシャル・ネットワーキング・サービス 縁の手帖』『マーケティング2.0』『クチコミの技術』。